堕天花 2



「ほら、とっとと食え。」

どんとおいたテーブルの上には、昨夜のシチューの残りとパン、ベーコンに卵、それに茹でた野菜が添えられている。
男は子供みたいに目を輝かせていただきます、と一言呟くと漁るように食べ始めた。

・・・犬みてえ・・・
なんとなく見惚れながら、サンジも向かいに腰掛ける。
タバコを取り出し火をつけると、男の食いっぷりをただ見つめていた。


あっという間にすべてをたいらげ、男はやっと気付いたように傍らにあった水を飲み干した。
ふうと大袈裟に息をつき、背もたれに身体を預け背を伸ばす。
「ああ美味かった。死ぬかと思った。」
つい噴き出して、笑みを浮かべた。
「死ぬ?なんでだ?」
「美味すぎて、だ。」
くしゃりと笑う男の顔は、最初の印象とはだいぶ違って見える。
見た目より、若いのかも知れない。
「世話になった。それじゃあな。」
男はあっさりそう言うと立ち上がり、暖炉の前に広げたシャツを掴む。
一緒に持った緑色の布からは、まだ水滴が滴っていた。


「待てよ、そんなもん着たら腹が冷えるぞ。」
「これ以上長居する訳にはいかねえ。暗くなると、また山を登っちまうからな。」
冗談でなくそう言って、男はシャツを着た。
サンジは腰を浮かして引き止め掛けて、暫しためらい口を開いた。
「もうとっくに暗くなってる。・・・なんなら今夜は泊まっていけ。」
男の顔がぱっと明るくなった。
「いいのか?」
「ああ・・・そんかわり、この家には金目のものなんかなんもねえからな。」
「大丈夫だ。ああありがてえ。屋根の下で寝るなんて何ヶ月振りだか。」
サンジは小さな箪笥の抽斗を開け、シャツを取り出し男に投げる。

「小屋の裏に身体洗う場所がある。ちょっと湯を沸かしてやるからちゃんと入れ。服は貸してやる。」
「ああ、すまねえ。」
男はますます嬉しそうに表情を崩し、まだ冷たいシャツを脱いだ。
とても寒そうには見えない鋼の筋肉が暖炉の灯りに照らし出されて、赤銅色に光って見える。
なんとなくどぎまぎしながら、サンジは視線を逸らしてまたフードを被り直した。
「俺あこれから屋敷に行って夕食の支度をすっから、てめえ適当に休んでろ。いいか、くれぐれもこの家から出ちゃなんねえぞ。」
「ああ、わかった。」
初対面の、しかもかなり強面の男に家を明け渡す迂闊さを危ぶみながらも、サンジは一人戸外に出た。
お嬢さんに、了解を得なければならない。




使用人たちが出入りする勝手口の外側に、サンジの厨房はあった。
下拵えや洗い物が主だ。
カヤお嬢さんはサンジの作った食事が食べたいと常々言ってくれているが、他の料理人たちがそれを許さない。

サンジは、先代の料理長ゼフが森で拾って帰って来た子供だった。
骨と皮ばかりに痩せこけ、いくつなのかもわからないほど小さく枯れた、瀕死の状態で助けられた。
館の主は温厚で慈悲深く、サンジを哀れんで実の子と同じように可愛がり大切に育てた。
そのせいか娘のカヤは、今でもサンジのことを兄のように慕っている。
だがそれはあくまで一部の人たちのごく稀な愛情でしかない。
大半の人間は、サンジの姿を一目見ただけで忌み嫌う。
その手が食材に触れ、大切な館の主であるカヤの食卓に供せられることを激しく嫌がり、何かにつけサンジを追い出す口実を作ろうと躍起になるのだ。

サンジの実直さと優しい心根を愛し、そっと手助けしてくれる者もいることはいるが、主に厨房を仕切る現在の料理長は、先代ゼフがサンジを厳しく躾け育てたことを妬んでいたため、サンジに対する風当たりは強かった。

山と積まれた土だらけの根菜を、サンジは黙々と洗い続ける。
湧き水は身を切るような冷たさだが、外気の温度と比べると幾分温かく感じる。
大地の温もりを直に感じられるようで、サンジには辛い仕事ではない。
黒く薄汚れたフードを目深く被り、ひたすら洗っては籠に詰めて勝手口へと運んだ。
扉を開ければほんの少し暖かな空気が頬を撫でる。
厨房の下働きの男がその籠を引っ手繰るように受け取ると、汚れた鍋を代わりに手渡し鼻先でドアを閉めた。
今日はいつも親しく口をきいてくれるマーサが外まで出てきてくれない。
マーサを通じてカヤに連絡を取ると、カヤはすぐに庭にまで飛んで来てくれる。
自分を呼びつけてくれればいいのだが、このナリで屋敷内に立ち入るのも憚られて、結局カヤに足を運んでもらうことになるのだ。

広い庭の北の外れは、幼い頃から二人で遊んだ秘密の場所だ。
今でも用事があればカヤはここまで来てくれる。
けれどこう寒くなってきては、身体の弱いカヤにはよくないだろう。

・・・明日にでも、ウソップを使うかな。
明日になったら、あの男はまた旅立つ。
それじゃあ報告する意味は無いか。

カヤに内緒ごとをするのは気が引けたが、仕方ないことだと自分に言い聞かせて、サンジは黙々と洗い物を続けた。


すべての片づけを終えて、ひっそりと寝静まる木立を抜ければ、自分の小屋から灯りが漏れて見えた。
男はまだ、眠っていないのだろうか。
無人の小屋から灯りが見えれば、薪も勿体無いとお小言を貰ってしまうが、それでも誰かがいる場所に帰るなんて初めての経験だ。
サンジはなんとなくドキドキしながら自分の小屋の扉を開いた。

何もない部屋の、奥に設えた小さなベッドに、長々と横たわった男が片目だけ開けてこっちを見た。
「・・・おう、おかえり・・・」
寝ぼけているのか、もそもそと身じろいでから身体を起こす。
「お前、寝てろよ。」
おかえりと言われて嬉しい反面、かなり都合の悪い状況でもある。
サンジはフードを脱いで暖炉の前に腰を下ろすと、残り物のハムを焼いて、固いパンを齧った。
男が起き上がってこちらに来る。

「・・・腹、減ったか?お前も食うか?」
あきらかに、一人前でも足りないような量を持ってそんなことを言うから、ゾロは呆れて隣に座った。
「何言ってんだ。てめえ、それが今夜の飯かよ。」
「ああ、明日の朝はもっと多めに持って帰るから・・・」
俺じゃねえよと、男は声に出して言った。
「俺、お前の分の飯をさっき食っちまっただろう。そんなんじゃ足りねえだろうに。」
サンジはびっくりして男を見返すと、不意に口元を引き締めた。

「・・・んなことねえって、おかしな奴だな。」
まるで怒ったように口先を尖らせて、暖炉の炎に視線を移す。
「お前働いてるんだろ、なのになんであっちで食ってこねえんだ。此処の使用人は、こんな時間まですきっ腹で働かせられてんのか。」
「そうじゃねえよ。みんなは食ってる。」
「ならなんでてめえだけここに一人でいるんだよ。」
「俺がいたいからだ。関係ねーだろ、あっちで寝てろ。」

サンジは首を不自然なまでに傾けて、男から顔を逸らせた。
夜露に濡れた金髪が毛先をくねらせ頬に張り付き、白い首筋は暖炉の灯りで火照って見える。

「お前、悪い奴じゃなさそうなのになあ・・・」
「いや、それはこっちの台詞だろう。」
男の、どこか間の抜けた台詞につい笑ってしまって、サンジは俯きながらパンを齧った。
「もう寝ろ。お前に見てられると俺は動きにくい。」
「・・・そうか。」
男はそれ以上何も言わず、さっさとベッドに潜り込んだ。
それから、ああと頭だけ上げる。

「俺がここにいちゃ、お前が寝れねえな。」
「いい、気にすんな。」
「ここ、入れ。」
男が少し身体をずらして毛布を持ち上げた。
サンジは目を丸くして一瞬動きを止めてから、笑っていいのか怒っていいのかわからなくなって、結局泣きそうに顔を歪める。

「アホか。とっとと寝ろ。」
男は神妙な顔つきで頷いて、それでも身体をずらした窮屈な姿勢のまま目を閉じた。
すぐに規則正しい寝息が響く。

―――ほんとに寝たのかよ。
近付いて確かめることもできず、サンジは食事を終えてからも暫くぼうっと時間を潰した後、静かにコートを脱いだ。


そうっと男に振り返り様子を伺い見る。
男は目を閉じたまま身動きもしない。
明日にはいなくなる奴だ。
知られたって構わないが、好き好んで誰にでも見せたいものでもない。
男の目元が動かないか確認しつつ、汲んで来た湯で手早くタオルを絞り、身体を拭く。
ゆっくり湯浴みをしたかったが、男がいつ目覚めるともわからない状況では無理だ。
なんてことはないといくら自分で言い聞かせても、見せたくないものは仕方がない。
例え行きずりの他人であっても。

知らずに明日旅立つなら、変わった奴がいたって程度で、こいつの思い出の中に納まるんだろう。
そんなのも、いいな。
なんとなく嬉しくなって、サンジは一人で笑った。


男が目を覚ますと、外はまだ暗かった。
それでもベッドサイドの時計を見れば、もう昼近い時間になっている。

―――よく寝たな。
久しぶりの暖かなベッドでの睡眠だった。
サンジは、もうとっくに働きに出掛けているのだろう。
それでも暖炉には薪が残っていて、部屋全体が暖かい。

初対面の、明らかに不法侵入の自分を家に招き入れて、食事まで与えて寝床も譲るなんて、まるで
御伽噺のようなお人よしだ。
ああいう種類の人間も、本当にいるんだなと半ば呆れて、男はベッドから立ち上がった。

暖炉の前に、どうやら朝食用に運んで来たらしい、パンとスープが置いてある。
量的にそう多くないそれは、もしかしたらサンジの食事のすべてかもしれない。
そう思うと躊躇われたが、男はそれをすべて有り難くいただいた。



時刻が正午を回る頃、サンジが帰って来た。
昼間なのに黒いコートを着てフードをすっぽり被っている。
さすがに男も慣れて、眉毛だけ上げてみせるだけだ。

「おかえり。」
「てめ・・・まだいたのか。」
もうとっくに旅立ったと思っていたのに、思いもかけずまだ居座られて、さすがのサンジにも警戒心が湧いた。
「お前がまだいるんなら、お嬢さんにちゃんと報告しなきゃなんねえ。」
「ああ、それなら俺から挨拶に行くぞ。」
「いや、だからさっさと出てけよ、てめえ・・・」
サンジは呆れて息をつくと、暖炉の前にぺたんと座った。

「このままじゃ貰いっぱなしだからな。ちょっと恩返ししてえと思ってよ。」
男の殊勝な申し出に、迷惑そうに首を振る。
「なんもいらねえからとっとと出てってくれ。そうでねえと、俺が追い出される。」
「なんだ、やっぱり虐げられてるんじゃねえか。」
「そうじゃねえよっ!」
サンジはムキになって言い返すと、ふうとまた肩を落とした。

「ここのお嬢さんは、そりゃあ可愛くて優しくて、まるで天使のようなお人だ。俺のこと、大事にしてくださる。そのお陰で俺はここに置いて貰ってるんだ。ほんとにありがてえ。」
「ならなんでそんな・・・」
男は一旦言葉を切って、まるで怒っているかのように鋭く見据えた。
「いつも俯いて目も合わせねえで、こそこそと逃げてるみてえに見えるんだ。」
う、とフードの下のサンジの目が、かすかに眇められた。
だがすぐには言い返してこない。
悔しげに唇を噛んで、けれどその形はすぐに笑みに変わった。

「仕方ねえだろ。俺みたいな醜いもんは、人目を憚らなきゃ迷惑だ。てめえは変わり者らしいから、そういう意味ではお嬢さんたちと同類みてえだな。」
サンジの台詞に、男は目を丸くした。
「・・・醜い?なにがだ?」
そのまま手を伸ばしてフードをもぎ取る様に強引に下ろす。
サンジは首を振って抗うと、男の腹を蹴って飛び退った。
思わぬ反撃に身を捩りながらも、男は腹を抱えたままサンジに向き直る。

「何言ってんだてめえ、どこがどう醜いってんだよ。」
訳がわからないと素で問えば、サンジはますます口元を歪めた。
フードの下から現れた顔は、確かによく見れば眉毛が巻いているが、それが別に容姿に差し障りがあるようには見えない。
醜いどころか、ノースの人種にありがちな金髪碧眼で抜けるように白い肌だ。
美しいと形容されるのが筋じゃないのか。

「眉毛巻いてんのが嫌なのか?」
「アホかっ!」
「じゃあなんだよ。どこが醜いってんだ。綺麗じゃねえか。」
男の言葉に、今度こそサンジは凍りついた。
生まれてこの方・・・いや、物心ついてからサンジを綺麗と言ってくれるのはカヤだけだ。
世間知らずで、なんの偏見もない・・・天使のように穢れないお嬢様。

「お前は知らないからな、俺の姿を。」
綺麗だと言ってくれるなら、そう思ったままで別れたいと思う。
けれど頑固そうなこの唐変木は、このままじゃ納得しないんだろう。




サンジは諦めてコートを脱いだ。
汚れた薄いシャツ一枚の痩躯が丸まっているのは、寒さばかりのせいじゃない。
男は訝しげに目を細めて、それからまた改めて視線を巡らせた。
頭の先から爪先までじっくりと見つめて、それでとばかりに腕を組んだ。

「そりゃあてめえ、その背中のことか?」
「・・・そうだ。」
サンジの首から後ろにかけて、背中がぼこりと異様に盛り上がり、極端な猫背のように曲がっていた。
いわゆる、傴僂と言うものだろう。
恐らくは真っ直ぐに立っているのだろうに、その巨大な瘤のために、屈んで陰気に見える。

「別に、言うほど見難くねえぞ。」
あっさり言い切った男に、サンジは噛み付くように言い返す。
「うっせ、てめえはどうやら鈍感で無頓着らしいから、そんな暢気に言えるんだよ。俺のこの姿見たら、大抵の奴らは顔を顰めたり、気の毒そうに目を伏せたりするんだ。」
「ふうん、まあ・・・それもそうだろうなあ。」
素直に肯定されて、ますます調子が狂う。
「その前髪がまた、鬱陶しいんじゃねえのか?」
不意に伸ばして触れかけた手を、思い切り叩き落とす。
「触んな、眼も・・・」
一瞬言い淀み、捨て鉢になって続ける。

「俺の眼は、両目で微妙に色が違うんだ。」
「へえ、そうなのか。」
やはり反応が薄い。
「てめえはよそモンだから、わかんねえのかもしれねえけどよ。そう言うの、ここらじゃ不吉なんだよ。」
「どれ」
まったく頓着せずに、音は再び手を伸ばしてサンジの前髪を掻き上げた。
常は隠されている左眼が眩しげに細められる。
右眼も左眼も、同じ蒼なのに確かに色が違って見える。

「ああ・・・」
男は感嘆の声を上げた。
「やっぱり綺麗だ。右眼が空で、左眼は海の色だな。」
サンジはぽかんとしたまま男を見上げて、今度こそ言葉を失った。
「確かによそモンの俺には、不吉だなんて言われたってわからねえよ。」
そう言って、無骨な指で前髪を撫で付けられる。
そんな感触は、幼い日ゼフに助けられた幻のような思い出の中にしかなくて、不覚にも胸が熱くなった。

「てめ・・・海って・・・」
「ああ、海の色だ。ちょっと碧っぽい、綺麗な蒼だ。」
サンジはおずおずと顔を上げる。
目元が、薄い膜が張ったように潤んで見えて、ますます綺麗だと男は思った。

「てめえは、海を知ってるのか?」
幼い頃ゼフに聞かされた、大きな大きな水溜り。
なぜかしょっぱくて、色んな生き物がいっぱい棲んでると聞いたことがある。
「ああ、俺はイーストブルーからずっと旅を続けて来たからな。海の側にも住んでいた。お前、海を知らないのか。」
サンジは黙って首を振った。
色んなことで驚いてばかりで、頭と口がついていけない。

「そう言えばここまで来るのに、随分山を越えてきたからなあ。けどそんなに遠くはねえぞ。海が見たいなら、連れてってやる。」
連れて―――
サンジは一瞬男にすがりそうになったが、拳を握って、その胸を押し返した。
気がつけば、随分近くにまで男が寄り添って、自分の肩に触れている。
こんなにまで身近に人を寄せ付けたのも初めてで、見る見るうちに自分の頬が熱く火照るのがわかった。
慌てて後退り、元通りコートを羽織る。

「いい。だからてめえはもうとっとと出て行け。」
「あー・・・なんの話だったっけか・・・そうだ、恩返しだ。」
「いいって」

と、そこへ戸外から声が掛かった。
「おーいサンジい、いるかあ?」
ノックもなしに入って来たのは、鼻の長い男だ。
それ以外形容し難いくらい、鼻が長い。

「て、てめえ誰だ!」
男の姿にぎょっとして、慌てて戸口に隠れる。
おかしな連中が多いところだなと、男は声に出さずに思っていた。

「あウソップ。悪い・・・こいつは・・・」
言い掛けて、改めて男を見た。
「・・・てめえ、なんてんだ?」
「ああ、俺はゾロだ。ロロノア・ゾロ。」
「そうか、俺はサンジだ。」
「今頃自己紹介かよおい!」
途中参加ながら状況を把握したウソップに突っ込まれつつ、とりあえず3人で落ち着く。

庭師の息子ウソップはカヤとも仲が良く、サンジの数少ない友人の一人だ。
カヤの代わりに何かとサンジの様子を見ては、食料を差し入れたり必要な道具を揃えたりしてくれている。

「この小屋も、俺が改良したんだぜ。」
「確かに小せえ小屋なのに、快適そうだな。」
ゾロは感心して改めて部屋の中を見渡した。
ウソップが差し入れてくれた食材で、サンジは遅い昼食の準備をしている。

「お前も昨夜からいるんなら、サンジの料理の腕が確かなのはわかんだろう?俺なんか、差し入れってのは口実で、サンジの飯を食いに来てるようなもんだよ。」
「そんなこと言ってくれるのは、お前とカヤお嬢さんだけだよ。」
「何言ってんだ。マーサもベルも、お前に料理を習いたいなんて言ってるんだぜ。」
「レディ達は優しいからな〜・・・あんのクソ料理長さえいなきゃよ。」
ゾロと二人だけの時の卑屈な雰囲気はなく、ウソップと二人屈託なく喋る姿は普通の少年だ。
生来が明るい性格なのだろう。

「そんな訳だから、あんた恩返ししたいんなら、薪割りでもしてやってくれ。」
「なにがどんな訳だ。こいつはさっさと出てかなきゃ、なんねえだろう。」
慌てて割り込むサンジに、ゾロは料理酒を拝借しながら笑いかけた。
「別に急ぐ旅でもねえ。薪割りくらい、いくらでもできるぞ。結構力には自信があるから、他になにか言いつけてくれてもいいぜ。」
「そうだな。これから冬に備えて力仕事が増える。今のうちにちょっと手伝ってもらうといい。カヤには俺から言っとくよ。」
ウソップの気楽な物言いに眉を顰めつつ、サンジは渋々頷いた。


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