山笑う -1-


今度ウソップとカヤ達が遊びに来るんだと告げたら、たしぎは手を叩いて大喜びした。
一度会っただけなのに、たしぎはカヤを随分と気に入っていて、次はいつ来るのかとサンジに度々尋ねていたから殊更嬉しいのだろう。
勢いついでに、それならみんなで一緒にお誕生会をしましょうよと提案され、そりゃいいねと笑顔で頷いてからあれ?と首を傾ける。
「お誕生会?」
なんとなく甘酸っぱい響きを伴うその単語を、耳にしなくなって随分と久しい。
「3月2日はサンジさんの誕生日でしょ?お店もお休みだし、貸切でパーティをしたらどうかしら」
はっきりと言われて初めて、気付いてしまった。
そうか、3月の頭って俺の誕生日だった。


3月3日のひな祭りは木曜日で、レストラン開店には間に合いそうもない。
だから1週早めて雛祭りフェアをするかとか、そんなことばかりに気を取られていた。
もう20代も終わりを迎える頃で誕生日なんてそう特別なイベントでもなくなっているけれども、ゾロの誕生日は1カ月前くらいからソワソワとして楽しみにしていた。
それなのに、自分のことはすっかり失念していただなんて。
「まあ、誕生会はともかく店でパーティはいいね。ちょうど食事の注文も受けてたんだ。なんせバカみたいにたくさん食べる男が一人いるからさ」
「まあ、スモーカーさんくらい?」
「とてもとても。スモーカーの半分くらいの身体で、その3倍は食べるらしいよ」
サンジがしたり顔で頷けば、信じられないと眼鏡の奥の瞳を丸くして首を振っている。
「それじゃあ、腕の揮い甲斐があるでしょうね」
「さあ。味わってんのかってとこが疑問だし、野郎に食わせたってそう楽しいもんじゃねえしね。やっぱりたしぎちゃんやカヤちゃん、それにナミさんに味わって食べてもらいたいなあ」
―――サンジ君、これすっごく美味しいv
頬を押さえて微笑むナミの幻影が見えて、サンジは鼻の下を伸ばしたままゲヘヘと笑った。
たしぎは若干引きながら、紅茶のお代わりを煎れる。
「なんにせよ、準備が大変でしょう」
「当日はちょうど水曜日で魚市場が休みなのは痛いよな。けどその大食らいは肉肉うるさいらしいし、適当に腕を揮うさ」
などと世間話をしていたのが昨日のこと。
そして今日、いよいよウソップ達がやって来る。





「SAで昼飯食って、今出たとこだと」
ゾロが携帯をチェックしながら読み上げた。
「混んでねえようだし、後2時間ほどで着くな」
「ちょうどおやつ時だな」
今回、ウソップもナミもそれぞれ車でやって来る。
ナミ達の到着の方が早まるらしく、たしぎ達とはまだ会ったことがないから一緒に和々にお茶しに行くつもりだ。
それまでの間、サンジは夕食の準備に余念がない。
「何人になるんだ?」
「えっとー・・・カヤちゃんと鼻だろ、ナミさんに猿、たしぎちゃんとその他3名」
「えらい扱いの違いだな」
「野郎なんてそんなもんだ」
あと、俺とお前入れて10人と指を折る。
「何かの拍子に2、3人増えるかもしれねえしな。どっちにしろ猿が一匹いるだけで+5人なんだけど」
「一応コース料理出すんだろ」
「おう。愛しのナミさんから、いつもの店の雰囲気を味わいたいって要望だからな」
君のために飛び切り美味しくて美容にもいい、スペシャルディナーをご用意するよー!っと誰もいない空間に向けて雄叫びを上げた。
ナミが「特大ケーキ」は不要と言ってきたのは、こういうことかと今更気付く。
自分の誕生日ケーキを準備してくれていたのだ。
とは言え、たとえ1ホールあったとしてもルフィが存在する時点で、全員に一切れずつ行き渡るとは思えない。
ここは一つ腕によりをかけて、女性陣にのみ満遍なく行き渡るようにスペシャルデザートを用意しよう。

レストランでの作業は、サンジだけではなくゾロも随分手馴れたものとなった。
テーブルセッティングは勿論、簡単な下拵えも手伝える。
サンジの本音ではゾロを専属のスタッフにしたいくらいだが、農業という本分があるのだから冗談でも言い出せない。
けれどこうして、二人でキッチンに立っているのは至福のひと時だ。
長くこうしていられた冬という季節に、自然と感謝の念が沸いてくる。
雪は多いし寒いし凍るし、外に出るのも億劫だし事故はあるしで散々だったけれども、それでも“清冽な白”の中に包み込まれる静けさと暖かさは、なんとも言えない幸福な心地がした。
雪の女王の懐に抱かれる喜びを初めて知った、シモツキの冬だ。


「お、降ってきたぞ」
ゾロの声に顔を上げれば、大きな窓ガラスの向こうはいつの間にか白く煙ってチラホラと綿雪が舞い降りてきている。
「ああ、ほんとに降るんだなあ」
「毎年、今日のこの日は降るんだよ」
3月2日には雪が降る。
サンジが来る前からずっと、それが当たり前と思われてきた日。
今年からはずっと、毎年誕生日に雪が降るのだろうか。
そう思うと、なんだか気恥ずかしくも少し嬉しい。

「ナミさんの予報通りだけど、車大丈夫かな」
「予報してるからこそ準備は怠りねえだろ。まあ、こっちに近付くにつれて道は空くから、渋滞とかあり得ねえし」
「確かに」
道路整備だけは行き届いているから、幹線道路は道幅は広く走りやすい。
調子に乗って飛ばさないといいのだけれど。
「予想より早く着くかもしんねえな」
サンジは和々用の追加デザートも一緒に作るべく、作業を早めた。





駐車場にうっすらと雪が積もり始めた頃、一台のジープが店の前に停まった。
来たぞ、とゾロが玄関に向かう。
サンジも浮き足立って、エプロンを外すのもそこそこにカウンターの外に出た。
「ゾロ、来たぞ!」
扉を開けると同時に、まるでゴム毬みたいに弾みながら赤い塊が飛び込んできた。
がしっと受け止めるゾロの脇をすり抜けるようにして、サンジの方から外に飛び出す。
「んっナミっすわん!いらっしゃいー!」
ルフィと入れ替わるようにして飛び付こうとしたら、ナミはコートの前を合わせながら「寒い〜」と身を竦ませつつ軽くかわした。
代わりにサイドミラーに抱き付きながら、サンジはめげずによく来てくれたねと振り返る。

「ここがサンジ君のお店ね、素敵じゃない!」
久しぶりに見るナミは、一段と美人度が増したようだ。
明るいオレンジ色の髪は少し伸びて、可憐にカールしている。
スプリングコートの下に春らしいワンピースを着た姿は、まるで一足先に降り立った春の妖精のようで。
「素敵なのはナミさんの方だー!」
思わず絶叫したら、何事かと店の中からルフィが顔を出した。
「何してんだ、早く入れよサンジ」
「うるさい、お前が呼ぶな!」
すかさず言い返して、ささどうぞとナミをエスコートする。



「わあ、とても明るいのね」
今日はあいにくの雪模様だけれど、それでも天窓から入る明かりとそこここに配置した照明で、店内は柔らかな光に満ちている。
「大きな窓、景色も広くて綺麗だわ」
「山と田んぼ以外、何も見えないからね」
ここはどん詰まりの場所なんだと言えば、そうそうそうとナミはルフィと顔を見合わせるようにして笑った。
「一応ナビで来たんだけど、ほんとにこの先にお店があるの?って心配になるくらい何もなかったわ」
「でも看板はあったよな」
「そう、田んぼの脇に手作りっぽい看板が。あれがないと途中で不安になって引き返しちゃうかも」
今日は気温も低く天気も悪いから、田んぼで作業している人がいない。
これから農繁期になると、農作業中の誰か彼かが道案内してくれるだろう。
そう話すと、何それすごいと大受けした。
「まさに地域密着型ね、地元の人に愛されてるのねサンジ君」
「できたらナミさんにも愛されたいなあv」
「言ってなさい」
鼻を軽く摘まれて、尚更でれでれと相好を崩している。
女性の前ではあからさまに違う態度に、ゾロは呆れ顔だ。
「・・・久しぶりに見たな」
「俺は初めてだぞ、おもしれえなあサンジ」
男二人に遠巻きに見守られ、サンジは心行くまでナミに弄られている。
「ところでサンジ、腹減った」
「SAで昼飯食ってきたとこじゃねえのかよ」
至福の時を邪魔すんじゃねえとぐわっと吼え抱えれば、返事の代わりに盛大な腹の虫が聞こえた。
「やれやれ仕方ねえ。まずはゆっくり一休みして・・・って言いたいところだけど、お茶するのは別の場所でどうかと思ってたんだ」
「にこにこ、だったっけ?サンジ君のお菓子を扱ってる喫茶店」
「そう、結構可愛い雑貨が揃ってるから、そっちに行こう」
「俺は何か食べられるならどこでもいいぞ」
膳は急げとばかりに、店内を片付け暖房を切って外に出る。
ルフィの車に同乗させてもらって、4人で和々に向かった。

「ウソップ達は何時頃着くって?」
「夕方になるとよ。ちゃんとタイヤ履き替えて来るらしい」
「街からじゃとても考えられないくらい、まだ冬よねここ」
寒いわーとコートの前を合わせるナミに、サンジはごめんねと自分のことのように謝った。
「春はもうチョイ先みたいなんだ。東京はもう春一番吹いたんだろ?」
「でも、全国的に気温が一時下がってるわ。しばらくは安定しない気候でしょうけど、この辺りは花粉の飛散量がまだ少ないみたいね。それだけでも快適」
「さすがナミさんだ〜」
楽しげに会話するナミとサンジの横で、ゾロがルフィにナビするという危険極まりない構図ながら、なんとかジープは駅前に着いた。
「シモツキ通り商店街か。初めて来たけど、どこか懐かしい感じ」
「でしょう。こちらへどうぞ」
中で待ちかねていたらしいたしぎが、何かに蹴躓きながら駆け寄ってきた。
「いらっしゃい、あ!」
「あてっ」
外側に開いた扉で額を強打したルフィが、よろけながら後退った。
その背を支え、ゾロがおいおいと苦笑する。
「とんだ歓迎だな」
「ごめんなさい〜」
真っ赤になって謝るたしぎに、ルフィはしししと笑って手を振った。
「大丈夫よ、丈夫なの」
開けられた扉から真っ先に足を踏み入れ、ナミはくるりと軽やかに振り返った。
「初めまして、ナミです」
「たしぎです、よろしく」
「俺はルフィ!」
「こんにちはルフィさん、ごめんなさいね」
赤くなった額に唾を付けて、ルフィはナミに続いて店内に入った。

「うまほーな匂いがする・・・」
「お茶の準備はできてますよ、さあどうぞ」
「いらっしゃい」
カウンターの中から声を掛けたのは、お松ちゃんとおすゑちゃんペアだ。
「サンちゃんのお友達ね、まあ綺麗な娘さん」
「モデルさんか、女優さんかね?」
「あら嫌だ、おばさま方ったら」
ナミは愛想よく会釈して、勧められたテーブルに着く。
「でも確かに、どこかで見たような」
「ナミさんは気象予報士なんだ。東西海TVでキャスターもしてたことあるよ」
「あ、そうけえ」
「知ってます、的中率が一番高かったお天気お姉さんですよね」
「去年降板して、今は彼と一緒に世界を回って時々リポーターとかしてるの」

すでに待ちきれない感じのルフィの前に、サンジは特製のケーキをどんと置いた。
一声吼えて、すぐさま齧り付いている。
コレで当分、大人しいだろう。
「すごいねえ、芸能人さんだねえ」
「そりゃあ別嬪さんな筈だあねえ。たしぎちゃん、ついっちょんは?」
「しー」
たしぎは意味ありげに目配せをして、淹れたてのコーヒーを運んだ。
「サンジさんは紅茶がいいですか?」
「いや、俺も一緒にコーヒーをいただくよ。ナミさんは?」
「とても美味しそう、コーヒーをいただくわ」
ところで、ついっちょんってなに?
耳聡くそう聞けば、たしぎはええまあと曖昧に笑って誤魔化した。
そうしながら、カウンターの下ですばやくツイッターに送信する。
『美人お天気お姉さん、なう』
そんなこととは露知らず、ナミはサンジがサーブしてくれたデザート盛り合わせに感嘆の声を上げていた。
「素敵、美味しそう」
「お代わりあるからね、たんと召し上がれ。たしぎちゃんと、お松ちゃん達も、コーヒーブレイクにしよう」
都会と違い共働き率が高い田舎では、平日の昼下がりは閑散としたものだ。
まもなく混み合って来るだろうことを想定して、たしぎはいそいそとテーブルに着いた。
「ゆっくりしてってくださいね」
「ええ、雑貨とか見せていただきたいわ。とってもセンスがいいってサンジ君から聞いてるの」
「そんな」
「選んでるのは旦那だけどな」
そうなのすごいーと華やいだ声を上げ、ナミはあ、と動きを止めた。
「そうだ、サンジ君のバースディケーキ」
「あれ、やっぱり俺の誕生日ケーキだったの?」
ケーキを頬張ってニコニコ顔のたしぎが、ふふふと思い出し笑いをする。
「サンジさん、自分の誕生日のことぜんぜん覚えてなかったんですよ。昨日よね、気が付いたの」
「え、そうなの」
「はは、まあ」
「まあ、自分の誕生日を楽しみにウキウキしてる三十路前ってのも引くけど」
「えー私は楽しみにしますよ」
「女の子はいいのよ」
などと会話を交わしながら、なんだったっけと思い返す。
「ええと話を戻して、特大ケーキは後でウソップ達が運んでくるわ」
「そうなんだ、ありがとう」
わざわざ手配してくれたんだねと感謝すると、ナミは意味ありげに微笑んだ。
早速お代わりを要求しているルフィの後ろで、ドヤドヤと人が入ってくるのが見える。

「あらいらっしゃい」
「どうもー」
お松さん達が出迎えたのは、商工会のおっさんだ。
その後ろには農協のおっさんも見える。
「いやあちょっと、打ち合わせここでしようかと思って」
「どうぞどうぞ」
たしぎが営業用スマイルで立ち上がった。
その間にも、次から次へと客が押し寄せてきた。
あっという間に小さな喫茶店は満員状態だ。

「凄いわね、平日にこれだけ一杯になるなんて」
驚いて目を丸くするナミに、サンジはほんとだねえと珍しげに頷いた。
「たまーにこういう現象が起こるんだよなあ。しかし、今日はおっさん率高いよなあ」
徳さんや長さん、見知った農家のおっさん達もしゃちほこばった顔で紅茶なんかを飲んでいる。
皆チラチラとこちらを見ているのが、隠しているつもりだろうにバレバレで微笑ましい。
「和々に美人がいるって、バレたのかな」
「まさか」
「でも、そんな感じのタイミングじゃないか」
「サンジーお代わりー!」

一気に賑やかになった店内で、たしぎ一人がホクホク顔だ。
そんな中、ゾロの携帯が懐で震えた。
「ウソップだ」
受信メールを開けて、中を確認する。
「今インター降りたと。なら小一時間くらいだな」
「雪は、本降りにはならなさそうですね」
外の景色を眺め、たしぎは安堵の息を吐く。

「なに、ウソップってえとあの別嬪さんも来るのかい?」
聞きつけた常連オヤジが、直接聞くのは遠慮したのかすゑさんに小声で尋ねた。
「そうなの、なんだか今日はお客さんがいっぱい来て賑やかやあね」
「そりゃあいい」
「あのカヤちゃんかい?」
「めでてえな、別嬪尽くしだ」
より一層活気付くおっさん連中を尻目に、デザートを食べ終えたナミがご馳走様でしたと手を合わせた。
「すっごく美味しかったわサンジ君。このお店の雰囲気もとても素敵」
「ありがとうナミさん、俺あシアワセだー!」
「よかったらゆっくり見てってください」
たしぎに促され、ナミも立ち上がって雑貨コーナーに歩いていく。
そのすらりとした立ち姿を、おっさん連中は惚けたような目で追いかけた。

「あんれまあ、すっかり骨抜きねえ」
「男ってこれだから」
嘆息するお松ちゃんとすゑちゃんの前で、ルフィはケーキのみならず特性のピザやサンドイッチまで平らげご満悦だ。
「ウソップはまっすぐ店に向かうっつってたぞ」
「そうなんだ、和々にいるって伝えたらこっち来るんじゃねえのか」
「ふんは、へえひはふはらひへひふんは」
ルフィが何語か不明な言語を発すると、ナミがすかさず通訳する。
「特大ケーキを乗せてきてくれてるから、お店に直行してねって言ってあるの」
「それなら、俺たちもそろそろ店に戻った方がいいな」
「そうだな」
言って立ち上がるゾロとサンジに、たしぎはええーと不満そうな声を上げた。
「もうちょっとゆっくりしてってくださいよ。ナミさんだけでも」
そうだそうだと、ギャラリー達が小声で賛同する。
「また明日ゆっくり遊びに来させて貰います。たしぎさんは今日のパーティ、いらっしゃるんでしょ?」
「ええお邪魔する予定です」
パーティ?と聞きつけて、おっさんの一人が身を乗り出した。
「今日はサンちゃんのお友達寄って、パーティするんか」
「そうですよ、残念ながら身内だけのお楽しみです」
たしぎがビシッと釘を刺した。
「カヤさんやナミさんにお会いしたかったら、明日もまたぜひ和々へ」
「商売上手じゃのう」
「たしぎちゃんには敵わんのう」
ワハハと盛大に笑うおっさん達の中で、ルフィもようやく食べ終えて立ち上がった。
「ああ美味かった。おばちゃん、ご馳走さん!」
「よく食べたねえ」
「そんなに食べて、今夜のパーテー大丈夫なあ?」
心配するすゑちゃんに、しししと笑う。
「腹八分目にしといたんだ」
「へえ」
仰天するお松ちゃんに金を支払い、4人揃って和々を後にする。
「じゃあたしぎちゃん、また後で」
「7時ですね。お邪魔します」
「またね」
「また」


表に出ると、雪は止んだようだ。
雪の日独特の水っぽい匂いがして、温かい店内で火照っていた頬がひんやりと冷える。
「早めに戻って暖房付けといてあげよう」
「ケーキだけ下ろしたら、一緒にホテルにチェックインに行くわ」
再びジープに乗り込んで、片道5分の農道をゆっくりと走る。
「特大ケーキって聞いたから、一応冷蔵庫の中にスペース空けておいたけど、そんなに特注なのかい?」
「そうよ、奮発しちゃったの」
ナミが大げさに頷く。
「なんだか悪いなあ」
「何言ってんの、みんながサンジ君のために注文したのよ。折半してるから一人頭はたいした額じゃないわ」
「お前なんでそう、あからさまなんだ」
呆れて突っ込むゾロに、サンジは小声で「お前、知ってた?」と聞いた。
ゾロは一瞬動きを止めて、目線だけくるりと上げる。
しれっと嘘を吐けないゾロは、言い難いことがあるとこうして誤魔化すからもうバレバレだ。
「なんだ、お前も一枚噛んでるのかよ」
「お前の誕生日なんだから、俺が噛まないでどうする」
なんだよ畜生、俺だけのけ者かよ〜と文句を言いつつ、サンジは横を向いた。
怒っている素振りをしつつ、頬は紅潮して口元が緩んでいる。
喜んでいるのがモロバレだ。




店に入って、まだ温かさが残る店内の照明と暖房と点けた頃、表にもう一台車が止まった。
「あら、来たわよ」
「予定より早かったな」
「混んでなかったんでしょ。夕方なのにね」
サンジがいそいそとお出迎えのために玄関を開けた。
「いらっしゃ〜い、カヤちゃん!」
勿論目的はカヤのみだ。
運転席から降りたウソップがずっこけながら挨拶し、助手席に回ってカヤを降ろす。
それから後部座席を開け、カヤも反対側に回ってドアを開けた。

「久しぶり!」
「いらっしゃい」
「おう久しぶりだな、みんな」
「元気そうだな」
「ケーキ降ろすの手伝えよ」
わいわいと盛り上がる仲間達の中で、サンジはカヤに注視してあれ?と声を上げた。
「もう一人、いるのか」
助手席の後ろに人影がある。
扉を開けたカヤに助け起こされるようにして、もう一人が車から降りた。


「元気そうじゃねえか」
「じ・・・」
唖然としたサンジの前に、杖を着きながらゆっくりと歩いてくる。
「ここが、てめえの店か」
「ジジイ!」

してやったりと、仲間達の歓声が夕暮の空に響いた。



next