サボテンのため息 2

「んあっ?」
反射的に引こうとするのを手首からがっちり掴む。

「どういう訳か、てめえを見てるとこの辺がむかつく。」
ゾロは空いた方の手で自分の胸の辺りを指し、額がくっ付くほどに顔を寄せて苦しげに囁いた。
対してサンジは目を白黒させている。

「てめえがルフィに笑いかけたりチョッパーにかまったりしてりゃあむかつくし、女どもにおべんちゃら
 並べてるのみりゃ、なんか痛え。甲板でウソップと仲良さそうに話してるの見ると、あの長っ鼻を海に
 沈めたくなる。」

おいおいおいおい
いつのまにか、自分の手の甲を包むゾロの熱がじんわりと伝わって、汗ばんできた。

「てめえは何かってえと俺にケンカ吹っかけちゃあ突っかかってくるが、それさえ俺あ悪くねえと思って
 たんだぜ。」
「・・・」
喉に、何か引っかかったようでうまく言葉にならない。
サンジは唾を飲み下して、真正面から見つめてくる熱い眼差しをなんとか見つめ返した。
こんな時、人はどうコメントを返せばいいんだろうか。

「てめえのことを考えりゃあ夜も眠れなねえ。なら昼寝っつってもてめえの姿がチョロチョロしたり声が
 聞こえたりして、おちおち寝てもいられねえんだ。当然、飯なんて喉を通らねえ。」
ゾロの声に熱が篭もってきた。
心なしかどんどん顔が近付いて、吐き出される息だって、頬にかかるほどに熱い。
サンジは斜め30℃くらいに視線を外したまま、額から汗を流しながら考えていた。
どどどどうする?
俺は一体、どうすればいいんだ。
どうリアクションっつうか・・・
この、状況を―――

ぎゅうっと汗でも絞れそうな勢いでゾロがサンジの手を握り締めた。
うわあああと喉の奥から情けない声が漏れる。
「あ、あのなっ、からかうなよ。」
なんとか視界の端にゾロの顔を引っ掛けて声を張り上げた。
ちょっと上擦ってるのは誤魔化せただろうか。
「からかってなんか、ねえ。」
対してゾロはひどく穏やかで落ち着いている。
細められた目がなんだか優しい光を帯びて見えて、サンジはさらに動揺した。

「こうしててめえが言葉にしろってんなら、俺あいくらでも白状してやる。寝ても覚めてもてめえばかりの、
 この俺の滾る思いを・・・」
いつの間にか真横にまでにじり寄って来て、ぐいと腰を押し付けられた。
いやお前、違うとこ滾ってんじゃねーか!!

「ま、ままま待てっ!俺はそっちの趣味はっ・・・」
「てめえの趣味はこの際関係ねえ。」
ゾロは熱っぽい眼差しのままサンジの背中を抱き、さらに身体を密着させた。
発火してるんじゃないかってくらい、体温が上がっている。
熱が乗り移ったせいだと誤魔化したいくらい自分の頬も火照っているのがわかって、サンジは不自然な体勢で
固まったまま、ひたすらに身体を仰け反らせていた。

「いやあのな・・・俺はただサボテンに・・・」
「だから、サボテンに聞かせるくらいなら当人のてめえに言った方が、確かに建設的だよなあ。」
「と、ととと当人って・・・」
握りこんだ手をついと上げられて、ゾロがその甲に唇を押し当てた。
くああああっ!と全身の血が一気に駆け上る。

ゾロがっ、
ゾロが、俺の手に・・・
キスっ・・・っ

呼吸さえ忘れて口を明けたままアップアップすれば、ゾロは唇の端に手を押し当てたままにやりと笑った。
「どうしたてめえ、俺の熱が移ったか。」
移った、かもしれない。
ともかくどこもかしこも火が出そうに熱くて恥ずかしい。

「あんまり触れちゃ火傷するかも知れねえな。この俺の、恋の炎でさ。」
ぶちっとどこかで何かが切れる音がして、サンジの意識は一瞬途切れた。












なにがどうしてこうなったんだかわからないが、サンジは今ラウンジの床に押し倒されて熱い口付けを受けている。
熱心に唇を食み舐め噛み吸い付く男は、まごうことなくこの船の剣士だ。
いつもはぐる眉だのダーツだのと悪態ばかりついて鼻で笑うけったクソ悪い天敵なのに、何ゆえこんなにも
情熱的かつ大胆なレイプ魔と化したのか?
サンジはさっぱり状況を掴めないまま、とにかく必死にゾロの舌に応えていた。

まだこうしてキスしている間はいい。
この唇が離れると、ゾロの口から信じられないこっ恥ずかしくも臭くて寒い台詞が、怒涛のように流れ出すのだ。
それがともかく堪らなくて、サンジは必死でゾロの肩にしがみ付いて舌を差し出し唾液を絡めた。
それに呼応するかのように、重ねた下半身はダイレクトにどくどくと脈打って凶暴なまでに熱の塊を押し付けてくる。
それが非常にやばくて恐ろしい。
隙を狙って蹴り飛ばし逃げようとするのだが、圧し掛かるゾロの重みがそれを許さなかった。

「・・・はあ・・・」
苦しさのあまりつい唇を離して息をつく。
と間を置かず熱い囁きがサンジの耳を犯した。
「そんなに目を潤ませんじゃねえ・・・食いつきたくなるだろうが。」
ひいいいっ・・・
「どこもかしこも甘えてめえは、まるで俺の舌で熔けちまうほどに頼りねえな。」
くあああああっ・・・
「てめえの全部を俺にくれねえか?俺はとっくにてめえのもんさ。」
「があああっ!」
サンジは思い切り首が動く範囲で振りかぶって頭突きをくらわした。
目の前に星が散る。
やっぱダメージは自分のがでかい。

「痛ってえなあ、どうした。ちゃんと口で言え。」
額を赤くしただけのゾロに諭されて、サンジは一人歯噛みする。
「うっせバカ!脳に虫が湧き過ぎだ。なに臭いことばかりベラベラベラベラ喋るんだ!」
「てめえがちゃんと口に出せっつったんじゃねーか。」
「だからって、こんな・・・こんな・・・」
ゾロはサンジの両肩を押さえつけて、下半身を摺り寄せたまま見下ろしている。
さっきからキスはすれどもこの体勢から動かないのだ。
こうして延々と恥ずかしい台詞を聞かされて、サンジは抵抗する気力すら削がれて撃沈している。
こんなことならいっそ強引にコトを進めてもらった方がまだマシだ。
だがそんなこと、とても口になんてできない。
ゾロに押さえ付けられて、顔を真っ赤に染めながらもじもじと膝を擦り合わせているサンジに、
ゾロは容赦なく言葉責めを続ける。

「てめえのその指が器用に動いて飯を作っている間もよ、俺あその動きから目が離せねえ。」
「どうしてそんなに白くてエロいんだ、その指はよ。」
「食ってみたら甘えかな、それともヤニ臭えかな・・・」
にたりと笑ってこれ見よがしに舌を差し出し指を舐める。
その仕種の方がやたらとエロくて、サンジは顔から火を噴きそうになった。

「もーお、いい加減にしろてめえっ!恥ずかしいにもほどがあるぞっ!!」
「言わなきゃてめえはわかんねんだろうが。」
「わかった!もう充分わかった!!」
殆ど涙目で言い返せば、ゾロの表情が微妙に変化する。
「わかったって、何がわかったんだ?」
素で聞かれてサンジは頼りなく視線を漂わせた。
「何って、てめえは俺を・・・」
「・・・」

ゾロが言葉を待っている。
なのに、サンジはどうしてもそれ以上続けることができない。
「てめえは、その・・・」
「ああ?」
「・・・」
鼻から息が漏れて、身体の力がくにゃくにゃと抜けた。

「なんだ、やっぱりわかってねえんじゃねえか。」
意地悪な囁きに睨み返すこともできず、サンジはぎゅっと目を閉じて叫んだ。
「うっせー、四の五の言わずにとっととやれ!」
待ってましたとばかりに、食いつくゾロにサンジはああ〜と諦めの息をついて床に腕を投げ出した。


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