戯れの恋じゃないから 3

昼食を食べさせて自分は街に戻るつもりだったが、ふと考えた。
このままゾロは船で休む気か?
ってえことは、チョッパーと二人きり?

―――やばいんだろうか。
いくらトナカイといえどもチョッパーもオス。
まさかとは思うが、ゾロがオールマイティなら危険区域に入るんじゃないのか?
そう考えると益々心配になって、3人で食卓を囲みながらおずおずと申し出た。

「クソマリモ、今日は船で泊まるのか。」
「そのつもりだ。」
やっぱり。
「んじゃあ、船番2人もいらねえだろ。チョッパー、てめえ降りていいぞ。」
「え、いいのか!」
ぱっとチョッパーの顔が明るくなる。
やはり上陸したくて仕方なかったらしい。
「なあてめえ船番一人で構わねえだろ。」
「…問題ねえ。」
ゾロは一瞬何か言いたそうだったが、素直に頷いた。
「俺と一緒に街に行った方がお前も行動しやすいだろうし、本屋とか付き合ってやるよ。」
「ほんとか、ありがとサンジ、ゾロ。」
無邪気に喜ぶチョッパーを促して、サンジは早々に船を降りた。







ちいとあからさまだったかな。
あれこれと目を輝かせて足早に歩くチョッパーの後を追いながら、サンジは少しばかり
反省なんかしたりする。
チョッパーを連れ出したのは不自然だっただろうか。
あきらかにゾロを警戒したってことを勘付かれたかもしれない。
まあ、構わねえけどよ。

恋愛には寛大な方だと思ってはいたが、やはり偏見はあったらしい。
男女が愛し合うのが自然の摂理だと思うし、野郎同士なんておぞましくて想像すらしたくない。
幼い頃から人より多くちょっかいを出されていたトラウマもあるのかもしれないが。
それにしたって、なんでゾロなんだよ。
あのゾロが、と何度も思う。
果てしなく馬鹿だが一本筋の通った男だ。
見た目だってそう悪くはないし傍らに美女がいるのが似合うと思う。
一度に2、3人はべらしてたって絵になるだろう。
なのになんで…サンジの脳裏には、あの後ろ姿が焼きついていて離れなかった。
ゾロの手がしっかりと男の尻を掴んでいて、べったりと男はゾロの腰に手を回していて――――

ああ、嫌だ嫌だ。
やはりなんかムカつく。
目に悪いものを見せられた気分だ。
できれば綺麗なお姉さまか可愛いレディとデートして気分を一新したいところだが、この島では
相変わらずナンパが成功しそうにない。
今日もチョッパー連れだし、今回はあきらめるか。


本屋からなかなか出てこないチョッパーを待ちながら、サンジは新しいタバコの封を開けた。
サンジは女の子大好き恋愛推奨派だが、経験はそれほど多くはない。
元々淡白なのかプラトニックを大切にするせいか、ナンパしても大抵楽しくお茶もしくは食事する
程度で終わっている。
プロのお姉さんにお世話になったことも実はない。
なんせ恋が一番だから、ときめきとか戸惑いとか、心臓がどきんどきんする時間がものすごく
好きなのだ。
なのでぶっちゃけて言えばSEXなど二の次で、いかに可愛い子と楽しく過ごすかに重点が置かれている。
そんなサンジにとって、まず身体から入る男同士の恋愛って奴は理解不能だった。
気が向けば誰とでもとか、パートナーはとっかえひっかえとか言語道断だ。
そんなのは恋愛ではないし邪道だとも思っている。
身体を繋げるなら本当に好きな人とお互いが求め合ったときに。
少々乙女的考えながら、サンジはそれが信条だった。

だが身近にホモかバイがいるなら話は変わってくる。
特に、自分とゾロはあの船では年長だし(ロビンは換算されていない)、ここで自分がしっかり
ゾロを抑えておかないと、ほかの奴らがひどい目にあうんじゃないかと心配になってきた。
ナミやロビンに用心するだけじゃなくて、ルフィやウソップ達にも目を配らなきゃならないなんて・・・
ゾロが本物のホモなら見境なんてないだろうし、その気になったら馬鹿力を駆使してどうとでも
してしまうんじゃないだろうか。
その時あいつらを助けてやれるだろうか。
考えれば考えるほど、怖い想像になってしまう。
・・・案ずるより産むが易し・・・つうか、聞くしかねえな。
こうなったらストレートにゾロに聞いてみよう。
どの程度のホモさ加減なのか。
それが年長者の務めだと、サンジは心を決めた。









翌朝、同じく早起きな船医に一声掛けてから、サンジは先に宿を出た。
店が並び始めた市場をぶらつきつつ船に戻る。
夜会話を交わすのはなんとなく危険だと感じたので、朝一番に乗り込むつもりだ。
寝くたれてたら、蹴り起こせばいい。

案の定、ゾロは甲板に大の字になって寝ていた。
一人なんだから男部屋のソファを占領すればいいのにとか、なんのための船番だよとか言いたい
ことは山ほどあったが、とりあえず渾身の一撃をくらわす。

ぐ、と低く呻いて口から泡でも吹きそうなほど顔を歪めたゾロが目を開けた。
「・・・てんめえ・・・」
「おはよう、ハニー〜」
タバコを銜えたままニヤニヤ笑いつつ、サンジは軽いステップで後ずさる。
「朝飯ができてんぜ、一緒に食おうぜv」
ことさらハートマークを強調させたら、ゾロが嫌そうに顔を顰めた。



「はい、トーストにバター塗ってやろうか?」
「いらねえ、っつうかどういう遊びだこりゃ」
ピンクのエプロンもそのままに、サンジは甲斐甲斐しくゾロの世話を焼く振りをしている。
あくまで振りだ。
わざとやってるのが見え見えだから、ゾロの表情はいっそう不愉快っぽい。
「だってよ、てめえホモだろ。男に優しくされて嬉しくねえ?」
ズバリ直球を投げてみた。
「嬉しくねえ。そういうのは好みじゃねえ。」
まともに打ち返された。
ホームランかよ。
「へえ、好みっつうかてめえマジでホモ?レディに興味ねえの。」
「ねえ。」
ゾロは大口にサラダを押し込みながら平然と答えた。
サンジはすっかり手を止めて、真正面から身を乗り出す。
「驚れえたな、そっちの趣味かよ。でもレディでもイけんだろ。」
「できねえことはねえが気持ち悪い。」

ええええええーーーーっ
口元に笑みを絶やさずなんでもない風に聞きながら、サンジの内心はすでにパニックだった。
お天気の話のついでみたいに聞きだしては見たが、気がつけば後戻りできない状態になっていてちょっと後悔する。
「へえ〜気持ち悪い、・・・なんでだよ!」
レディ至上主義のサンジとしては聞き捨てならない。
「ぶよぶよして軟弱だ。触っても楽しくねえ。」
それじゃあれですか。
男のごついガタイとか骨ばったのとか筋肉バリバリとか触ってて楽しんですか。
「レディのおっぱいとか、きゅっとくびれた腰とか柔らかな桃みたいなお尻とかっ、そんな楽しみ方をてめえはしねえのかよっ」
相変わらず口元に笑みを貼り付けたままサンジは目を泳がしながら叫んだ。
混乱しすぎて表情のコントロールすらできていない。
「匂いも甘ったるくて気持ち悪い。大体いつでもずぶずぶめり込める場所に挿れたってよくねえじゃねえか。」

――――っ!!!
うっかり目を開けたまま失神するところだった。
しっかり、しっかりしろ俺。

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