それすらも恐らくは平穏な日々 20

忍び込む薄い舌を味わって、噛み千切り飲み込みたいと本気で思う。
シャツを手繰り上げて素肌をじかに撫でた。
思っていた以上に滑らかな手触りに夢中になる。
骨格を確かめるように、隈なく手を這わせてシャツを脱がせた。



蛍光灯の下に曝された肌は眼に痛いほど白くて、ゾロは息を呑んだ。
ほんのりと紅く色づいて立ち上がった乳首に誘われるように唇を落とす。
舌で湿らせて軽く吸えば、サンジは小さく声を漏らした。
歯を立てながら視線だけ上げて、気持ちいいのかと問うてみた。
サンジは頬を赤らめながらも、こくりと頷く。

「もう、キスだけでイきそうだ。・・・きっと、身体より気持ちの方がずっと勝ってる。」
ひどくクルことを言うから、ゾロは獣じみた唸り声を上げてその唇に噛み付いた。
舐めてなぞって、漏れ落ちる唾液を啜りながら腕を伸ばしてサンジの前を寛げた。
言葉どおり痛いほど張り詰めたそれを丁重に取り出して、ゆっくりと扱く。
魚みたいにびくつく身体を宥めるように、そこかしこに愛撫を施した。
仰け反った胸の乳首を指の腹できつめに捏ねながら、もう片方は舌で転がして、扱く手に力を込めれば
サンジは呆気なくイってしまった。

荒く息を吐いて大きく上下する胸に、ダメ出しみたいに吸い付いて身体を起した。
「えらく、早えーじゃねえか。」
からかうと、肩で息をしながら口を尖らせる。
「仕方ねーだろ。てめえと出会ってからずっと、誰ともSEXしてねーもん。」
ゾロは伸び上がって、拗ねた顔で横を向いたサンジの頬を軽く舐める。
「・・・なんで、誰ともやってねーんだ。」
耳朶にも唇を寄せて甘噛みした。
「・・・だってよ。なんか、てめーの顔とか、ちらつくし・・・」
あんまり可愛いことを言うから、益々食いたくなった。



吐き出された精で濡れた掌を奥孔に塗り付ける。
「・・・これで、いけんのか。」
ゾロとて切羽詰っている。
さっきからサンジの天然さに煽られて限界が迫ってきていた。
「・・・ほんとはローションとか、あればいいんだけどな。ちゃんと時間かけろよ。」
「く・・・無理かも。」
「段取り踏めよ、バカ」
文句を言いながらも、サンジは腰を浮かせた。

ゾロは根気よく指の腹で撫で付けて少しずつ解してみた。
女のそれとは違う粘膜の感触に頭の芯が熱くなる。
「そんな恐る恐る触んなくてもいいぞ。指1本なら、もっと奥まで入れていいから・・・」
サンジにリードされながら、ゾロは慣れない手つきでそれでも精一杯慎重にことを進めた。
これ以上、サンジを傷つけたくはないし大切にしたいとも思っている。
濡れた音を立てて指3本が蕩けるような内部を掻き回せるようになった頃、サンジがやんわりとゾロの腕に
触れた。

「・・・も、いっかも。」
へへ・・・笑うサンジに口付けて、ゾロはそろそろと腰を進めた。
押し戻す感触をそのままに先端をめり込ませる。
纏わりつくような熱い感覚に眩暈さえ覚えて、ゾロは大きく身体を震わせた。
ともすれば果てそうな己を堪えて歯を食いしばって耐える。
ゾロの下で浅い呼吸を繰り返しながら、サンジは身を横たえたままゾロの手を取った。
分厚い掌に口付けて陶然と微笑む。
「もっと、思い切り来ていい・・・てめえが、欲しい。」
ゾロの目の前で、何かが弾けた。
「こんの、アホっ」
暴走を止める術もなく、ゾロは夢中で腰を振った。



胸の内から熱い想いが迸って、ダイレクトに下腹にくる快感と相俟って突き上げる衝動を押さえることが
出来ない。
一度射精してしまったのかもしれない、ひどくぬめる腸壁を擦りながら抽挿を繰り返した。
ゾロの背中に手を回してシャツを握り締め、サンジは熱に浮かされたようにその名を呼び続ける。
反らせた背に手を廻し、律動しながらその痩躯を抱きしめた。
「ゾロ・・・ぞろっ」

「は、なさねーぞ・・・ぜってー、もうずっと・・・」
「う、ん・・・ゾロ・・・もっと深く――――奥まで、くれ・・・」
痛いくらい締め付けて再び促される射精感を必死で堪えながら、汗と涙でぐしゃぐしゃになったサンジの顔に
キスの雨を降らせる。
うっとりと、焦点の合わない瞳で微笑みながら、サンジはまたゾロの腹に白濁の液を零した。






もっと強く――――

激しく俺を貪ってくれ





この身体に、お前を刻み付けて



けっして――――






けっしてお前を、忘れないように―――――





































腕の中にあるはずのぬくもりを失って、ゾロは無意識にシーツを撫でた。
うっすらと目を開ければ、カーテンの隙間から明けたての白い光が差し込んでいる。
二、三度瞬きしてゾロはがばりと身体を起した。

部屋の中にサンジの姿がない。
慌てて全裸のまま立ち上がった。
洗面所やや風呂場、トイレのドアを片っ端から開けてみても、どこにもいない。

――――冗談じゃねえぞ。
焦って玄関から飛び出そうと靴を踏んだら、唐突にドアが開いた。

「お、ま―――なんてカッコウで・・・」
目を見開いて顔を真っ赤に染めて、酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくさせながらサンジが突っ立っている。
ゾロは安堵して衝動的に抱きしめた。
「このアホ!マッパでどこ行く気だ!」
サンジは買い物袋を下ろして拳でガンガン頭を叩くのに、ゾロはなかなか離さなかった。






「せめて、朝飯くらいなんとかしてーと思ってよ。コンビニで買ってきたんだ。」
クロワッサンを軽く温めてクリームチーズを塗り、ハムとレタスを挟む。
隣でゾロはカップスープに熱い湯を注ぎ入れた。
これからこうして毎朝過ごせると思うと、知らず鼻歌まで漏れてきた。
「浮かれてんじゃねーぞ。こっ恥ずかしい。」
不機嫌そうに眉を顰めて火のついてない煙草を噛んで見せるが、耳は赤いままだ。
卓袱台に皿を並べて向かい合って座った。

いただきますと、同じタイミングで手を合わせる。
けれどサンジは食事には手をつけず、財布からいくつかのカードを取り出した。
鰐淵名義のそれらすべてにハサミを入れる。

「燃やせないゴミってこっちだよな。」
袋にまとめて捨てて、へらりと笑った。
ゾロも笑ってアヒルみたいな黄色い頭をくしゃくしゃと撫でる。

スープはほどよく冷めてきたのに、サンジは手をつけようとしないでじっとゾロの顔ばかり見つめていた。
「食わねえのか。」
柄にもなく不安になってゾロは手を止めた。
サンジは数度瞬きして口元に浮かんだ笑みをすっと消し去る。






「ゾロ、てめえとは暮らせねえ。」


淡々として渇いた声。









「お別れだ。」


すう、と部屋の温度が冷えたように感じた。

next