錯誤の夜 6

「よお、早いな。」
ごく自然にさらりと、自分でも驚くほどさりげなく言葉が出た。
ゾロが目の前で、少し驚いた顔で突っ立っている。

「飯はもう、食ったのか。」
サンジは煙草を咥えたまま、片付け終えた戸棚を閉める。

たった今、朝食を済ませたウソップが街に帰り、入れ替わるようにゾロが現れた。
すっげータイミング。
予想より早いゾロの登場に、動揺しているのを見透かされないように、サンジは静かに煙を吐く。
答えないゾロにそれ以上尋ねず、サンジはエプロンを外した。

「じゃ、もう交代していいんだな。」
黙って、ゾロの返事を待つ。
だが訪れるのは沈黙だけで・・・。
―――やっぱり、会話もなりたたねえかよ。

きちんと話し合おうと思った気が、挫けそうだ。
灰皿で煙草を揉み消したサンジは、ゾロの顔も見ずに部屋を出ようとした。

「待てよ。」
ゾロが口を開いた。
サンジが弾かれたように振り向く。
ゾロから声を掛けられた。
それだけで少し嬉しかったから。

「隣に随分でかい船が泊まってるな。あれは大丈夫なのか。」
「ああ、あれは商船だ。出かけにお宝貰って行くのもいいかもな。」
サンジはさりげなく答えた。
できればもう、あのおっさんとは会わずに、早々に出航したいが。
「一人で船番してたのに、あんな船着いたらビビっただろ。」
「ばか言え、俺がビビるかよ。」

サンジは浮かれていた。
以前のように、普通にゾロに話し掛けられて、油断していた。

「嘘、つくなよ。」
ゾロの声のトーンが変わった。
その表情が険しくなったことに、サンジはようやく気付く。
「てめえは夕べ、船番してたのかよ。」
言ってる意味がわからなくて、答えられない。
「夕べここに泊まったのはウソップだろうが。てめえ何処に行ってやがった。」

いつの間にか、鼓動が早くなってきた。
視線をせわしなく漂わせて、サンジは煙草を取り出す。
咥えながら笑ってみせた。
「なんだ・・・知ってんのか。確かにウソップに代わってもらって、街で泊まったんだ。」
何もやましいことは、していない・・・こともない。
ゾロの視線が痛くて、マッチをする手が小さく震えた。
「女んとこか。」
「決まってんだろ。聞くなよ、んなこたあ。」
背を逸らせて、大きく吸い込んだ。
落ち着け。
落ち着け、俺。
「嘘吐くなってんだ。男だろ。」









今度こそ、心臓が止まるかと思った。
煙草を持つ指が震えている。
真横に立つゾロの顔を、見ることができない。

「関係ねーだろが、いちいちてめえに報告する義務はねえ。」
ようやく発した言葉は、ゾロの逆鱗に触れたらしい。

耳に強い衝撃を受けて、気がついたら床にひっくり返っていた。
殺気をみなぎらせて、凶暴な目をした男が見下ろしている。
サンジは張られた頬を抑えて身を起した。
口の中が切れて、鉄臭い味が広がる。
「何、しやがる・・・」
ぐいと襟元をつかまれた。
きっちり締められたネクタイごと引き上げられて首が絞まる。

「なんで嘘、吐きやがった。」
怒りを孕んだ低い声に、身が竦んだ。
「・・・く・・・」
うまく呼吸ができず、力任せに正面のゾロを蹴り上げた。
かわされたが、手が離れたのを幸いにネクタイを緩める。
軽く咳き込んで、ようやく呼吸を取り戻した。
「てめえに、関係ねーだろうが。」
座り込んだまま壁にもたれて、サンジはうな垂れた。
ずっとシカトしてきて、面も見たくねえほど嫌われたのに、なぜ今更とやかく言ってくるのか。
訳がわからない。
「俺が何処で何しようが、てめえには関係ねえだろ。」
きっと下から睨みつける視線を受けて、ゾロの瞳に凶悪な光が宿った。

サンジの横腹にゾロの蹴りが入る。
もんどりうって倒れた背中に、更に一発。
床に散った金髪を鷲掴んで、引っ張った。
「――――っ!」
あまりの痛みに声も出ない。
無理矢理向かせられた顔を、ゾロが覗き込んだ。
「・・・なに、しやがる―――」
ゾロの顔は恐ろしく冷たい。

殺られる―――
サンジは本能で察した。
何故か知らないが、今ゾロは自分を殺したいほど憎んでいる。

だがその目線がサンジの喉元で止まって、表情は更に歪んだ。
乱暴にネクタイを千切り、シャツを引き裂く。
「な、に――――」
唐突な展開に頭がついていかない。
ロクに抵抗もできないまま、床に押し付けられた。

ゾロの腕の下で、露になった白い肌には無数の赤い跡が散っている。
ようやくそのことに気付いて、サンジは呆然とした。
「随分、お楽しみだったらしいな。」
ゾロの口元が歪んでいる。
その視線に耐えられなくて、サンジは激しく抵抗した。
無我夢中で足を上げ、腕を振った。
だが、がっちりと押さえつけられた身体は思うように動かず、蹴りさえも繰り出せない。
何回か平手で殴られ、鳩尾に拳が入れられた。

何故ゾロがこんなに怒るのか、わからない。
俺のことが嫌いな筈なのに。
顔も見たくないほど、嫌われてたのに。

ぐったりと動かなくなったサンジのバックルに手をかけ、スラックスをずり下げる。
サンジは信じられない思いで目の前のゾロを見ていた。
こんなことが、あるはずがない。
こんなことをするはずが無い。
ゾロが――――

むりやり膝を折られて、秘部が曝された。
「くそ、見んな―――」
ゾロの視線を感じて、サンジは両手で顔を覆う。
サンジが気付かない部分にまで、男の痕跡が残されている。
太腿にかけたゾロの指が、力を込めて食い込んだ。

「・・・ゾロ――!!」

目を覚ましてくれ。
こんなことするのは、ゾロじゃねえ。

後孔に当たる感触に目を見開いた。
ゾロが猛々しい己を押し付けている。
「やめろ!無理だ」
叫ぶ口を押さえつけられ、無理矢理捻じ込まれる。
昨夜の指とは違う質量に、全身の毛が総毛だった。
身を裂かれる痛みに身体が強張る。
「・・・ひ――――」
ゾロの指の隙間から声が漏れた。

固く閉ざされた秘部に拒まれて、ゾロが舌打ちする。
夕べは男を咥え込んでおいて、俺を拒否するのか。
指を捻じ入れて、抉じ開ける。
サンジの叫びが大きく響いた。
「痛えっ・・・やめろゾロ・・・やめて―――」
酷く狭いそこを怒りに任せて突き入れる。
サンジの背が撓って、足が痙攣した。
「――――ひぃ、ぃ・・・イヤ・・・だ」
泣き喚くサンジの髪を掴んで、何度か床に叩きつけた。
ぐったりとした身体を抱えてがむしゃらに腰を振る。
己の痛みにも耐えて何度か突き入れるうち、ぬるりとした感触が伝わった。
無理な挿入に切れた部位から出血したお陰で、滑りが良くなって行く。

ぐちゃぐちゃと音を立てながら、抽挿を繰り返す。
仰向けに横たわったサンジは、目を見開いたまま涙を流しつづけている。
その視線はゾロを捉えることもなく、縋りついた爪は床を掻き毟っていた。
抵抗の無くなった身体を抱え込んで、ゾロは更に深く己を打ち込み、その最奥に精を放った。














荒い息をついて、ゾロは身体を起こした。
まるで糸の切れた人形のように、ゾロに抱きしめられたまま、サンジは動かない。
ずるりと引き抜くと、白濁とした液と大量の血が足の間から伝い漏れた。
その惨状を見ているうちに、ゾロに冷静さが戻ってくる。

俺は―――
 なんてことを・・・

頭に血が上って、とんでもないことをしでかした。
サンジの身体に残った男の痕跡を見て、逆上した自分が、信じられない。

『だから、あんたはバカなのよ。』
唐突にナミの言葉が甦る。

「おい。」
力なく横たわるサンジを、そっと揺すってみる。
焦点の合わない目線を漂わせて、放心した身体を抱きしめた。
反応は無い。

ひでえことをした。
猛烈に後悔の念が押し寄せる。

サンジがどこで誰と、何をしようと関係が無い筈なのに。
自分にそこまで干渉する権利は無い筈なのに。

俺は、バカだ―――――
ナミに言われるまでもなく、とんでもない大バカだ。

今ごろ自分の気持ちに気がつくなんて。




ゾロはサンジをそっと横たえて、身を整えた。
ともかく、サンジを何とかしなければ。
取り合えずシャワー室にとキッチンを飛び出して、人の気配に気付く。


GM号の下に、大柄な男が立っていた。


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