Under the rose -2-


はっはと獣じみた息が漏れて、サンジは堪らず両手で口元を押さえた。
「だめだよサンちゃん、声を殺しちゃ」
Aのからかうような声音が、耳を嬲る。
胸の前で合わされた両肘を、Zは邪魔そうに掴んで両端に押し広げた。
そうしておいて上体を屈め、肌蹴た胸元に滑る舌を擦り付ける。
「う、ひゃっ・・・」
たっぷりと唾液を含んだ舌で乳首を転がされ、反射的に上に圧し掛かる男を蹴り上げそうになるのを必死で堪えた。
もう片方の乳首を指で摘まれあやすように捏ねられて、サンジは肩をシーツに擦り付けるようにして首を振る。
いっそ押し退けてしまいたいのにそれはできない。
抵抗する訳にはいかない両手の行き場を無くして、万歳をするように力なく顔の横に投げ出した。
けれど胸元を行き来するZの気配だけで身を擽られそうで、じっとしてなんかいられない。
「サンちゃん、辛そうだねえ」
Aが上から覗き込んだ。
愛嬌のある雀斑面は屈託なく笑んでいて、今のサンジの窮地とは対照的な暢気さだ。

「いっそ手足を縛って身動きできなくしてた方が、楽でしょ。嫌なのに手足を自分で貼り付けてなきゃいけないって、
 辛いよな」
わかってるならそうしてくれと言いそうになるが、それはそれで泥沼化しそうだから、唇を噛み締めてぐっと堪える。
涙目で睨み付ければ、Aはおお怖いと肩を竦めて見せた。
「目を閉じて快感だけ追ってみな。俺らのこと気にして気散らせてると、余計辛くなるよ。ほら、乳首もこんなに色付いて可愛く立ってるし」
そんなこと言いながら、前方からもう一台の小型カメラが寄ってきた。
助手らしき男も撮影に参加するらしい。
2台のカメラでサンジの表情と局部のアップを撮るようで、それに気付いてサンジの羞恥は更に強まった。

「う、くそっ」
両手をシーツに貼り付けて胸を逸らせる。
迫る2台のカメラなど気にすることなく、Zは器用な手つきでサンジの両乳首を弄くり続けた。
きつく摘まれ捻られ舌で甘咬みされて、サンジは首を打ち振って横顔をシーツに埋めるしかできない。
「気持ちいいなら声出さなきゃ。演技しなくていいとは言ったけど、我慢しろとは言ってないよ」
意地悪なAのからかいを、ぎゅっと目を瞑って聞き流す。
そうするとZの指の動きが余計リアルに感じられて、すべての知覚が両乳首に集中したかのように敏感さが増した。
ぐり、と指の腹で押されて自然に身体が逃げを打つ。
「小ちゃいのに、一丁前に硬く尖って可愛いねえ。綺麗なピンクで、やらしく濡れてるよ」
Aの声に合わせて、Zの指がカメラに見せ付けるようにサンジの乳首を摘んで引っ張った。
実際に触れているのはZ一人なのに、Aと二人がかりで嬲られているような錯覚を覚えて、余計に気が昂ぶる。

「・・・も、や―――」
「そうだね、こっちも限界かも」
Aの言葉とともに、小型カメラの方がサンジの下半身へと動いた。
ベルトを外された前の部分が、痛いくらいに張り詰めて盛り上がっている。
Zは身体を起こすと手を伸ばし、引っ掛けることなくすんなりとジッパーを下ろした。
「あ・・・」
下着を濡らして、股間が盛り上がっている。
そのあからさまな欲情の形に、サンジは仰向いたまま信じられない思いで眼を見開いた。
その表情さえ余すことなく、もう一台のカメラが納めている。

「すっごい感じちゃってんだねぇ。触れてないのにこんなになって」
Aの呆れたような声が、サンジの更なる羞恥を呼び起こした。
こんなつもりじゃなかった。
こんな、男に弄くられて欲情するような癖はなかったはずなのに。
「Zに乳首弄られて、イっちゃうとこだったでしょ」
下着の上から、Zの手がやんわりと膨らみを撫でた。
「あ、やめ・・・」
それだけで暴発しそうで、サンジは中途半端に身を起こし身体を硬くする。
「いいから、一遍イっちゃいな。こんだけ感度高いと、これから何回イかされるかわかんないよ」
Aの言葉とは裏腹に、Zの手が一旦そこから離れた。
サンジの後ろに回り、両手をズボンに掛ける。
そのまま脱がせるのかと、サンジは力が抜けた両腕を突っ張って軽く腰を上げた。
下着ごとずり下げるのに協力して、足先から衣服を取り去られるのを見ている。
なんとなく、ほっとした。
中途半端に衣服を身に着けて嬲られるのは物凄く嫌らしい気がしたから、いっそすっぽんぽんの方が潔い。

「ありゃ、イかせずそっちに行くの。相変わらず容赦ないね」
Aの言葉の意味を理解する前に、Zの手が後ろから伸びてきた。
両足の太股の裏を持たれ、両サイドに広げられる。
踵をシーツに押し付けられたから、このままの形でいろとの命令なのだろう。
饒舌なAと違って、Zはまったく喋らない。
口が利けないのかとも思ったが、Aの指示は伝わっているし動きに迷いも妙なジェスチャーもないから単に無口なだけなのだろう。
野太い声でA並みにベラベラと言葉攻めされても困るから、黙ってて貰った方がありがたい。

Zは黙ったままサンジの手に手を添えて、両手を太股の裏に宛がった。
自分で持っていろと、そういうことか。
―――くそう
下半身裸でカメラに向かって大股開きで、自分で両足を押さえているのは実に屈辱的な体勢だが、金のためなら仕方がない。
なるようになれと自棄になって、サンジは足を広げたまま胸を逸らし正面に居座るカメラを睨み付けた。
「いいねえ」
Aは逆上がりで来た子どもを褒めるみたいな口調で、云々と微笑みながら頷いた。
「可愛いピンクのモノがピョコンと勃ってるね。Zの手の無骨さと相俟って、すげえ可憐だなあ」
つられて、見るつもりがなかったのに視線が下がった。
大股開きの自分の股間、申し訳程度に勃ち上がったそれに、背後から回されたZの浅黒い手が触れようとしている。
「・・・く」
自分で見ても卑猥な光景に、目の縁がさっと熱くなった。
見なきゃいいとわかっているのに、次に何をされるのかわからなくて怖くて目を閉じることができない。
てっきり竿を扱かれるのかと思ったら、Zの手はそのまま下の方へと降りてしまった。
サンジからは見えない場所を、硬い指がそっと筋をつけるように撫でる。
「う」
ぎゅっと口を閉じて、息を堪えた。
一応男同士だからそっちを使うのは知識としては知っていたが、実際に誰かに触れられるのは初めてだ。
本当にこんな場所を使うのかと、まだ頭のどこかで信じられない。
乾いたZの指が、熱くなった箇所をゆっくりと撫で擦る。
袋を引き上げられて、さらに奥まった場所へと手が下りていく。
いつの間にかもう片方の手にオイルの瓶を持っていて、サンジの背後から抱き締めるように身体を屈め、両手を目の前で交差させた。

――――あ
Zの身体が背中から腰へと密着する。
肩越しに顔を覗かせるようにしてすぐ真横にZの顔があるのに、その息遣いさえ聞こえない。
Zはまったく興奮していない。
欲情の色も見せないでただ事務的にサンジの背中を抱き、両手にオイルを馴染ませている。
そのことに、サンジは軽いショックを受けていた。

もっとこう、なんていうか。
犯す方もちゃんと興奮して、ハアハアぎらぎらしたりして鼻息荒く行動してくれないと、気分が乗らないんじゃねえのか。
それともやっぱり、こういう仕事はつまらないんだろうか。
仕事だからやってるだけで、男の身体なんて犯したくないだろうし、本物のホモかゲイでなきゃ趣味と実益を活かせないとか―――

「ひゃっ」
関係ないことをぐるぐる考えていたら、Zの指がいきなりサンジの奥まった部分に触れた。
「こら、よそ事考えてただろ」
まるでZの代わりのように、Aが軽く咎める口調で話しかける。
「この状況で大物だね、でもじきにそんな余裕はなくなるからさ」
Aの言葉に呼応するかのように、Zの指の動きが巧みにサンジの肌を探る。
「ちょ、ま・・・」
片手で軽く袋を揉みながら、その下の窪みを円を描くようにゆっくりと撫で回す。
「ああ、ちょっと色付いたね。うっすいピンクだ」
小型カメラが、サンジの足元から少しずつ近付いてきた。
局部を大写しされているのかと思うと、それだけで足が閉じそうになる。
「あ、今恥ずかしいとか思ったっしょ、可愛い小さな穴がきゅっと締まったよ」
―――うるせえてめえぶっころす
喉元まで出掛かった罵倒をぐっと堪える。
仕事仕事仕事
金かねカネ・・・

「やーらしいなあ、Zの指がすっげえごつく見える。こんな小さなお口に、指の一本も入るんかな」
それを証明するかのように、ぐにっと一点に圧迫感があった。
「あ、先っぽ入った。どう?痛くない」
「う・・・」
これはなにか、応えた方がいいのか。
もう一台のカメラが、サンジに近付いて顔のアップを捉えている。
「ねえ、サンちゃんの可愛いあそこにZの指が入りそうだよ、どう?」
「き、気持ち悪い」
なんと言っていいかわからず、ただ正直に答えた。
思ったほど痛みはない。
「まだ指の先だけだからね。でも大丈夫。オイルでぐちょぐちょに濡らしちゃうし、Zの指気持ちいいし」
「う・・・」
柔らかな内股の皮膚を軽く引っ張られ撫でられて、Zの手が微妙な力加減で周囲の筋肉を揉み解して
いるのが分かった。
しかも、カメラによく映るように決して手の動きを邪魔な位置に持って来たりしない。
確かにプロだと、妙なところで感心する。
「ほら、指がぐにぐに入っていくよ」
実際に弄くっているZより、目の前のAの頭を蹴りたくなった。
「痛くない?」
「痛くなんか、ねえ」
ずっずっと指が減り込む感触はあるがさほど痛みは感じない。
Zの両手が太股の下から差し込まれてマッサージするよう蠢いているが、サンジの顔の位置からは何をされているかまでは見えなかった。
それより、目の前でぷらぷら揺れている半勃起状態のモノが間抜けすぎて正視できない。

ぐにっと広げられ、さらに奥へと差し込まれた。
さすがにびくっと身体が震え、背が撓る。
「あーあ、ちっちゃいお口が広げられちゃうよ」
Aうぜえ!
本気で蹴り飛ばしたくなって、それを堪えるために踵をシーツに擦り付ける。
「ほら、中の方がチラッと見えた。綺麗な色だね」
サンジは無意識に太股の裏に爪を立てた。
このままの状態でじっと恥部を晒し続けるのは、あまりにきつい。
「サンちゃん、ちょっと腰浮かしてみて」
それなのにAは追い討ちをかけるような残酷な注文をつけた。
仕事だから金になるからと、敢えて素直に指示に従う。
Zに凭れるようにして上半身を倒し、腰を浮かした。
太股の裏に手を掛けていてはバランスが取れないから、自然と両手を足首の方にずらす。
「そうそう、上手いね。コツ掴むのが早いなあ」
褒められても嬉しくない。
そうしている間にも、Zの動きが徐々に激しさを増してきた。
指を食い込ませ、腹でぐるりと内壁を抉る。
入り口(出口か?)辺りを擦る様に撫でては押し広げ、更に動きを加速して奥へ奥へと突き入れてくる。
「ほら、指が増えたよ。大丈夫?」
「く・・・ん・・・」
痛くはない、痛くはないが大丈夫でもない。
普段弄るべきでない場所を無理やり広げられ、酷い圧迫感と異物感で気持ちが悪い。
内腑を抉られるような嫌悪感で鳥肌が立つ。
サンジが顔を顰め喉を逸らせると、背後にいるZの肩に頭を預ける形となった。
目の端に、緑の短髪が揺れている。

「ふあっ」
つい声が出て、慌てて口元を抑えた。
Zの指が、躊躇いなくサンジの奥の部分に触れる。
「ちょっ、ま―――」
自然と太股が閉じられたのに、Zの手は狭まった場所で動きを止めなかった。
「やだ、そこや・・・」
裏返った声が、甘えた響きを伴って聞こえて自分でも愕然となった。
正面に陣取ったAがベッドに手を置き覗き込んで来る。
「こら、サンちゃん足閉じちゃだめだよ」
「う、くそっ」
そう言われても動けるものでもない。
なんせZの指がなんだかとんでもない部分を刺激してくるのだ。
腹の底がビンビンと痺れて、どうしても腰が逃げを打つ。
やばい。
なんだか知らないが、ものすごくやばい。
やばいのに、後退っても背後にはがっちりZが陣取っていて、まるでその懐に擦り寄っているようだ。
「や、だって」
あまりに刺激が強すぎて、サンジはその場で丸まってぎゅうとZの指を締め付けた。
これ以上突かれたら、何か出てしまう。
本能で身体が逃げようとするのに、背後のZはびくともしないでサンジの身体ごと抱きこんだ。
「こーら」
Aが両手を伸ばし、サンジの膝に触れた。
ぐいと力任せに左右に押し広げる。
そのタイミングをついて、広げられた内部にZの指が深々と食い込んだ。

「ふ、あっ―――」
ビクビクと身体が揺れ、自分でも驚くほど激しい震えが来た。
脳髄を電気のように駆け上る刺激が快感だと、気が付かなかった。
ただ頭の中が白く弾けて、次いでさざ波のように快楽が押し寄せサンジの中を満たす。
「あ・・・」
呆然と目を見開き、口も半開きにして呆けたような表情でサンジは視線を下げた。
大きく足を開いたまま、晒された腹には己のものが飛び散っている。
射精したばかりで力なく揺れるそれの下で、Zの指が宥めるように尻肉を撫でていた。
その手の暖かさに、現実へと引き戻された。
「―――く」
下を向いて顔を真っ赤に染め、サンジは唇を噛んだ。
その表情さえ余すことなく、カメラが撮り続けている。
「すっごいね、いっぱい出たね」
Aは褒めるようにサンジの膝頭を軽く叩くと、身体を起こしてベッドから離れた。
「どう?お尻弄くられるの、気持ちよかった?」
サンジは応えられない。
だらしなく足を開いたまま、身体を硬直させている。
尻を揉んでいたZの手が、濡れた金糸に指を絡めてきた。
その仕種のあまりの優しさに、サンジはようやく身体を起こすことができた。
まるで犬でも撫でるみたいに、Zの指が陰毛を擽る。
気恥ずかしくて情けなくて、おずおずと両足を閉じれば背後から腕を回しぎゅっと抱き締めてくれた。
大きな温かさに包まれて、ひどく安心できる。

「指でイっちゃったの初めてだから、刺激が強すぎたみたいだね」
Aは云々としたり顔で頷いて、邪気のない笑顔を向ける。
「でも初めてでこんな風にイっちゃうなんて、やっぱりサンちゃん素質があるよ。次は、Zのそれでじっくりイかせて貰うといいよ」
サンジは呆けていた表情を一転させて、ぎょっと振り向いた。
Zの、何って?
相変わらずの無表情でサンジの背後に座るZは、服を着たまま前だけ寛げて胡坐を掻いている。
その股間にありえないサイズのものを見つけ、サンジは本気でそのまま卒倒するかと思った。




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