社長はお熱いのがお好き -7-



個人的にサンジを好まないせいか、はたまたサンジの力量を見込んでか、カリファの指導は日々厳しさと
内容量を増していった。
配分されていたはずの社長のスケジュール調整やアポの受付も、最近ではサンジに任されるまでになっている。

「それでは、明日のロブスタッフとの懇談の前に5分間、経理部長との打ち合わせを入れてよろしいですね」
「んー」
「バギー商事から、来週中に1時間都合つけて欲しいと連絡がありましたので、先日変更になった月曜の
 朝9時に入れてよろしいですか。45分間になりますが」
「んー」
「その後、S駅に移動になりますので45分発厳守です。自転車を利用してください」
「んー」
「・・・社長」
「んー?」
「新聞読みながら食事をするのはいいですが、できればどっちかに集中してください」
「集中している」
「尻を揉むのに集中しないでください」
むぎゅっと力を強められて、サンジは後ろ足で蹴るように踵を振り上げた。
社長は椅子に座って前傾姿勢のままで、片手にサンドイッチ、目の前には新聞、そうしてもう片方の手をサンジの
尻に伸ばしている。
「動くな、触りにくい」
「だから触るなっつってんだろが!飯を食うならさっさと食え!」
「嫌だ、触れないなら食わない」
「〜〜〜〜どこの駄々っ子だ貴様」
怒りながらも、サンジは渋々社長の隣に歩み寄った。
社長は相変わらず視線を新聞に向けたまま、大口でサンドイッチを頬張り、揉んでは撫でるを繰り返している。

「男の固いケツなんか揉んで、何が楽しいんですか」
「いや〜なかなかいいぞ。ほんとは素肌がいいんだがな、ひやっとして気持ちがいい」
とか言いながら、緊張して固く張り詰めた尻の間に指を押し当てる。
「わっ、それは止めてください!食事中ですよ」
「食事中じゃなければいいのか?」
社長は大きめのサンドイッチも全部口の中に入れてしまった。
ずず、とコーヒーを啜りながら、片手は器用にぐにぐにと動いたままだ。
「あ、だから止めてくださいって・・・汚い」
「服の上からだろうが。・・・直のがいいか」
反射的に手にしたファイルで頭頂部をはたいた。
社長は意に介さず、人の悪い笑みを浮かべたままサンジの腰を抱き寄せる。
「お前が嫌がってる時は、大抵こっちは悦んでんだよな」
言って、白いシャツの上から胸元にパクリと食いついた。
「――――!」
声なき叫びを上げそうになって、サンジはファイルを放り出して口元を抑える。
扉1枚隔てた向こうには、カリファとアルビダがいるのだ。
いくら昼休み時間とは言えども、いつ社長室に入ってくるとも限らない。

「や、めてくださいっ」
小声で抗議するも、社長は服の上から乳首を食んで上目遣いで見上げるだけだ。
「見ろ、もうこんなに固く尖ってっぞ」
「んんんんなわけないでしょうがっ、大体なんだっていっつも一発でそこに食いつくんですかっ」
「食いつけと誘いオーラが出てる」
「出るか!」
じゅ、とシャツの上から吸われて、サンジの身体がくたりと崩れた。
「・・・あ、だから・・・」
「お前、ほんとにここ弱いのな」
甘噛みしながら、もう片方も指でぐりぐりと強めに捏ねる。
先ほどまでサンドイッチに齧り付きコーヒーを飲んでいた社長の口元は汚れていて、それがサンジの真っ白な
シャツに染みを作った。

「いや、で・・・」
「コリコリしてんぞ」
強い力で吸われて、サンジは社長を押し退けようとする手で肩を掴んでしまった。
そうでなくとも、最近自分の乳首が男にしては少々大きくなってきているんじゃないかと、心配なのだ。
これ以上妙な刺激を与えられて、不自然なほどに膨張しては困る。
「・・・ふ」
「ここだけで、イけそうだな」
ふるふると揺れ始めた腰を興味深げに眺めながら、社長はサンジの腰からシャツをたくし上げ、隙間に手を差し入れる。
「・・・どうして欲しい?」
「・・・・・・」
答えられず首を振るサンジの震える頤にキスをして、社長の唇の形に汚れたシャツを舐める。
「止めて、ください・・・」
冷たい尻を撫でる社長の掌の熱が心地良い。
うっかり脚を広げそうになって、サンジは慌てて我に返った。

今は昼休み
12時50分には、社長はタクシーで出発する予定

「止めてください!」
社長の意地悪な問い掛けの答えとして、サンジは思い切り膝を上げた。
殆ど圧し掛かっていた社長の無防備な腹にヒットする。
「ぐほ、てめ・・・」
美味しくいただいたサンドイッチが逆流しないか心配だが、とにかくここは非情に徹しよう。

「後5分で社長室から出てもらいます。手配したタクシーは、すでにエントランスで待機中です」
そう言ってから、サンジは我が身を見下ろしてぎゃっと叫んだ。
「どうしてくれるんですか!汚れてるじゃないですかっ」
まだ咳いている社長の背中越しにおしぼりを引っ掴んで、胸元をはたく。
「あああ落ちませんよ。替えがないのに、なんてことを〜」
「けほ、スーツを着たらわからんだろうが」
「着ますよ!着ますけど・・・なんて、恥ずかしい跡を・・・」
乳を吸われましたと、書いてあるような跡だ。
「他のやつには見せるなよ」
「当たり前です!」
くわっと牙を剥くサンジに笑いかけて、社長は手を洗いに洗面所に消えた。


ああいう、不意打ちみたいな笑顔は卑怯だ。
怒っているはずなのに、気がつけば顔を赤くしている自分に気付く。
社長の行動はどれをとっても突拍子がなくていつも振り回されるばかりだ。
してることはセクハラ同然なのに、本気で嫌だと思っていない自分が嫌だ。
社長の一挙一動に、喜んだりときめいたりしてる自分が嫌だ。















「帰りは9時を過ぎるだろうから、セキュリティかけて先に戻ればいいぞ」
手を洗うついでに顔も洗ったらしい社長は、さっぱりした様子で背広を羽織りながら声を掛けた。
「社長は会合でスケジュールを勝手に変更されますから、お帰りをお待ちして確認します」
「んじゃ、帰ったら茶漬けが食いたい」
「かしこまりました」
ドアノブに手を掛けて、社長は改まった表情をサンジに向けた。
「いつも悪いね」
「仕事ですから」
間髪入れずに返したサンジに、社長は少し目を細めた。

「それじゃ、行って来る」
扉を開ければ、随行のアルビダが立ち上がり廊下に続く扉を開ける。
いつもと変わらぬ颯爽とした社長の後ろ姿を見送りながら、もしかしたら、今サンジの胸を占める寂しさに似た
感情を社長も抱いているのではないかと、ふと思った。




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