side 〜サンジ〜










「結婚しないか」






それはいつもと何も変わりないごくごくふつうの夜。

夕食後の片付けを済まし、カウンターで飲んでいるゾロに新しい酒のボトルを取り出し差し出したら、“礼”の変わりに
耳に飛び込んできた言葉だった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
笑ってしまうほど突然で、でも笑ったつもりの顔は僅かに唇を動かしただけで麻痺したようだった。
その言葉の意味はもちろんすぐにわかった。
それを理解するのにかなり苦労した。

「オレと結婚しないかって言ってるんだ。何度も言わせるな。」

結婚。けっこん。ケッコン。
‥‥‥血痕?
いや違う違う。
何言ってんだオレ。
結婚って‥‥‥あの結婚だよな?
結婚しようって言ったんだよな、ゾロは今。
誰と?ってオレに言ってるんだからオレだよな。
それにこのキッチンにはゾロとオレしかいないんだし。
あ、もしかして気付かないうちに誰か入ってきたとか?
オレの前でナミさんやロビンちゃんにプロポーズだったら嫌だな。


「‥‥‥お前に言ってんだよ」

思わず周りを見渡したオレを見てゾロはあきれたようにオレに言う。
それからまるで手品のようにどこからか出したむきだしの指輪をオレにかざして見せる。
そして滑らかな動きでオレの指にはめてしまった。

右手には酒のボトル。
左手の薬指には銀色にきらきら輝く指輪。
その二つをオレはバカみたいに何度も見比べる。

「ま、婚姻届を出すわけじゃあ無いけどな」

そりゃそうだろう。
オレ達は海賊だ。
明日の我が身すら分からない立場。
そもそも男同士で婚姻届なんかだせるのか??
ひとり違う方向に考え出したサンジにゾロがさらに言葉を続ける。

「言っとくが、結婚式とかもやらないからな」

あーそれは賛成。
そりゃ神は信じてはないし神に誓いをたてるなんてオレたちには絶対似合わない。
でもせめて仲間の前だけではゾロと誓いはたてたい、とは思うけど改まってするもんじゃないしな。

「それとオレを起こす時はもっと優しく起こせ」

‥‥‥おい。

「それから、これからは好きな時にお前に手を出すからな」

‥‥‥‥‥オレはまだ返事してないだろ?それに何を好き勝手言ってやがる。このクソマリモ野郎。

「…これからよろしくな」

そう言うとゾロは蹴り飛ばそうと考えていたオレに軽くキスをした。
キスをされて固まったオレの額にもキスして、とどめを刺すように指輪がはまった指にもキスをすると“ごちそうさん”と
言いキッチンを後にした。










ゾロの足音が聴こえなくなってもまだオレは動けなくて指輪をじっと見つめていた。
そして今のゾロの行為を思い出したら胸が締め付けられて視界が少し滲んだ。

これからよろしく、と言ったゾロの顔と一緒に“結婚”という言葉が浮かんできて、オレは声をあげて笑った。
そして世界一の大剣豪となったゾロの為にこれから毎日ゾロを起こし食事をする生活が、二人で過ごす夜が、
共に生きてゾロを愛する人生が、ずっと続くのだとやっとわかった。

死が二人を分かつまで、これからずっと。

願わくば。
その時が来るのが想像もつかないくらい
遥か遠い時間の果てでありますように









side 〜ゾロへ〜




こんな愛の形でも