レクイエム 2

エースには個室が与えられていた。
狭い部屋の中にベッドが一つと、簡単な机とイス。
「船ん中でベッドに寝るなんて久しぶりだな。」
自然と口から出た言葉に、サンジ自身気がついていない。
大部屋で雑魚寝じゃあ、危ねえからと一緒に住まわせてくれるらしい。
何から何まで親切な男だ。
親切心からだけじゃないかもしれないが・・・
今の状況は寝るといっても、エースの腕の下でだ。
押し倒された格好のままサンジは天井を見つめている。

何か考えると頭が痛い。
俺とエースはどういう関係だとか、俺は誰の船に乗ってたんだとか、聞きたいことは山ほど
あるが、それを考えると頭が痛くなる。
しばらくすると治るかもしれないから、とりあえず何も考えないで置こう。

瞬きもせずぼーっとしているサンジを眺めて、エースはおかしそうに笑っている。
「・・・エロ親父みたいだぜ。」
じろりとねめつけて指摘すると、エースは破顔した。
「エロ親父モードに入ってる。覚悟しとけよ。」
サンジの顔を両手で挟んで、深く口付けてきた。
舌を絡めて吸い上げる。
頭の芯がぼんやりとして、真っ白になっていく。
薄目を開けると、帽子を被っていないエースの黒髪が揺れる。
―――ああ、帽子被ってねえな・・・
帽子。
帽子。
・・・頭痛え。
サンジは目を閉じた。
口付けに集中する。
生暖かい口内の感触。
慈しむような優しい、けれど激しい口付け。
求められる快感。
―――気持ちいい。
エースの手が胸元に滑り込む。
なだらかな肌を撫で、突起を指で摘まむ。
軽く跳ねる身体。
唇が離れて首筋へと下りる。
サンジは硬く目を閉じて、エースの動きに集中する。
舌で触れる暖かさと、離れた後の冷たさ。
口付けの繰り返し。
まさぐる手の動き。
押し付けられる熱い塊。
目を閉じていても、何かを思い出しそうでこめかみが脈打つ。
―――い、痛え・・・
両手で頭を抱えて身を捩じらせる。
「サンジ?」
横を向いたサンジの背中から肩甲骨に、エースの唇が下りてくる。
大きな手が、前に差し込まれる。
握られて身体が跳ねる。
・・・痛えのに、気持ちいい―――
肩から鎖骨にかけて口付けるエースの頭に手を添えて、その名を呼んだ。
「エース・・・」
応えるように口を塞ぐ。
サンジはエースの背中に手を回し、身体をぴたりと摺り寄せた。
下半身をまさぐる手は止むことなく、サンジを昂ぶらせる。
押し寄せる快感と絶え間ない痛みに、意識が朦朧となる
エースの手が後ろに回りゆっくりと刺激する。
わずかにサンジの身体が強張ったが、深く息を吐いて身をゆだねる。
―――処女じゃねえだろうとは思ってたが・・・
エースは満足げに目を細めた。
成り行きでこうなったとはいえ、無理やり手篭めにするのは本位じゃねえからな。
サンジの反応を楽しむようにゆっくりと愛撫を続ける。
サンジは襲い来る快感と鋭い痛みの中で、憑かれたようにエースの名を呼んだ。
それに応えるようにエースが口付ける。
固く閉じた瞼に唇を落とす。
誘われるように目を開くと、間近にエースの顔がある。
―――ああ、エースだ。
そばかすだらけの顔。
皮肉そうに歪められた口元。
愛嬌のある瞳。
・・・俺を抱いてるのは、エースだ。
痛みが引いていく。
目を閉じると何かを思い出しそうで怖い。
ただエースの顔を見つめて、その名を口にする。
じっくりと、慣らすようにエースは腰を進めた。
サンジも呼吸を整えて受け入れる。
お互いの昂ぶりが頂点に達し、ただ息遣いだけがこだまする部屋で、サンジはエースの背を
髪をかき抱いた。

意識が白濁する。
目の前がスパークする。
止まない痛みと貪欲な快楽。

その刹那―――
サンジは小さく違う男の名を叫び、果てた。



翌朝は、風の強い日だった。
揺れる船内で各々手早く朝食を取っている。
みんなちゃんと食事とってんなあ。
サンジはぼんやりと見ている。
叩き起こさきゃいけねえ奴は、いねえのか。
そう思ったら、後頭部がちりりと痛んだ。

朝から大声で手柄を取った話やら、誰かがへまをした話やら、本当か嘘か分からないネタが
飛び交っている。
ちょっとしたミーティングらしい。
大方食事を終えると、エースがイスから立ち上がった。
「あー俺からも報告がある。」
大きな声ではなかったが、ざわついた部屋が一瞬静まる。
「そこにいる、新入りのサンジ」
いきなり指差されて、サンジはギョッとした。
「夕べから俺のモンになったから、そこんとこよろしく。」
一瞬の静寂の後、部屋の中がワッと沸いた。
みんな口々に冷やかし、歓声と口笛が響いた。
サンジは真っ赤な顔をしてエースに毒づくが、そ知らぬ顔だ。
「こりゃめでてえ、酒を開けろ」
なぜか盛り上がって、朝から酒盛りが始まってしまった。

もっとからかわれるかと思ったが、エースの宣言以降、サンジにちょっかいを出してくる者は
まったくいなくなった。
これが上下関係ってやつか。
なんとなく感心する。
サンジは毎日台所で立ち働き、時折エースの隣で眠った。
度々戦闘などしているようだが、厨房まで伝わってこない。

エースは礼儀正しい物腰そのままに、行為もひどく優しい。
最初の頃、サンジはエースに抱かれる度に、切ないような苦しいような感情にとらわれ我知らず
涙を流していた。
なぜか胸が締め付けられる。
こんなに抱きしめられているのに、人恋しい。
エースを求めてもなお、満たされない想い。
深い喪失感。
ちりちりと鈍く響く頭痛。

いつの頃からか、その痛みは消えていた。
エースの手で腕で包み込まれると、頭の中は真っ白になる。
考えなければ痛まない。
サンジは目を閉じてエースだけを感じている。
エースだけを見て、声だけを聞いて―――
エースだけに満たされる。
安らぎと幸福感に酔いながら。

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