にょろにょろろ  -3-



「やだ…み、見るな…お前等ァ……」

 涙混じりの声にゾロは焦って怒鳴りつけた。

「バカコック!泣くんじゃねェっ!!またなにか変化しやがるかもしれねェぞ!?」
「ううう…うるせェ…まりも…あっちいけェ…っ!」

 怒鳴ったのが逆効果だったのか、また哀しくさせてしまったのと、とうとうズボンの中に触手が入り込んできたのとでコックは半狂乱になってしまい、目尻からまた新しい雫を零してしまった。

「だめ…そんなとこ、弄っちゃ…ぁっ…や、…ゃんっ!!」

 びくびくと身を震わせて仰け反る胸に、しゅるると触手が絡み付いて、ちるちると舌先で舐めるような動きでピンク色の乳首を刺激する。もぞもぞと動き続けているズボンの中でも、似たようなコトをしているに違いない。コックは嫌がりながらも表情をとろけさせていく。

「だめ…あ、チンコ…や…っ!」
「ちょ…サンジ君ーーっっ!!」
「ナミさん、来ちゃだめだ…っ!」

 叫ぶコックに、堪らなくなったロビンが腕を咲かせて触手を止めようとするが、何しろ数が違う。腕は全て触手に拘束されて、意味のある動きをすることは出来なかった。

「このままじゃコックさん、生殖器を挿入されてしまうのではないかしら?」
「なにィっ!?」
「この手の生物は動物に卵を産み付けることがあるわ。腸内で繁殖でもされたらおおごとよ?」
「そんな…」

 ロビンの声に、コックはまたぼろぼろと涙を零してしまい、余計にニョロを元気づけるという悪循環に陥っていた。



*  *  * 



「ニョロ…だめ…だ…っ…」

 《ひくっ》と喉が鳴る。
 四肢をがっしりと掴まれて身動き一つ出来ない状態で、にるにると胸の尖りや腹壁をなぞる触手が、次第に身体の熱を上げていく。慕わしげに擦り寄るニョロの肌合いは変わらないから嫌悪感はないのだけど、《犯されるのではないか》という恐怖は身体を強張らせる。

 にゅるり…

「ひ…っ!」

 ズボンの中に入り込んできた触手が花茎に絡み付いてうねり、巧みな動きでサンジを煽り立てると、堪えきれない雫が鈴口から漏れ始める。恥ずかしいくらいに蜜の量が多いものだから、それを塗りたくるようにして蕾を責め立てられると、いけないとは分かっていても涙が零れる。何か触手自らも分泌しているのか、触れた場所がカァ…っと熱くなって、自ら潤んでいるかのようにとろりと解れていった。

 にゅく…
 …ちゅく 
 
 リズミカルに複数の触手が丁寧に括約筋を解そうと、優しくマッサージするような動きで出入りしていく。同時に、小袋や裏筋、鈴口を舌で舐めるようにしてにるにるとなぞられた。
 《ちゅるる…》と、一際細い触手が尿道の中まで入ってきたかと思うと、今まで体験したことのない、疼くような痛みと快感が押し寄せてくる。身悶えしていたら、様子を伺うように蕾の中にも細い触手が入り込んできて、くにくにと奥を探り始めた。

「ひ…っ…ィっ!」

 いつしかずるりとズボンは脱がされ、大きく開かされた下肢の間に触手が《キュ〜っ》と喜悦の声を上げながら殺到してくる。白い肢体に緑色の触手が絡み付く様は、さぞかし淫靡だろう。

『やばい…気持ち良いっ!』

 イソギンチャクのようにやわやわと…時として、緩急をつけながら強く触れてくるそれに、サンジは理性が崩壊していきそうな恐怖を覚えた。《ちゅる…》《にるる…っ》と後宮に入り込む触手は数を増していって、感じやすい場所を見つけると、ぐりぐりと甘えて擦り寄るような仕草で責め立ててくる。

 《ぴゅぐっ》と鈴口から噴き上げた先走りは、明確な欲情を示していた。そのことに喜悦を覚えたかのように、触手達は益々興奮して花茎を取り巻き、盛んにキスのような動きをしている。

 頃合いを見計らって、ニョロの本体から極太の触手が現れた。まるで亀頭のようなものまでついているそれは、雄の性器そのものだ。てらてらと光って怒張し、先端からは夥しい液体を漏らしている。

 それがサンジを犯すのを助けるように、解された蕾が複数の触手によって《にぱぁ…》っと開かれていく。脚を閉じようと必死で力を込めるが、腿、膝、足首にしっかりと絡み付いた触手は容赦なく左右に引っ張って、これ以上ないと言うほど大きく開かれてしまう。

 ゆっくりと緑色の陰茎が近づいてきて、蕾に押し当てられた。
 虫に、犯されるのか。

「バカコック!こいつを斬るぞっ!!」

 朦朧としかけていた意識が不意に引き戻される。抜刀したゾロが斬りかかってきたのだ。

「ダメだ…っ!ニョロを…斬るな…っ!」
「じゃあこのまま犯される気か?相手は虫だぞ!?人として終わりてェかっ!!」
「終わりたかねェやっ!俺だって…。でも…だけど………ニョロは、助けてくれたんだ…っ!」

 ぼろぼろと涙を零して葛藤する。
 ゾロの目の前で、虫に犯されていくのだと思ったら堪らなく胸が苦しくなるけれど、恩義に厚く、純粋に慕い縋り付いてくるものにも弱いサンジはニョロを殺せない。

「ニョロ…あのちっこい、優しいニョロに戻ってくれよ…」

 啜り泣く声に、鋭角な兜のようなものに覆われたニョロの頭部がサンジと向き合う。鋭い瞳は興奮を示すような真紅に染まっており、《コー…ホー…》と呼吸音のようなものが聞こえてくる。幾つかの触手が頬を包み込み、涙を拭うようにそっと頬を撫でた。暖かい指のような温度は、やはり小さかったニョロと同じだ。

「ニョロ…聞いてくれ……」

 せめてちいさな声で囁いてみる。
 
「俺な。あそこの、緑頭が好きなんだ。どうしても俺を犯すっていうんなら…せめて、あいつがいないところでヤってくれ」

 ニョロは頭部を巡らせると、ゾロの姿を確認した。怒りのために鬼人のような形相になっているゾロは、仲間が虫に陵辱されることを唯々諾々と受け入れていることに嫌悪を覚えているのだろう。

「これ以上…あいつの前で、恥ずかしいトコ見せたかねェんだ…」

 これ以上嫌われたら、生きているのが辛くなる。

「コー……」

 ニョロの瞳が赤みを失い、次第にどこか物悲しげな蒼に変じていく。分かってくれたのだろうか?

「やっぱり良い子だ、ニョロ」
「きゅう〜…」

 拘束がしゅるりと解かれ、サンジの身体がゆっくりと甲板に戻されていこうとしたその時、《ドォン…っ!》という音が響いた。

「…っ!?」

 離脱していた敵の船が、主砲を撃ったのだ。
 正確にメリー号を狙って襲いかかった砲弾は、甲板の上に落ちてこようとしている。かなりの大きさだ。海に蹴り返そうと跳躍したサンジだったが、足首を暫く拘束されていたせいか、上手く角度が合わない。

『当たる…っ!』

 空中で炸裂してくれれば、メリー号は被弾を免れる。咄嗟にそう考えてそのまま当たりに行くが、その身体は後ろから飛んできた男に捕まえられた。

『ゾロ…っ!?』

 砲弾はゾロの刃をつるりと滑って海へと落とされた。
 しかし、砲弾は連続して襲いかかってくる。着地して体勢の整わない二人に、砲弾の雨が降り注いだ。ルフィが腕を伸ばし、ロビンが手を咲かせるが間に合わない。

 キシャァァアア……っ!!

 咆吼を上げてニョロは触手を伸ばすと、次々に砲弾を捕まえて海へ落とそうとする。しかし、幾つかはニョロに当たって炸裂し、緑色の体液を飛散させていた。

「ニョローっ!!」

 サンジの叫び声を聞いて、《きゅーん…》とニョロが鳴いたように聞こえた。
 慕わしげな…愛おしげな声で。

 ニョロは触手を目一杯伸ばすと敵船に絡み付かせ、そのまま触手を引いて敵船に乗り込むと、硬い甲羅に包まれた本体で大砲にのし掛かり、破壊していく。しかしそれはニョロの身体にとっても負担の大きな戦いだった。2つ目の大砲を破壊した段階で外殻が砕け、割れ目へと複数の射撃を受けると、緑色の飛沫を上げて《ズゥン!》と甲板に倒れる。

「ニョローっ!!」

 サンジはシャツとズボンを着こむと、ルフィに手伝わせて敵船に乗り込み、ニョロを打ち続ける男達を地獄に落としていった。命は奪わず闘うのがサンジの流儀だが、今回については《死んだ方がマシ》というくらいの傷を負わせたことだろう。
船室まで確認して籠もっている敵兵を叩きのめし、もう立っている者がいなくなったと今度こそ確認した後で、サンジはニョロにしがみついて泣いた。



*  *  * 



「ニョロ…ニョロ……っ!」

 コックは泣き虫だ。
 あんなに嫌っていた虫にまで愛情を持ってしまった泣き虫コックは、緑色の体液でどろどろになりながら涙を流し続ける。その腕には割れた甲羅と、引きちぎれた触手を投げだして力を失っているニョロがいた。鋭角の瞳はもう蒼でも紅でもなくて、どんよりとした緑を呈している。完全に、死んでいた。

 その横にしゃがみ込んだルフィが、ぽんとコックの頭の上に手を置く。

「エロいヤツだったけど、凄ェヤツだった」
「ああ…」
「弔ってやろうぜ」

 誰もが掛ける言葉に困るこういうとき、ルフィは僅かな言葉で心を定めてくれる。こんな時、《ああ、こいつは海賊王になる男だ》としみじみ感じるのだった。

「………酒、この船にある良い酒…全部使って良いか?」

 まだ頬を涙で濡らしながら、コックは顔を上げるとゾロに向いてそう聞いてきた。

「その為に持ってきてる。使え」

 ドンと甲板に置いた酒は、市場に回せば普通の男の年収はいくだろう。けれど、今回に限ってはナミもその価値を知った上で止めようとはしなかった。虫が苦手なナミは少し距離を置いて立っているが、それでも、コックとニョロの間に主従愛にも近いような想いがあったことを理解しているのだろう。

 コックが酒瓶を開けてニョロに振りかけてやると、辺りには強い香気が広がって、血の匂いを幾らか紛らわせてくれた。

「安らかに眠れ、ニョロ。後にも先にも…俺が虫を好きになるなんて、もうないからな。てめェは…俺の、唯一匹のニョロだ」

 もう一度だけ《ちゅっ》と兜のような頭にキスをすると、コックはニョロの身体をボートに乗せる。海葬にしてやるつもりなのだ。
 …と、その身体からぽろりと落ちたものがある。

「なんだ?何か落ちたぞ?」
「…っ!」

 それはニョロの触手の切れ端のようだったが、ぽとんと甲板に落ちると驚いたようにきょろきょろと辺りを見回してから、よちよちと尺取り虫のように甲板上を進み始めた。

「…ニョロ?」

 コックが掌に乗せるが、ニョロと違ってコックの言葉には反応せず、そのままにょろにょろと蠢いて手から降りようとしている。ニョロの身体から出てきた同種族の虫ではあるようだが、ニョロの記憶を引き継いでいるようには見えなかった。

「驚いた…プラナリアのように、分裂することもできるのかしら?ただ…あの異常に知能が高かった虫に比べると、ちょっとおバカさんみたいだけど」

 ロビンも驚いてニョロ2号をまじまじと眺めていた。

「うん…こいつは、ニョロじゃない。だけど…ニョロの忘れ形見だ。大事にしてやんねーとな」

 コックは大切そうにニョロ2号を手の中に閉じこめると、そのままメリー号のコンテナに入れてやった。

 ニョロ2号はそれから、先代と同じように土を肥やしてはコンテナ野菜の育成に協力してくれたが、ペットのようにコックを慕うことはなかった。コックもまた別の生き物だと認識しているのか、ニョロ2号を掌に載せたり、キスをすることはなくなった。

 時折その背中が酷く寂しげであることが、ゾロを何かと苛々させるのだった。

 

*  *  *  
 
  

「おい、コック。喪は明けたか?」
「藻がどうした。毬藻仲間捜してんのか?」
「あの虫の喪だ」

 数日の間、ゾロはサンジの近くに寄ってこなかった。
 それはそうだろう。虫に犯されそうになったというのに、そいつが死ぬとなったら半狂乱になって取り乱し、泣き喚いていたのだから。

 虫に心を奪われた哀れな男。
 虫に犯されて悦ぶ、いやらしい男。
 そう思われても仕方がない。

 それでも、惚れた男にそう思われるのは苦痛ではあった。 

『惚れてる…んだろうな、やっぱ』

 今までも拘りを持っているのには気付いていたけれど、ニョロに犯されそうになったとき、明確に突きつけられてしまった。
 同じ事をされるのなら、ゾロにして欲しかったとサンジは思ってしまったのだから。

『虫と男好きの変態か、俺ァ…』

 返事もせずに自嘲の中に埋没しているサンジをどう思ったのか、ゾロは不意に頭を掴むと、噛みつくみたいなキスをしてきた。

「…に、しやがるっ!」

 向こうずねを思いっ切り蹴ってやるが、動きを想定していたのか、逆に足首を捕まえられてキッチンの床に転がされた。2号が吃驚して顔を出したが、初代のように駆け寄ってくることはないだろう。

「今でも俺が気になってるか?それとも…あの虫に全部心を持って行かれたか?」
「は…?」
「どうなんだ。まだ…心はここに残ってんのか?」

 ゾロの熱い掌が胸に押し当てられる。ぽっかりと孔が空いているような虚無感しかなかったそこに、ゾロという名の熱が加えられる。気が付けば、カッカと頬が上気するのを感じた。

「…どうやら、まだあるみてェだな」

 《ほっとしたぜ》と呟きながら、ゾロの手は意外な器用さを見せてサンジのスーツとシャツのボタンを外していくと、赦しも得ないでまさぐりはじめる。ちいさな乳首はすぐにころんとした質感を呈して、ゾロの口角を上げさせた。

「心が残ってんなら、言ってみろ。俺に惚れてるってな」
「図々しい…」
「てめェみてーなアホにゃ、あの虫くれェ図々しく寄ってかねーと話になんねェと気付いた。もう逃がさねェから覚悟しとけよ?」

 見る間にはだけられたシャツの合間から舌を差し入れられ、《かしっ》と犬歯で甘噛みされれば、ニョロの時とは比べものにならないくらい乱暴で…それでいて、強い快感に嬌声が上がる。

「…ぁんっ!」
「佳い声で啼きやがる」

 《くっ》と咽奥で嗤われたことに腹を立てて藻掻くが、ゾロは決して拘束を緩めたりはしなかった。猛獣同士の交尾のように、気を抜くと返り討ちに遭うと思っているのか。

「なんで…こんなこと……」

 ニョロにちいさな声で囁いたのを、聞かれてしまったのだろうか?だとしても、こんな形でからかうなんて酷い男だ。

「あ?言わなきゃ分からねェのか。面倒くせェな…」
「面倒なら、こんなことしなきゃ良いだろ!?嫌いな奴からかうのに、全力で身体張ってんじゃねェよっ!」
「嫌いだったら放置するに決まってんだろ?構うのは、気になるからだ」
「…んっ…」

 理性を奪うように、思わせぶりなことを言いながらゾロの舌と歯がサンジを煽り立てていく。気が付けば股間に陣取られて、下着ごとズボンを引き下ろされると、花茎をぱくりと銜えられていた。

「ななななっ!!」

 刀を銜えて闘う剣士は、舌遣いも巧みだ。こんなことをするのは初めてだろうに、迷いなく舌を這わせていって花茎を煽り立てていく。触手でじゅるじゅると撫でつけられた時とはまた違う、更に異常な事態だ。なんせあのロロノア・ゾロがサンジのチンコを旨そうに銜えているのだから。

 まるでフランクフルトでも食べるみたいに大口開けてばくりと銜え、巧みな舌先でちるちると鈴口を舐られたら堪らない。必死で腿を閉じて抵抗しようとするが、逞しい両腕が強引に押し開いてきて、二つ折りにされた体幹の横に沿わされる。柔らかいサンジの身体は無茶な姿勢を強要されても楽々と応え、ゾロに向かって尻を突き出すような体勢をとらされた。



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