夢見る頃を過ぎても 1

戯れにキスをしてみた。

修学旅行の最後の夜。
団体専門の雑多な旅館で、見回りの足音に過敏に反応しながら、それぞれ布団や押入れにもぐりこんだ。
別棟の女子も入り乱れて、全員寝たふりを決め込む。
布団の中で息を凝らして耳を済ませていると、思いのほか間近にもう一人、寄り添うように並んで寝ていた。
女子ならラッキーvと心ときめかせたが、汗臭さですぐにゾロと知れる。
――――なんで野郎なんだよ。
内心毒づきつつ、一時の共犯者的な興奮もあって、身体を擦り寄せた。
自然、近付いた頬に奴の息がかかる。
もとより体温の高そうな肉厚な胸が、俺を庇うように覆い被さった。

「動くな、バレる。」
「・・・」
声を潜めて笑いを噛み殺して、無邪気な子供みたいに寄り添って。
接近しすぎた奴の唇が頬に触れた。
身動ぎと共に位置を変えて唇で止まる。
やべーよ、これってキスじゃん。
そう思って口を噤むと、ふと離れたのにまたくっ付いた。
こいつわざとだ。
わざと、俺にキスしてる。
何度もくっ付けては離れてを繰り返し、その仕種がやけに幼く思えて俺は笑う代わりに肩を揺らした。
「動くな。」
「もう、行ったろ?」

もそもそと暗闇の中で悪ガキどもが頭を上げる。
先に顔を出したゾロが、俺が身体を起こす前にまた被さってきて耳元で囁きやがった。
「な、場所変えようぜ。」
なんのために?
なに考えてんだ、てめえ。
突っ込み入れるのは簡単だったがなんだか俺はそんな気にならず、黙って先に部屋を抜け出した
ゾロに続いた。
他の奴らは布団を被って懐中電灯でトランプの続きやら内緒話やらをするみたいだ。
野郎二人で消えたって、誰も怪しまないっての。







廊下に出てみれば案外月が明るくて、ちょっと尻込みした。
そんな俺に頓着せずゾロはさっさと先を歩く。
いつの間に目をつけていたのか、階段裏のがたつく引き戸を強引に開けて中を覗き込んでいる。
「布団部屋だぞ、ここ。」
狭い四畳半の和室に布団が積み上げられて、かび臭い匂いだってする。
天井近くに申し訳程度に明り取りの窓があって、薄暗くても中の様子は伺えた。

「ここでさっきの続きやろうぜ。」
「なんだよ続きって。」
強引に背中を押されて中に押し込まれる。
まあ布団だから痛くはないけど、ゾロがなに考えてんだがそっちの方が気がかりだ。
「さっきの続きって・・・」
その先を続ける間もなく、またむにっとキスされた。
なんだ、クセになったのか。
べろっと舌を出して俺の唇を舐めてみたりして、また吸ってくる。
軟体動物みたいで気持ち悪いけど気持ちいい。

何度か吸ったり歯を立てたりしているうちに、どちらからともなく鼻息が荒くなってきた。
お互い押さえ込むみたいに肩やら髪やら掴んで、はあはあ言いながらキスを繰り返すやばさに興奮する。
ゾロは唇を合わせたまま、俺の腰を掴んで布団の上に乗せ直した。
そのまま上から圧し掛かる。
ぐいと押し付けられた股間に硬いモノが当たって、いきなり現実に引き戻された。
「ちょ、ちょっと待て・・・ってえか、これ、シャレになんねえぞ。」
固い、痛い、でかい。
股間に直接ぐいぐい擦り付けるように押してくるから、ますます妙な気分になる。
ああ、そんなに擦り付けるなって。
「やべって、やべー・・・どうすんだよ。」
「気持ちイイだろうが。」
確かに悪かあねえ。
悪かあねえけど、なんかやばいんじゃあ・・・

ゾロは俺の唇をべろんと舐めて顔を離すと、おもむろにジャージをずり下げて俺のを掴みやがった。
「うわっ・・・」
痛えっつうか、やべえっ。
「そそそそ、それはシャレになんねえんじゃっ・・・」
慌ててゾロの手を掴むが、でかい掌に包まれて上下されて腰の力が抜けた。
「慌てんな、擦りっこじゃねえか。」
ああ、そうか。
そうなら、いいかな?
いいのか?
思いがけない展開とさっきのキスで、すでに俺の息子は完勃ちだ。
いつもグラビア雑誌とか見てオナってるから、何も見ないで直接刺激ってのは初めてなんだけど・・・
これが結構クる。

物凄く間近に、ゾロの顔があった。
なんか真剣な目で俺の息子見ながら手を動かしてやがる。
元々いかつい顔なのに、怒ってるみてえにも見えっぞ。
ってああ、擦りっこだったよな。
ってことは、俺もゾロにやってやんなきゃなんねえのかな。
あ、やべそこっ・・・あああ〜

俺はかくかくと震えながら、なんとかゾロの股間に手を伸ばした。
そこはもう見ただけでガチガチのビンビンで、ジャージを下に下ろそうにも引っかかって下りやしねえ。
仕方なく上から手を突っ込んだら、硬い腹筋の下になんですかこれ?金属の棒ですか?みたいに固い
モノが反り返っていた。
しかもやっぱ太てえよ。
「うわ、うわ・・・シャレになんねえひょ。てめえのこれ・・・えっ・・・」
声が裏返っちまった。
やばい、そんなにごしごし擦られたら、もう弾ける。
出ちまう。
「あ・・・やべって、やべー・・・」
あ・あ・あ・と実にマヌケな声を出して、俺はとっとと昇天してしまった。

ゾロの掌がぬるんで、余計に滑らかに擦られる。
全部搾り取るみたいに柔らかく丁寧に・・・
気持ちよすぎる。
「・・・」
結局声も出ないまま、俺は布団の上でぐったりと横たわった。
ゾロのを何とかしないとなーとは思ってたけど、快感の余韻のが強い。
なんてえか、ゾロってやっぱいろんな意味ですげえ奴だ。



ゾロは俺がくたりとなっているのをいいことに、膝に引っかかっていたジャージを全部取っ払ってしまった。
なんで?
「なんで、脱がすんだよ。」
「汚れっだろうが。」
え?
もう出したのに。
ああゾロがまだだな、そういや。
「待ってろ、次てめえをなんとかしてやる。」
擦りっこだもんな、お互い様だし。
「いや俺は勝手にやっから、てめえ寝てろ。」
そうはいかねえだろ。
正直さっきのめちゃくちゃ気持ちよかったし。
そう言おうとして、俺はそのままの体勢で固まってしまった。
ゾロが、なんかしている。
人の足を抱え上げて曲げさせて、どっか変なとこ触ってんですけど。
「おいおいおい、何やってんだ。何やってんだてめえっ!」
「うっせえな、聞こえっぞ。」
慌てて口を閉じた。
が、ゾロの手は止まらない。
「なに、やってんだ?」
「いや、入んねーかなと思って。」
どこに!
抗議する前に痛みが走った。
ゾロの野郎、指捻じ込みやがった。
「痛え、痛えって・・・」
「なら力抜けよ。俺の手、さっきのてめえのでヌラヌラなんだから。入ったぞ。」
もう入れたのか?
ってえか指か?
指一本でこんなにきついのかよ。
ってえか、ゾロは最終的に何入れる気なんだ。

「どんくらい広げりゃあ入るんかな。まだだめか?」
言いながら何かを押し付けられた。
でかくて熱くて固い。
これはもしかして・・・
「止めろ止めろ、無理だそんなのっ」
ゾロの肩を蹴りつけようとして振り上げた片足を担がれた。
これって無防備って奴で・・・
「うううっ」
半端じゃない痛みにマジ声が出る。
ゾロは脱がせた俺のジャージを口に無理やり突っ込みやがった。
息が詰まるっつうか歯が当たっただろうが、痛えだろうが。
でもそっちより下のが半端じゃなく痛い。

「んぐ・・・ぐ・・・〜」
痛い痛い痛い。
なんかめりめり言ってる。
やばいって、切れるって、無理だってわああああ
「くそっ」
ゾロが舌打ちした。
何度かぐいぐい押されて、生暖かいものが尻の肉を伝ったのがわかる。
ぬちゃってやらしい音がして、幾分痛みが薄れた気がした。
「きついなてめえ・・・半分も入れてねえのに。」
物凄く悔しそうにゾロが呟いた。
どうやらイっちまったらしい。
「んんん〜」
俺は口にかまされたジャージを取って文句を言おうとしたが、すかさずその手を掴まれてまた布団に押し付けられる。
「なんか半イキだったな。まだイける。」
いやもういい。
っつか半イキってなんだよ。
色々文句は言いたかったが、またぐいと塊が突っ込まれた。

なんかさっきより多く入った気がするってえか、気持ち悪い。
だめだだめだ、そんなとこに入れるなよ。
とんでもない異物感に吐きそうになる。
吐けたら楽になるんだろうに、喉まで突っ込まれたジャージで息をするのも苦しくて、目の前が赤く染まってきた。
「力抜けって!」
ゾロが低く怒鳴る。
怒鳴りたいのはこっちの方だ。
なんでこんなことになってんだ。
修学旅行だぞ。
最後の夜は枕投げだろうが。
なんで汚い布団部屋でお前に突っ込まれてなきゃなんねんだよ。

「ぐぅ・・・ぐっ・・・」
死ぬかと思った。
ちょっぴり彼岸を見た気がする。
なのにそんな俺の顔の上で、ゾロが満足そうににやりと笑った。
「・・・入った、ぞ・・・」
この期に及んで、何でその笑顔は爽やか系なんだよ。
いっそガキ臭いほど素で笑って、ゾロがゆっくり腰を動かし始める。
痛い痛い痛い〜っ

気が付けば俺はボロボロ泣いていた。
哀しいとか痛いとかそんなんじゃなくて、もう止まらなくて。
「泣いてる面ってのもいいな。」
ゾロは暢気にそんなことを言いながら、涎でも垂らしそうなスケベ面で俺を見下ろしている。
細い眉が顰められて、苦しげな表情に変わった。
息が荒くなって律動も小刻みになっていく。
「イくぞ。」
短く言い捨てて、ゾロは一番深いところまで押し込むように腰を進めやがった。









「ひでー」
お互いにぜいぜい言いながら、俺は密着したその胸を何とか押しやった。
いつの間にかしとどに汗を掻いていて、当てた手がぬるつく。
別の場所はそれ以上にヌルヌルで、ゾロのしでかしたことに改めて仰天した。
「痛えー、ひでー」
俺はほとんど半泣きで顔を擦った。
最中には号泣と言っていいほど涙垂れ流しだったが、気分はまだ半泣きだ。
ゾロは少しは申し訳なさそうな顔をして、自分のシャツで俺の股間を拭うと、自分もぱぱっと拭いてジャージを履いた。
まだ強張って投げ出されたままの俺の足を取って、慎重に片足ずつ履かせてくれる。
腰を上げた拍子に激烈な痛みが走って、俺はまた「いてー」と泣いた。

ゾロはそのまま俺を負ぶさろうとするから、何とか無理やり身体を起こして立ち上がる。
「あー」
と間抜けなゾロの声が響いた。
視線の先を辿れば、さっきまで俺が寝ていた布団の上だ。
白い布地に朱が点々と散って、白いモノまで混じり合っている。
「やべー」
「モロじゃん」
そっと指で擦ってみたが、染みていて取れるもんじゃない。
「問題になんじゃねーの、これ。」
「布団部屋で処女喪失ってか?けど疑われんの女子だろ。」
ゾロの言葉に、なるほどなとも思う。
「処女喪失には間違いねえだろ。」
俺だけどよ。
「お前、わかってんのかよ。今やったのただの擦りっこじゃねぞ。てめえ俺を・・・」
それ以上具体的に言えなくて、俺は言葉を切ってしまった。
「そうだな。SEXだな。」
「いやそうじゃなくて・・・もうちょい強引な・・・」
「強姦か、レイプだな。」
レイプ犯が冷静に言うな。
「まあそう硬く考えるな。どっちかっつうと行き当たりばったりの事故みてえなもんだ。」
ゾロは軽い口調でそう言うと、俺の肩をぽんと叩いた。

その口で言うかよ。
俺のケツの痛みは事故の後遺症なのかよ。
思い切り蹴り倒して怒りたかったが、実際には立っていることさえ辛い。
ゾロに支えられるようにして部屋から出た。




相変わらず月は明るくて廊下は静まり返っている。
適当に空いている部屋に入って布団に潜り込んだ。
なぜかゾロも同じ布団に入ってくる。
「もうしねえぞ。」
暗闇で睨みつけたら、ゾロも何故か神妙な顔つきで頷いたのがわかった。
それでもぴったりとくっ付いてきて、先に寝やがる。

なんでこうなったんだろう。
じんじんケツが痛い。
なんかまだ挟まってる気もするし、血が止まってるかも怪しい。
朝一番にもっかい風呂入ろう。
それにしても、何で俺がこんな目に・・・
理不尽さを感じつつ、いつの間にか俺も寝てしまった。


翌日、新幹線に乗って帰るだけだったから、俺はひたすら眠っていた。
皆動き回ったりゲームで遊んだりして賑やかだったけど、俺はケツが痛くてそれどころじゃなかった想い出がある。

それが多分、俺とゾロとの関係の始まりだったんだろう。

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