それすらも恐らくは平穏な日々 4

箪笥の奥に、封を開けてない真新しい下着とジャージを見つけた。
最低限の枚数で、同じ物を着続けるから気付かなかった。
とりあえずそれを脱衣所の籠の上に置く。
からりと戸を開けてバスタオルを腰に巻いたサンジが出てきた。
「お、サンキュー」
あまりに色が白くて、ゾロは目のやり場に困った。
悪いものを見た気がする。
「新品だから文句言うな。」
ぶっきらぼうに告げて、逃げるように脱衣所から立ち去った。



自分の部屋なのに落ち着かない。
さっさと寝るに限るのに、布団を敷くのが後ろめたい。
―――もしかして俺、挙動不審か?
うろうろしていたら、サンジが上がってきた。

「お先ー、てめえも入ってこいよ。」
「俺んちの風呂だぜ。」
泣く子も黙ると言われる目つきで睨みつけるのに、サンジは軽く笑っている。
怖くねーんだろうか、俺のこと。
「いいから入れよ。冷めるぞ。」
勝手に冷蔵庫を開けてビールを取り出し、飲み始めた。
何を言っても無駄だと判断して、ゾロも風呂に入る。





最近知り合ったばかりの、かなり素行の悪い得体の知れない男を部屋に一人きりにするのは無用心かも
知れないが、取られて困るものもない。
それより問題は今の自分の状態だろう。
案の定、熱いシャワーを浴びて愚息は頭を擡げている。
「ナニ考えてんだ、てめーは。」
自分に向かって叱咤しても仕方なく、ゾロはそろそろと手を伸ばした。
最近ご無沙汰だし、溜まってたしな。
目を閉じて扱けば、頭に浮かんでくるのはいつものオカズでも過去の女達でもない。
ついさっき目に焼きついた、生の光景だ。
これでクるか、俺―――。
情けないが、かなり早くイってしまった。
終わった後の自己嫌悪はかなり強く、ゾロは暫く立ち直れなかった。
何より男相手に勃ってしまった自分が信じられない。





肩を落として風呂から上がると、サンジが卓袱台を拭いていた。
どこのお宅かと見違えるくらい、台所が片付いている。
「お前、細かいこと言う割に、全然掃除できてねえじゃねえか。」
綺麗にした卓袱台を壁に立てかけて、布団を敷き始めた。
「そういうお前は、何をしてんだ。」
呆然と響くゾロの声にもまったく頓着せず、サンジはぽんぽんと枕を叩いて鼻を近づけた。
「男くせー。ちゃんと干してるか。」
言いながら布団に潜り込む。
「あ、俺電気は全部消さねーと、眠れねえ性質だから。」
「俺もだけどよ・・・じゃなくて!」
ゾロが慌てて布団を引っぺがす。
「俺の布団だぞ、なんでてめー寝てんだよ。」
「いーじゃねえか、邪魔しねえよ。」
邪魔だよ十分。
「只で泊めて貰おうと思ってねえよ。」
意味深に笑って、サンジはくいと顎をしゃくった。
「下手な女より、上手いぜ俺。」
かっと頭に血が上ったと思ったら、勝手に手が出ていた。

いきなり頭をはたかれて、呆然としているサンジがいる。
「―――いってー、何しやがる!」
「バカにすんなてめえ、一番端っこ行け!俺に触ったら承知しねえぞ!!」
自然声が高くなる。
顔も真っ赤に違いない。
頭を擦りながらしぶしぶ端によるサンジを足で押し退けて、ゾロも布団に入った。
「暴力男・・・」
「てめえに言われたかねえ。」
一々律儀に突っ込んで、コードから伸ばした紐を引っ張った。






電気を消してしまうと、サンジは諦めたのか黙ってゾロに背中を向けた。
ゾロも背を向けて体を丸める。
さっきのサンジの仕草に、自分の欲望が見透かされたようでどきりとした。
誰にでもああやってるのかと思うと腹が立つし、わかってて誘って見せる姑息さに虫酸が走る。
それでも、さっき一発抜いておいて良かったというのが一番の本音だが―――

隣に眠るサンジの寝息が聞こえなくて、自然息を潜めてしまう。
眠れなくても寝返りも打てない。
どうにも居心地が悪くて不自然な体制のまま、それでもゾロはいつの間にか眠ってしまっていた。

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