take back  -2-


どさりと乱暴にベッドに投げ落とされ、サンジは柔らかなシーツに顔を埋めて呻いた。
我ながら吐く息が酒臭い。
ふがふが鼻を鳴らしていると、頬にひやりと冷たい感触がある。
水を入れたコップだと認め、口の中で礼を言って受け取った。
「零すなよ」
ゾロの声だが、ゾロがこんなにこまめなことをする筈がない。
不意に思い当たって頭を上げれば、やはりそこにいたのは21ゾロだった。
「な、んであんたが、ここにいるんだ?」
「飯代奢ってくれたんだ、宿くらいいいだろ」
答えたのは、風呂場から出て来たゾロだった。
いつも以上の烏の行水・・・と言うか、絶対頭から水を被っただけで済ませたのだろう。
ぽたぽたと雫を垂らしながら、腰にタオルだけ巻いて髪を拭きながら部屋に入ってくる。
「宿くらいって、え?」
夢じゃなかったっけかと今更ながら寝ぼけたことを考えて、二人のゾロの顔を交互に見比べる。
21ゾロはゾロと入れ替わるようにして風呂場に消えた。

「大体ここ、ベッドが一個しかねえじゃねえか」
「ソファがあるだろうが」
それにしたって部屋自体が狭い。
むしろここは、シングル仕様なんじゃないのか。
「生憎満室だって、辛うじて空いてたのがこの部屋だ。文句言うな」
言いながら、ゾロはまだ寝そべっているサンジの枕元に腰掛けた。
案の定、水分を拭いただけの肌はしっとりと湿って冷たい。
「湯でちゃんと洗え」
「じきにあったまる」
サンジの後頭部に手を差し込むと、掬い上げながら自分も顔を下げてきた。
口付けられる寸前で、サンジはゾロの胸に掌を当てる。
「ストップ」
「なんだ」
明らかに不満げなゾロの表情は、いつもの無表情よりも不機嫌に近い。
「なに考えてんだ、てめえはアホか」
「ああん?」
ゾロに圧し掛かられた状態で、サンジは声を潜めた。
「同じ部屋にあのゾロも寝るんだろうが、なに勝手に人の上乗っかってんだよ」
「ああ?構わねえじゃねえか。どうせ俺だろ」
「ど阿呆!構うわっ」
いくら同じゾロとは言え、複数いるのはいくら考えても異常だ。
そうかゾロか、それならいっか〜なんてことには、絶対にならない。

「久しぶりの陸なんだから、てめえだって大っぴらにできるって悦んでたじゃねえか」
「んなこと一言も言ってねえ!」
「言わなくったってわかる」
勝手な理屈を並べ、ゾロははむっとサンジの唇に噛み付いた。
両手で頭と顎を押さえ、そのまま舌を捻じ込まれて口の中を蹂躙される。
こうなるといつもならサンジの身体から自然と力が抜けて、吐く息はどんどんと甘くなっていくのだが、今回は違った。
「・・・ざけんなっ」
思い切り足を振り上げたが、寝たままの姿勢でしかも至近距離だったからたいしたダメージは与えられなかった。
それでも、ゾロのいきり立ったものが一瞬怯むほどには衝撃を与えられたらしい。
「てめえなあ・・・」
腰を浮かして四つん這いになると、サンジの両肩を手で押さえて足の上に膝を乗せた。
体重を掛けて身動き取れないように急所を押さえる。
「ばっかやろう、マジ止めろって!」
サンジは本気で焦って声を荒げた。
自分を見下ろすゾロの表情が、いつになく冷たく映る。
「おま・・・なに怒ってんだよ」
ようやく気付いて、サンジは四肢を押さえ付けられたまま首を傾けた。
理由もなく無体な真似をする男ではないと、それくらいわかっている。

「別に、怒ってなんかねえ」
「嘘吐け、なに勝手に腹立ててくれてんだ」
指摘すると、ゾロは横を向いて下唇をほんの少し歪めた。
あまりにガキ臭い横顔に、こんな状況でありながらつい噴き出してしまった。
「なに、拗ねてんだ」
「んな訳あるか」
「ちゃんと話せ、言わないとわかんねえ」
観念したように両手をシーツに投げ出して、サンジはゾロの顔を見上げた。
しばらくバツが悪そうにそっぽを向いていたが、おずおずと視線を戻す。
「てめえ、あいつばかり見やがって」
「―――は?」
「年食った俺ばっか、見てやがったろうが」
「・・・は?」

サンジはぽかんと口を開けて、ゾロを凝視した。
なにそれ。
もしかして、ヤキモチ?

「な、に言ってんの」
「とぼけんな、あいつの顔ばっかジロジロ見やがって」
だってあれ、お前だぞ。
「あれだってゾロじゃねえか」
「俺とは違う」
またぷいっと顔を背ける。
なにそれ。
どんだけガキだよ。
つかジェラシーかよ。
「ぷ・・・」
うっかり腹筋が震えたサンジを、ゾロはぎりっとねめつけた。
「お前、今言ったよな」
「あ?は、なにが?」
「あいつは俺だって」
言った、言いました。
「ああ、未来のお前だろ」
それは、なぜだかサンジにも確信があった。
「だったら、やっぱりこの部屋には俺とお前しかいねえんだから、いいだろうが」
そう言って再び覆い被さってきた。
話が戻って、サンジは慌てて身を捩る。
「だから、それとこれとは話がっ・・・」

ガチャリと浴室のドアが開く音がして、サンジは反射的に足を振り上げた。
殺人的威力を持つ膝もゾロの脇腹を掠めただけで空振りする。
だが腰がバウンドして二人分の身体ごと跳ねた。
「てめっ、この・・・」
「止めろっつってんだろがっ」
ちゃんと湯に浸かってきたらしいゾロが、バスローブを纏って風呂から出て来た。
うっかり動きを止めた二人を横目で見て、軽く片手を挙げる。
「ああ、俺のことは気にするな。続けろ」
了解、とばかりに動きを再開させるゾロの下で、サンジがあられもない声をあげた。
「あああ、止めろ馬鹿、本気で止めろ!」
「抵抗すんじゃねえ」
「どこの悪役だ、ふざけんな!」
いやいやと顔をふるサンジの前髪を掴んで、乱暴に唇を食んだ。
んーんー、とくぐもった声が響く。
どうしても21ゾロが気になるのか、サンジの視線がチラチラと横に逸れた。

21ゾロはそんな光景を肴に、暢気に持ち込んだ酒を呷っている。
が、ふと思い付いたように手を止めて酒をテーブルに置いた。
そのまま立ち上がり、虚しい抵抗を続けるサンジの枕元に立った。
ゾロの髪を掴んだり引っ張ったり叩いたりしている両方の手首を軽く握って、そのまま上に引き上げる。
バンザイの姿勢で戒められて、サンジははっと目を見開いた。
「ふぐっ?ん〜〜〜〜?」
「ん、お」
ちゅぽんと唇を離し、ゾロはサンジの頭上に視線を移してにやりとした。
「さすが俺、気が利くな」
「・・・ざっけんなっ」
真っ赤になって激昂するサンジに構わず、21ゾロはその枕元に腰を下ろすと、本格的にサンジの両手を一まとめにして懐に抱きこんだ。
「なに、二人がかり、で・・・」
そこまで言って、事態のあまりの恥ずかしさに一人で絶句している。
21ゾロに両手を押さえられ、足元はゾロに乗っかられてもじもじと身を捩る様は、本人は嫌がっているのだろうが実に扇情的だった。
「充分その気になってんじゃねえか」
ゾロは意地悪そうに口元を歪めて、乱暴にベルトを外すと下着ごとずるりと引き下ろした。
金色の茂みの中から、濃く色付いたモノが半勃ちの状態で顔を覗かせている。
「まだ触ってもねえのに」
「だ、だだだ黙れっ」
膝頭を合わせてなんとか隠そうと試みるも、無駄に腰が揺らめいただけだった。
肩越しにぬっと腕が伸びて、上からシャツをたくし上げられる。
胸から膝までが剥き出しに晒されて、シーツより白い素肌に朱が走った。
「なに?なにしてくれてんの?!」
思わぬ参戦にパニクったサンジを宥めるように、21ゾロはその小さな頭を優しく撫でる。
「おしおし、気にすんな」
「気にするわボケっ!」
顎に手を掛けられ上向かされて、自然に喉が反った。
21ゾロの指がゆっくりと顎の下や喉を擦る。
その動きがあまりに柔らかくいやらしくて、サンジは仰け反ったまま声にならない呻きを上げた。
「やーらしいなあ、てめえは」
心底呆れたように呟きながら、ゾロは屈んでサンジの胸元にキスを落とした。
両方の乳首を確かめるようにそれぞれ食んで、舌で転がす。
そうしながらサンジのモノを柔らかく揉みしだくと、温かな掌の中ですぐにそれは硬く張り詰め、ぬるりと滑った。
「もうガッチガチ」
「・・・うっせー」
サンジの両手が戒められているのをいいことに、ゾロは膝裏に手を掛けて持ち上げ、両足を思い切り左右に開かせた。
しとどに濡れて勃ち上がったものが眼前に晒され、サンジはぎゅっと目を瞑って顔を背ける。
足の付け根に浮いた静脈を、辿るように指で撫でた。
そのまま唇を寄せて舌で辿り、尻肉を揉みながら太股に歯を立てる。
「・・・や、だ―――って」
ビクッビクッと背を撓らせながら、サンジは声を殺して身を捩った。
そのものに手を触れないで周囲から責められるのは、もどかしくて辛い。
「どうして欲しいんだよ」
ゾロが意地悪に聞いてくる。
さっさと触ってイかしてくれ、なんて口が裂けたって言うものか。
口惜しげに唇を噛んだサンジの胸に、別に手が降りた。
「ひゃっ?」
思わぬ刺激に身が竦む。
喉元を撫でていた21ゾロの手が、反らされたままの胸の尖りを弄び始めた。
先ほどゾロに舐められ、付けられた唾液を指先で塗り広げるように擦られる。
軽く押し潰され、また抓み上げられて、サンジは激しく頭を振った。
「や、めろっ」
「ん?ここ弄られんの、好きだろ」
21ゾロが伸び上がってサンジの胸元に顔を伏せた。
ねろりと舐められ、乳首に歯を立てられる。
「ああっ」
思わず閉じかけた膝を、ゾロが力いっぱい押し広げた。
そのまま温かな口内に咥えられ、一気に身体の中心に血が集まる。
「・・・や、めろぉ・・・」
上半身と下半身を一度に舌で愛撫され、サンジはそのあまりの感触にその場で飛び上がりそうになった。

なにがなんだかわからない。
どうしていいかもわからない。
ただ引き上げられ押し広げられて、潰れた蛙みたいに無様な格好で仰向けに喘いでいるばかりだ。

「やめ・・・やめ・・・」
きゅっと強く乳首を抓られて、その痛みに肩が竦む。
それでいて温かなゾロの口内は容易くサンジの快感を引き出して、すぐにでも達してしまいそうなほどに気持ちよかった。
先走りの汁とゾロの唾液がだらだらと後孔にまで垂れ落ちて、滑るそこをゾロの指が探り始める。
尻肉を広げ指を差し込まれながら、同時に両方の乳首を弄られる感覚にサンジは身震いした。
「やめろ、マジ、やめて・・・変になるっ」
あちこちから刺激が咥えられ、却って集中できない。
ただ与えられる感覚に流されるばかりで、その指がどちらのものかなにをされているのかも把握できずに呻くばかりだ。
「―――も、や・・・」
泣きが入った声に、顎に掛けられた手がそっと首を傾けさせる。
促されて目を開けると、21ゾロの片目が視界に入った。
片方しかない、無残にも閉じられた瞼と深い傷が網膜に映る。
「・・・ゾロ」
薄く微笑んで、その唇がサンジの唇に触れた。
首を傾けて深く舌を絡める。
これはゾロだけどゾロじゃないと頭ではわかっているのに、やっぱりゾロだと自然に気持ちが安堵した。

21ゾロに乳首を弄られながら濃厚な口付けに応えるサンジを、ゾロは忌々しげに見上げた。
ちっと舌打ちして、膝を持ち上げサンジの胸に押し付けるようにして腰を浮かせる。
背後からサンジを抱きかかえるようにして、21ゾロは何も言わないでその足を持った。
一々指図しなくとも考えたように動くのは、さすが自分としか言い様がない。
妙なところで感心しながら、ゾロはもう一人の自分に開かされたサンジの身体をじっくりと解し始めた。




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