1.





容姿。男っぽさに溢れている。
外見通り、中身も男気溢れている。
面倒見もよく、後輩からは好かれ、上司の信頼も厚い…らしい。




そんな彼は女性によくモテた。普通にモテる。




とても。



サンジは毎日、グランドラインコーポレイションの社員食堂の厨房からそれを観察している。
こっそりと

毎日そのモテ男、ロロノア・ゾロは食堂で昼食をとる。決まって安くてボリュームのある日替わりランチAを食べていた。
別にそれが特別珍しいなんてことはない。若い独身男性にはわりと多かったりする。ではなぜゾロにサンジが気が付いたのかといえば、
単純明快な答えであった
(あんな風に笑顔全開でうまかったっていう奴ははじめてみた)
たまたま食堂のおばちゃんが休みでサンジが食券の受付にいたときに帰り際にゾロが言ってきたのだ。
あとで知ったことだが、ゾロはおばちゃんたちにとってもちょっとしたアイドル的存在で、ゾロのご飯はちよっと多目に盛られている。

それを聞いたときはちよっとがっかりしたものだ。あの愛想のよさは誰にでもか、と

でもそれ以来、なんとなくゾロを見つけると目で追うようになっていた。
名前は首からさげたIDカードで知ることができた。
観察しているうちにいろんなことがわかった。
それがさっき言ったゾロのことである。


(知ってどうなるわけでもねぇけど)



相手はサンジなんか覚えてもいないだろうし、ましてホモでもないだろうし。
サンジだってまさか自分が男に恋するだなんて予想もしなかった。
しかも

ゾロにとってはただの食堂のニイチャン。遭遇はたったの一回。とかいう印象の低さである。
覚えてないほうが普通であった。
(まぁ覚えられてても困るけどな)
とどのつまり。淡い片想いなわけであるのだ。
笑えることに。



だから毎日ゾロを昼休みのこの時間に彼を見ることが日課だ。
自分でもいい年してずいぶんと気色悪いとは思う。
でも満足だった。だってそうだろう?



どうやって頑張ればいいんだよ…。



そんなわけで、サンジはいつものように観察会を終えると、まじめに仕事をこなして、終業時間を迎えた。毎日の日課になった、
ビル横の公園に足を踏み入れ、ベンチに腰を下ろす。
ビルを出るときにか買っておいた缶コーヒー片手にタバコに火をつけた。
安い極楽タイムだ。
本当なら、美味しい紅茶を飲みながらまったりとしたいところだが、そうもいかない。
(やっぱここだけじゃキツイしな)
この会社のバイトももう1年になる。そろそろなれてきたことだし、空き時間を利用してバイトでも増やそう。
そんなことをぼんやりと思っていたそのときだった。


「お前・・・厨房の?」


声をかけられた。振り返ってサンジは、危うくタバコを口から落しそうになった。
(ロロノア・ゾロ)
サンジの片想い相手だ。あまりに驚いているサンジをみて、自分のことを知らないと思ったらしいゾロが、あー・・・とかいいながら、
頭をボリボリかく。
「お前、うちの・・・この横の会社の食堂にいるだろ?」
「あ、ああ」
「俺ぁ、ここの社員だ。てめぇにとっちゃ、わんさかいる社員のなかの一人だが、俺にとってはよく見知った顔だったもんでな。悪ぃ」
「いえ・・・別に」
ニカっ。と、笑うからびっくりした。
ゾロは、断りもせずにドガッと、隣に座るとポケットから缶コーヒーを取り出しながら、ネクタイを緩める。
その仕草が色っぽいような気がしてサンジは視線を落とした。
「・・・毎日、ここにいるだろ」
「えっ?!」
なんで知っているんだ。驚いて顔をあげると、ゾロは口の端を持ちあげて顎で上空を示した。
そこには会社のビルがあって、窓もある。
「よく見えんだよ、ここがな」
「でもなんで・・・あんたは」
わざわざ厨房のニイチャンなんぞに接触してきたんだ。
言葉は途中できってしまったが顔には表れていたらしい。
ゾロは視線をサンジから自分の正面へと戻すと。
コーヒーを一口含んでから、ポツリといった。



「なぁ・・・お前。ちょっとバイトする気ねぇか?」



なんの。
疑問が顔にでていたのか。ゾロは続ける。
「数日だけ、俺と行動を共にするだけでいい」
「・・・?」
「まぁ・・なんつーか。恋人のふりをしてほしい」
「・・・・へ?」
ちょっと待て。


「えーーーーーー!!! ちょっと待て。俺男だぜ? あんたなに血迷ったこといってんだっ」


そりゃ。ちょっと美味しいかもとは思うが、それはそれ。
サンジが思わず大声を出すと、ゾロはウルセェというように耳をふさいでから、堂々と言い放った。
「問題ねぇ。要は相手がいるか否かだ」
「問題あるだろうが!」
「バイト代は払う。てめぇが払ってほしい金額でいい」
「・・・・」


考えてみた。今ここで断ったとする。もうロロノアとの接点はなくなる。
なくなるどころか、もう自分とは喋ってくれない。
ここで受けたとする。
まずバイトを増やすという肉体的なキツさから解放される。(恋人のフリだから絶対にキツクはないはずだ)
今まで接点などなかったロロノアとの接点ができる。しかも恋人のフリだから頻繁に会える。
でも、あくまでフリだから辛いに決まっている。
でも・・・。
(偽でもいいじゃねぇか)
どうせ、見てるだけのつもりだったんだし。
なにをどう思ってサンジを指名したのかわからないけれど、相手がいいっていってるんだから問題ないし。
(いい思い出にして、そのあとバイトやめればいいよ・・・な?)
本気の恋になる前に、逃げてしまえばいい。
(どうせ叶うことなんてねぇんだし)


チクリとする。でも、それを押し殺してサンジは、ビジネスだ。と、いう顔つきのままタバコの煙を吐き出した。
「いいぜ・・・だが。俺は高いぜ?」
ニヤリと笑うと、ゾロもニヤッと笑った。


「商談成立だな」











偽恋人