Sacrifice 8

「ああ・・・ひっ・・・」

がつんがつんと、容赦ない抽挿が繰り返される。
慣らしもそこそこに突っ込まれた後孔は、それでもそれなりに動きやすくなってきたようでゾロは一層腰の動きを早めた。
「ひ、ひで・・・てめ・・・」
生理的にこみ上げる涙が、揺すられるたびに目尻からぼろぼろ零れる。
抗う為に延ばされた腕は、もうゾロの首に縋り付くことしかできなかった。

ゾロはサンジの内股の柔らかな部分に指を食い込ませて、関節が軟らかいのをいいことに、
限界まで押し広げてシーツに押し付け圧し掛かる。
猛々しい雄が打ち込まれる度に肉がぶつかり合う音が響いて、やはりどこか滑稽だとも思う。
獰猛な熱の塊からなんとか逃れようと背を撓らせて腰を引くのに、ゾロは腕を背中に回して
掬い上げ腰骨を掴んで上下に揺すった。

「あああああっ・・・」
角度を変えて深く抉られ、見も世もなく泣き喚く。
ゾロの背に爪を立て、髪を引っこ抜く勢いで掴んで身を捩った。


尻肉を鷲掴みにされてずんずん突き上げられた。
ウェイトがないから軽々と扱われるのがまた癪だ。
せめて口で思い切り罵倒したいが言葉を発音することもできず、涎を垂らして喘ぐしかない。
そんなサンジの口元をべろりと舐めて、ゾロはキスを繰り返す。
本来使うべきでない器官を無理矢理に抉じ開けて捻じ込んでいるのに、ゾロの口付けは
あまりに優しい。
舐めて噛んで吸って、悲鳴まで飲み込んで愛しげに舌を這わせる。
まるでアイシテいるかのように。

「てめ・・・なんで―――」
ようやく搾り出した声に、唇を合わせたままゾロが笑う。
けれど見つめる瞳はやはり真摯で。
視線だけで焼き尽くされそうに熱くて、激しくて・・・
「なんで、だと?」
相変わらず尻を掴んだままゆっくりとグラインドさせる。
「そうだな、てめえが―――そんな面しやがっからだ。」
「あふ・・・あ、く・・・」
律動を止めないで同じリズムで前を扱かれて、サンジは何度目かの絶頂を迎えた。












「最悪」

喉が痛くて声が上手く出ない。
手足も痺れて指先を動かすのさえ億劫だ。
関節は痛いし皮膚もいたるところ引っ掻いてるし、指の形にくっきり痣が残っていたりして見られたもんじゃあなかった。
ひでーと思う。
あんまりだ。
酷すぎる。
ついこの間経験した酷さに匹敵するけれど、違うところは背後からぺったりと抱え込まれるように人肌が引っ付いたままなとこだろう。
「・・・も、最悪」
サンジはもう一度呟いた。


ゾロは後から首筋に鼻先を突っ込んで、柔らかな仕種で髪を撫でている。
時折汗の浮いた額を掻き上げてキスを落としたりするから、なんとも妙な心地だ。
まるで愛撫のようじゃないか。

「責任、取るにしちゃあ随分じゃねえの。」
腕を伸ばして脱ぎ捨てられた上着から煙草を取り出そうとして諦めた。
届かない。
「てめえ相手に責任なんざ取る気はねえよ。」
じゃあなんだよこれは。
なんで俺がここでてめえに手篭めにされなきゃならねえんだ。
文句を返そうにもあまりの不毛さに口を開く気力さえない。
ゾロは横向きに脱力したサンジの腰に腕を回してぎゅうと抱きしめる。

「ただ、てめえがあの子の代わりに犯られたって聞いたら、頭に血が上った。言いやがらねえてめえにむかついたし、言わせなかった俺にもむかついた。」
・・・だからってなんでこんなことに。
「あの島で奴らはぶった斬ったが、もっと手足の先から切り刻んで苦しめてやりゃあよかった。」
ぎょっとしてゾロを見た。
あまりに不似合いな、陰惨な言葉。
振り返れば、思った以上にゾロの表情の翳が濃い。
「俺は何一つ知らずに来た。今思えば気付くべきだったのに、見事に誤魔化された。それはてめえが望んだことだろうが、だからこそ尚のこと腹が立つ。」
ひたりと寄り添い、身体を密着させて至近距離でゾロは囁く。
ぎりぎりと噛み締める歯の軋みさえゾロの怒りを代弁しているようで、サンジは言葉もなくただその腕に収まっていた。

「てめえだって、後悔したことあるだろう。ドーラを庇わなきゃよかったって。何も知らねえ俺に全部明かして詰りたいときだってあった筈だ。」
「んなことあるか。起きちまったもんはしょうがねえ。」
「あって当たり前だ。聖人君子じゃねえんだから。後ろを振り返らねえ奴なんていねえよ。」
ゾロの言葉にどきりとする。

ならばゼフも、そんな夜があっただろうか。
ひ弱なガキを助けたばっかりに自分の仲間を失い、船を失い、片足を失って、夢を失って――――
己の行為を悔やんで眠れぬ夜が、あったんだろうか。
すうと表情の強張ったサンジの頬に、ゾロがキスを落とす。


「だがてめえは、俺の戯言にも付き合ってくれた。すべては終わったことだと水に流そうとしてくれた。ドーラが幸福だと、ほっとした顔をした。」
ゾロの囁きは睦言のように甘い。
「身を挺して誰かを庇ったり助けたり・・・咄嗟にそんなことをする馬鹿は、後悔はしたって元凶になった奴を憎んだりはしないだろう。」
お前のようにとゾロが続ける。

成り行きで救った小さなガキのために、餓えて足喰ったジジイはそれでも俺に夢を語ってくれた。
再び自分の船を持って、不自由な足でキッチンに立って、その横にはいつも俺がいて、生意気言いながらちょこちょこ邪魔をして、早く大人になりたくて背伸びして、それでも――――
いつだってジジイの目は温かだった。
半端じゃなく厳しい修業も全部俺の血と骨になっている。
確かに、俺はジジイに愛されていた。




サンジは伏せていた目を上げて、ゾロを真正面から見た。
かち合う視線の先には、やはりどこかクソ真面目な色を湛えた瞳が真っ直ぐに見据えている。
こんな酷いことをされたのに、どうしたってゾロを憎む気にはなれない。
気に食わない奴ではあるが、圧し掛かる身体の重みさえ、どこか心地いいと感じる。
ドーラが幸せそうに立ち去ったことが、心から嬉しい。
やはりレディには笑顔が似合うし、大好きな人と共に居るのが、一番美しいと思う。
ドーラの笑顔を思い浮かべれば、サンジの胸は何か温かなもので満たされた。
どれほど傷つけ貶められても、愛することを止めることなんてできない。


「そんな面、すんな。」
どんな顔をしたってんだろ。
ゾロがまた口付けてきた。
こいつ実はキス魔なのか?
身体を捻って正面から抱き合うように腕を回す。
密着した熱い胸板から力強い鼓動が直に伝わってきて、暖かい。
それでも――――

俺はあの島でのことを忘れることはないだろう。
この胸の痛みが消えることはないだろう。
ジジイの足が元に戻ることがないように。
ゾロも俺も、背負ったのは生涯消せない十字架の楔。




ふと笑ったサンジに、ゾロはん?と首を傾げた。
「責任取って、俺と結婚するか?」
耳元でそう囁けば、途端ゾロが眉を顰める。
「んな訳あるか、くそったれ。」
毒吐く割に抱きしめる腕に力を込めて、はははと笑った。













短い滞在期間を経て、船は先へと進む。
賑やかな仲間達との旅。
おやつ争奪戦と嵐の襲来と海王類の出現に海賊、海軍の襲撃。
グランドラインはスリリングで退屈知らずだ。

そんな日常の合間を縫ってゾロと殴り合いの延長みたいに身体を重ねる。
奴が癖になったのか、俺が寛容すぎるのか。
身体と心に痛みを伴うその行為は、けれど俺にとってはそう悪いもんじゃあなかった。


相変わらずクソ真面目な顔つきでふしだらな行為に及ぶゾロが、ふと手を止めた。
「ずっと側にいる相手がてめえなら、それも悪くねえ。」
「責任取らねえっつっただろーが。」
俺は痛む腰を捻ってがつんと一撃くらわしてやった。



思いもかけない切欠で始まった関係だけど
俺らにはこんくらいがちょうどいいだろ。

END

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