むかしむかしあるところに―――
  ではなくて、ちょっとむかしあるところに、それは立派な王様とそれはそれは美しいお后様が住んでいました。
  二人はまだ新婚さんで、傍から見ても微笑ましいほどに仲がよく適度にイチャつくベストカップルでした。
  特に王様は、お后様の美しさを誰に憚ることなく褒めそやし、ある日とうとうこんな言葉を口にしてしまいました。
  「我が妃の麗しさは他に並びなきもの」
  その言葉を、東の果ての森に住む魔女は聞き逃しませんでした。
  この魔女、元はタダの肥満おばさんでしたが、ある魔法を使用して以降、まさに絶世の美女と呼ばれて
差し支えない美貌を  手に入れていたのです。

  絶世の美女のほかに、比類なき人間の美女などいらぬ。
  それを口にして憚らぬ男などもいらぬ。

  人智を超えた魔女の傲慢さか、遠い北の地に住む幸せなベストカップル相手に本気魔法を掛け、
この二人を人の指ほどの  大きさの小さな小さな人間に変えてしまいました。

  さて、北の国では大パニック。
  なにせ国を治めていた王様とお后様が揃って小さくなってしまったのですからさあ大変。
  まずは王座から転げ落ちないように、誰かに踏み潰されないように、見失ってはならないように。
  国の大臣たちは右往左往で王様夫妻を保護し、なんとか呪いが解けないものかと右往左往いたしました。
  しかし、魔法を掛けた当人は遠い東の果ての森で、
呪いを掛けたこともとっとと忘れて独身生活をエンジョイしてたりしています。
  小さくなってしまった王様たちは、それでも二人一緒でよかったとその後も仲睦まじく暮らし、
二人の間に玉のように愛らしい  男の子が生まれました。

  待望の第一王子です。
  国を挙げての生誕のお祝いは一ヶ月間も続き、美食の国で知られた街は
多くの観光客が詰め掛けて大変な賑わいとなりました。
  そんな中、最も女神に近いと呼ばれ尊ばれる紫の魔女が北の地に立ち寄り、
王家に保管されている書物の閲覧を申し出ました。
  なにせお祝い事の真っ最中でしたので、小さな王様は上機嫌で紫の魔女を持て成し、心行くまで書架を開放しました。

  紫の魔女はいたく喜び、御礼にと東の果ての魔女が掛けた魔法をあっさりと解いてくれました。
  なんと喜ばしいことでしょう。
  数年ぶりに王様とお后様は元の人間の大きさに戻れたのです。
  王様はますます凛々しく、お后様は輝くばかりに美しく。
  愛すべき国王夫妻の復活に、国民たちはまさに熱狂線ばかりに喜び祝いの宴は更に一ヶ月続きました。

  が。

  ここで問題が一つ発生。
  なんと、生まれたばかりの第一王子の大きさは元のままだったのです。
  紫の魔女曰く
  「アルビダが掛けた魔法を解いただけだもの。もともと王子様には魔法が掛かっていなかったから」
  だからお手上げ、ということです。

  王様とお后様の落胆はいかばかりか。
  それでも根が楽観的な二人は、小さな王子をそれはもう目に入れても痛くないほどに慈しみました。
  その後、弟や妹が次々と生まれましたが、いずれの子ども達にも最初に言い聞かせることは一つです。
  「お兄様を落としたり踏んだり、失くしたりしてはいけませんよ」

  こうして、第一王子サンジは小さいながらも、国王一家は幸せに健やかに暮らしていたのでした。 






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