運命と呼ばせない -10-


「どこほっつき歩いていやがった!」
開口一番そう怒鳴られ、サンジも負けずに言い返す。
「そりゃあてめえだ、ちょっと目を離すとすぐ迷子になりやがって!」
怒りのせいか、カーッと体温が上がった。
心臓がバクバクと高鳴って、喉元へとせり上がってくるようだ。
眩暈さえ感じて、繁みから突進してきたゾロへの対応が遅れる。

襟元を掴まれ、乱暴に引き寄せられた。
殴られる、と奥歯を噛み締め身構える。
咄嗟に蹴りが出なかったのは、きっとこの急激な眩暈のせいだ。
「――――んっ」
張り手の代わりに、ゾロが思い切り噛み付いてきた。
唇と頬、それに鼻の頭までがぶがぶと甘噛みし、舌でなぞる。
「ふ、ひゃ?」
何事かと目を白黒させていたら、ゾロはサンジの下唇を柔らかく食みながら至近距離から睨み付けた。
「冷てえ」
そりゃ、雨で冷えたから―――
そう言い返す間もなく、また唇が塞がれる。

降りしきる雨より激しい嵐のように、ゾロの舌がサンジの口内を蹂躙した。
息継ぎさえ忘れて、苦しさに仰け反りながら喘ぐ。
ゾロの舌の裏を、サンジの舌が舐めた。
お互いの体温と感触がダイレクトに伝わってきて、背筋がゾクゾクと震える。
寒いせいばかりではない。
触れ合う部分は発火しそうに熱くて、交わる吐息が顔を火照らせる。
「あ――――」
堪らず、ぎゅっとゾロの背中を抱きしめた。
ゾロも、背骨が折れるほどにきつく抱き返してくる。
これはさすがにヤバい、と首を逸らして息を継いだ。

「い、いて・・・」
「クソっ」
なにが悔しいのか、こめかみに青筋を立ててゾロが唸っている。
ギリギリと抱きしめられる力が強すぎて、骨が軋んだ。
ちょうど同じ高さの股間は、熱の塊みたいなものがゴリゴリと押し付けられ濡れた衣服の冷たさを掻き消している。
しかもこれは、お互い様だ。
「い、ってえよ」
身を捩って首を背けたら、その顔を追いかけるようにゾロの唇が頬を辿った。
再び唇を合わせて、さっきよりもっと深く舌を絡める。
ひょっとして、これってキスなのか―――
そんなことを、ぼんやりと考えた。


「おいおいおい」
「この雨ん中、お熱いねえ」

突然無粋な声が掛けられたが、二人はもうそれどころではなかった。
抱き合ってぐしゃぐしゃに乱れた服の裾から、ゾロの手が滑り込んで素肌を撫でる。
冷え切った肌に、掌の熱は心地よかった。
「参ったね、ガン無視かよ」
「邪魔しちゃ悪ぃが、俺らも混ぜてもらうか?」
「相手、野郎じゃねえか」
「野郎でも色っぽい顔してやがんぜ」

下卑た言葉を投げかけられても、聞いちゃいない。
いい加減焦れた男の一人が、鞘でゾロの肩を小突こうとした。
「おい・・・」
それを弾かれた、と視認する暇もなかった。
なにが起こったわからないまま、男達は一斉に泥の中に沈む。
ゾロの片手とサンジの片足が、乱入者を一瞬で薙ぎ払っていた。

「畜生、邪魔しやがって」
我に返ったサンジは、乱れた胸元を掻き合わせてその場にしゃがんだ。
その間に、ゾロは倒れた男達の懐を探っている。
「なんだ、こいつら」
「山賊だろ、この島にゃいるっつってたじゃねえか」
まさか、山賊を狩ることになるとは。
成り行きとは言えおかしくて、サンジはしゃがんだままクスクスと笑う。
邪魔者が入ったお蔭で、ちょっと冷静になれた。
さっきまで火が点いたように盛り上がって、うっかり場外でことに及びそうになっていた頃が信じられない。
けれど、両手足を縮込ませてしゃがんでいる今も、身体の芯は熱く疼いたままだ。

「ちっ、持ってやがらねえ」
ゾロは腹立ちまぎれに、男の肩を蹴って転がした。
「なに探してんだ」
「ゴムだ」
しれっと答えたので、サンジの方が赤面する。
「あー・・・そう言えば」
「まあ、こいつらが声掛けてくれて助かった。ちっと頭に血が上り過ぎてたからな」
ゾロはバツが悪そうにガリガリと濡れた頭を掻き、困ったよな顔でサンジを振り返る。

「街に、降りるか?」
「―――――・・・」
どうにも気恥ずかしさを誤魔化し切れず、サンジは黙ったままコクンと頷いた。





さほど迷わず街に辿り着き、すぐに連れ込み宿を見つけられたのはラッキーだ。
雨のせいで人通りもなく、尋常でなく切羽詰まった二人の様子を目撃されずに済んだ。
チェックインもそこそこに、部屋に入ってすぐ服を脱ぐ。
いつものサンジなら、まず衣類を絞って皺を取って乾かして・・・と気を付けるはずだが、今はもうそんな余裕はない。
二人縺れ合うように、一つしかないベッドにダイブして唇を合わせながら手足を絡めた。

「が、っつくな」
「てめえこそ」
お互いに文句を言いつつ、キスをし合って身体を弄る。
冷え切った身体に体温が心地よくて、どこもかしこも触れたくて堪らない。
なぜか笑いがこみあげてきて、二人とも笑いながらお互いを抱きしめた。
「なにこれ、やべーおかし・・・」
「大人しくしやがれ」
「てめえこそ、ちっと落ち着け」
ちゅ、むちゅっと音を立て、何度も口付けを交わす。
裸で重なった中心は、どちらも硬く張りつめてゴツゴツと押し合うようだ。
ゾロが大きな手で両方を鷲掴みにすると、サンジは気の抜けた声を出した。
「はわ・・・あ、や、っべ」
「どうした?」
「あ、やー、気持ちいい」
これが発情期というものだろうか。
森の中にいた時もかなりやばかったが、今はもう自分でも自覚できる程に頭のネジが飛んでいた。
とにかく気持ちいい。
ゾロに触れたくて、ゾロに触られたくて堪らない。

「やっべ、そこ、そこぎゅっと」
「こうか」
「あ、あ、いいっ」
サンジの顎の裏にきつく吸いついて、鎖骨を噛んだ。
逸らされた胸を舐め上げて、もう片方の手で乳首の周りを挟み込むようにぎゅっと握る。
「んあっ!」
「おまっ、なんて声出しやがる」
ゾロも、興奮で目尻が赤く染まっていた。
「だっ・・・だって、んなとこ」
サンジは耳まで真っ赤に染めて、顔を背けた。
「お、おっぱいじゃないのに」
「固くしこってやがんぞ」
ゾロはまるで見せつけるように舌先でべろべろと転がした。
その度に、サンジのつま先がびくんびくんと突っ張る。
「あ、やべ、そこやっ・・・」
「なんだ、こっちもか」
左右両方の乳首を摘まんで押し潰してやると、あられもない声を上げた。
「なんか、やべえっ」
「女より感度いいな、てめえ」
「ちがっ、そんなんじゃねえ馬鹿っ」
なにがどう違うのか、サンジにも恐らくはわかっていない。
ゾロの指でくりくりと刺激され、サンジは嫌々をするように腰を揺らした。
その反動で、ゾロの硬い腹筋に厚い塊が擦り付けられる。

「こっちも弄って欲しいのか」
「わ、ばか、そんなあっちこっち」
文句を言う唇を塞ぎながら、片方の乳首をあやしつつもう片方の手で股間を愛撫した。
サンジは身も世もなく喘ぎながら、言葉にならない声を上げ続ける。
「あ、あ・・・ふぁ」
「畜生、どんだけエロいんだてめえ」
ゾロも、もう血管がブチ切れそうだ。
仰向いて大きく足を開いたサンジの上に圧し掛かり、後孔を探った。
ふと驚いて、動きを止める。

「ん・・・んもう」
サンジが焦れて、ゾロの腰に両足を絡めてせっついた。
「はや、はやく」
「おい、なんか塗ったのか?」
ゾロは身体を起こして、サンジの膝裏を持ち上げた。
白くて丸い尻を膝に乗せ、屈伸させて後孔を晒す。
「見、見んなバカっ」
両足の間から真っ赤に染まった顔が覗くのもまたいい眺めだと思いつつも、ゾロの関心はサンジの局部へと集中する。

・・・ぬちゃり
試しに押し付けた指が、ぬめりを帯びながら柔らかい場所へとずぶずぶと減り込んだ。
二本、三本と増やしても難なく飲み込まれていく。
「―――おい」
「クソ、見んなっつってんだろ、恥ずかしーんだよっ」
サンジは、赤く染まった顔を隠すように両手で覆っている。
ゾロがいま指を沈めている場所とは対照的な初心さに、余計煽られた。
「てめえ・・・」
「あんだよっ」
ぬぷ、ぬぷっと指を動かす度、サンジは切なげに眉を寄せた。
だが痛みは感じていないようだ。
うっとりとした恍惚が、表情に現れている。

――――こいつ、女のように濡れるのか。
危うく口に出しそうになった言葉を、なんとか飲み込んだ。
例えそれが事実だったとしても、サンジにとっては心の凶器となる。
ゾロにだって、それくらいわかる。

「入れる、ぞ」
「いちいち言うな、ばか」
サンジは憤死しそうなほど真っ赤になって、ぎゅっと目を瞑りながら悪態を返した。
その様子が可愛らしく、手を伸ばして顔を覆う腕を外させる。
「もういいから、とっとと・・・」
至近距離でじっと見つめた。
サンジも潤んだ瞳で見つめ返し、なんだよとモジモジする。
ゾロはなぜか堪らない気持ちになって、ゆっくりと唇を重ねた。
「――――――・・・」
絡めた舌から伝わる体温が、すみずみまで沁み渡るような錯覚を覚える。

ゴムを付ける作業すらもどかしく、気ばかりが急く。
まだ冷えた尻頬を撫でながら、務めて慎重に己を沈めた。
濡れそぼってもまだ固い蕾はゾロの侵入を頑なに拒んだが、何度か口付けを深め舌で宥めていく内に柔らかく解けていき、いつしか一つになっていた。


「あ、あ・・・」
まだ苦しげに喘ぐサンジの、蒼褪めた瞼にキスを落とす。
横を向いて目を閉じたまま、サンジはくくっと喉の奥を引き攣らせるように笑った。
「魔獣様が、なに神妙な顔してやがる」
そう言って、挑発するようにねめつける。
「とっとと動けクソ野郎。俺を満足させて見せろ」

ゾロは目を眇めて、引き攣るような笑みを見せた。
「上等じゃねえか、骨まで喰らいやがれ」
そうして、圧し掛かったままガツガツと腰を振った。

深く抉るように何度も打ち付けながら、サンジの首筋や肩に吸い付き噛み痕を付ける。
サンジは足を絡めてゾロを引き寄せ、もっともっとと自ら腰を振って煽った。
お互いが食らい合う蛇のように、いつ果てるともなく求め続けて夜が更けていった。




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