レクイエム 3

嵐の夜、サンジが波間に消えてから1月が経った。

GM号は港に着いた。
あの海域から一番近い島。
もしかしたら、サンジが流れ着いているかもしれない。
サンジを助けた船が寄っているかもしれない。
一縷の望みを掛けて上陸する。
何より食料の管理が全然出来ていない。
サンジを失ってから、クルーの人間関係は最悪の状態になっていた。

「ほんと、食べるって大切な行為なのね。」
ナミはしみじみと呟きため息をついた。
食事時の楽しみがない。
士気があがらない。
なにより、サンジの笑顔が見られない。

クルー全員といっていいだろう、皆サンジに頼っていたのだ。
うまい飯を食わせてくれるだけでなく、
世話を焼いてくれて、
気を遣ってくれて、
見守っていてくれた。
いつだって―――

ルフィの食事の量が減っている。
ウソップの口数が少なくなり、
チョッパーがため息をついている。
一番落ち込んでいるのは、サンジが転落する直前まで喧嘩していたゾロだろう。
顔には出さないが、度を越してトレーニングばかりしている。

―――あれは相当、落ち込んでるわね。

この島で、何か情報が得られれば・・・。
誰もサンジが死んだとは考えていない。
信じている。









「女と見ればやたらと声を掛ける、軽い金髪の男見なかったか。」
「さあねえ。」
「眉毛がまいてる、片目の男だ。」
「知らないねえ。」
ゾロは手当たり次第に街で声を掛けた。
大方、ゾロの外見に恐れをなして逃げるが、運良く掴まった人からもろくな情報は得られない。
―――この島にゃあ、いねえか。
この島にいる確立など皆無に等しいのに、尋ねずにいられない。
もしかしたら、と根拠のない期待が身体を突き動かす。
あんな馬鹿野郎、海の藻屑にでもなったんだろうが―――
そう考えたくない自分がいる。
死体を見ない限り、多分俺は一生、奴を探し続けるだろう。





うろうろしているうちに、見覚えのない港に着いた。
自分達の船は見えない。
―――また、迷ったか。
小さな島だから、まっすぐ行ったら、一周するだろう。
海を眺めながら歩くゾロの前に、金色の髪が光る。

―――――!!

見間違いのない男。
海に消えたあの日のまま、黒いスーツ姿で煙草を吸っている。
今しがた着いた船から下りてきたのか、何人かの大柄な男達と連れ立って歩いている。
少し身体を斜めにして、猫背で歩く。
長い足。
細い身体。
くわえ煙草に揺れる金髪。
間違いねえ。

やっと見つけた、―――生きていた。

駆け寄ってぶん殴りたいのに、足が動かない。
じっと顔を凝視しているゾロに気づかないのか、サンジは男達と話しながら近づいてきて、
そのままゾロの横を通り過ぎた。



驚きに声も出ない。
振り向くとサンジは行き過ぎていた。
慌てて追いかけ、ひじを掴む。
「・・・んだあ?」
はじかれたようにサンジが振り向いた。
声もそうだ。
間違いなく、サンジだ。
ガラの悪い表情そのままに顔を潜める。
「なんだてめえ、俺になんか用か?」
なんだなんだと連れの男達も寄ってくる。
「てめえ、サンジさんの知り合いか?」
大男がゾロに詰め寄る。
サンジと呼んでいるということは、間違いないんだろう。
「サンジ、だな。」
ゾロにまじまじと顔を見られて、サンジは眉根を寄せた。
「そうだが、あんた俺の知り合いか?」
なんとも間の抜けた再会だ。
ゾロもそれ以上言葉が続かなくて困惑している。

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