ロロノア一家物語 5


「おかえり。」
気のない調子でそう声を掛ける横顔に、しばし見蕩れる。
いつもとは違う、気だるい雰囲気がサンジを別人のように見せていた。

頬杖をついてグラスを置く白い手首が折れそうなほどに細い。
筋張って浮いた血管は青白く、それがなんとも言えない色気を醸し出して見えた。
傾けた首から肩には、いつの間にそれほど伸びたのか、長い金髪が光を放ちうねりながら垂れ下がり、背を覆っている。
ミホの、半端に染めた金茶の髪なんか比べ物にならない、混じりけのない綺麗な色合いだ。
空を見つめる瞳はなんだか濡れていて、伏せた睫毛は同じく金色の光を湛えている。
ゾロはうっかり見蕩れて、それを誤魔化すように前を行き過ぎて自分用のグラスを取りに茶箪笥を開けた。

なんだってんだ。
自分がおかしいのだろうか。
あれしきの酒で酔いでも回ったんだろうか。

サンジは軽く髪を一まとめに括ると、ゾロのためにロックを作ってくれた。
その動きに女のような柔らかさはないが、しなやかで美しい。
真横に腰掛けて改めてサンジを見つめれば、アルコールのせいかほのかに染まった頬の肌理の細かさに改めて驚く。
そう言えば、暗い照明の下でのっぺりと塗りたくった女の肌しか目にしていなかった。

髪が伸びたと声をかけただけで、その倍は帰ってきたサンジの話を適当に聞きながら、ゾロはその一房を手に取った。
長く伸び放題なのに、手触りはいい。
指を絡めてもすうっと通り、先に行くに従って天然のウェーブがかかっている。
こいつの髪は真っ直ぐだと思っていたのにな。

幼い日、丸い後頭部がアヒルのケツのようでよくからかった。
そのときからツルツルでサラサラの髪だった。
中学に上がって、短く切りそろえたこともあったが、やはり風に吹かれるだけでサラサラ揺れていた。
高校に上がって少し伸ばし始めて、その内うちに住み着くようになって・・・
あれから一度も切っていないのだろうか。
こんなに長く伸びる間、こいつは俺の傍にいたんだろうか。


気が付けば、サンジは何も言わないでゾロの指の動きを見つめていた。
顔が真っ赤に染まっている。
耳まで赤い。
急激に酔いでも回ったんだろうか。
目元まで染まって、ゾロの指の動きを追って揺れる瞳は滲んだ色だ。

ああ、やはり随分と色っぽい。
こいつは、こんな顔をしてやがったか。
もう少しよく見てみたくて、顎に手を添えて顔を上げさせた。
慌てた素振りでサンジが身体を引く。
その肩を抱いて、ぎょっとした。
ひどく咎って骨が浮いている。
ナミが痩せたとかなんとか喚いていたが、本当に痩せているのかもしれない。
ゾロは確かめるように何度か撫でて、肩を抱く手に力を込めた。

「なんの、真似だよ。」
上擦った声を上げて、サンジが両手を突っぱねた。
抵抗されれば余計力を入れたくなるのは自然の成り行きだ。
殆ど羽交い絞めみたいに両腕を回し抱き締めて、くっ付きそうなほど顔を寄せる。
熱でもあるのかと紅潮した頬を舐めた。
少し熱い気もする。
気でも狂ったかと喚く唇が酒で濡れていたから、ゾロはそこも舐めた。
ぴたりと、サンジの声が途切れる。
半開きの唇に舌を這わせ、首を傾けて深く合わせた。


キ・・・?
サンジは目を見開いたまま、パニックに陥っていた。
キ、キ、キ―――
キスされてる。
今俺ゾロにっ、キス、だよな。
これキスだよな。
俺の俺の俺の、ファーストキスがっ―――!!


正確には初めての相手は2号だけど、そんなの比較の対象にならないくらいホンモノのキスだ。
だってゾロの口が俺の口に引っ付いてる。
しかもなんか吸ってる。
はむはむと動かして、ぬめって、舌で・・・
舌で舐めてる〜〜〜

サンジは叫び出しそうになった。
だってだって、ファーストキスくらい女の子としたかったのだ。
今度ナミさんが遊びに来たら、拝み倒してキスして貰おうと思っていた。
ナミさんが駄目ならビビちゃんでもいい、それでも駄目ならほっぺでもいい。
とにかく甘くて酸っぱいファーストキスって奴を、可愛い女の子としてみたかった。
いつかジジイになって縁側で茶を啜っても、ああーあの時のナミさんは可愛かったなあなんて、うっとりと思い浮かべる記憶が一つくらいあったっていいじゃないか。
なのになのに―――

悔しいのと哀しいのとで、サンジの頤が震えた。
なんとか首を傾けて逃れようとするのに、ゾロの手が後頭部をがっちり掴み動かすことさえままならない。
余計深く舌で探られて、変な形に口を開けたまま閉じることさえできなくなった。
逃げるサンジの舌を捉えて根っこまで引き抜かれそうなほどきつく吸われる。
痛いと声を上げることもできず、目の前が霞んで見えた。

こんなとき、どうやって息したら、いいんだっけか。
凄く間近にゾロの浅黒い頬が見える。
なんとなく、ちょっと赤黒く染まってるかもしれない。
なんだ、こいつも酔っ払ってるのか。
酔ってるから、俺にこんなことを―――
そう思うと、余計泣けてきた。
酔っ払いにキスされた。
俺の大事なファーストキスが。

はむ、と下唇を齧りながらゾロが顔を離した。
名残を惜しむように舌を伸ばして歯列をなぞる。
そうして改めて距離を取って真正面からサンジを睨み据えた。
睨んでいるつもりはないんだろうが、もう睨み合いにしかならない。


・・・なんなんだよ。」
きつく吸われたせいでぷっくりと紅く膨らんだ下唇を歪めて、サンジは文句を言った。
それがまた、非常にいい。
こいつは、悪くねえ。
ゾロは自分の中で再度確認するように頷いた。

悪くねえ。
そんじょそこらの女と比べたって、全然悪くねえ。
知らず、にかりと漏れた笑みは、そのままサンジを戦慄させたようだ。

「何考えてんだてめえっ、酔っ払ってんのか!」
「あんまでけえ声出すな。ガキ共が起きる。」
その台詞の効果は覿面だった。
サンジは慌てて口元を押さえ、探るように寝床へ通じた襖を振り返る。
押し退ける腕の力も緩めたから、ゾロはそのままテーブルの上にサンジの身体を押し倒した。

「なにすっ・・・」
「しいっ」
形ばかりの言葉でまたサンジの抵抗が止んだ。
よほどガキのことが気になるのかと、ゾロは無意識にむっとする。
むっとしながら乱暴に胸元のボタンを外すと景気よく前を肌蹴た。
サンジが必死で手首を押さえてくるが、そんなもの屁でもない。

蛍光灯の下に晒された胸は、あまりにも白かった。
ハレーションを起こしてるんじゃないかと思われるほど目に眩しくて、ゾロは二三度瞬かせてから眉間に皺を寄せた。
よく見れば首の辺りに薄く筋がついて引っかき傷になっている。
さっき無理矢理首を掴んだ時についた跡だろうか。
ひらっぺたい首の下は酒を呑んだせいか斑に染まっているさ。
更にその下には申し訳程度についた小さな乳首が二つ。
女の乳輪ばかり見慣れていたから、その色の薄さや小ささが頼りなく見えて、やけにエロい。
ゾロは顔を近づけて舌先でぺろりと舐めた。
サンジが、息を呑むのがわかる。
口元を手で押さえ声が漏れないようにしているが、見開いた目は驚愕に満ちていてそれがゾロの気分を高揚させた。
貧乳に興味はねえはずなんだがな・・・
やはりこの肌の白さのせいか、阿呆みたいに目え見開いて固まってる、どっか足らねえガキみたいな表情のせいか。

アバラが浮いて見えるほど痩せぎすなのに背徳的な色気を感じて、ゾロは仰け反らせ浮いた背中に腕を回した。
薄い身体を抱えて申し訳程度についた尖りを口に含んだ。
「ぞ、ぞぞぞぞ・・・」
軽く食んで舌で転がすとサンジは狂ったように暴れ始めた。
「ば、ばばば馬鹿やろ・・・」
長い手足をバタつかせるが、胴体をがっちりゾロに抱えられているからうまく蹴り返すこともできない。
サンジの腕に跳ね除けられて飛んだグラスが床で割れた。
深夜に響いた破壊音に、誰よりもサンジが驚いて身体を竦める。
しばし動きを止めて子供達が眠っている部屋を凝視していたが、なんとも声がないのに安心したか、あからさまにほっと息をついた。

「起きてねえな。」
「ああ、よかっ・・・」
そこまで言って我に返る。
「よかったじゃねーよ、何してくれんだよ。」
「ちょっと大人しくしてろ。すぐに済ませる。」
すぐに済ませる気などまったくないが、ともかくゾロはまたサンジの乳首を舐め始めた。




「やめろっての、この変態っ!なんでそんなとこ・・・」
「いーだろ減るもんじゃなし。」
「減るかっ、減らねーけど・・・」
サンジの声が途切れ途切れになってきた。
暴れて体力を消耗した訳ではないらしい。
ゾロがきつく吸ったり歯を立てたり舌で転がしたりするたびに、鼻から変な息を吐いている。

「てめえ・・・」
さっきとは明らかに違う、色づいて若干大きくなった乳首をしげしげと見下ろして、ゾロは口端を上げた。
「乳首が勃ってやがるじゃねえか。そんなにイイのか。」
「なっ・・・」
ますます顔を赤らめて、サンジは自分の胸元に目線を降ろした。
「ほらわかんだろ。いっちょ前に固くなってやがるぜ。」
指の腹で見せ付けるように押し潰してやると、泣きそうに顔を歪めて頭を振る。
「違うっ、馬鹿・・・」
「違わねえよ。野郎のくせに、乳首で感じてやがんじゃねえ。」
見せ付けるように舌を伸ばして唾液を絡める。
もう片方は指で強く捏ねてやればサンジは身悶えして悔しがった。

「違う、違うっ、そんなんじゃねー」
サンジの恋愛計画の中に、乳首で感じる項目はなかった。
どちらかと言うと女性の乳首に対して理想的過ぎる妄想はあったが・・・
例えば乳輪が小さ目とか色はピンクとか先っぽが濡れて光ってるとか。
よもやそれが自分の乳首にモロに当て嵌まっているなんて、今のサンジには気付くはずもない事実だ。
それより自分はそんな可愛い彼女の乳首に軽く吸い付いてみるのが夢だった。
こんな風に乱暴に指で抓り捲くったり、噛んだり舌先で転がしてからかったりなんて、言語道断だ。

「馬鹿にすんな、畜生っ・・・」
屈辱だ。
ひどい侮辱だといきり立っても、実際にはゾロに組み伏せられていいように嬲られている。
悔しくて情けなくて、声をかみ殺した反動でか、涙が溢れてきた。
「乳首おっ勃てて、泣くなよ。」
ゾロの呆れたような声が聞こえる。
続いた言葉にぎょっとして目を見開いた。

「もっと苛めたくなるじゃねえか。」
サンジの上で、ゾロが口を歪めて笑っている。













古い木目の並ぶ天井からぶら下がったレトロな電灯が、揺れて見えるのは自分が揺れているからだ。
でかいテーブルの上に寝転がされて、両足を開かされて、自分で見たこともない部分を弄繰り回されてる。
ゾロの指が抉るたびにぐちゃぐちゃ音が立つのは、一度射精してしまった精液を塗りたくられたせいだ。
膝裏に指を食い込ませてぐいぐい押し付けてくるから、関節が痛いし腹が苦しいしなによりとんでもなく恥ずかしいのに、もうゾロを押しのける力すら沸いてでない。

この家に来てからこっち、子供の世話にばかりかまけて性的な行動から離れていた。
女の子との接触もなかったし、妄想なんてする暇もないし毎日くたくたで子供のリズムに自分の身体を合わせていたから、オナニーすらもう随分ご無沙汰になっていた。
それなのに、どういう成り行きでこうなったのか知らないが、ゾロが無遠慮にあちこち触って撫でて噛み付いて舐めてくるうち、知らぬ間に下半身が暴発していた。
イって白目を剥いてから、自分が何をしたのか気付いたサンジは憤死しそうなほどパニクり、ゾロは大いに喜んでとっとと裸に剥いてしまった。
そして今、テーブルの上のご馳走ならぬまな板の上の鯉状態で、美味しくいただかれてしまっている。





ぎし、ぎしっとテーブルの足が軋む度に、壊れるんじゃないかとか子供達が起きてくるんじゃないのかと気が気ではない。
それより何より、とんでもない部分にとんでもないモノを突っ込まれて尋常でない状態に晒されていることのが問題なのだが、サンジはもう気掛かりばかりで、どれに集中して対応すればいいのか見失っていた。
とにかく早く、終わって欲しい。
こんな明るすぎる場所で男に圧し掛かられて・・・多分犯されてるんだろう自分の姿を子供達に見せる訳には行かないと、そればかり願っていた。

「・・・もう、やめろよっ・・・」
しゃくりあげながら、なんとか声を絞り出してゾロの肩に爪を立てる。
涙で霞む視界越しに真正面からゾロを睨めば、予想外に苦しげに眉を顰める凶悪な面があった。
「・・・なんっ・・・?」
「くそ、この・・・」
半端でなく怒っているような顔だ。
この場合無理矢理強姦されたサンジの方に怒る権利があると思うのだが。
「てめえ畜生、なんってえ面して見やがんだ馬鹿っ」
あまつさえ、罵倒された。
無理矢理突っ込まれてやめろと抗議したら馬鹿呼ばわりされた。
理不尽さのあまり、息をすることさえ忘れそうだ。
「こんの野郎、なんて締め付けしやがる。イっちまう、だろうが!」
「イけよ早く。とっとと終われ、馬鹿!」
叫んだら、また腹の下が軋んだ。
同じようにゾロも顔を顰めの、額に青筋が浮く。
「締めんなっつってんだろが、このっ・・・ヨすぎんだよっ」
馬鹿かこいつはっ!
「だからさっさとイけっ・・・」
いきなり、ゾロが猛烈に腰を打ちつけ始めた。
どうしたって漏れる悲鳴を押し殺すために自分のシャツに噛み付いて耐える。
ガンガンとテーブルに後頭部を打ちつけ、揺れる天井が暗く映った。
もう、もう逝く―――
本気で目の前が暗くなり始めたとき、ゾロの動きが突如緩慢になりゆっくりと崩れ落ちるように圧し掛かってきた。

「・・・お、重え・・・」
ぜいはあと、半端じゃなく息を切らせてゾロがサンジの上に折り重なる。
筋肉質ででかい胸板に押し潰されそうで、サンジはひしゃげたカエルみたいな形のまま、なんとか息をついた。
目を閉じれば新たな涙が目尻からテーブルへと零れ落ちる。
悲鳴を飲み込んだ喉はカラカラで、握り締めたシャツは涙か鼻水だか涎だかでぐしゃぐしゃに濡れていた。
「重いって・・・」
「・・・ああ」
汗に塗れた分厚い肩が、ゆっくりと視界を過ぎった。
電灯の陰になって表情は読めないが、ゾロはまるで全力疾走した後みたいに肩を揺らして息をしている。
口元から白い歯が零れて、笑っているのがわかる。
なんとなく、満足したようなガキ臭い笑み。
そういえばさっきのこいつも相当必死で、久しぶりに年相応に見えたっけか。
ぼうっと見上げながら、サンジは今更ながら下半身の異物感を思い出した。
膝を立てて大股開きをしたなりだ。
慌てて閉じようとして、ゾロがまだ嵌めこんだままだったことに改めて気付く。

「こんの、馬鹿野郎!とっとと抜け。いつまでそんなとこにいやがる。」
大の男二人の体重を受けて、古いテーブルは恐らく限界だっただろう。
ゾロは渋々といった感じで腰を引いた。
ずるんと引き抜かれる感触に、うっかり「ひゃあ」と声を漏らす。
気持ち悪いっつうか、痛いっつうか、とんでもないっつか・・・
ともかくまだ整理できない頭の中で、ただただ机が壊れなくてよかったなあと安堵する。
「無茶しすぎだ・・・」
身体を起こそうとして、ゾロに両腕で抱えるように抱き起こされた。
思わぬ行為に驚いて、腕を振り解く間もなく床にゆっくりと降ろされる。
そのまま身体を反転させられて床に手をついた。
「・・・?」
なにやってんだ?
つうか、なんで俺四つん這いになってんの。
呆けた状態で床の木目を見つめていたら、またしてもゾロが後ろを探り始めた。
「ち、ちょっとっ・・・」
振り返ろうとする肩を押さえつけて、逃げる腰をがっつり掴まれる。
腰だけ高く上げた、非常に屈辱的な格好で固定されてゾロはサンジの背中にどかりと腰を下ろしてしまった。
それでいて、先ほど放ったばかりの内部を指で掻き乱し始める。
「う、わわわっ・・・わああ・・・」
感触に思考がついていかなくて、サンジは思わず腕を縮めて床に顔を伏せた。
自然、腰だけがより高く掲げられる。
そう気付いて身体を起こそうとするが、一度潰れた体勢は立て直しようがなかった。
ゾロはサンジの臀部を鷲掴みにすると、電灯の下に照らし出させるように押し開いて尚も深く指を埋め込む。
さっき中でたっぷり出されたせいで滑りのよいそこは、難なく指を咥え込んでいやらしい水音を立てた。

「やだっ、見んな、触んなあ・・・」
「すっげえやらしーぞ、てめえ・・・」
ゾロの声が霞んでいる。
半端でなく興奮したように指の動きが早く乱暴になっていく。
「嫌だ、嫌だあああ・・・」
初めて犯されたばかりのそこを乱暴に穿たれて、サンジはとうとう泣き声を上げた。
悔しくて腹が立って、死んでしまいたいほどに恥ずかしい。
「大丈夫だ。切れちゃ、いねえ・・・」
ゾロの声が上擦っている。
その響きにぞっとして、サンジは自分の手の甲を噛んで声を押し殺した。
背中の重みが消えたと思ったら、ゾロの足が自分の身体を大きく跨いだのが見えた。
改めて腰を掴まれて引き寄せられる。
先ほどまで嬲られていた箇所に熱いモノが押し当てられて、無造作に突っ込まれた。
「・・・んっ・・・」
今度は無様な悲鳴を上げなくても、すんなりと入った。
それでも限界までぎちぎちに広げられたそこは明らかに痛くて辛い。

「うしっ」
満足そうにそう呟くと、またがつがつと揺さぶり始めた。
「あ、あああ・・・」
ゾロのモノが、腹の奥に当って苦しい。
内臓からひっくり返されそうな恐怖に身体が竦み、実質的な痛みと伴ってまたサンジの涙腺を刺激した。
ぽたぽたと床に押した雫は汗だか涙だか知れず、ただ意味のない声を上げてサンジは床に額を擦りつけた。
背けた横顔をゾロのでかい手が掴む。
抽迭をやめないでゾロはサンジの耳朶を噛み、舌を這わせた。
「てめえ、なんて面しやがる」
そればっかりだ。
一体何だって言うんだろう。
「ああたまんねえ。くそう、もっと早くやってりゃよかった。」
冗談じゃない。
こんなこと―――

「ああクソ、出るぞっ」
こくこくと無言で頷くサンジの後ろで、ゾロは感極まったように低く唸り果てた。

急に体重を掛けられて身体が崩れ、サンジはゾロの下でぺちゃんこになった気がした。
火照った頬を床に引っ付け、潰れた蛙みたいに情けない声を上げる。

「重え・・・っ、どけ〜〜・・・」
サンジの上で、筋肉の塊のような男は汗に濡れた裸の胸をくっつけたまま、荒く息をついた。
顔のすぐ横に太い腕がぬっと現れ、不意に重みが無くなる。
圧迫から開放されて、サンジはひしゃげた形のまま安堵の息をついた。
素っ裸で床に寝そべる様は相当見苦しいと思うが、寝返りを打つことすらできそうにない。
なんだかもうあちこちが痛い。
上も下も外も中もどこもそこもすべて。

「大丈夫か。」
今さら、実に今更な台詞が頭の上から降ってきた。
大丈夫も何も・・・何してくれるんだこいつは。
そう思って、それから改めて自分の身に起こったことを反芻してみた。

ゾロに、襲われて。
強姦された―――

寝そべったまま、さーっと体温が冷えたのがわかった。
ちょっと待てよ、今俺ゾロに身包み剥がされて、突っ込まれた。
ゾロの、アレを・・・

恐る恐る顔を上げれば、至近距離で乱暴に拭われて揺れるそれが目に飛び込んだ。
ゾロは無造作にタオルでがしがし拭いているが、戦闘後にもかかわらずずいぶんと無駄にでかい。

あれが、俺に―――
思ったとたん、後方がずくんと疼く。
痛いっつうかなんか、まだ挟まっているような。

サンジはそうっと身体を起こした。
腕の関節が妙な感じで痛む。
ゾロが馬鹿力で掴んだせいだ。
肩にくっきり指の形に赤い痣が残っていて、どんな力だよと改めてぞっとした。
信じ難いことだが、さっき散々弄ばれた胸の辺りに転々と痣やら歯形やらが残っている。
特に乳首の辺りが酷い。
常々存在価値を疑われる男の乳首に、こんな活用方法があったなんて・・・
サンジは絶望的な思いで恐る恐る下半身を見下ろした。
申し訳程度に生えた金髪はぐっしょりと濡れそぼり、その中で可愛い息子が項垂れている。
その奥が、どうなってしまってるのか非常に気になるが確かめるのが怖い気もした。

「おい、大丈夫かってんだ。」
呆然とするサンジの身体をゾロはあっさりひっくり返した。
足を掴まれて左右に広げられる。
さっきまで気になっていた秘密の場所がまた蛍光灯の下に曝されて、サンジは今度こそ我に返った。

「なに、すんだボケ!離せっ」
開いた足をそのままゾロの頭上に蹴り落とし、怯んだ隙に手を振り払う。
テーブルの足元に丸まっていたシャツを引っつかんで身体を隠した。
「いってーなあ。そんくらい元気ありゃあ、大丈夫か。」
「大丈夫じゃねーっての・・・」
動いた拍子にどろりとした感触があった。
そういえば、さっき散々中で出された。
サンジはシャツで顔を覆うと、低く唸る。

「お?」
ゾロはトランクスだけ履いて、サンジの前ににじり寄った。
サンジは顔を伏せたまま横を向いて、ますます身体を縮める。
こちらに振り向かせようと顎にかけた手が強く払い退けられた。

「触んなっ」
サンジは精一杯目に力を入れて睨んだ。
こんなにも腹を立てているのだ。
本気を見せなければ、ゾロはきっとわからない。

「なんでこんなこと、したんだ。」
声が震えそうになるのを、辛うじて抑える。
泣き腫らした目元がまた潤むのを堪えて、なんとか怒りの形相が表に出るように努力した。
ゾロはそんなサンジを訝し気に見返す。
「なんで、こんなことしたんだよっ・・・」
激昂すると言葉と一緒に涙が溢れそうで、唇を噛み締める。
ゾロはタオルで汗を拭うついでに頭をガシガシかいて、らしくなく視線をさ迷わせた。

「・・・やべーだろうが。」
ぽつりと呟く声に反応して、サンジは顔を上げた。
「女に手え出してまた孕んだらまずいだろうが、そう思って今日は大人しく帰って来たんだ。」
不満そうに口を尖らせる。
「そしたらてめえ、珍しく一人で飲んでるし、女みてえに髪長えし・・・」
ゾロは開き直ったのか、腕を組んでふんぞり返った。
「大体てめえ相手なら、ガキのできる心配ねぇじゃねえか。」

サンジは口をあの字の形にしたまま固まった。
ゾロは構わず言い放つ。
「やってみりゃあ女より具合いいし、一石二鳥って奴だな。てめえ、よかったぞ。」
「ふ・・・」
長い前髪で表情を隠して、サンジが肩を震わせる。
お、泣くのかとゾロは身を屈めた。

「っざけんなあああっ」


渾身の蹴りが顎に入る。
のけぞり壁で後頭部を強打した上、腹に膝を入れ延髄にも決めた。
重い地響きのような音を立ててゾロが床に倒れ伏す。

「てめえなんか、大嫌いだっ。馬鹿っ、死ね!」
子供のようにそう喚くと、サンジは泣きながら風呂場へと駆け込んだ。





「いってー・・・」
ゾロは頭の後ろを擦りながら身体を起こす。
久しぶりのサンジの蹴りは、健在だった。
かなりきいた。

「参ったな・・・」
痛む腹も押さえて、壁に凭れ蹲る。
思わぬことだが、イけるじゃねえか。
男でも全然OKじゃねえか、ストライクゾーンばっちりだったじゃねえか。
「・・・参ったな。」
ほんの少しにやけた顔で、ゾロはもう一度声に出して呟いた。







―――翌朝

雀が囀る広いロロノア家の屋敷のどこにも、サンジの姿はなかった。


next