Stay gold -2-



「先ほどお伺いした商人でさあ、お館様にお目通り願いてえ」
見るからに怪しげな風体の海賊一行に、領主の門番はあっさりと扉を開いた。
辺鄙な島の領主とは言え、こんなに警備が薄くていいのかと危ぶみながら、サンジとウソップは慎重に歩を進める。

「どうしたゲイシー、また掘り出し物でも見付かったか」
通された部屋には、でっぷりと肥えた腹を両手で抱えるようにして座る男が一人。
船長は海賊らしからぬ様子で、揉み手をしながら部屋の中へと入った。
「いやあ、実は大変申し上げにくいのですが、今日お買い上げいただいた刀をですね、お返しいただきたいと思いましてね」
「なに?あの葉音か、それとも柳青か」
「いえ、和道一文字で」
「ふざけるなっ」
地響きのような怒号が響き渡った。
ウソップはその場で飛び上がり、サンジも顔を顰めて片目を瞑る。
「あのような掘り出し物を、一度手に入れておいてそう易々と手放せるものか。よもや偽物を掴ませた訳ではあるまいな」
「とんでもねえ」
「しっ、この馬鹿!」
サンジは思わず小さく叱咤した。
いっそ偽物でしたとでも言えば、話は早く済むものを。

「どんな理由があろうとも、法外な金を出して手に入れたのはわしだ、くだらないことを言ってないでとっとと出て行け」
領主の尊大な態度に、船長は肩を竦めてくるりと回れ右をする。
「ってことで、諦めてくれないか」
「ふざけるなっ」
今度はサンジが怒鳴る番だ。
「なんだお前は」
領主は、船長を押し退けてずいっと進み出るサンジをじろりとねめつけた。
「あんたには悪いが、あの刀にはれっきとした持ち主がいるんだ、返してもらおうか」
「いきなり現れてなにを言うか、そもそもあれは、わしがその男から金を出して買ったものだぞ」
「ありゃあ盗品だ」
「いくら盗品でも、盗まれた方が間抜けだ」
「刀鍛冶に預けてあったもんだ、この島の鍛冶屋を襲って刀を盗んだんだぞ、こいつらは!」
サンジがビシッと船長を指差すと、領主は鼻白んで眉間に皺を寄せる。

「ふむ、聞き捨てならんなあ。わが島の鍛冶屋を襲ったと」
「いやいや滅相もない、わしらは森の中に放置されていた刀を回収しただけのこと」
「そうそう、そう言われてみればあの刀は、藪の繁みの中に隠すように入れてあったかもしれないなあ」
「大方、鍛冶屋を襲った盗賊が、隠し場所に困って一時的にそこに入れたんでさあ、そうに違いねえ」
海賊達は口裏を合わせて、そうだそうだとお互いに頷き合う。
「ふむ、それもそうかもしれん」
「でも、盗品であることには変わりねえ!」
言い募るサンジの肘を、ウソップがそっと押さえた。
「おいサンジぃ、これじゃあ俺らの分が悪いぜ」
弱気なウソップを、サンジはきっと睨み返した。
「だからって、このままおめおめと引き下がれるかってんだ。あの刀はなんとしても取り戻す」
「ちょっと聞くが、お前さんが刀の持ち主か?」
領主の言葉にサンジは勢いよく振り返り、肩を怒らせた。
「持ち主は俺じゃあねえが、仲間がそうだ」
「ほう、なかなかの仲間思いじゃあないか、感心だな」
領主は大げさに驚いて見せ、それから船長に視線を移した。
「しかし、一度買い上げたものをタダで返せと言われてもなあ」
サンジはぐっと言葉に詰まり、同じように船長に目を向けた。

「てめえ、一体いくらであの刀売りつけたんだ」
「あ〜え〜と、一千万ベリー」
「いっせんまん?!」
「あの刀の値打ちにすりゃあ、相応だろう」
しれっと応える領主の前で、サンジは船長の胸倉に掴み掛かった。
「てめえ、なに人の刀盗って大金せしめてやがんだ、てめえが返せ!熨しつけて返せ!」
「そうは言われてもよう、もう航海に必要なもん買って、使っちまった」
船長はそう嘯いて、ヘラヘラと笑いながらサンジの襟元を掴んで引き上げる。
体格差が違いすぎて、まるで猫のような扱いだ。

「ざけんな!てめえが盗んだんだろうがっ」
「だから、何度も言ってるようにありゃあ手下が森の中で拾ったもんだ。第一、あんたのお仲間の刀だってえ証拠でもあんのか」
「当たり前だ、あれはっ・・・」
そこまで言いかけて、危うく留まる。
海賊狩りの刀などと、大声で言っていいことではない。

「なんだ、一体誰の持ちもんなんだ?」
船長はニヤニヤしながら、サンジの顎に手を掛けて顔を寄せた。
反射的に脛を蹴り、飛び退る。
「おおう、痛えっ」
「ふおっほっほ、とんだじゃじゃ馬だ」
領主は面白そうに目を細め、椅子に腰掛けたままぱちんと手を叩いた。
「滅多にまみえぬ逸品ではあったが、まだコレクションには加えておらんしな。仲間思いのそなたに免じて、特別に刀を譲ってやろう」
「本当か?」
ぱっと顔を輝かせたサンジに、領主は意味ありげに笑みを浮かべた。
「ただし、タダでとは言わぬ」
「そりゃあタダで・・・つうか、てめえが払えっ!」
「生憎だなあ、逆さにしたって鼻血も出ねえぜ」
再びサンジに足を蹴られ、船長は痛みに顔を顰めながらもへらへらと笑う。
「くそう、足元見やがって。だが、俺達だって金はねえぞ!」
ウソップはサンジの背中に張り付いて、首だけ伸ばして声を張り上げた。
「ああ、見たところ金持ちにゃあ見えねえなあ。大方、そっちも脛に傷持つ身だろう。どちらにしろ、ことを荒立てたくはあるまい」
領主は醜悪な腹を揺すり上げて、太い指でサンジを指し示した。
「金がないなら身体で払ってもらおうか」
「あ?」
サンジは一旦顔を顰め、ああと軽く頷いた。
「まあ、俺はコックだからな。なんか食いたいもんあるか?」
「・・・そっちじゃねえよ、多分」
剣呑な雰囲気を察知して怯えるウソップに、領主はほっほと笑い声を立てた。

「なに、そう難しいことではない。ただほんの小一時間ほど、大人しくしていれば済むことだ」
まだよく理解できていないサンジの後ろで、ウソップが海賊に腕を掴まれ、うひゃあと飛び上がった。
「おおおおおおお俺かよ!」
「いや、お前はどうでもいい。邪魔だからどこかに括り付けとけ」
「ふふふふふざけるなあ」
声だけは威勢がよいが、ウソップはそのままぐるぐる巻きにされ柱に縛り付けられてしまった。
「なにをするっ」
駆け出そうとしたサンジの腕をゲイシーが掴み、そのまま胸元に抱き寄せた。
「お館様が温情を示してくださってんじゃねえか、いきなり屋敷に乗り込んで人を盗っ人呼ばわりして、挙句にタダで一千万ものもの持ってこうって寸法だろ、虫が良すぎる話じゃねえか?」
「ふざけんな、元はといえばてめえがっ」
「ああ、堂々巡りだなあ。なんだったら、このまま海軍に話付けに行ったっていいんだぜ」
海賊らしからぬ言葉に、ぎょっとして足を止める。
「ああ、言ってなかったっけか?俺はれっきとした商人でもあるんだぜ。海賊として奪うだけじゃねえ、ちゃあんと正当な取引もする真っ当な表の顔って奴がよお」
なあお館様?
そう言って領主を見るゲイシーに、サンジはぐっと奥歯を噛み締めた。



「くそ、止めろこの野郎!」
柱に縛り付けられ、身動きできない状態でウソップは声を張り上げ喚いた。
その眼前で、サンジはゲイシーと3人の海賊達に取り囲まれ、好き勝手に身体を弄られている。
脱がされた衣服で後ろ手に戒められ、露わになった素肌は海の男とはとても思えないほどに白く目を射った。
「くっそう」
「お仲間が陵辱される様を、見たくないなら目を瞑ればいい。とは言え、それじゃあ耳は塞げないかもねえ」
ほっほと、耳障りな領主の笑い声が響いた。
ウソップは目をぎゅっと瞑り、できるだけ首を捻じ曲げてサンジから顔を逸らす。
サンジは青褪めたまま、ただひたすらに領主を睨み続けた。
4人もの男達に押さえつけられ、手足を拘束されてはさすがに抵抗できない。
下手に抗って身体に傷をつけるより、このまま大人しく言うことを聞いて刀を取り戻す方が得策だ。
「本当に、刀を返してくれるんだろうな」
「ああ、約束しよう。その代わり、私を楽しませておくれ」
領主はそう言って、使用人に運ばせたワインを優雅な仕種で傾けた。

ともすれば漏れそうになる声を、必死に抑え堪える。
男達の手は容赦なくサンジの秘部を暴き、穿ち抉った。
足を大きく開かされ何度も雄を打ち込まれながら、他の手で肌を撫でられ髪を掴まれた。
乱暴に乳首を抓まれ、内側から前立腺を刺激されて勃ち上がったペニスを無理やり扱かれる。
「身体に傷を付けてはならんよ、あくまで私を楽しませるための余興だ」
「へい、わかっておりやす」
ゲイシーは濡れた舌でサンジの頬を舐めながら、噛み締めた唇の間に指を突っ込んだ。
「―――・・・ひぅっ」
思わず漏れた声を、息を殺すことでなんとか抑える。
だがゲイシーの太い指は容赦なく口内に入り込み、歯列を割って舌を扱き出した。
「噛み付くなよ」
口端から涎が零れ落ちた。
それを見て、圧し掛かる男が下卑た笑い声を立てる。
「涎垂らして悦んでら、そんなにいいか」
ゲラゲラと笑いながら腰を打ちつけ、ううおぅと間抜けな声を上げながら果てる。
ようやく引き抜かれたかと思ったら、今度は背後から男が押し入った。
「・・・ぐぅっ」
「我慢しねえで声を上げた方がいいぜ、気が紛れるだろ?」
「いい声を聞かせて欲しいねえ」
パンパンと肌を打つ音が響き、サンジの身体が大きく揺さぶられた。
口を開いてゲイシーの指を吐き出し、喘ぎながら声を逃がす。

「まったく強情な子猫ちゃんだ」
「無茶をしてはいけないよ、一人一回だけだ」
「わかってまさあ」
顎を捕まれ唇を摘まれても、サンジはきつい瞳で領主の顔を睨み続けた。
内臓を抉られる痛みと不快感で涙が零れ落ちていることにも、気付いていない。
「そんなに熱い視線で見つめられると堪らないねえ」
領主はゲヒゲヒと空気が漏れるような声で笑い、でっぷりと肥えた腹の肉を掻き上げた。
「なんと、久しぶりにわが愚息が熱くなって来ておる」
「こちらも、いい頃合いですぜ」
男に後ろから貫かれたまま、サンジの身体が抱き上げられた。
髪を捕まれ無理矢理顔を上げさせられて、領主の前に突き出される。
ぶよぶよの腹肉の下から赤黒い肉塊が現われ、サンジは思わず顔を背けた。
「わしを満足させてみよ、そうすればお前の望みは叶うだろう」
まるで呪いのように耳元で囁かれ、サンジは一旦ぎゅっと目を瞑った後おずおずと首を巡らせる。
嫌そうに顔を歪めたまま、それでもなんとか口を開けて頬張った。
ずん、と後ろから突きこまれ、その衝撃に呻きながら口内の奥へと肉塊が押し入ってくる。
「・・・ん、う、ぐうっ・・・」
「おうおう、これはまた」
領主が恍惚とした表情で、サンジの髪を撫でた。
後ろから穿つ男の律動が激しくなる。
何度も揺さぶられ喉の奥でえずきながら、サンジは目尻からポロポロと涙を零した。

「ひぅ・・・ん、ん――――」
「おおもう、たまらぬ」
ぶるぶると腰を押し付けながら男が果てると、引き抜かれるのもそこそこに身体を持ち上げられた。
そのまま膝を曲げて開脚され、領主の上へと下ろされる。
「んあっ、ああああっ・・・」
耐え切れず漏れた悲鳴が、部屋の中に響き渡った。
領主の巨大な肉塊が、ずぶずぶとサンジの中に入っていく。
「美味そうに咥えこんでるじゃねえか」
「そら、腰振れよ」
男達が囃し立てるのに、サンジの膝は笑って踏ん張ることもできない。
「仕方ねえなあ」
ゲイシーの指示で、両脇を支えた男がサンジの身体を上下に激しく揺さぶった。
「―――ああああああっ」
「おおおおおっ」
仰け反って叫ぶサンジの声に、領主の雄叫びが加わった。
「おおうこれはっ、なんとっ、なんと」
じゅぶじゅぶと、何人もの男に放たれた精が結合部を濡らす。
領主の腹が一際大きく波打ち、激しい胴震いと共に腰が浮き上がった。
叩きつけるようにサンジの腰が落ちて、反り返った自身のペニスから白い液体がぴしゃりとしぶく。
「ふおおおおおお・・・」
獣のように低く唸りながら、領主はサンジの中で長い射精の余韻に浸っていた。



「・・・このような快楽、まことに久しぶりだった。いやまことに」
感に堪えぬといった風に、領主は上機嫌で身繕いを済ませた。
海賊達もそれぞれに身なりを整え、下卑た笑みだけを残して部屋から去っていく。
「望みどおり、そなたの大切なものは返そう。まことに、その値打ちがあったひと時だ」
領主はそう言い、全裸でボロ雑巾のように横たわるサンジの側に和同一文字を置かせた。
柱に縛り付けられたままだったウソップの縄も解かれる。
「サンジっ!」
ウソップはがくがくと膝を震わせながら、這うようにしてサンジの元に駆け寄った。
床に撒き散らされた衣服を掻き寄せ、その身体に掛けてやる。
「―――・・・」
サンジは無言で起き上がり、震える手でシャツを掴むと肩に羽織った。
汚れた身体のまま衣類を身に着け、ふらつく足でなんとか立ち上がる。
「刀は、確かに貰ってくぜ」
「うむ」
「もうこれで、後腐れなしだ」
「まことに天晴れ、そなたの心意気もその身体も極上よ。まことによいものを見せてもらった」
サンジは、ウソップを振り返り床に置いたままの刀を顎で差し示す。
「持ってくれ」
「あああ、わかった」
ウソップはサンジと目を合わせずに、ぎこちない動きで刀を拾い上げた。

部屋の外で待機している警備兵にも、廊下に控える使用人にも目を向けることなく、刀を抱いたウソップを連れてサンジは真っ直ぐ前だけを見て屋敷を後にした。


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