Side 〜ゾロ〜









さっき柄にも無くコックに指輪をやった。
しかもプロポーズまで付けて。
‥‥‥「結婚しないか。」って何言ってんだ俺。
無茶苦茶恥ずかしくなってきた。

別にわざわざ言う事では無かったのかもしれない。
俺は今までもずっとコックが大切だった。
俺の全てにおいてコックは最高のパートナーであり、なによりあいつは俺を選んでくれた。
俺のそばにずっといると、俺と一緒に生きていくと。
コックが望まない限り俺はずっとあいつを離さないだろうし、あいつも離れてはいかないだろう。
たとえそれがどんな代償を伴い、どんな危険を孕んでいようとも。
海賊狩りと呼ばれてから現在大剣豪になるまで数えられないほど人を斬ってきた俺が、幸せを求める事がどんなに
罪であろうとも。

けれど、不安になってしまったのかもしれない。
想いは通じ合っているつもりでも、本当にそうなのか。

「言葉にしなくてもわかる」なんてセリフよく酒場で聞いたし俺も思っていた。
けれど何がわかると言うんだ?わかってる気になって、都合の良いように解釈しているだけじゃないのか?
言葉にしなければ伝わらないモノもあるだろう。
俺達にはテレパシーなんてものはないんだから。
コックに出会って本当にそう思った。

“だが、俺が言うか?”思い出すとおかしくなる。

“気持ちを言葉に出す”まぎれも無くそれは俺が最も苦手とする事だ。
コックに対しては尚更だ。
最初は意図的に、それを押し殺していた。
いつか、手放さなければならないと。いつでも、繋いだその手を離せるように。
しかし、情けない事に大剣豪になった俺の我慢の許容量には限界があったらしい。
いとも簡単に、何年もかたくなに自分に課してきた戒めを解きコックを抱いたあの日でさえ、俺は溢れる想いをひたすら
身体で表わしただけだった。

・・・・・俺は鬼畜なのかもな。

まあそれはいい。
大剣豪になるまでコックの気持ちに応えられずキツクあたっていた昔はともかく、今はあいつの気持ちを受け止め身体も
かさね、あいつへの想いを押し殺す必要も無くなったのに。
相変わらず俺は何一つ言葉にすることが出来ない。

それはただ‥‥‥今まで抑え続けてきたから。

それに、海賊王でもあるこの船の船長のように四六時中「好きだ」を連発するのもな…。
信じてもらえるのか、嘘臭くならないのか?
まあルフィはナミとは上手くやっているようだけど。
それに、言葉に出さなくても俺のこの身体での表現力は、誰にも負けない!いや、本当に。

やっぱり俺は、あいつみたいに言葉を口にはできない。
だけどあいつを見ていたら自分を抑える事が出来なくて。

だから俺は、柄にもなく。
言葉と一緒に目に見えるモノを契約の形として、コックに贈ったのだ。

契約。
それは体裁を整えただけの束縛。
与えた指輪は、あいつを縛り付ける見えない鎖。
軽く、緩やかに、しかし確実に。
時にはそれは、過酷であるかもしれない。
だがそれは俺にひどく安心をもたらすものだった。
馬鹿みたいな独占欲と、なんて自己中心的な考え。
あいつは多分喜んでいると思う。
だが‥‥‥コックは、俺が愛しているサンジは、もしもその気になったとすれば簡単に、するりと鎖から抜け出てしまうだろう。

だから‥‥‥‥。
だから、こういうのも、悪くはない。
それに一度くらいはあいつに本音を言っておかないと。
しかしどんな顔をしてあいつを見ればいいか‥‥‥‥。
しかし俺は、つい数時間ほど前の自分の行動にかなり満足していて。
ウソップと見張りを交代していつもはここで寝るのに、辺りが明るくなるまで酒を飲んだ。
まるで祝杯をあげるように。












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次の日、いつものようにコックに蹴り起こされた。
優しく起こしてくれって言ったのに。
予想していたようにコックは俺の顔を見るなり真っ赤になったりそわそわと意味も無く動き回ったり、

‥‥‥‥‥‥‥といったことは全く無く!

本当にいつもと見事に何も変わらなくて、今までと何も変わらない日常だと思った。
だけどあいつの左手の薬指にはきっちりときらきら輝く指輪が納まっていて、なんだか安心して、でもたいしたことでは
無かったのかと少し不満にも思った。
ナミには散々からかわれ、ルフィは何も変わらず、チョッパーはコックに指輪の事を聞こうとしてウソップに連れ去られ、
そんな仲間を見てフランキーとロビンは優しく笑っていた。

けれど。

その日の夜、久しぶりに島について、ナミに言われた船番を断れず、一人船に残った。
俺を一人残しナミ達と船を降りるコックが出かける時に言った言葉。
いつもなら「寝ないでちゃんと船番しろよ、マリモ」とか「修行も大概にしとけよ、筋肉だるま」とかなんとか、
そんな感じなんだが。

「明日迎えに来るからな、勝手に船降りるなよ。船番頑張って、アナタ。」

まさに色っぽい笑みを浮かべてそう言ったコックは、唖然としている俺にキスすると、少し勝ち誇ったような顔をした。
それからその日初めて恥ずかしそうに頬を染めた、俺の好きな顔を一瞬見せるとくるりと向きをかえてナミ達を追いかけた。




まるで昨日のコックのようにしばらく船の中で惚けていたが、そのうち無性に嬉しくなって、馬鹿みたいに一人で
にやけまくっていた。
もし人がいたなら本当に大剣豪なのかと疑うだろうな。

明日コックが来た時はこの思いの丈を身体で充分すぎるくらい伝えてやろう。
俺の好きな俺だけに見せる顔をしてくれるだろう。








END





こんな愛の形でも