「ロロノア四十八手」−2




 コックの目が、点になった。
 自分が出したものに気付くや、首筋まで哀れなくらい真っ赤になって、ぱくぱくと口を開閉させているのがおかしい。

「ほー…俺のだけじゃ不満だと言いてェ訳か?」

 何となく察しはついているのだが、眼鏡の蔓を弄りながらからかいの声をあげると、コックは瞳を潤ませていた。色素の薄い瞳は光に弱いらしく、日中眩しそうに眇められているのだが、夜になると大きく開かれているから、それが濡れると物凄くきらきらして可愛い。

「ちが…コレ…あ、……ち、違…っ!」

 あからさまに狼狽えているものだから、少し可哀想になってきた。穏やかな表情に戻すと、宥めるように優しい声を出してやる。

「落ち着け。ロビンの差し金だろう?」
「え…っ!?」
「俺んトコにも入れ知恵に来た。てめェに痛い思いをさせてんのが気にくわねェらしいぞ?相変わらず厄介な奴に溺愛されてんなァ」
「相変わらずって何だよっ!」

 不本意なのか唇を尖らせて文句を言うが、アヒルみたいに《くァっ!》と言い出しそうな表情は、またからかいたくなってウズウズするから止めて欲しい。

「バラティエのジジィもそうだろうが」
「ジジィは違ェーよっ!俺ァ、ボッコボコに蹴りまくられて育ったんだからな!」
「てめェみてーにポヤポヤしたのが、この年までまっさらな身体で育ったんだ。陰で手を回してるに決まってるぜ」
「う…っ」

 多少自覚はあるのか、言葉に詰まっているコックに《くく…っ》と喉奥で笑ってやると、悔しそうに睨み付けてきた。

「じゃあ、ジジィが知ったらてめェもボコボコにされんな?」
「そうだな。ケツ血まみれにしちまったし、今もあんまヨクねェみてーだしな」

 殊勝な顔をして眉根を寄せると、慌てて近寄ってきた。

「ヨクねェってわけじゃねんだ!ああいうの初めてだからよ、馴れてねェだけで…」
「俺もそう思ってたが、どうも俺のやり方自体が拙いみてェだ」
「ゾロ…もう、俺としたくなくなったのか?」

 半泣きで顔を歪ませるのも可愛らしいが、これ以上苛めると、それこそ至近距離にいる溺愛者にクラッチされてしまう。

「バーカ。俺ァてめェとしたくてしょうがねんだ。ただ、俺だけがヨくてもしょうがねーだろ?セックスってなァ二人して気持ちよくならねェと、《姦》になっちまう」
「だから、俺だってそのうち馴れてくっからよ」
「馴れるまでの間が辛ェだろ?だから、ロビンに渡された指南書読んでんだ」
「マジで!?」

 コックは四十八手の本を覗き込んだが、そういう性的な内容の本にはやはり見えないらしい。

「え〜…?でもよ、これって合体技とかじゃねーの?ほら、これなんかアルメドレール・パワーシュートに似てねェ?」
「こりゃ《松葉崩し》だぞ?結構メジャーな体位だ」

 アルメドレール・パワーシュートというより、失敗してクロスする形にぶつかったみたいな体勢だ。その場合はさぞかし痛かろう。

「え〜?んじゃこれは?腕の鍛錬じゃねーの?」
「ああ、こりゃ《押し車》だ」

 受け手が腕立て伏せをした状態で、突っ込む方が背後から、両足を抱きかかえながら挿入して前に進ませるという体位は、確かにセックスしているようには見えない。

「ふぅん。気持ち良いのか?」
「どうだろうな。ただ、この辺は上級者用だ。俺たちにゃ当分無理だろう」
「んなこたねーよ!俺の柔軟性と持久力舐めんなよ!?」

 アホだこいつは。
 普通のセックスでも痛くてひんひん泣いているくせに、いきなり上級者レベルを目指すとは、どんな負けず嫌いだ。

「まあ、その内な。だがよ、何にしてもまずは基本からだ。基本を怠る奴は、後でしっぺ返しを喰らう。初心者用をマスターしてから進むのが道理だろう」
「そりゃそうだな」

 何故か正座してコクコクと頷くコックは、寺子屋にやってきた真面目な生徒のようだ。ゾロも先生になったような気がして、気分を出して眼鏡を整えたりする。

「返事は《はい》だ、サンジ」
「…っ!」

 どうやらツボだったらしい。幾分強めの語調で言ってやると、頬を淡く上気させて瞳を輝かせていた。こういうシチュエーションに弱いのか。

「はい、先生」
「よろしい。良い子だ、サンジ」

 《にへっ》と照れくさそうに笑う顔が良い。ノリの良い奴だ。
 眼鏡マジックだろうか?

「では、まず初級編の《寄り添い》からだ。ここに仰臥位になれ。腰が痛くならねェよう、膝の下に昼寝用の角枕を入れて、リラックスしとくんだ」
「はい、先生」

 寺子屋シチュエーションと眼鏡のセットは効果絶大であるらしい。コックは畏まって仰向けになると、期待に満ちたドキドキ顔で《次はナニかな?》とゾロを見つめている。
とすんと横向きにゾロが添い寝をして、耳朶に唇を寄せるとこちらを向こうとしてきたが、指で制して止める。

「この技は俺が主体になるから、何もせず横たわっとけ。てめェが主体の技もあっから、指示を待て」
「はい、先生」
「感想は素直に口にして良いぜ。その方が興奮して、次の技に移行しやすい。上手くすりゃあ、男でも自分から濡れることもあるらしいぜ?」
「はい…先生」

 耳朶に甘い低音で囁いてやれば、ぞくりと震えて頬を染めた。

『そういやァ…こいつ、結構感度良いよな?』

 セックスの時には食いつくようにしてガツガツと求めすぎていたが、こうしてゆっくりと触れてみると、改めて感じやすい体質なのだと知る。《寄り添い》は性技というよりは前戯としての役割を持つから、耳朶に甘く囁きかけながらゆっくりと身体をまさぐっていくと、至るところで《ぴくん》と身体が震えた。

「ここ…イイのか?」
「はい…っ…」

 エプロンとシャツの隙間から手を入れて、くにくにと乳首を弄ってやれば、布地越しにも分かるくらいに硬く痼ってくる。噛み千切りそうなくらいに食いついたことはあるが、優しく触れた方が感じやすいのか?コックの瞳はもうとろんとし始めて、心なしか息が早くなっている。

「じ…直に触って貰って良いですか?」
「良いぜ」

 片手の指先で器用にシャツのボタンを外すと、するんと手を突っ込んで指の腹で潰すようにしたり、上下に擦ったり、二指でくにくにと摘んだりする。爪で《カリっ》と先端を引っ掻いてやったら、酷く甘い声で叫んだ。

「ぁあんっ!」
「ヘェ…てめェ、そういう声も出んだな」
「うへェ…か、カマ臭くねェ?」 

 思わずプレイ喋りを止めて、恥ずかしそうに眉根を寄せているから、グルグル眉毛を撫でてやった。

「いや、凄ェ…エロい。やべェな、もうチンコ勃ってきやがった」
「入れるか?」

 大概気が早いな、この男も。
 いや、普段のゾロが挿入を急ぎすぎていたせいか。今までは互いに殆ど服も脱がないまま、尻だけ出させて突っ込んでいたから、《裸で抱き合う》といった一般的なセックスをしたことがなかった。四十八手の書物には女だけではなく男が受け手になる場合の心得も書いてあったが、それは合意の上であっても酷く辛い行状であるらしい。
 いたく反省したゾロは、なんとしてもコックを《気持ちよすぎて啼いちゃう♪》くらいに頑張る気でいた。

「いや、次は《鶯の谷渡り》だ」
「その技はどういうやつだ?」
「これも前戯の一種だな。俺の頭をウグイスに喩えてよ、それがてめェの身体の上を行き来しながら舌先だけで啄んでいくんだ。おら、脱がしてやっから、じっとしとけ」
「あ、図鑑で見たことあるぜ。そういやァてめェと同じ色だな」
「うっせェ、《はい》はどうした劣等生」
「はい先生〜」

 《にへへ》と笑いながら自分で脱ごうとするのを止めると、ゾロが脱がせて、ロビンから《好きに使って》と渡された紅色の長衣を羽織らせる。丈が長い薄布なので、紅襦袢のようだ。いつものスポーツタイプのトランクスを脱がせると、下着も渡されていた細身の紐パンに変えてやる。

「なんか特殊な服なのか?良い匂いするなァ」
「馴染んできたら《乱れ牡丹》もやりてェからな、着とけ」
「それはなんか綺麗な響きだな。てめェの技みてー」

 《鬼斬り》《鷹波》《乱れ牡丹》確かに違和感はない。
 迸る鮮血が牡丹のように舞い散る技でもやってやろうか?

「ここは鏡もあるから、よく見えるだろうぜ。楽しみだ」
「え?鏡でナニすんだ?」
「俺が座ってる上に、てめェが後ろ向きになって自分から挿れてくんだ。ずぶずぶ入ってく様子が俺には肉眼視できるし、鏡を使えばてめェにもよく見えるって寸法だ。入ってく様子を実況中継しながら耳元に囁いてやると、相当興奮するらしい」
「……っ!そ、そりゃあ高度な技だな…」

 真っ赤になって尻込みするコックだったが、エロい想像をしたのか白い紐パン越しにも花茎の先端が濡れてきたのが分かる。流石ロビンセレクト…剥き出しよりエロい。

「いきなり劣等生にゃ厳しいかもな。今日着せちゃみたが、また今度の方が良いか?」
「いんや、絶対今日出来るようになってやるっ!」

 《くわっ!》と凄む負けず嫌いなコックを横たわらせて、両脇に腕をつくとゆっくり顔を沈め、まずはスタンダードにキスから始める。

「ん…」

 そういえば、そのスタンダードとやらを殆どやっていなかったような気がする。初めてヤった時などいきなり後背位を取らせたから、キスをしたのは3回目のセックスが初めてだった。その時もコックからねだってきた。それでやっと、安全な相手とは正面から向かい合ったり、キスをしても良いのだと気付いたくらいだ。

 コックはキスが好きらしい。いつもはすぐに切り上げるのだが、悦んでいるらしいので丁寧に書籍でみた手順を踏襲していくと、大胆なことに長い脚をゾロの体幹に絡ませて、股間を擦りつけるようにして腰を揺らめかせた。

「いやらしい動きしてんなァ…。エロい奴」
「い…嫌か?」
「いいや、大好きだ」

 不安そうに顰められた眉根に音を立ててキスをしてやると、嬉しそうに《にへっ》と笑う。こういう顔も良いが、そろそろ淫らに濡れた瞳も追求してみたい。
 ゾロはオトガイの髭もさりさりと舌先でなぞると、耳孔にも舌先を入り込ませて、わざと淫らな水音を立ててコックを興奮させた。

「ぁ…あっ…!」
「劣等生じゃねェな、確かに。てめェ、感度良いぞ」
「ホントか?」
「おお、ここ…どうだ?」
「ひィんっ!」

 すっかり硬く痼っていた乳首を咥内に含み込んでやると、それだけで甘い声があがる。胸筋ごと咥内に吸い上げて、先端をちるちると執拗に弄ってやれば、堪らないのか嬌声をあげて身悶えし、自らもう一方の乳首を弄り始めた。

「我慢できねェか。へへ…意外とやらしい身体してんな」
「う…」
「褒めてんだぜ?おら、こっちも舐めてやんよ」
「んっ…!」

 ぬるぬるになった一方は指で弄りながら、もう一方の乳首も丁寧に吸い上げ、甘噛みしてやると、コックの声も艶やかなものに変わっていく。下の方を見やれば、今までゾロが挿入したときには萎縮しきっていた花茎も、今はとろとろに濡れて下着の色を変えながら、腹を打たんばかりに勃起しきっていた。コックの手がそろそろと伸びて花茎を弄ろうとするが、敢えて止めると、耳元に囁いてやった。

「自分でやりてェか?」
「う…っ…そ、そりゃあ…男の生理だろ?」
「別に責めてねェよ。どうせなら前戯の一種として、俺に見せてくれりゃあ良いと思ってるだけだ。ついでに、俺も《立ち花菱》してやっから」
「何ソレ?」
「腰にクッション入れてよ、割れ目にクンニしてやることだとさ」
「俺にそういう器官ねェからっ!」
「気分だ、気分」

 そう言うと、エプロンのポケットに入っていたローターを取りだしてローションでたっぷり濡らし、コックの手に握らせてやる。そしてコックの腰の下に硬い合皮のブロックを入れてやると、股間が良く見えるように合わせ鏡を3台配置した。これでコックにも自慰シーンがよく見えるはずだ。

「目は閉じるなよ?よーく見ながらやった方が興奮するからな」
「う…うん…」
「まずは下着越しだ」

 こくんと頷いて、コックは震える手で花茎の先端にローターを触れさせる。まだ一番小さい微振動しか発生させていないが、それでもコックにとってはかなりの刺激だったらしい。《ぴゅぐっ》と溢れた先走りで、一気に下着の色が変わった。その様が鏡写しで丸見えなのがまた良かった。紅襦袢のような薄布の間に真っ白な脚があって、その中心でピンク色の花茎が下着を押し上げる様は、なんとも言えず淫靡だ。

「鈴口に沿わせて、ゆっくり動かしてみろ。そうだ…上手いぞ」

 褒めながら大きく脚を広げさせ、感じすぎて浮き掛けた腿に舌を這わせてやる。つつつ…っと舌先を伝わせて、下着からはみ出した小袋をちゅるんと咥内に含んでやったら、弾かれたようにコックの腰が上がった。

「ぁあんっ!」

 ふぐふぐと小袋を咥内で転がしたり、下着越しに裏筋やカリ首を舐めてやったり、蕾の皺を伸ばすようにくりくりと舌先を挿入してやると、コックはローターを擦りつけるピッチを早くして、《はっはっ》と発情期の雌犬みたいな声を漏らし始めた。頂点が近いらしい。

 もっと焦らすという手もあるが、コックがこんなに気持ちよさそうにしているのは初めてだから、最初の一回くらいはこのまま開放してやっても良いだろう。ローターは小袋の方に移動させて、つるんと下着をずらして花茎を剥き出しにすると、できるだけ大きく咥内に含み込んでやって、激しく上下運動を加えた。

「じきにイくか?」
「も…少し…あ、キた…凄ェ…ぁっ、あっ…気持ちイイ…こんな、あ…初めて…っ!」

 かなり意識が飛んでいるようで、口角からはたらたらと涎が溢れている。快楽に我を忘れているなんて初めて見たから、ゾロの方まで激しく興奮してきた。もはやチンコはパンパンで、湯気を上げそうな勢いでニッカポッカを圧迫している。

「目は閉じずに、しっかり見とけよ?てめェ史上初の体験だろう?」
「ひァああああ……っ!!」

 《じゅっ!》と強く吸い上げたら花茎が放出を始めたので、咄嗟に頭をどかせて股間を剥き出しにしてやる。M字に大きく開脚されたそこから濃いピンクの花茎が勃ちあがり、先端から夥しい量の精液を噴出させる様子に、コック自身が驚いたようだ。かなり飛んだ飛沫は、《ビシャ!》と床面や鏡まで白く濡らした。

「ぅわ…凄ェ、俺…ビュービュー出てる…。ぁ…滅茶苦茶、気持ちイィ〜…」

 本当に気持ち良さそうだ。イきまくってローターを持つ手も緩んでしまったから、床に転がったそれが《ブブブ…》と微振動を繰り返していたので、コックの呼吸に合わせて微かに開閉している蕾に押し当ててみると、《ちゅるん》という感じで意外にすんなりと入ってしまった。

「わっ!?」
「ちっせェから大丈夫だろう。挿れたまま、今度はてめェ主体の技をやってみろよ」
「う〜…な、なんか気になんだケド…。なにすりゃイイ?」
「《雁が首》だ。四つん這いになって、さっき俺がしたみてェに俺のチンコや陰嚢の裏まで丁寧に舐めていけ。んで、その様子を鏡で見ながら、俺が実況中継すると」
「俺のケツも…見えちゃうわけか」
「ああ。てめェの尻が揺れて、もどかしそうになったらローターからバイブに切り替えるんだ。入ってく様子も見ながらな」
「ぅわ〜…」

 期待と不安の入り交じった貌で、コックはそわそわと落ち着かなげに腰を揺らしている。入れられているローターの感触も気になるらしい。先ほどは紐パンをずらしただけだったから、再びその尻はちいさな布地に覆われていたが、ぐっしょりと濡れているから蕾もコードも丸見えだ。

「初心者にいきなり多くを求めちゃいけねェか?」
「…やる」

 面白いくらいに単純な男だ。煽れば簡単にノってきた。



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