たまゆら 7

部屋の窓から暗い空を見上げる。
ぼんやりと傘のかかった月明かりが辺りをかすかに照らしている。
ナミさんに満月がいつか聞き損ねたな。
そんなことを聞いたら、余計不審に思われるだろう。
なら今、自分に出来ることはなんだ。
あの婆さんを殺すか。
皆で協力してゾロの動きを封じ込めるか。
ログが溜まり次第この島を離れて、遠くまで逃げおおせるか。

がたんとドアが鳴って、思考が中断される。
弾かれたように振り向いたサンジの目の前で、ノブがガチャガチャ揺れている。
「おい、開けろ。」
ゾロの声。
「てめえ、ノックぐらいしろよ。」
近づいて、ためらった。
ゾロを中に入れることに。
「開けねえと、壊すぞ。」
そうだな、こいつには鍵なんざ関係ない。
修理代がかかる方が、ナミさんにも迷惑だ。
「今開ける。ノブから手を離せ。」
せっかく鍵を開けたのに、ドアごともぎ取りそうな勢いでゾロが入ってきた。
サンジの顔を見て、ふんっと鼻を鳴らす。
「辛気臭い面してんな。」
「・・・喧嘩売りに来たのか。」
ゾロはどかりとソファに腰を下ろして、持ってきた荷物を机に並べる。
チキンにソーセージ、サラダにキッシュ・・・
「―――なんか俺、今日ずっとてめえに飯食わせてもらってねえ?」
「俺も、そう思うぜ。」
どん、とワインも置かれた。
サンジは部屋に備え付けのグラスを出す。
今朝から、ゾロが自分にひどくやさしい気がする。
もしかして偽者が、俺を懐柔しようとしている?
それとも、ゾロは昨夜のことを覚えていて、罪滅ぼしのつもりなのか。
すう、と体温が下がるのがわかった。

「風邪ってえのはたいしたもんだな。てめえがこうも大人しくなるたあ。」
揶揄を含んだ口調に苛つく。
「馬鹿にすんな、クソ剣士。」
睨みつけるのに、ゾロの目が笑っている。
「やっと、言いやがったな。」
「?」
「てめえ朝から『クソ剣士』とも、俺に言わなかったじゃねーか。」
なんだか嬉しそうだ。
ゾロが俺にひどく優しいと感じたのは、俺がゾロに突っかからなかったからか。
何故か毒気を抜かれて、サンジは目を泳がせている。
「ぼさっとしてねえで座れ。食うぞ。」
「―――わかってる。」
乱暴に腰掛けて、チキンに手を伸ばす。

シラ様は、あの男の体を手放す気はない。とばあさんは言った。
今目の前にいるのが正真正銘のゾロなら、シラって奴は今どこにいるんだ。
幽霊・・・だよなあ。

自然、手が止まる。
グラスのワインも少しも減っていない。
ゾロは水のようにワインをあおって、さっきから欠伸ばかりしている。

「俺も、どうも調子が出ねえ。」
額に手を当てて、呟いた。
「夜も昼も寝ているはずなのに。眠気が消えねえ。」
「お前のは、寝すぎなんだよ・・・」
言って、サンジははっとした。
眠り。
眠っている間に。
マサカ―――

とろりと目蓋が下がってきている。
「おい!寝るな!」
立ち上がって、ゾロの腕を引いた。
「あん?寝ねえよ。」
少し目を瞬かせて、ゾロが頭を掻く。
くらりと体が揺れている。
「寝るな!絶対寝るな、てめえっ・・・」
肩に手を掛けて強く揺すった。

ゾロは目を開けて、サンジの顔を見る。
「ああ、眠らないよ。寝ている場合じゃないからな。」
――――ゾロの顔をした男が、笑った。


ギシギシと、スプリングの音が軋む。
縛られた両手を投げ出して、サンジはシーツを噛み締めていた。
男が突き入れる度に、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴り、背中がしなる。
サンジの腰を掴んで激しい抽挿を繰り返し、後ろから覆い被さった。
きつく目を閉じたサンジの顔を覗き込んで、耳穴に舌を差し入れる。
くちゅりと音が立って、肌が粟立った。
「なぜ、私のことを話さなかった。」
耳朶に歯を立てながら、ゾロの声で男が囁く。
「お前の言うことは、仲間に信用されないのか?」
胸に手を廻して乳首に爪を立てた。
「黙れ・・・クソ野郎―――」
唇を噛んで、顔をシーツに擦り付ける。

何も見たくない。
何も聞きたくない。

ゾロの手で俺に触れるな。
ゾロの声で俺にささやくな。
ゾロの目で俺を見るな。

「この男も、いずれ己の力に溺れる。」
忌々しい、呪文のような睦言。
「強さを求めてひたすらに修業し、鍛錬を積み、やがて己を持て余して殺戮に走る。」
「黙れ!」
ゾロが目指すのは世界一の剣豪。
ミホークを倒して世界一になった後、あいつは―――
「ゾロは―――てめえとは違う・・・・」
理屈じゃない、強靭な精神、気高き本能。
「一緒に、すんな・・・」
男の手が顎を掴んで上向かせた。
サンジはぎりと歯を噛み締める。
「―――汚らわしい・・・」
くく、と喉が鳴る。
「汚らわしいか、ならお前はどうだ。」
硬く張り詰めたサンジ自身に手を這わせ、握り締めた。
「く・・・」
濡れた先端を親指の腹で擦る。
サンジの身体が小刻みに震え、銜え込んだ男根を無意識に締め付ける。
「なんとあさましい姿だ。これがお前の本性だろう。」
嘲りの声とともに激しく揺さぶられた。

サンジは括られたままの両手で、ゾロの腕にしがみつく。
きつく爪を立てて、ただ嵐が過ぎるのを待った。

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