推定無罪 -1-



「溜まってるから、やらせろ」
その言葉に、嘘偽りなどまったくなかった。
単純にそう思ったから口に出した。
ゾロにとっては、それだけのことだ。

相手はナミやロビンではなく、船のコックにして唯一の喧嘩相手。
同じ男だがその辺は頓着しない。
ついでに、相手の気持ちなども考えなかった。
考えなくとも大体わかる。

剣の腕を磨くと同時に、手に入れた呼吸の「読み」。
それがこういう場面で役に立つことになるとは想定外だが、便利な物は利用するに限る。

サンジはまったく嫌がっていない。
いくら口汚く罵ろうと、死に物狂いの蹴りで抵抗しようとも、本気でないのはゾロが呼吸を読むまでもなくわかることだ。
ゾロの開口一番の台詞に、一気に心拍数が上がったのは怒りのせいばかりではない。
呼吸が荒くなってどっと汗が噴き出しているのも思わぬ展開に焦ったせいで、嫌悪から来るそれではなかった。
けれど羞恥と屈辱感は相当なものだったので、結構派手に暴れてくれた。
口で上手く言えるものなら少しは宥められるだろうが、そういう分野はゾロは不得手だ。
だから途中で面倒になって落としてやった。

腕の中で不意に力が抜けて崩れ落ち、無防備に喉元を曝して倒れこむ姿はなかなかにそそられる。
この肌の白さがいい。
流れる金色の髪は想像通りの手触りだし、はっきりした骨のラインは思わず齧り付きたくなるほど艶かしい。

男なのにな。
野郎なのに、こんなにも欲情できる。

溜まってるから、やりたいのだ。
ゾロは取り敢えず、意識をなくしたサンジのズボンと下着だけずり下ろすと、使う部分を簡単に解して突っ込んだ。
そういうつもりではなかったそこは、反射的にきつく萎縮してゾロの行為を阻もうとする。
けれど勢いで押し込んでしまえば、できないこともない。
適当にオイルを垂らしてぐちゃぐちゃ抜き差しを繰り返していたら、異物感と痛みとに耐え兼ねてサンジの意識が覚醒された。

「うん、あっ?ああああ・・・」
起き抜けに漏れ出た声は、悲鳴だった。
何が起こったか咄嗟にわからず混乱し、ありえない箇所への痛みに恐れ戦いた。
床に這いつくばるようにして、必死で助けを求めている。
伸ばされた指は木板を引っかき、足元でぐしゃぐしゃに丸まったズボンが膝を滑らせた。
「―――な、に?」
信じられないと、振り向いた瞳が驚愕に見開かれる。
背後から圧し掛かるゾロの眼光に首を竦め、無意識に腰を引いた。
腹に回されたゾロの腕はがっちりと力を強め、身動きすら許さぬように固定して闇雲に突き入れる。

「あああ、わああ・・・」
鳴き声を上げる口元を自ら抑え、サンジは床に顔を伏せた。
どう足掻いても入れてしまった状態から逃れられず、こうなったらこれ以上無様な醜態を曝さないようにと必死だ。

サンジが大人しく伏せたのをいいことに、ゾロは身体を起こして本格的に挿迭を強めた。
女のそれと違って、サンジの中は固く狭すぎて痛いくらいだ。
うまく身動きできないのはもどかしいが、この締め付けと熱さはいい。
これから何度か回数をこなす内に自分の形に変えていけるかと思うと、柄にもなく気分が浮き立つ。

「んぐっ、ひぐ・・・」
床に顔を擦り付けながら、サンジがくぐもった声を漏らす。
呼吸もままならぬ様子で打ちつけられる衝撃にひたすら耐えながら、それでもゾロの律動に合わせて漏れ出る抑え切れない声に、更に煽られた。

普段は生意気な口しか利かない男が。
人並み外れてプライドの高いコックが、男に尻をいいようにされて、ただ耐えるしかできないだなんて。
目尻に浮かんだ涙も抑えた声も、白く筋張った手の甲もなにもかもが扇情的で、ゾロの欲望を加速させる。

もっとだ、もっと―――
こいつの内部を暴き立てて、取り返しのつかない傷を負わせて、二度と立ち直れないくらいに痛めつけて屈服させたい。



後頭部を掴み引き上げながら、抉るように腰を揺らした。
サンジは苦痛に顔を歪め、濡れた瞳を宙に彷徨わせる。
すいと視線が流れ、覗き込むゾロを捉えた。
燃え上がる炎のように湧いた怒りが、全身の気を漲らせる。

ゾクリと、興奮で背筋に震えが来た。
戦いの最中に似た昂揚感。
かつてないほどの欲情と快感が脳髄を駆け登り、ゾロは奥歯を噛み締めて低く唸った。
怒りと羞恥と、屈辱に打ちのめされて尚牙を剥くサンジの、強い光を放つ瞳に魅入られる。

食いちぎられんばかりに締め付けるそこを、ゾロは己の痛みにも構わず揺さ振った。
ここにいるのは、ゾロの申し出を形ばかりに拒絶したサンジではない。
本気で憤り悲しみ、絶望しつつ奮い立つ、不屈の魂を持った男だ。
そんなサンジをより深く貶める為に、ゾロはその内部の最奥まで己を注ぎ込んだ。
この強靭な身体の隅々まで、ゾロで満たされるように。

小刻みに痙攣してゾロの熱を受け入れながら、サンジの膝ががくりと崩れた。
捲れたシャツの隙間から覗く、腰骨の青白さが夜目に浮いて見える。
内壁の収縮を充分堪能するように、両手で尻たぶを掴んで擦り付けながらゾロは最後の一滴まで中で搾り出した。
今まで経験したことがないほどの、気持ちよさだ。
女なんて比較にもならない。
この身体を知ってしまったら、あのぶよぶよと柔らかいだけの肉の塊を抱く気持ちになんて、金輪際ならないだろう。



快楽の名残を味わうように、深く息を吐きながら身体を起こした。
サンジの腰を浮かせれば、ごぷりと淫猥な音を立てて、狭い器官から己のモノが引き抜かれる。

俯いたままのサンジの表情は窺えない。
だが、自分のシャツを握り締める白い指は、筋張って小刻みに震えていた。
怖れからか怒りからか、セーブできないほどの感情を持て余してか、サンジは顔を背けたままひと言も発しなかった。
床にぺたりと膝を着けて、肩を落として呆然と座る背中はひどく頼りなく見えたが、はっきりと拒絶を表しているのはわかる。

自分のしでかしたことを弁解するつもりも、取り繕う努力も考え付かないで、ゾロはただ満足してその場を離れた。
やりたかったから、やったのだ。
サンジに対する憐憫や同情、後悔、反省の気持ちなど微塵もない。
なにより、この期に及んでもサンジの呼吸は、怒りや悲しみに覆われていても、ゾロへの“嫌悪”を表してはいなかった。

そのことが、ゾロを至極満足させた。



next