ああ?なんだい。何か用かい?
この収穫時の朝っぱらに、働き者のレジーナばあさんにものを尋ねようなんていい度胸じゃないか。
まあ確かにこのレジーナばあさん以外は誰も起きてもいないような時間だ。
道端で誰かに何か聞こうったらあたしに聞くしかないさ。まったく最近の若いもんときたら、怠け者ばかりだよ。
あたしの若い頃には考えられないよ。お天道様が出てるのに畑に出てないなんてさ。

見ればあんた、この島の人間じゃないね?
ああ、船乗りかい。
で?何が聞きたいんだ。さっさとおしよ。

…その子がなんなんだい。
ああ、客だったのか。そうだろう。そうだろうとも。
アレは汚らわしい商売だったからね。
体売るなんて、まともな神経じゃできないよ。淫売だ。
で?なんであんた、あの子を探してんだい。
アレを置いて一度島出たんなら、もう用はないはずだろ。

おおかた、アレを抱いて忘れられなくなったってとこだろ。
今までだって、そんな馬鹿者はいくらでもいたよ。
一緒に島を出ようなんてアレを誘った阿呆もね。
あの自堕落な生活に慣れた淫売が、厳しい海になんか出られるもんかい。
片っ端からこっぴどく振られて、金まきあげられておしまいさ。

部屋にいない?
ああ、そりゃいないだろうよ。いたらびっくりだ。

あの淫売は死んだよ。

そんなに驚かなくたっていいだろう。
もともとあんな商売だ。
先が長いとは、本人だって思っちゃいなかっただろうよ。
なんだいなんだい。
知らないよ、あたしゃ。
半年ぐらい前さ。
病気だったんじゃないかね。
秋口から弱り始めて、一番雪が降る頃にはもうまったく外で見かける事はなかったからね。
だから知らないって言ってるじゃないか。
しつこい男だね。

ああ、確かにあんたの言ってる淫売に間違いないよ。
金髪だろ?
そりゃそうさ、ノースだもの。
なんだ。そんな事も知らなかったのかい、あんた。
あれはノースの出だよ。見りゃわかるだろ、あんなのは、このへんにはそうはいないよ。
あんなに肌が白いのは、昼外に出ないあの商売のせいばっかりじゃない。
まったく違う人間みたいだったよ。見てくれだけはさ。
だけど、あれほど凶暴な淫売もいなかっただろ。
気に入らない客を蹴り飛ばすなんてさ。

なんだい、笑っちゃいけないかい?
あたしだって女だよ?金で人の体買おうなんて野郎をよく思っているはずないだろ。
ああ、悪かったね。あんたもそうだった。
でもね、長い船旅でいろいろたまっちまうのもわかるけどね。
いくら金で買った淫売だからって何をしてもいいわけじゃないだろ?
そのへん、昔の船乗りはわきまえていたさ。
一晩限りだろうと金で買った淫売だろうと大事に扱ったし、淫売のほうだって翌朝は船乗りを戸口のところまで出て
その背中を見送ったもんさ。
二度と来ることなんかないってわかりきってる客に、わざわざ涙まで見せてさ。
まあ、全部が全部芝居ってわけじゃなかったのかもしれないけど。

なんだいその目は。こんなばあさんが言っちゃおかしいかい。
だってそうだろ。
淫売だって人間さ。たまにゃ恋のひとつもするだろうさ。
ただ相手が悪すぎるんだ、いつだって。
淫売が恋なんかしたって、幸せになんかなれるもんか。
それをわかってて恋するような淫売は、自分から死にに行くようなもんだ。
恋しい相手を思いながら他の男に抱かれるのはつらいよ。
なんだい、だから言ってるだろ。あたしだって女だよ。年くってたって、そのぐらいわかるさ。

ああ?
さあね、それは知らないね。
あの子が恋をしてたかどうかなんて、あたしにわかるわけないだろう。
馬鹿じゃないのかい、あんたは。
淫売なんかと口をきくような者に見えるかい、このレジーナばあさんが。
恋をして、相手に焦がれ死にするようなタマじゃなかったね、あの淫売は。
あんただって一度寝たことがあるんならわかってるだろ?
あの淫売の性根をさ。

馬鹿な男どもが自分を争って殺し合うのを、無表情で見ていたよ。
いつだって、煙草なんかくわえてさ。
他の淫売どもみたいに泣きわめいたり笑ったりもしないでさ。
かわいげのない。
自分は何もしていない、あいつらが勝手にやっている事だとさ。
そんなときゃ、芝居でもいいから泣きながら止めるもんだ。
馬鹿な男どもだって、内心じゃそれを待っているんだからね。
まあ、事アレに関しちゃそうでもなかったのかもしれないがね。
どいつもこいつも目が据わっててさ、気狂いさ。
どうも、あの淫売が絡むと男どもは頭がおかしくなるらしい。
そんなにあの淫売がよかったのかね。
馬鹿だよ、まったく。

いくら床上手だって、これっぽっちも情がない淫売を争うなんてさ。
誰が勝ったって、あの淫売にゃ関係なかったのに。
誰のことも何のことも、どうでもよかったんだよ、アレは。
それぐらいわかってる筈なのに、馬鹿どもが。
なんで手を出さずにはいられないのかねぇ。








エレーン