Under the rose -12-




「なに、やってんだ?」
開口一番そう言うZに、Aがすかさず突っ込む。
「大人の玩具でオナニーじゃん。見りゃわかるっしょ」
それにじろりと、横目で流すよう睨みつけた。
「見てわからんから言ってるんだ、これがオナってる面か」
ずかずかと歩み寄ってきたZは、ベッドの傍らから腕を伸ばしてサンジの顎を引き上げた。
拍子に目尻からぽろりと涙が零れて、サンジは慌てて手を振り払い頬を拭う。
冷え切った指先に、急に火照った頬が熱い。
「なんでベソかいてんだ」
「ベソなんてかいてねえ!」
足を閉じて跳ねるように座り直せば、先っぽしか入ってなかった道具がぽろりと零れ落ちる。
Aがあーあとわざとらしいため息をついた。
「Zが悪いんだよー遅れるから」
「信号が一つ減ってた」
「「「「「減るか!」」」」」
つい、サンジまで加わって総突っ込みしてしまった。
一拍置いて、急に可笑しさがこみ上げる。

「はは、よかった」
Aは朗らかに笑い、ベッドの端まで歩み寄った。
「現金だなサンちゃん、全然表情が違うじゃね?」
「なんで?」
慌てて顔を擦るのに、Pがダメよと指を振る。
「さっきまで顔面蒼白で、死にそうじゃったからな」
「あのまま全部突っ込む気かと、心配してたんだよ」
無口なBやLまでしたり顔で頷くから、余計気恥ずかしくて正座したまま前のピラピラを揉みしだいた。
そうして改めて、自分が恐ろしい格好をしていることに気付く。
しかもさっきまでやる気なく垂れていたはずの息子が、なぜかフリルの間から控え目に顔?を覗かせていた。
「いや・・・これは」
「よーし、Zも来たことだし撮影を再開させっか」
Aが景気よく手を打ち鳴らし、すぐさま仕事モードに入った。
無駄な言い訳をしそうになっていたサンジも気を引き締め、けれどどうしていいかわからずやっぱりZの真正面に畏まるように正座したままだ。
Zはそんなサンジに片方の眉だけ上げて見せて、物も言わず揃えた膝頭を持ち上げてひっくり返した。






「あ・・・あっ、やだっ」
現場がしっとりと淫靡な雰囲気に変わるのに、そう時間はかからなかった。
Zは慣れた手つきでサンジの身体を開き、さきほどまでと同じ場所かとサンジ自身が疑いたくなるほどにすんなりと道具を入れて、たやすく快楽へと導いてくれる。
最初はモノを入れられる恐怖と嫌悪感が先行していたはずのサンジも、いつの間にか素直に啼かされただ貫かれるだけとは違う快感に身を委ねていた。
「どうおサンちゃん、伝電ピンク2号は」
「う、あ・・・あの・・・」
「うん?」
「なんか、奥で・・・奥、が、や―――」
「なに?ヤなの?それは抜いて欲しいってこと?」
「違っ・・・いや、そうじゃなくて、って・・・ぬ、はう・・・」
自由な両手の持って行き場所が分からず、サンジは背後で両手だけ出して器具を操るZの腕にしがみついた。
もちろん脚は大開脚。
器具の挿入がよく見えるよう、照明まで照らされてぬちゃぬちゃと響く水音もしっかりマイクで拾われている。

「つまり、気持ちいいんだ」
「う・・・く、ん」
「はっきり言わないと、Zがお仕置きしちゃうぞ」
Aの言葉に呼応するかのように、Zの手がゆっくりと角度を変えながら抜き差しを始める。
「あう、やっ・・・やだそれっ」
「イヤなんだ?」
「いや、違うっ・・・っていうか、ああ・・・ちくしょう」
「なに?」
「い、いい・・・気持ち、い―――」
それだけの台詞を搾り出すのにやっとで、顔は噴火しそうなほどに熱く赤い。
一応仕事だから、どれを使われても「いい〜」とか言わなくちゃと思っていたのに、実際に使ってみたらそれぞれ違う刺激をもたらしてくれるから、却って素直に感想が述べられなかった。
気持ちいいものほど、特に。

「どんな風にいいの?」
Aの質問は容赦がない。
サンジは息も絶え絶えに言葉を繋いだ。
「あ、奥に・・・奥で、奥が・・・ぐ、ぐにって・・・」
「つまり、奥に行けばいくほど、いいんだ」
こくこくと声もなく頷く。
「じゃあもっと、こんな風に?」
Zの手が、強引なほど強く奥へと押し込んだ。
「ひあっ・・・あ、あ」
「いいんだー?」
快楽に歪む表情を追って、小型カメラが横に回りこんだ。
全てを捉えられ曝け出されて、サンジは目を開けることすらできない。

「んじゃこれは」
勃ち上がり硬くなった乳首に、小さなクリップが留められる。
痛いのに、それがなぜか気持ちよいと感じてしまった。
「あ、や・・・なに?」
奥の刺激も止まないうちに、両乳首に硬いプラスチックの感触を受けてサンジは慌てて俯いた。
蝶の形のクリアブルーなクリップが、小さな尖りをがっちりと挟み込んでいる。
「んでねえ、こうすると」
ビクンとサンジの身体が大げさに跳ねた。
反った首がZのがっちりとした肩に凭れて、がくがくと震える。
「んひ、ひいいい」
「これねえ、電流が流れるんだ」

まるで面白い玩具でも見つけたように、Aが自在に機械を操る。
その度サンジは白い魚のように身体を跳ねさせて、Zの膝の上でのた打ち回った。
「あ、や・・・やあ――ー」
「んじゃ次は、これいってみようか」
クリップを嵌めたまま、電流だけ切られてぜいぜいと荒い息をつく。
その間にも広げられた足の間に、新たなモノを嵌め込まれて声もなく呻いた。
「それは、どんな感じ?」
Aの問いかけに、終わりは見えない。




「は、はあ・・・はっ―――」
自分が放ったものでぐちゃぐちゃに濡れた下腹を晒しだしたまま、サンジはZの上でぐったりと横たわっていた。
やっと、すべての道具の試用が終わった。
とりあえず全部、感想を言った。
言った気がする。
つか、多分全部でイった気がする。

「大丈夫?」
Aが今更心配そうな顔付きで覗き込んでくる。
大丈夫じゃないからなんとも応えられず、サンジは恨めしげな表情で見上げるに留まった。
早く、乳首のクリップを外して欲しい。
「もう・・・終わり?」
終わりだよね、終わりましたよね?
「試用は終わりだけどね、それじゃサンちゃんだってつまんないっしょ」
「はいー?」
なんにもつまんなくない、ものすごい充実した一日でしたが何か?

「だって道具だけでイかされちゃって、不満って顔してるよ」
サンジは思わず自分の顔を抑え、「してねーよ」と叫んだ。
声は情けないほどに掠れていたけれど。
「そうかなあ、まあサンちゃんはいいとして、Zがね」
意味ありげな呟きに、つい背後にいるZを振り返る。
思いの他近い場所に顔があって、どきりとした。
ただ、その表情はいつもと変わらぬ取り澄ましたものだ。
膝の上からさっさとどけと、言わんばかりの素っ気無さだが。

サンジはもじもじと腰を揺らして、その硬さを確認した。
そう言えば自分はイきっ放しだったけど、今回Zは挿入していない。
尻の下にえらく張り詰めたものが控えめに主張しているようで、急にドキドキしてきた。
なんとなく、このまま終わっては悪い気がする。

サンジはそっとZの上から降りて、身体を屈めたまま手でその部分を弄ってみた。
やっぱり熱くて硬い。
澄ました顔して実は欲情していたのかと思うと、急に胸が熱くなった。

サンジは火照った頬を隠すように顔を俯けると、ためらいつつ盛り上がった部分を寛げた。
勢いよく飛び出してくるそれに苦笑して、そっと唇を寄せる。
大きく口を開けて頬張れば先走りの汁の苦味を舌に感じて、嫌悪より先に興奮が湧いて出た。
―――Zが、感じてる
サンジの痴態を見て、サンジの身体を弄んで、Zが欲情している。
その事実がリアルに胸に迫って、泣きたくなるほど嬉しくなった。
―――いや、嬉しいってなんだよ
セルフ突っ込みするも、口の中でグングン大きくなる塊があまりに確かなもので、サンジは夢中で奉仕を続けた。

どうすれば気持ちいいのか、もっとより大きな快楽を感じてくれるのか。
疲れ果て思考が麻痺した頭で必死に考えて、舌を絡め、きつめに吸っては唾を啜った。
その行為を褒めるように、Zの手がサンジの頭を撫で、荒々しく髪を掻き混ぜる。
もう片方の手が腰を持ち上げ、背中から尻たぶを揉んでその奥へと指を滑らせた。
散々弄ばれたそこは、にちゃにちゃと滑りながら容易くZの指を受け入れる。
数本の指で内部を擦られ、サンジは口いっぱいに頬張ったまま腰を揺らめかし逃げるようにいやいやをした。

「ん、ふ―――」
後頭部をがっちり掴まれ、さらに腰を引き寄せられる。
「ふあ・・・無理っ・・・」
口を開けた拍子に勢いよく飛び出た肉棒で頬を打たれ、サンジは恍惚に目を細めた。
ずくずくと蕩けるような下半身から指が引き抜かれると、名残惜しげに声が上がる。
そんなサンジの頭を宥めるように撫で、Zは傍らに置いてあった一番太いバイブを手に取ると、先ほどまで指が入っていた箇所に一気に突っ込む。
「んあっ」
悲鳴を上げ背けられた顎を掴み、硬い肉棒に押し付けた。
「舐めろ」
「う・・・」
必死で舌を突き出し、そそり立つモノを舐めた。
その間にもバイブで腹の底をゴリゴリと擦られ、鳥肌が立つような興奮が襲い来る。

「んく、ん・・・」
子猫がミルクを飲むように、拙い仕種で必死に舌を這わせる。
膝に力が入らず横倒しになった腰から、また唐突にバイブが引き抜かれた。
「う、あっ」
思わずZの太ももに捕まったサンジの両腕を取って、高く引き上げる。
自分の膝に跨らせるようにして、一気に下から突き入れた。
「ああっ」
仰け反る身体を両腕で支えて、そのままずんずんと下から突き上げる。
腕を掴み自らも腰を振るように促せば、サンジは仰向いて何か叫びながら膝立ちで身体を揺らし始めた。

「あ、やっ・・・はあ・あああ」
Zは巧みに角度を変えながら、浅く深く挿迭を繰り返した。
がくがくと揺さぶられ、声にならぬ叫びを上げながら、サンジも必死で腰を振り続ける。
「あ、あ・・・深、深え・・・よおお」
中を抉られ擦られる痛みが、えも言われぬ快楽を呼び覚ました。
内臓が揺さぶられてぐちゃぐちゃになりそうなほどなのに、突き上げられる衝動を逃すまいと勝手に内部が収縮するのが自分でもわかる。
もっと、もっと中まで奥深くまで、Zを感じていたい。
心よりも貪欲な身体が、勝手に悦び泣き叫びそうだ。
「奥っ、もっとおくう―――ひっ!」
突然、Zの腹の上で痩躯が跳ねた。
「ん、ひいいっ」
背を弓形に逸らし、硬直したまま背後へと倒れこむ。
だが両腕をがっちりと掴んだZがそれを許さず、身体を抱えたまま尚も深く抉った。

「ひ、あああああっ、ああ―――」
Aがスイッチを入れたのか、容赦ない電流が両乳首を走る。
ピンと勃ち上がった乳首で青い蝶が震え、サンジは悲鳴を上げながら仰け反った。
脳天まで突き抜けるような、痛みに似た快感が全身を貫く。
それに反してZを納めた下半身は甘く熱く、内部から蕩けそうだ。

「きひ、ひいいい・いい―――」
Zが下から激しく腰を打ち付ける。
じゅわりとすべてが溶ける気がして、サンジはそのまま意識を手放した。











気を失っていた時間は、さほどではなかったのかもしれない。
ぱちりと覚醒して、すぐにサンジは起き上がった。
室内の様子に、変わったところはない。
なにより、ベッドの端にZがまだ座っていてほっとした。

「おや、もう気が付いちゃったあ?」
Aが暢気に振り返って、スポーツドリンク片手に近付いてくる。
「はい、まずは水分補給」
「・・・ん」
差し出されたペットボトルをほぼ条件反射で受け取って、のろのろと口をつけた。
乾いた喉に水分が沁み込んで、まさに生き返るような心地よさだ。
天井を振り仰ぎ、首を巡らしてから改めてひと息つく。

「俺、気絶してた?」
「まあね、ほんのちょっとの時間だけど」
汗ばんだ髪を掻き上げ俯くと、胸のクリップが外してあるのに気付いた。
少し腫れて色を濃くした乳首はまだ勃ったままで、いきなり恥ずかしさが湧いて出る。
しかも、座り直す度にぬちゃりと水音が立つほど股間が濡れていて、はしたなさ倍増だ。

赤面して身を捩り、はたと気付いた。
よく見れば周りにまたバラの花が散らされている。
これはもしかして―――
「俺が気絶してる間に、なんか・・・した?」
「ああ、まあ・・・写真を数枚、ね。大丈夫、撮っただけだから」
一体なにが大丈夫なのか。
不審そうに眉を顰めうろたえるサンジからペットボトルを取り上げると、Aはさてと仕切り直すように声を出した。
「もっとゆっくり休みたいのは山々だろうけど、あともう1ショット写真だけ撮っちゃおう。それで終了だから、もうひと頑張りできるかな?」
そんな仕事モードで「できるかな?」なんて問われたら、意地でもウンと言うに決まってるじゃないか。
サンジが生真面目な顔で頷くと、後ろに控えていたPがいそいそと近付いてきた。
なんかまた、両手に小道具を持っている。

ベッドに散らされたオレンジ色の薔薇を手早く片付けると、今度は可憐なピンク色の薔薇を散らした。
「じゃあ、ちょっと顔直そうね」
汗と涎で汚れた顔を濡れタオルで拭いて、軽くパフで押さえ肌色を整える。
丁寧に髪を梳くと、何かを頭に嵌めてくれた。
「なに、これ」
「黒猫ちゃんの耳よ」
「・・・はいー?」
なんだ今度は、コスプレなのか?
壁の姿見に顔を映して、うえっと思わず声を上げた。
まさしくネコミミがついている。
可愛い女の子がしたらきっと似合うだろうに、男の俺がつけちゃあ反則じゃないだろうか。
ブツブツと文句を唱えつつ首を振っているサンジにお構いなしに、Pは後ろから大きな鈴をつけた赤いリボンを首に回した。
「ネコちゃんには赤いリボンね」
それ以上鏡を見ているのが怖くなって、サンジはさっさとベッドの上に戻った。
首の後ろで苦しくない程度にきゅっと締められ、思わずにゃあと鳴き声を上げてPに擦り寄りたくなる。
Pにだったら、ずっと膝の上で可愛がられたいのに。

「最後にこれ」
にこにこしながら差し出されたのは、ネコの尻尾だ。
黒く長い尻尾はしなやかな素材でできているが、その根元にやけにグロテスクなものが引っ付いていた。
つか、これって・・・
「あの、これは・・・どう、やってつける・・・んで?」
聞きたくない。
聞きたくないけど、聞かないとわからない・・・かもしれない。
いや、ほんとはわかりたくないんですけども。

サンジの懊悩を知らぬ気に、Pはことさら朗らかに答えてくれた。
「これはね、お尻から直接生えるの。入れてあげましょうか?それとも自分で入れる?」
どちらもごめん蒙りたい。
拒絶の意思を持ってブンブンと首を振ると、仕方ないなとAが口を挟んだ。
「Z、入れたげて」
なんでそこでZ?!
思わず後ずさりしたのに、さっきまでテーブルでコーヒーを飲んでいたZが面倒臭そうに立ち上がって、それでも
大股で近付いてきた。

「ほら、お尻上げて」
Aの声に急かされ、サンジは渋々背を向けると腰を上げた。
濡れて柔らかいそこにZの指が添えられ、少し太い尻尾の付け根が挿入される。
思ったより違和感がないのは、相当こなれてしまっているからだろう。
「うー」
息を吐く音さえ厭らしく感じられ、サンジは息を詰めて我慢した。
けれど異物をそこに収める違和感はどうしても拭えず、ぶるりと背筋が震える。
「んじゃ、ネコらしく四つん這いでね」
何させるんだこの野郎と内心で悪態をつきつつ、両手足をベッドに着けたら、ずるりと尻尾がずれた。
「ふえ?」
「ああ駄目駄目。ちゃんと力入れとかないと。尻尾が抜けないようにね」
「えええ?」
サンジは思わず抗議の声を上げた。

先ほどまで散々酷使されたそこは、もはやどろどろのグチャグチャでトロトロだ。
そんな場所に浅く入れられたくらいで、抜けないようにしろなんて無茶な話と言うものだろう。
「大丈夫、力を入れて締め付ける要領で」
「んなこと、できるかあっ」
憤りつつ、元来負けず嫌いなサンジは必死で肛門に力を入れて、撓る尻尾を身の内に収めながら撮影に望んだ。


Aの予告どおり、本当に丸一日かかった撮影は想像以上に大変だったが、その日は最後までZが見ていてくれたことが唯一の救いだったかもしれない。
そんなことに救いを求める自分のが、おかしいんじゃないかとも思うんだけれど。




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