錯誤の夜 9

「くおらクソゴム!!手洗ってから食え!」
今日もキッチンから怒号が響く。

「サンジ〜、ゾロが起きないー。」
「ったく、しょうがねえなあ。ウソップ火薬星!」
「お、おおお俺にはゾロを起こしてはいけない病が・・・」
タオルで手を拭いてこそこそ逃げようとするウソップの背中を軽く蹴り飛ばして、サンジは甲板に出た。
日が暮れて結構涼しい甲板に、のんびりと寝転がって惰眠をむさぼる剣士をまじまじと眺める。

あー・・・だから、腹巻がいるんだな。
ぼんやりとそう思ってから、脇腹に一発。
ぐおう、と蛙の潰れたような声を出して蹲る男を置いて、さっさとキッチンに引っ込んだ。



結局あれから、ゾロは万年寝太郎に戻ってしまった。
起しに出向くまで居汚く寝て、喰って、又寝るの繰り返し。
ナミは悪態をつきながらも、言及はしないし、ウソップは元通りになったなと単純に喜んでくれている。

元通り―――――
違うだろ、と薄く笑うサンジの口元は、歪んでいる。







賑やかな食事を終えて、見張りのルフィがマストを登る。
ウソップとチョッパーは男部屋に引っ込み、ナミとロビンも今後の進路を相談してから部屋に引き上げた。



明日の仕込をするサンジの後ろで、軽いつまみを肴にゾロが酒を飲んでいる。
ほんの一週間前と同じ日常。
変わらぬ夜。
食べ終えた皿を持って近づく気配に、サンジは身を硬くした。

背後に立ち、腕だけ伸ばして皿を置いたゾロは、肩越しに覗き込むように身体を近づける。
「おい。」
話し掛ける息が首筋にかかって、サンジは総毛立った。
「格納庫に、来ねえか。」

誘っているのか、お願いしているのか、命令なのか。
どれともつかない声音に、サンジは困惑した。
手を止めて首をめぐらしたサンジの唇を、そっと掠める。
軽く触れるだけのキスを残して、ゾロはその場を立ち去った。



恐らく彼はそのまま格納庫で自分を待つ。
サンジはシンクに手をついて、崩れ落ちそうな自分を支えた。

この期におよんで何を今更、か―――
怯えて竦む自分を叱咤する。

選んだのは俺だ。

この船に残るということは、ゾロに抱かれるということ。
あとくされのない、妊娠しない、都合のいい相手として性欲処理に付き合うということだ。
今までの付き合いも、仲間達のことも自分の気持ちも、全部天秤に掛けて選んだ道だ。
今更後悔などしない。

サンジは皿を片付けてエプロンを外した。










重い格納庫の扉を開けると、差し込んだ光にゾロのピアスが反射して光った。
ご丁寧に毛布も敷いてあったりして、サンジは笑ってしまった。
部屋の隅に点されたカンテラの光が、闇に溶けるゾロの顔を浮かび上がらせる。
なんとも形容しがたい、強いてあげるなら嬉しそうな、顔だ。
獲物を捕らえる肉食獣が人間になったら、こんなんだろう。
邪気がなくて、容赦もない。

伸ばされた腕が、サンジの手首を掴んで引き寄せる。
片膝をついて、ゾロの正面に顔を寄せた。
灯りを受けて金色に光る瞳に吸い寄せられる。

俺はこの男が好きだった。
曇りのない目で前だけを向いて、迷いのない太刀を振るう、この男が好きだった。
多分、今でも好きなのだ。

無視されて嫌われて、腹が立つより哀しかったあの時のことを思えば、こうして真正面から見てくれる瞳を
単純に嬉しいと感じる自分に反吐が出る。

ゾロの目に映る俺は、もう違ったものなのに―――――

掴まれた腕から、ゾロの興奮が伝わる。
性的な匂いをさせて、ゾロではない男がサンジに顔を近づけた。
大声で叫びたい衝動を抑えて、サンジはゾロの口付けを受けた。









唇を食むように吸い上げると、息苦しいのか僅かに身を捩る。
開いた口元から舌を差し入れて口内を探る。
サンジの口中は乾いていて、舌で擦る度に染みとおるように熱が伝わるのがわかった。
余すところなく味わいたいと、思う。
仰け反る身体を抱きしめて、ただ無心に貪った。
強引な口付けを制する腕を擦ると、強張って堅い。

緊張しているのか。
処女を抱いたことはないが、処女のようだと思う。
恐れているのかもしれない。
この間、ひどい抱き方をしたから。

あれはレイプだったと、今でも悔やまれる。
嫌がるこいつを力で捻じ伏せて、暴力で打ちのめした。
他の男に抱かれた後で、性欲なんかかけらも残っちゃいなかったんだろうに。
その時の光景がまざまざと蘇り、ゾロの胸中はどす黒いもので覆われる。
醜い、嫉妬だ。

ゾロはサンジの身体をかき抱いた。
折れるほど強く。
サンジは苦しげに息を吐いたが、逃れようとはしない。
コックは俺の腕の中にいる。
あの男より俺を選んだ。
だからもう俺は二度と、コックを傷つけないと誓う。
シャツを開いて、その肌に所有のつもりで印をつけた。
色素の薄い肌は、軽く吸っただけでたやすく染まる。

首筋に、鎖骨に、肩に、腕に――――――
なだからな胸に舌を滑らせ、突起を捉えた。
サンジの身体が小刻みに震えている。
乳首を甘噛みしながら床に投げ出された白い腕を撫でた。
堅く握り締められた拳もやはり震えて、血の気を失っている。
ゾロの手で包み込むように撫でても、強張った指は解れることなく、氷のように冷たい。
何処に触れても、帰ってくるのはひやりとした感触。
もともと体温が低いのか、ゾロの熱が高すぎるのか。

バックルを外して手を滑り込ませた。
驚くほど柔らかな繁みの手触りを楽しむ。
サンジがぴくりと身体を揺らして、ゾロの肩に手をかけた。
震えが大きくなっている。
ゾロはゆっくり包み込んだ。
萎えたそこは竦んだように縮み上がっている。
やはり、怖いのか。

身を起したサンジの乳首を舌で捏ね回しながら、根気よく下腹を擦った。
わき腹を撫で上げ、鎖骨を辿り、時折口付けて背中を擦る。
ゾロの熱を伝える度に、少しずつ手の中でサンジが堅くなっていく。
食いしばった歯の間から、吐息のような声が漏れた。
何故、我慢するのかと思う。

強張った身体を床に横たえて、ゾロは立ち上がりかけたサンジ自身に唇を這わせた。
途端に悲鳴のような声が上がる。
いきなり激しい抵抗を見せたサンジを体重を掛けて床に貼り付けて、ゾロはサンジ自身を咥え込んだ。

「―――――ばかや・・・ろ――」
両手で顔を覆って、身悶える。
それとは裏腹に、温かいゾロの口内で反応したそれは徐々に首を擡げた。
「余計なこと・・・してねえで、さっさと突っ込めっ・・・」
絞り出される声を無視して、丹念に舌を這わす。
鈴口を指の腹で擦ると、大仰に身体が跳ねた。
ゾロの髪を掴んでしがみ付いてくる。

「―――もう、やめろ・・・」
昂ぶりを扱きながら、後孔に指を這わした。
サンジの身体が硬直する。
「力抜け。」
がくがくと歯が鳴った。
身動きできない恐怖と貫かれる痛みがフラッシュバックする。

足を突っ張ったまま固まっているサンジに、ゾロは軽く舌打ちして隅に置いてあった瓶を手にとった。
いつの間に持って来たのか、キッチンにあったはずのオリーブオイルを掌に足らす。
―――なるべく負担は掛けたくねえ。
目を見開いて呆然と見ているサンジの膝を立てさせて、秘部に塗りこむ。
感触に驚いたのか、小さく悲鳴をあげて腰を引いた。
それ以上逃がさず、がっちりと押さえつけてたっぷり塗りこめる。
流石に最初のときより格段に滑りが良く、楽に扱えた。
時間を掛けて丁寧に解していく。

サンジの額にうっすらと汗が浮かび、吐息が掠れてきた頃、ゾロはゆっくりと挿入した。
それでも漏れる悲鳴が響かないよう、サンジは己のシャツを噛み締めて、耐える。

ゾロはその白い身体に爪が食い込むほど押さえつけて、ひたすら腰を振った。
サンジの金髪が床に散り、伸ばされた手が救いを求めて宙を掴む。
その手に指を絡めて抱き込んだ。
耳朶を噛み、背中に歯を立てる。

こいつは誰にも渡さねえ。
俺だけが抱いて、俺だけで満たしてやる。




果てる直前、くぐもった声でサンジはゾロの名を呼んだ
  ―――――気がした。


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