Country story of sand
 「…ゾロ様」
 シャワールームから出てきたゾロは髪や体からポタポタと水滴を落としている。
 その様子を見てサンジはチェストからタオルを取り出して渡した。
 下半身にバスタオルを巻いた姿のゾロはベッドに腰掛けると受け取ったタオルで髪を拭き始めた。
「…ゾロ様、何度も申し上げたはずです」
「…何を?」
「あのようなことはお止め下さいと、屋敷でも何度もご注意致しました」
 ゾロはサンジの言葉を無視するように髪を拭く。
 シーツが濡れて染みを作った。
 また口を聞かないつもりだろうか。
 そう思っていると、
「お前には関係ないだろう」
 と、冷たい言葉が聞こえた。
 突き放された物言いに、心臓がズキッと痛む。
「…そういう訳には参りません、ゾロ様はご自分のお立場を分かっておられるのですか」
「分からないね」
 ゾロは考えることもなく即答する。
「…何度も言わせるな、サンジ。俺はミホークの息子なんかじゃない」
「ゾロ様!」
「俺に父親なんていない。あんな男が父親だなどと、俺は認めないからな」
「ゾロ様、そのようなことは言ってはなりません!」
 ゾロが向ける瞳が、その声と同じように冷たく感じる。
「ミホーク王はゾロ様の父上、ゾロ様はこの国の王子です。今はまだゾロ様の存在は極一部にしか知られていない。
 ですが、もしも変な噂でも立ったらどうするつもりです?」
「そんなもの、俺の知ったことじゃない」
「ゾロ様!」
「変な噂にでもなってこの城を追い出されれば一石二鳥だな」
 そう言ってゾロは笑った。
 もしもゾロが城から追い出されることになれば、またあの屋敷で過ごす事が出来るだろうか。
 サンジはふとそんなことを思い浮かべた。
 だが、それは許されないこと。
 そして、ゾロがまた誰かをこの部屋へ連れ込むのも許したくなかった。
「そのようなことは考えてはいけません、ゾロ様」
「……サンジ」
 突然ゾロが声色を低くして呟いた。
 その声にサンジはドキッと心臓を弾ませた。
「…何でしょうか」
「さっきから…どうしてこっちを見ない?」
 そう言われて絶句した。
 サンジは故意にゾロと目を合わせないようにしていた。
 ゾロには気付かれないようにしていたつもりだったが、いつの間にか気付かれていた。
「…そんなことは…」
 否定する言葉を口から出してみたものの、それは嘘の言葉でしかない。
 シャワーを浴びてきたとはいえ、情事の後のゾロを見るのは辛かった。
 褐色の肌でも、キスマークを付けられれば跡が残る。
 その跡を見てしまうと、言ってはならないと自制している言葉が出てしまいそうだった。
 他の誰かを抱かないで下さい。
 私以外の人にそんな跡を付けさせないでください。
 …と、だが決して言ってはならない言葉。
「…お前は俺よりもあの男の言うことを聞くのか」
「…え…?」
 それまでのゾロの声よりもずっと、冷たい声だった。
「ゾロ様…?」
 心臓が、槍で突き刺されたような痛みを感じた。
「そんなことはありません」
 慌ててサンジは答えたが、ゾロは聞いていないように視線を遠くに向けていた。
「俺の言うことよりも、あの男の言うことを聞くんだろう?」
「…私の主は、ゾロ様です」
「俺の言うことを聞かない癖にか?」
「そんなことは…」
 ない、とは言えなかった。
 この城に居たくない、屋敷に帰るのだというゾロの意志を無視し続けている。
「…こっちを向け、サンジ」
 命令されては、従わないわけにはいかない。
 もしも、ゾロの体にさっきまでベッドにいた相手の痕跡が残っていても、何も思わないように。
 自分とは身分の違うゾロに嫉妬など、してはいけない。
 そう言い聞かせながらサンジはゾロに目を向けた。
 ゾロの顔だけを見て、体には視線を向けない。
 そうしようと思っていた。
 だが、首筋や胸の上に残る跡が嫌でも目に入ってしまう。
 サンジは爪痕が残るくらい強く、手を握った。
 そうして痛みを感じていなければ自制できなくなる。
 手を握っていなければ、ゾロの体に抱きついてしまいたくなる。
 じっとゾロを見ていることが出来なくて、サンジは目を背けた。
「…嘘を吐くな」
 目を背けたサンジに、ゾロは呟いた。

 ゾロは部屋からサンジを追い出すと、タオルを床に投げ捨てた。
 シャワーの後で濡れた体は、もう随分と乾いている。
 ゾロはベッドから立ち上がるとサンジが置いていった着替えに目をやった。
 煌びやかな、王族の服。
 ゾロはその服は手に取らず、クローゼットを開いた。
 クローゼットを開くと、全身を映す鏡が目に入った。
 ゾロの首筋、胸、腹の辺りに残る、うっすらと赤い跡が見える。
 ついさっき寝た相手が残した物だ。
 相手の名前は覚えていない、名前になど興味はなかった。
 気に入ったから抱いたわけじゃない。
 ただ…、もしかしたらサンジが、嫉妬してくれるんじゃないかと思ったから。
 今までに何度も試した事なのに、もしかしたら…と。
 だがそんなゾロの思惑は、いつも通じることはなかった。
 それどころか、跡の残る体を見てサンジは目を逸らした。
 汚らわしいと思ったのだろうか。
 跡の残る体を、誰とでもそういう行為をする、自分を。
 サンジはいつだって、誰をベッドに連れ込んでも冷静な目をしていた。
 そしていつもと変わらない口調で、そんなことはしてはいけないと咎める。
 いつもサンジは軽蔑していただろうか。
 サンジにとって自分は仕えるべき主で、それ以上ではきっとない。
 それも、王の命令で仕えているだけ。
 それだけのこと。
 考えると笑いが込み上げてくる。
 愚かな自分の、サンジを思う気持ちに。
 ゾロは開いたクローゼットの中から服を取り出し、袖を通した。

 ドンドン、という大きな音にサンジはビクッと体を震わせた。
「サンジ様、いらっしゃいますか。サンジ様!」
 扉の向こうから叫ぶような声が聞こえて慌ててサンジは扉へと向かった。
「…どうかしたのですか?」
 扉を開けると、いつもゾロの部屋の前に控えている兵士が血相を変えて立っていた。
「あの、王子が」
 その言葉を聞いてサンジは息が止まるような気がした。
 また…誰か、あのベッドの上にいるのだろうか。
「サンジ様…、王子が…ッ…」
 兵士は取り乱して言葉が出てこないのか、同じ言葉を繰り返した。
 それはゾロが誰かを連れ込んで困っている…という程度のものではないと分かった。
「ゾロ様がどうかしたのですか?」
「王子が… いないんです」
「え…?」
「いつのまにか部屋からいなくなっていて…城中探し回ったのですが、どこにも…!」
 フッとサンジの目の前が白くなった気がした。
「どういう…ことですか」
 サンジの言葉に兵士が首を振った。
「サンジ様、私はどうすれば…」
 これは夢か幻だろうか…兵士が言う言葉が信じられない。
 ゾロが消えた?
 この城から、自分に何も告げずに?
「もう一度、城の中を探して見てください。それから…馬車の用意を」
「馬車…ですか?」
「この城にいないのなら…心当たりは一つだけあります」
 この城に居ることが嫌だと、何度も言っていたゾロ。
 ゾロの居場所はあの屋敷以外にはない。
 一人でどこかの街へ行くというのは考えられなかった。
 この国は一つ一つの集落が離れていて、ゾロはこれまで屋敷のあるあの街を離れたことがない。
 兵士が頭を下げて廊下を走って行くのを見届けると、サンジは自分の服の胸元をギュっと掴んだ。
「…ゾロ様…」
 姿を思い浮かべると、サンジの心臓はまた痛みを感じた。


 城を抜け出すのは簡単だった。
 名前の知らない、一度寝た女を呼び寄せて口付け、耳元で囁けば良かった。
 女に馬車のある場所に案内させ、城を出た。
 女はゾロの逃げる手伝いをしたなどと、言えば自分の身が危なくなるだろうから絶対に口外しない筈だ。
 ゾロは自分の部屋のベッドの上へと寝転がった。
 見慣れた天井が見える。
 城の中の、あの豪華なものとは違って、ここは質素だ。
 だがゾロにはこの屋敷の方が落ち着けた。
 窓から乾いた風が入って、ゾロの体を撫でて行く。
 城にいたとき、あんなに帰りたかった家。
 ようやく戻ってきたというのに、何故か物足りないような気がした。
 何か…。
 その何かが、何なのかは考えれば直ぐに分かる。
 だがそれも思い出すのは嫌だった。
 城に比べれば小さな屋敷。
 だが、それなりの大きさはある。
 この屋敷に一人でいるのが寂しいことだとは今まで気がつかなかった。
 すぐ近くにある街へ行って、誰かを連れてくるのも面倒でゾロはただベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
 誰かを連れ込んでも、空しくなるだけだ。
 城で抱いた、あの女も空しい気持ちを残しただけだった。
 部屋の中に踏み込んで、止めろと言ったサンジは俺を見ようともしなかった。
 引き留めたのは、王子だから。
 この国の王の息子で、変な噂が流れたら王が困るから。
 それだけの事でしかない。
 あの城にいるのは辛い。
 やけに遠くにいるように感じるサンジの姿を見るのが辛い。
 だからこの屋敷へ戻ってきたというのに、サンジの事を思い出してしまう。
 ベッドへ転がってどれくらい経っただろうか。
 開け放たれている窓から冷たい空気が入り込んできた。
 もう、大分日が陰ってきている。
 そろそろ窓を閉めなければ部屋の中が冷え切ってしまう。
 だが起きあがる気力もなく、ソロは天井をじっと見ていた。
 その時、突然物音が聞こえた。
 ゾロはその音にハッと息を飲んでベッドから起きあがった。

 石造りの階段を歩くと、その上に被った砂が擦れた音がする。
 見慣れた屋敷の中へ入り、扉を開けた。
 この屋敷を離れていたのはほんの数日だというのに、懐かしい気がする。
 扉を開けると、ベッドに腰を掛けたゾロの姿が見えた。
 その姿を見て、サンジはほっと胸を撫で下ろした。
 ゾロが行く場所はここ以外には思い当たらなかった。
 だが、もしもここに姿がなく、どこか知らないところへ姿を消してしまったらと考えると気が気では無かった。
 思わず駆け寄りたい衝動に駆られる。
「…何をしにきた?」
 だが、踏みだそうとした足をゾロの言葉が止めた。
 じっとサンジ見つめる目は鋭く、突き刺さるような声でサンジを貫く。
「…ゾロ様」
「あいつの命令で、連れ戻しに来たのか?」
 そう言ってゾロはキツイ目を向けた。
「いえ、ミホーク王には何も告げずに来ました。今頃報告は行っているかも知れませんが…」
 サンジが答えるとゾロは顔を背けた。
「ゾロ様、一人で戻られて、食事はどうなさるつもりだったのですか」
 ゾロは食事の準備など一度もしたことはない。
 それらは全てサンジの担当になっていた。
「…そんなもの、どうにでもなる」
「何も言わずにこんなこと、なさらないでください。何処へ行ってしまったのかと心配しました」
「俺がいなくなったら、あいつに怒られるからか?」
 ゾロの言葉に、サンジは目を見開いた。
「お前が大事なのは王の命令で、俺の事じゃない。…そうだろ?」
「なん…で…」
 ゾロの言葉は、サンジの頭の中を真っ白に塗り替える。
 前にも、同じようなことをゾロは言った。
 何故、そんなことを言うのだろうか。
「お前が聞くのは王の命令だけ、俺の言う事なんて聞かない」
「何でそんなことを仰るのですか、私はゾロ様の従者です」
「嘘を吐け」
「嘘じゃありません、確かに王の命令は絶対です。この国の王ですから聞かないわけには行きません。
ですが、ゾロ様の言うことを聞かないなどということはけっして…」
「じゃあ、俺の言うことは聞くのか?」
 そう言いながらゾロは立ち上がってサンジに向かってゆっくりと足を進めた。
「私の主は、ゾロ様です。ゾロ様の命令を聞かないなんてことはありません」
「俺が、何を言っても?」
「…それが私に出来ることであれば」
 歩いてきたゾロはサンジの目の前で足を止めた。
 間近にゾロの顔が迫る。
 ゾロはじっと私の目を見つめ、その瞳に思わずドキッと心臓が音を立てた。
 ソロは怒っている。
 そう分かっていても、不謹慎にもその顔に見とれてしまいそうになる。
「俺にキスしろ…と言ったら?」
「…え…っ?」
 サンジは自分の耳を疑った。
 今、ゾロは何と言った?
「あ…の、ゾロ様…」
「聞こえなかったのか? 俺にキスをしろ、と言った」
 もう一度ゾロは言った。
 聞き違いではない。
 確かにゾロは、キスをしろと言っている。
 サンジの頭の中は真っ白になっていた。
 そして心臓は早い鼓動を体に伝えている。
「…できないだろ? お前は俺の言うことなんか聞きはしないんだ。聞くのは王の言うことだけ」
「ゾロ様…」
 溜息を吐くようにゾロは言って顔を背けた。
 その横顔は酷く傷ついたように見える。
 サンジの手が、ゾロの手首に触れた。
 意識はなかったが、サンジの手が自然とゾロの手を掴んでいた。
 このまま、ゾロを拒否してしまったら今目の前にあるゾロとの距離がもっと遠くなって、近付けなくなる気がした。
 ゾロを好きになってはならない。
 そうは分かっているが、これ以上距離が開いてしまうのは嫌だった。
 いつかは一緒にいれなくなる。そうは分かっていても。
 自分と同じくらいの身長。
 空いていたもう片方の手をゾロの頬にあてた。
「サ…ンジ…」
 小さくゾロが呟いた。
 ゾロの唇が、自分の名前を呼ぶ。
 その声にサンジは何もかもを忘れて、ゾロの体を引き寄せた。
 こんなことをしてはいけないんだという理性すら、頭の中から消えていた。
 唇が、触れる。
 ゾロの思ったよりも柔らかい唇の感触がして、サンジは自分の体の表面が崩れ落ちていくような気がした。
 もう、後ろには戻れない。
 愛するゾロの唇を感じてしまったら、もう。
 ゾロを好きだという気持ちを抑えることが出来なかった。
「…んっ… んん…っ…」
 ゾロはサンジが本当にキスをするとは思っていなかったのだろう。
 驚いて僅かに開いた唇に、サンジは舌を割り込ませた。
 離れたくなかった。
「…んっ…」
 唇を離すと、サンジはゾロの肩に頭を押しつけた。
 ゾロの手がサンジの背中に回る。
 ゾロに抱きしめられている。
 それが夢のようで、信じられない。
 心臓がドキドキしているのがゾロに聞かれてしまいそうで、サンジは必死に落ち着けようと床を見つめ、気付かれないように
 深呼吸をした。
「…何で」
 頭の上で、ゾロが声を上げた。
「…何でこんなことするんだ」
「え…?」
 キスをしろと言ったのはゾロの筈だ。
 何がいけなかったのかと、サンジは狼狽える。
「…どうして、俺の言うことを聞く?」
「私はゾロ様の従者だから、とさっき…」
「俺が命令したから、か」
 ゾロの声が暗く聞こえた。
「…ゾロ様?」
 顔を上げゾロの顔を見ようとするが、見えない。。
「…そうだな、お前は…俺が命令したから従っただけ、なんだよな」
 暗いゾロの声は寂しく聞こえる。
「俺が王子で…お前はミホークに俺に従うように頼まれたから、だから言うことを聞くだけ…」
「ゾロ様、あの…」
「もしミホークがキスをしろと言ったら、お前はするのだろう?」
 ゾロは抱きしめていた手を離し、サンジの両肩を掴んで体を離した。
 その、言葉の意味が分からない。
 自分でキスをしろと言って、キスをすれば何故したのかと言う。
 そして、キスの意味を考えて寂しい顔をする。
 その寂しい顔で、王に言われてもそうするのかと、ゾロは聞く。
 それはまるで、自分がゾロを思うのと、同じようにゾロが私を思っているように聞こえる。
「いえ、王に命令されてもしません」
「嘘だ。お前がここにいるのは王の命令だからだろう?王の命令がなければお前は俺の言うことを聞いたりしないだろう?」
「何故そんなことを…」
 それは、王子と従者という身分の差では許されないこと。
 それは充分分かっている。
 だが…。
「王にキスなんて、命令されてもするわけがないでしょう」
 もしも同じようにゾロが思ってくれているのなら、それを拒否することが出来なかった。
 ゾロは驚いたようにサンジの顔を見つめた。
「しかも、あんなキスを…命令されて仕方なくするわけがないでしょう?」
「じゃあ…何で」
 それを言ってしまったら、もう、後戻りが出来なくなる。
 後戻りが出来なくなれば、諦めることもきっと出来ない。
「ゾロ様、答える前に一つだけ聞かせてください」
 その質問をして、期待する答えが返ってきたら自制なんて聞かなくなる。
 分かっているのに、唇から出る言葉を止めることが出来なかった。
「ゾロ様はどうして私に、キスをしろと言ったのですか?」
「それ、は…」
 言いにくそうに言葉を切ってから、ゾロはサンジを見つめた。
 見慣れたゾロの瞳。
 綺麗な深い真紅の瞳に、サンジはドキドキしてしまう。
「…して欲しかったから」
 じっとサンジを見つめたままゾロは呟いた。
 その言葉でサンジはゾロから目が離せなくなった。
 身分の違いだなんてどうでもいいと、些細な事なのだと思ってしまう。
「俺は、答えたからな。サンジ、質問に答えろ」
「ゾロ様、一つ確認しますが」
 サンジが言うとゾロはムッとした目を向ける。
「聞くのは一つだけだと言ったのに」
「すみません、気になったのでもう一つだけ」
 ゾロは仕方がないな、と言うように肩をすくめて、「何だ?」と聞き返した。
「キスして欲しいと思ったんですよね?」
「…そうだ」
「それは、どうしてですか?」
 聞くとゾロは言葉に詰まって、顰めた顔でサンジを見つめる。
 サンジはゾロが答えるのをじっと待った。
「…好きで、なかったら…して欲しいと……思うわけがないだろ…」
 いつもの気の強い声からは想像できないほど、小さな声でゾロが呟く。
「ゾロ…さ、ま」
 じっとこちらを見つめて、真剣な顔をしているゾロ。
 そんな顔で見つめられて、好きだと告白されたら何も考えられなくなる。
 自分の気持ちに、抗えなくなる。
「質問には答えたからな。今度はお前の番だ」
 その声はいつものゾロのものに戻ってはいたが、表情は変わらない。
 ゾロ様。
 もう、後戻りは出来ない。
 目の前にいる、貴方から手を離すことなど、もう、

 できない。

「俺にキスをしたのは、何故だ?」
 ゾロに聞かれてサンジは唇を開いた。
「それは…貴方と同じ事を考えていたからです」
 そう言うとゾロの顔がパッと明るくなるのが見えた。
「ゾロ様…、ずっと貴方の事を考えていました」
「サンジ…」
「息が苦しいと思うほど、貴方のことを」
 ゾロは手を伸ばしサンジを抱きしめ、サンジもゾロの背中に手を回した。
 もう、後に戻ることは出来ない。
 この抱きしめられた腕から離れる事など出来ない。
 例えこの国で絶対的な力を持つミホーク王に咎められ、罰せられてもいいと思った。
 例え罰せられても、今ゾロから離れることなど考えられなかった。
「愛しています、ゾロ様…」
 この国の誰もが許してくれない恋かも知れない。
 だが、それでもいいと思った。
「サンジ…」
 ゾロは呟くとサンジの唇に自らの唇を重ねた。










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