再生 1

「俺、寝れねーんだけど。」






ふわりと煙草の匂いを漂わせながら、サンジが頬を近づける。
間近で囁かれて、ゾロは面倒臭そうに顔をしかめた。

「チョッパーに言って、クスリ貰って来い。」
「効かねーよ、あんなんじゃ。」

チョッパーが聞いたら、ショックで泣き出しそうなことを平気で言う。

「なら、どうすんだよ。」
不必要に身体を摺り寄せるサンジを無碍にもできず、ゾロは仕方なく身体を起こした。




「俺と、やろうぜ。」


蒼い月明かりの下、白い顔が屈託なく笑う。





















サンジは、一応コックと言う事でゾロが連れて帰った。
少々危なっかしい手つきではあったが、味の良い料理を作って見せて、仲間達はサンジを歓迎した。
名前はサンジ。
職業はコック。
それ以上のことは、ゾロ以外誰も知らない。



「料理の練習とかしてる時は、気が晴れるんだけどよ。」
どこか他人事のように、サンジは自分を語る。
「クスリ飲んで寝てるとき以外は、大抵誰かとやってたからよ。落ちつかねーんだよな。」
「妙なとこで商売っ気出すんじゃねえ。そのうち島に着くから、陸で女でも買って来い。」

寝入り端を起されて、普段以上に仏頂面のゾロにもサンジは臆することはない。
「レディに突っ込んだくらいじゃ、イかねえよ、俺。」
女に免疫がないせいか船に乗り込んだ途端、ナミとロビンには過剰に反応していた。
そのくせ、こういうことはさらっと口にする。

「この船ガキばっかなんだよな。お前しかいねえじゃねえか。」
「生憎、俺には男を相手にする趣味がねえ。」
他を当たれと少々邪険に追い払うと、サンジは大仰にため息をついてみせた。
「しょうがねえな。ルフィに頼むか。」
「ちょっと待て!」
さすがにゾロも慌てる。
「なんでそこでルフィなんだ。」
「他にいねーだろうが。ルフィなら嫌がらねーんじゃねえかと思うし。」
確かにそれはありえる。
あいつは面白そうなことはなんでもやりそうだ。
うううと詰まったゾロを見て、サンジはにかりと白い歯を見せた。

「やっぱ、拾い主が責任とって面倒見なきゃな。」



















狭い船の中でプライベートな場所などあるはずがなく、二人して格納庫に潜む。

「言っとくけど、金はねえぞ。」
「金なんかとらねーよ、ばーか。」
商売抜きだぞと、ゾロは念を押す。

自分からシャツのボタンを外し始めたサンジの顎を掴んで、上向かせた。
「キスは許してねーんだけど。」
「だから、商売っ気出すなって・・・」
あ、そうかと声に出した呟きを浚う。

軽く啄ばむように口付けて、首を傾けた。
態度とは裏腹に、サンジの動きはぎこちない。
何度か角度を変えて深く唇を合わせると、おずおずと舌を差し出してきた。

ボタンを外す手が止まっている。
舌を絡めながら、肌蹴たシャツの間から手を滑り込ませた。
滑らかな肌はしっとりと吸い付くような感触で、ゾロを楽しませる。
サンジはゾロの身体をかき抱いたまま、床に横たわった。

白磁に唇を落として赤い印をつける。
既に悦びに芽を出した胸の飾りに歯を立て、指で揉みしだく。
ゾロを見つめるサンジの瞳は蒼く潤んで、唇から赤い舌がちろりと覗いている。





――――掴まるかもしれねえ。


恐れに似た不安が、脳裏を過ぎった。

心の奥で、警鐘が鳴る。

いまならまだ、引き返せる。



だが、ゾロの身体はもう止まらなかった。














ぴちゃぴちゃと、はしたない水音が部屋に響く。

股間に顔を埋め、舌を絡めたまま見上げる目つきに刺激されて、ゾロは暴発寸前の己から
むりやり引き剥がした。

赤黒く怒張したモノを愛しげに握りこんで、サンジは熱く蕩けた自分の中に誘った。
すんなりと受け入れたそこは吸い付くように収縮を繰り返し、ゾロを絶頂へと追い詰める。
「――――、っくしょう・・・」
額に青筋すら浮かべて抽挿を繰り返すゾロに、サンジが足を絡める。

激しく揺さぶられながら、熱い胸板に走る派手な傷跡を指で辿って爪を立てた。
「ゾロ・・・いいっ―――」
身を起して太い首にすがり付く。
「・・・お前、つええ・・・」
サンジの痩躯を抱えたまま、ゾロは夢中で腰を打ち付けた。
「――――くそ、限界だ・・・」
「ん・・・俺も―――ー」

イく寸前、首に齧り付いたサンジの髪を掴んで、その唇に噛み付いた。
うめくように喉から漏れる声を呑み込む。
サンジは数度身体を痙攣させて、密着したゾロの腹に白濁した液を吐き出した。
収縮を繰り返すサンジの中で、ゾロもその最奥に己の精を放つ。
快感に目の前が白くなり、放出は長かった。









背を撓らせて床に寝そべったまま、サンジは荒く息をついている。
顔を少し傾けて、呆けたように一点を凝視している。

ゾロは身体を繋げたまま、サンジの腕を取った。
かつてないほどの絶頂を迎えながら、まだ熱が引かない。

その腕を握り返して、サンジは視線を外さないまま独り言のように呟いた。

「―――な、あれ。使って」

格納庫の隅に、中途半端な長さのロープがまとめて置いてある。
サンジの意図を察して、ゾロはずるりと己を引き抜いた。

腕を伸ばしてロープを手にとる。

「こういうのが、イイのか。」
サンジの顔は笑いで歪んでいる。
その瞳には悦びとも怯えともつかぬ光が見え隠れして、表情が読み取れない。

「ね、縛って・・・」

まるで熱に浮かされたようだ。
男を抱く趣味も、好きで傷つける嗜好もないはずなのに、酷く気分が高揚している。
自分の行為を現実と思えないまま、サンジの腕を取った。



「酷くして、いいぜ―――」






愉悦に歪む唇から、赤い舌がゾロを誘う。



















それから、サンジが眠れないと誘う度に、ゾロは身体を重ねた。
虜になる気はなかったが、誘われる限り、断る理由もない。

ただ、サンジの異常とも言える性癖に応える自分に嫌気が差していた。
もともと加虐心が強い方ではない。
望まないことをやらされているという事実がゾロを酷く不快にさせる。

それでも、サンジの誘いを断れないのだ。


――――掴まっちまったか。


行為の後、傷ついたサンジを抱きしめて、やり場のない思いが込み上げる。
けして快楽だけではない顔を見せながら、サンジはゾロを求めることをやめない。









サンジの要求がエスカレートしていく。
























「ん〜、サンジ君。このパイ絶品v」
「やっぱ焼きたてに限るよなあ。」

ナミの賞賛の声に、サンジが目をハートにして身悶えた。
「ありがとうございますv 俺もナミさんのお口でさくっと砕けるパイになりたいv」

ぺらぺらとよく廻る口だ。
サンジの女に対する過剰な反応にはもう慣れたが、それでも夜のサンジを知っているゾロには、奇異に映る。

どっちが本当のてめえだよ。
女に優しく男に容赦ない、乱暴で繊細な働き者のコックか。
異常な快楽を求める、貪欲な淫乱か。




「こう言うと失礼だけど、短い期間に腕が上がったわね。」
「お褒めに預かり、光栄です。」
ロビンの言葉に鼻の下を伸ばしている。

「訳あって、コックの仕事から離れてましたんで、正直キッチンに立つのは自信がなかったんです。」
女に対してはえらく素直に言葉を紡ぐ。

「そうなのかあ、それにしちゃ美味い飯つくるな。」
「でも時々指切ってるぜ。昨日もよ・・・」

サンジはお茶を置くついでにウソップの頭をゴンとトレイでどついた。

「サンジ、怪我したのか。俺に見せてみろ。」
飛んで来るチョッパーを手で制した。
「生憎、チョッパーには出番がねえ。」

開かれた白い手には、どこにも傷など見えない。
「れ?っかしーなあ、確かに夕べざっくりやってたじゃねえか。」
押さえた傷口から血が流れるのをウソップは見ている。

「俺は傷が治るのが早いんだ。傷跡も残らねえ。」
へえ、とチョッパーが目を丸くした。

「羨ましいわねー。」
ナミが素直な声を上げる。
「お肌に傷が残らないなんて、何、悪魔の実でも食べたの?」
「いや多分体質で・・・俺、泳げるし。」
身を乗り出してサンジの手をこねくり回すナミに、困惑している。
「あーん、うらやましー・・・私もそうなりたい。」

「えー、でも痛えんだろ。」
ウソップも傷一つないサンジの手を、ナミと一緒にまじまじと見ている。
「痛てえよ。」
「なら、同じ事じゃねえか。」
「同じじゃないわよ。まあ、傷は男の勲章だとも言うけどね。」



「傷が残らねえのは、さびしいな。」


唐突なルフィの言葉に、みな一斉に振り返った。
「さびしいって、柄にもないこと言うわね。」
「おかしいか?じゃあ、かわいそうだ。」

サンジの瞳が伏せられる。

「ちょっとルフィ、いくらなんでも失礼よ。」
知らず、ナミの口調が固くなる。
「そうか、わりいな。でも傷が残るのは、悪いことじゃねえぞ。」
真っ直ぐに前を向くルフィの目元には、深い傷が残っている。
ゾロは無意識に、自分の胸に手を当てていた。


――――傷が残らねえのは、かわいそうだ。

ルフィの何気ない言葉が、やけに胸に響く。

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