Sacrifice 7

「ああそうだよ。てめえの考えなしの行動のお陰で、とばっちりくった彼女の代わりに犯られたんは俺だよ。そんで納得してすっきりしたかクソ野郎っ」
サンジは勢い込んで椅子に腰掛けると足を机に投げ出してふんぞり返った。
「まあ幸いレディの身体だったしよ、色仕掛けが通じたんだよ。はっ、てめえにも見せてやりたかったぜセクシーダイナマイトな俺様を」
けけ、と笑い煙草に火をつけた。
仰向いてふうと盛大に煙を吐き出す。

「だからよ、てめえが責任感じる心配なんざ、これっぽっちもねえの。な、だから初めから俺が言ってやってんのに、ったく聞きやしねえ。挙句、彼女を捕まえて責任取るって迫ったって?はは、お笑いだぜ。」
なにがおかしいんだか、サンジは肩を揺らして笑い続ける。
ゾロは無言のままベッドから降りるとその横に立った。
だらしなく半分ずり落ちた姿勢のままで、仰向けに凭れたサンジの身体がわずかに緊張した。
気付いていて、ゾロはそのまま手を伸ばし、頭を掴もうとする。

瞬間身体が跳ねて、投げ出した足が唸りを上げてゾロの頬を掠めた。
紙一重で避けて後退するゾロに間髪入れず回し蹴りが入る。
それを片手で受け止めて、ゾロは状態を低くしサンジの腹に拳を入れた。
寸前で身体を引いたサンジは、それでも腹に受けた衝撃にふら付きながら飛び退いて距離を取る。
派手な音を立てて倒れた椅子を挟んで、睨み合った。

「なんのつもりだ。」
「てめえこそなんだ。なぜ逃げる。」
「誰が逃げるか、クソマリモ!」
サンジはゾロを睨みながらポケットを弄って新しい煙草を取り出した。
その間もずっと、ゾロから視線を外さない。
ゾロが一歩近寄れば、じり、と下がった。
「逃げてんじゃねーか。」
「逃げてねえよ。それよりてめえ、俺に詫びろオラ。」
だん、と足を踏み鳴らしてゾロが真っ向から突っ込んできた。
顎を狙って蹴り上げる足を両手でブロックする。
そのままサンジの胸に頭突きをかまして肘で首元を抑えた。
勢いで吹っ飛ばされて後ろの壁に激突する。
後頭部も激しく打ち付けて視界がぶれた。
頭を抱えてうめきながらずるずるとしゃがみ込むが、ゾロはそれを許さず首元を掴んで無理矢理引っ張り
上げる。
壁に手をついて踏ん張って思いっきり向こう脛を蹴った。
さすがに効いたのか、ゾロが顔を顰めてサンジを睨み付けると低く唸り声を上げながら痩躯を引き倒した。

視界が反転して気がつけば床に押し倒されていた。
首元を押さえつけたままゾロが馬乗りに圧し掛かっている。
事態を把握する前に、サンジの身体に戦慄が走った。
全身の血が逆流したみたいに目の前が真っ赤になって、汗が噴き出した。
総毛立ち、肌が粟立つ。
自分を押さえつけるゾロの太い腕に爪を立てて引き剥がそうと必死でもがいた。
喉が詰まって声を出すことすらできない。
ただ荒い息だけを吐きながらゾロの腕に爪を立てた。
引っ掻いて叩いて抓って、殴りつけてその腕を外そうと懸命になる。
皮膚が破れ血が滲んでもゾロは力を緩めない。
押さえつけられた足を振り上げようと暴れたが、ブーツで踏みつけられた。

「ふ・・・くっ・・・」
サンジは限界まで腕を伸ばしてゾロの髪を掴み、顔も引っ掻いた。
それも無駄だと悟ると滅茶苦茶に両手を振り回した。
相変わらず無言で、狂ったように手を床に叩きつける。
ゾロは首を押さえつけていた手でサンジの両手を掴むと床に縫い付ける。
すべての抵抗を封じられて、それでもサンジは真っ直ぐにゾロを睨みつけて肩を揺らした。
ひゅ、ひゅ・・・と吐く息が荒い。
赤く染まっていた顔は見る見るうちに青褪めて、頤が細かく震え出した。
声はなく、不自然な息遣いが乱れたリズムで静かな部屋の中に響く。
かたかたと歯が鳴って、押さえつけた手首ごと細かく揺れ出した。
ゾロはサンジの自由を奪ったまま首を下げて、覆い被さるようにサンジの唇を自分の口で塞ぐ。
ふうと息を吹き込んで、何度か呼吸を促した。
一旦口を離し、サンジの様子を確かめてからまた重ねる。
数度それを繰り返すうちに、サンジの頬に赤味が指してきた。
震えも小さくなっていく。
とどめのように、一度強く吸って大きく息を吹き込んだ。
つられるようにサンジの鼻から呼吸が漏れる。
胸が大きく膨らんでまた凹んだ。
それを確認して漸くゾロは身体を起こした。
だが相変わらずサンジの自由は奪ったままだ。

「大丈夫か?」
「…大丈夫なこと、あるかボケ!」
ひく、と時折引き攣りながら、なんとかサンジは声を出した。
「・・・どけ、重え・・・」
押し退ける手の震えはまだ続いている。
ゾロはサンジの上に体重を掛けたまま両手を白い顔の前に翳して髪に触れた。
途端、腰の下で身体が硬直し、筋肉が張り詰める。
視線を宙に漂わせたまま、サンジがなにか叫んでいる。
それは言葉を成さず、ただ声帯を震わせる音でしかなくて、当のサンジはそれをどこか遠くで聞いていた。

身体の自由が効かない。
抵抗しても敵わない。
押し付けられた床が固くて、冷たくて・・・
触れる手は容赦がなくて、人格も尊厳もすべてを踏み躙ってただ貶める。
剥き出しにされて、暴かれて、曝されて、笑い、嘲りながら弄ばれるのだ。
柔らかな肉を裂いて、グロテスクな欲望の塊を捻じ込まれてただの捌け口として具合のいい穴として―――――


「怖えか。」
唐突に、声が届いた。
むかつく声だ。
場にそぐわぬ落ち着きで、低く響いて。
喉から漏れる悲鳴は、ハウリングを起こしたみたいに高くか細くなっていく。
それを聞き届けてから、ゾロはもう一度問うた。
「怖えか。」
見開かれたままの目が、光を取り戻す。
左右に数度揺れてから、ゆっくりと焦点を合わせた。
間近にゾロを認めて、再び意識して呼吸する。
「怖え、か?」
改めて問われて、不愉快そうに顔を歪めた。
元のサンジだ。

「怖えことあるか、てめえなんか・・・」
だが言葉とは裏腹に、身体はうまく動かない。
指先が硬直しておかしな形に折れ曲がったままだ。
「どうすればいい?」
初めて、ゾロは戸惑った声を出した。
よく見れば眉を顰めて、困ったような顔をしている。
彼なりに途方に暮れているらしい。
ゾロの動揺を見て取って、サンジもようやく落ち着いたようだ。
まだ荒く息を吐きながらも、口元を歪めて笑って見せる。

「・・・どうすればって・・・どうにかして、くれんのか。」
冷や汗が額を伝う。
さっきから心臓が乱れ打って、口から飛び出そうだ。
「そうだな、なら責任取れよ。てめえのへぼテク駆使して俺様を満足させてみやがれ」
できるもんなら・・・
そう続けようとしたサンジの唇を、さっきとは違う意図でもってゾロは塞いだ。





唇を合わせて軽く吸う。
ぬめる舌が上唇の裏を舐めて歯をなぞった。
らしからぬ慎重さでもって歯列を割り、口内を擦る。
こいつは舌まで筋肉か?
そう思わせるような力強さだ。

ベッドの上で重なって、両手で頬を抱え込まれてキスされてるなんて、寒いを通り越して笑いさえこみ上げてくる。
あまりに滑稽だ。
俺も、ゾロも。
熱い舌が隈なく嘗め尽くし、唾液を絡めた。
鼻先から息がかかって軽い興奮を誘う。
気の毒に。
成り行きとは言え、男相手に責任取るもクソもねえだろうに、律儀にキスから始めるゾロにこそ
同情すべきだ。
それでも、あまりに熱心に齧り付いてくるから息苦しさに身を仰け反らした。
浮いた身体とベッドの隙間に腕を差し入れ、背中で交差させてぎゅうと抱きしめてくる。
おいおいおい抱擁つきかよ。
肺が圧迫されて益々苦しい。
これがレディ相手なら、間違いなく肋骨を骨折している。

密着する肉厚の身体を押し退けるつもりでゾロの胸に手を添えて、サンジは薄目を開けた。
至近距離で視線がかち合う。
なんだこいつ。
少なからずビックリした。
まさかゾロが、目を開けたままサンジに口付けてるなんて思わなかったから。
相変わらず獣の獰猛さでもって唇を食みながら、ゾロは挑むような目でサンジを睨みつけている。
それが詫びてる態度かよ。
いやそうじゃなくて。
なんだって俺を見てんだ。
いくら不本意でもせめて目を閉じてスレンダーなレディ抱いてるつもりで、想像で誤魔化しゃあいいのに、野郎の顔なんて見てできんのかよ。
心の中で吐く悪態は、声にならずすべてゾロの中に吸い込まれていく。

ゾロはサンジから視線を逸らさないまま、シャツをたくし上げて薄い腹から胸へと手を這わせた。
ぞくりと全身で鳥肌が立つ。
それでも唇は合わせたままで上唇を軽く噛んで歯で引っ張ったりするから、サンジも意地になってゾロを睨みつけたまま両手をシーツの上に投げ出した。
がさついた掌が肌の上を滑って尖りに触れる。
途端に身体が跳ね、眉が顰められた。
ゾロは小さなそれを指で挟んで、柔らかく揉んだり引っ張ったりする。
背筋を駆け上る強烈な嫌悪感に、サンジはシーツを掴んで必死に耐えた。
なんとなく、ここで拒めば負けだと思う。
それでも気付かぬうちに食いしばった歯をゾロは見詰め合ったままざりざり舐めて、口を開くように促した。
畜生め。
両乳首をきゅっと抓まれた。
首の後の毛がちりちりと逆立って、悪寒に身体を震わせる。
ゾロの息が耳を掠めて、一瞬横たわるベッドが冷たい石の感触に代わった。

じめじめと湿気った岩牢で、手足を押さえつけられて、見下ろす目は欲情に塗れていて、口元に浮かぶのは
薄笑いで――――
視界が滲んで辺りが暗くなった。
指先が急激に冷えて呼吸を忘れそうになる。
気配を察してか、ゾロはサンジの舌を軽く噛んでシーツを掴んだまま強張った指を包み込むように握り締めた。
じんわりとした暖かさに我に帰る。
目の前で鳶色の瞳がじっと見下ろしている。
こんな時でも曇りのない瞳だ。
表情はひどく生真面目で、笑えるほど真っ直ぐで。
ああ、やっぱり気の毒だ。
野郎相手に真剣になって様子を伺いながら愛撫するなんざ、気の毒でしょうがねえ。

しばらくサンジの拳を温めるように握っていた手が、そろそろと離された。
仰向けで凹んだ腹に差し込まれて茂みを探られる。
ちゅ、と音を立ててキスを解くとサンジの上に馬乗りになってベルトを外し始めた。
不器用そうに、それでも丁寧に。
ジッパーを降ろして下着ごとずり降ろすとそのまますぽんと脱がせてしまった。
その気になっていないサンジを見て、ゾロは不満そうに口を尖らせる。
それがどこかガキ臭くて思わず笑いが漏れた。

それでも体温の高い手で包み込むように扱かれれば、それは素直に反応した。
局部を刺激されるのはダイレクトに快感に結びついていい。
あの時の経験の中にこれはなかったから、サンジは抵抗なく身を委ねた。
さすが男同士と言うべきか、ゾロの手はピンポイントをついていて見る間にサンジは勃ち上がった。
このままイかせてくれたら、もう許してやろうかなとも思う。
心理的にもダメージを受けていたのか、何かに欲情するなんてことがあれっきりなかったからこの手の快感は久しぶりで心地良かった。

ゾロはもうこっちを睨むこともなく、サンジの足の間で懸命に両手を使っている。
真摯な面差しはそのままだから、やはりサンジはおかしくなって早くイってやろうかなと目を閉じた。
ぺちょりと舐められてびっくりして目を開く。
目の前に芝草のような緑の髪があって、すぐに柔らかで熱いモノに全体を包まれた。

「う、わわわわっ」
さすがに声を上げて跳ね起きる。
こともあろうに、ゾロはサンジのモノを咥え込んでいた。
いつもは刀なんか咥えて喋る、その器用な口で。

「馬鹿!やめろっ」
慌てて引き剥がしにかかるが、ぐにゅりと舌全体で圧迫されて腰が抜けそうになった。
やべ・・・気持ちイイ・・・
正直なところ、サンジは女性にもしてもらったことはない。
なんというか、失礼な気がして。
なのでこれが記念すべき初フェラになるのだが、これがまた・・・
やべー
ぺろぺろとかちろちろとか、そんなもんじゃない。
がぶがぶだ。
でかい口で食われちまうんじゃないかと思うくらい強く包まれて吸われる。
歯を立てないように気をつけているようだが、それにしたって大胆で大雑把で・・・滅茶苦茶気持ちイイ。
かなりやばい。
これはクセになりそうだ。

「あ、あのな・・・こら・・・」
逃げ腰な腰骨をがっちり掴まれて股間に顔を埋める緑頭は、視覚的にもかなりなインパクトだ。
未来の大剣豪に、あのゾロに、フェラさせていると思うと、なぜだか申し訳なさが先に立つ。
こんな汚い野郎のモノなんて、口に入れていい訳ねえだろ。

不意に蘇るのはあの日の記憶。
口をむりやり抉じ開けられて捻じ込まれて。
歯が当たったら殴られた。
饐えた匂いと、顔に当たる固い毛と、耐え切れないほど不味い苦味・・・
「ふ・・・あ・・・」
度重なるフラッシュバックに眩暈がするほど身体が竦むのに、ゾロに刺激される下半身は素直に反応を返している。
ゾロの手が痛すぎない力で根元から上下に扱き、舐めまわしていた舌先を尖らせて尿道口にをつんつんと
つついてきた。
こいつ、慣れてやがんなあ。
膝頭ががくがく震えるほど感じているのに、サンジの頭の隅にはどこか冷静に分析する自分がいた。
慣れてんだな、されることに。
ゾロも、レディに咥えられてイったりすんのかな。
それを想像したら、勝手に下半身が暴発した。

「・・・あ、は・・・は・・・」
やばいと思ったときはもう遅かった。
荒く息をついて、ゾロの前髪を掴んで引き上げる。
ゾロはまだ咥えたままサンジを見上げた。
最後の一滴まで搾り出すように口を窄めて飲んでいる。
「ばっかかてめえ!そんなもん・・・飲むなんてっ・・・」
最後にぺろんとこれ見よがしに舌を出して陰毛を舐めた。
ひくん、とサンジの腹の奥で何かがひくつく。

「バカか、そんな不味いもん・・・まじい、だろ・・・」
「美味かねえ。」
ゾロは萎えたサンジのそれに手を添えたまま身体を起こした。
向き合って座る。

もう、充分だ。
まだ整わない息を吐きながら、サンジは髪を掻き上げた。
元からゾロに責任を取らせるつもりは毛頭なかったし、随分と不快感もあったが無事射精できた。
もう充分だ。
肩を抱くように腕を回すゾロの手をやんわりと押し留める。
「もういい。これで許してやらあ。」
実際男相手によくやったと思う。
さすが未来の大剣豪というべきか。
だが、ゾロは真面目くさった表情を崩さず、サンジの両肩に手を置いた。


「正直に言う。」
なんだよ改まって。
そうしゃちほこばって口にしなくたって気持ちわかるっての。
野郎相手にこれ以上冗談じゃねえだろ。
「あん時犯られたんがてめえだと聞いて、俺あほっとした。」
ああそうだろう。そりゃ気持ちはわかる。
「償うっつったって口ばっかりでどうしていいかわからなかった。側にいることが償いになるとも思えねえし。女を慰めるなんざガラじゃねえし。」
肩を掴んだ指に力が込められて、痛いと思う。
けど情けない台詞を吐くゾロの顔も口調もどこまでも生真面目で、口を挟むのは憚られた。
「一時の贖罪の気持ちだけで剣を捨てて後悔しないとは言い切れねえし、迷いがあったのは事実だ。てめえと言い争って勢いに拍車がかかっちまったのも、本音だ。」
ぐいと肩を引かれたと思ったら、ゾロの腕の中にすっぽりと治まっている。
これってなんか――――抱きしめられてる?
「だがてめえなら償う必要はねえ。責任取るとか取らねえとか、そんな理由も必要ねえ。」
「ああ、俺もそう思うぜ。」
まったくもってその通りだ。
なのに何故、今こんな状態になってるんだ。

ゾロはサンジを真正面から抱きしめて髪に頬を摺り寄せたりしている。
言っていることとやっていることが噛み合っていない。
シャツを羽織っただけのサンジの背中をつい、と撫でた。
抱きしめられたままぴくんと背を撓らせて、サンジが顎を上げる。
「だからって、どういう体勢だこりゃあ。・・・ざけてんじゃねえぞ。」
「言ったろうが、てめえを労わる謂れはこれっぽっちもねえのに、てめえが言うとおり満足させてやったんだ。」
そう言うと腰を持ち上げて軽々とシーツの上に押し倒した。
接近しすぎていて反撃できないサンジは、まだ状況も掴めていなくてぽかんと口を開けたままだ。

「だから俺も満足させろよ。」
豹変、と言うに相応しい獰猛な顔つきで、上げた口端から犬歯を覗かせてゾロが笑った。

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