たまゆら 3


日が傾きかけた頃、サンジは一人GM号に戻ってきた。
「ただいまロビンちゃん。おまたせ。」
「あらコックさん、早いのね。」
美女の待つ部屋に只今といって帰れる幸せに、咥え煙草からハート型の煙が揺れる。
机の上には何冊かの本と、今朝サンジが預けて行った黒い珠。
「どう、なんかわかった?」
ロビンは静かに首を振りながら、片付け始めた。
「島の図書館に行ってみるわ。何かいわれがありそうだから。」
珠をハンカチに包んで、鞄に忍ばせる。
「これ、今夜皆で食事するレストランまでの地図。7時に落ち合うことになってるから。」
「あら、ありがとう。」
行ってらっしゃいと軽く手を振って見送り、サンジはキッチンに入った。

―――今夜は俺一人だから食材を使い切るにはちょいと多いな。
とりあえず買い出しに備えて、整理を始める。
缶詰のストックもない。
マジでやばい状態だった。
陰気な島だが辿りつけて良かったとつくづく思う。

「おーい。」
外から声がして、サンジは甲板に出た。
昼間の酒屋のおやじが手を振っている。
「お届けに来たぜ。」
合図して降りようとして、沖からボートで出ていたウソップ達が帰って来るのが見えた。
こりゃタイミングがいい。
「ウソップー、ゾロ、手伝ってくれ。」
大量に買い込んだ酒類を運び入れる。
「ちょうど帰ってきてくれて助かったぜ。」
「俺じゃなくてゾロだろ。こんなときしか役に立たねえもんな。」
「んだと・・・」
「いや、なんでもないっす。」
凄んでみせるゾロの腰で刀が音を立てている。
「鍛冶屋に出したんじゃねえのか。」
気付いたサンジに、つっけんどんに答えるゾロ。
「鬼徹だけだ。」
「どうせなら全部出しゃあいいのに・・・、丸腰じゃあ心許ねえか、やっぱり。」
「なんだと?」
一触即発の雰囲気に、ウソップが慌てて止めに入った。
「てててめえら、何喧嘩してんだよ。おいゾロ、もう行くぞ。」
―――ったく、ウソップがからかっても聞き流すくせになんで俺が言うとマジ切れるんだよ。
「俺は行かねえ。」
ゾロの意外な言葉に、ウソップが何でと返す。
「こんなけったクソ悪い島。ここで寝てた方がマシだ。」
なんだ、やっぱり怒ってんじゃねえか。
ガキかこいつは。
サンジの呆れた目線も無視して、ゾロはさっさとキッチンに入って行った。

「そいじゃ、俺は行くぜ。サンジ、後は頼むな。」
「おう、暗くならないうちに街入れよ。」
サンジもウソップを見送って、中に入る。
ゾロはイスに腰掛けたまま、腕組みして寝に入っている。
いつもながら直下型爆睡だな。
とりあえず、サンジは二人分の食事の準備に取り掛かった。
自分の為だけに作るより、よほどいい。
ゾロの軽い寝息を聞きながら、鼻歌交じりで支度を始める。


キッチンに夕暮れの長い影が伸びる。
甲板に灯りをつけに出て戻ると、ゾロが立っていた。

「なんだ、目え覚めたのか。」
先刻までサンジが立っていたシンクの前で、じっと一点を凝視している。
「あんだあ。寝ぼけてんのか。」
自分のテリトリーに入られたようで、サンジは喧嘩腰で近づいた。

ゾロの手が、スーっと引出しを開ける。
「何してんだ。」
初めて気づいたように、サンジの方を向いた。
「お前か。」
抑揚のない、ゾロの声。
「死反玉をどこへやった?」
「まかるがえし・・・?」
訳がわからない。

こいつは、誰だ?

「ここに影がある。ここにあったな。」
ゾロが、引出しの中からゆっくりと視線を移す。
首をめぐらせた先は、今朝ロビンが座っていたテーブル。
サンジの背筋にぞくりと悪寒が走る。
―――こいつ、影とやらをたどってやがる。
しばらくテーブルの上を凝視した後、ドアへと視線が移った。
そのまま足を踏み出し出て行こうとする。

―――やべえ、ロビンちゃんがアブねえ。
サンジは本能で悟って、ゾロに蹴りかかった。
振り向いたゾロが両手で蹴りを止める。
が、衝撃で壁に叩きつけられた。
「ほぉ・・・」
挑むではない、嘲るような目つきで笑いを形作る。
「なんと、力の強い身体だ。」
「く・・・」
サンジは足を引こうとして、出来なかった。
がっちりと掴まれている。
「てめえ、誰だ!」
ゾロは答えず、掴んだ足ごと引きずってサンジの身体でテーブルやイスをなぎ倒した。
「うあ・・・!」
したたかに身体を打って倒れる。
蹲ったサンジを置いて、ゾロは船を降りた。
「畜生、待ちやがれ!」
サンジは痛む身体を起して、急いで後を追う。

日が落ちて、闇に飲まれた砂浜をゾロの姿をした男が歩いて行く。
何とか追いすがり、その背に蹴りを入れようとして避けられた。
間髪入れず繰り出す蹴りを受け流し、ゾロは2本の刀をすらりと抜いた。

見たことのない構え。
ゾロの太刀筋とは違う。
恐らくは型通りの―――
流れるような剣術。
煌めく刃を避けるのに必死で、反撃もままならない。
―――こいつ、強え・・・
砂に足をとられた。
バランスを崩して倒れる目先に一筋入る。
一瞬目を閉じて、仰向けに倒れた。


首筋に冷たい感触がある。
恐る恐る目を開けると、ちょうど喉元で交差する形で、サンジに刃を向けた2本の刀が、首の両脇をかすめて砂浜に突き刺さっていた。
クソ、動くに動けねえ―――
両手足を砂に貼り付けて、縫い付けられたように、ただじっとしているしかなかった。
少しでも動けば、頚動脈が切れる。
ゾロの顔をした男が、傍らに立ってじっと見下ろしている。
「ふ・・・・ん、なるほどね。」
呟いて、酷薄そうな笑みを浮かべた。
サンジの背中を、すうと冷たい汗が流れる。
「お前を使うのも、アリだな。」

腰を落としてバックルに手を掛けた。
「何しやがる!」
身を捩ると、首筋に冷たい痛みが走った。
サンジは身を硬くして、信じられない思いで男を見る。
「動くと、死ぬぞ。」
相変わらず、抑揚のない冷たい声で手早くズボンを下着ごと引き摺り下ろした。
「―――!」
下半身を曝されて、サンジは声も出ない。
一体どうなってるんだ。
何故、ゾロは・・・
ゾロはどこだ?
目を見開いて暗い空を凝視する。
今、自分の身に起こっていることが、俄には信じられなかった。

太腿の裏を掴まれる痛みで、我に帰る。
膝を押し上げられて、腰を浮かす格好になった。
必死で腕を突っ張り身体がずり上がるのを防ぐ。
男は構わず、サンジの腰の下に膝を入れたまま前を寛がせて自分のモノを軽く扱いた。
たやすく勃ち上がったそれを、サンジの後孔に当てる。
「待て・・・やめろ!やめろ!!」
サンジは狂ったように叫んだ。
「ヤメロォ・・・っ!」
男の両手が秘部に添えられ、埋め込まれた親指が左右に開かれる。
「―――ひ・・・」
引き裂かれる痛みに息を詰めた刹那、強引に捻じ込まれた。

「ぅあああああ――――!!」
自分の口から上げられた悲鳴が、どこか遠くに聞こえる。
男は無理矢理埋め込んだまま、律動を始めた。
がくがくと身体が揺れる度に、首筋に熱い痛みが広がる。
喉が裂けるほど、声を上げた。
砂浜に指を食い込ませたまま、身体を捻ってしまわないようしがみ付いて、貫かれる痛みを只ひたすら耐える。
溢れた涙で滲む目先に、見慣れた男の顔があった。
その瞳、その顔も、身体もすべてがゾロなのに―――

こいつは、誰だ。

激しい痛みの中で、サンジの意識は急速に薄らいで行く。

オマエハ、ダレダ――――


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