月の輝く夜に 1

どうしてこうなったかな…

サンジはぼんやりとした頭で考えた。
確か海軍の船と出くわして、交戦して、クソ野郎共がナミさんに手をかけようと
しやがったんだ。
そこまで思い出して、またふつふつと怒りが湧いてくる。
汚え手でナミさんを拉致しようとしやがったから、飛び込んで蹴り倒した。
そしたら後ろから撃たれて、バランスを崩して、こともあろうに海軍船に転落した。
だんだん頭が覚醒してくる。
そういや、俺撃たれたよな。
でも、今んとこどこも痛くない。
どこも痛くないが、体の自由が利かない。
かろうじて首だけ右肩のほうに回すと、肩口ははじけたように破けて血がにじんでいた。
かすったのか…あまり痛くねえな。
やはりぼんやりと考える。
あータバコ吸いてぇ。

ところでこれはなんだよ。
右手首に鎖、左手首にも、右足にも、左足にも
・・・これってもしかして・・・
ようやく頭がはっきりしてきた。
暗い船底の、光も差さない狭い部屋。
潮の匂いがきつい。
かすかに揺れている船体。
出航してんのか。
ここはどこだ。
GM号じゃねえ。





不意に強烈な光を感じて、一瞬目を閉じた。
何人かの人の気配が狭い密室になだれ込んで来る。
「気がついたようだな。」
聞き覚えのない、しゃがれたような嫌な声。
光を背にしているから、顔が良く見えない。
体格の大きな、太った男のようだ。
その後ろにやはり体格のいい男たちが、10人ほど。
やっぱ、海軍か。

扉は閉じられた。
光から、闇へと代わり、部屋の隅に灯りがともされた。
「麦わらの一味を捕らえられたのはラッキーだった」
太った男が笑う。
「お前には色々聞きたいことがある」
左右から、二人の男にがっしりと腕をつかまれ、立たされる。
「さわんなクソ野郎!」
悪態をついてみても、太った男は楽しそうにサンジを見回し、あざ笑うだけだ。
コツ、コツとゆっくりとした靴音が響く。
尋門かよ。
いや、この雰囲気は拷問に近そうだな。
痛えのやだなあ。
いや、一番やなのは手、だな。
頼むよ。
手だけは勘弁してくれ。
サンジの心のうちを知ってか知らずか、太った男はことさらゆっくりとサンジの前を
行ったり来たりし、ぴたりと止まった。
「先ず聞くが、モンキー・D・ルフィの弱点は何だ?」
ルフィの弱点?
いきなりの質問に、頭が固まる。
散々頭をめぐらしたが、やはり思い当たるのはあれしかないだろう。
右側にいる男が、サンジの右手首を強く握った。
「何だ?」
太った男はサンジの顔にくっつけんばかりに自分の顔を近づけて言った。
なんだよ気色悪ぃな。
近づくなお前。
息、臭そうでやなんだよ。
サンジは首をすくめて、質問に答えた。
「アホなとこだよ。」
男の右眉がぴくりと上がる。
「あと、直ぐ腹が減るとか」
「ゴム人間だから伸びる・・・とか?」
能力者だから、カナヅチなのは知ってるだろう。
俺が言うまでもなく。
太った男は、またゆっくりとサンジの前を行ったり来たりし、おもむろに聞いてきた。
「では、ロロノア・ゾロの弱点は?」
ああ、あれしかない。
「方向音痴なんだ」
太った男の顔が、一瞬固まり、にわかに相好を崩した。
喉の奥から搾り出すような哄笑が聞こえてくる。
さも楽しげに笑う男。
つられて笑うべきか、恐れるべきか、迷っているサンジの顎を太い指が捉える。
「面白い。実に面白い男だなお前は。見てくれだけでなく中身まで楽しませてくれるとは」
満足げな笑みを浮かべて、脂ぎった頬を緩ませる。
顎を捉えられたまま、上を向かされたサンジの背筋を悪寒が走った。
「私は、楽しんで仕事するタイプでね。任務の遂行は趣味と実益を兼ねる事が多い。」
やな予感。
すごく嫌〜な予感がする。
急に大声でわめいて暴れたくなった。
だが、現実には手足をがっちりと拘束され、身動きが取れない。
おもむろにサンジの口に白い布がかまされ、猿轡をされた。
額から冷や汗が流れる気がする。
「生憎、お前を捕らえたことはまだ上層部には知らせていない。時間はたっぷりあるわけだ。」
サンジの長い前髪に太い指を絡ませて、ゆっくりと梳く。

触るな。
やめろ。
手を離せ。
このクソブタ野郎。

くぐもった、声にならない音だけが、布越しに響く。
白い首に手をかける。
片手で簡単にひねり殺せそうな、細い首。
「話したくなったら、目で合図しろ。話せるならな。」
心底楽しそうに、目を細めて笑う男。
「それまでお互い楽しもうじゃないか。」

首からネクタイへ、太い指がゆっくりと下りていく。

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