人魚の涙と呪われた怪物のおはなし 4



「そなた、天候を操ることができるのか?」
マダム・シャーリーが少女に声を掛けると、少女ははっと我に返り呆けたような表情をきつく改めた。
「そうよ、この天候棒を使ってあんたたちがいる魚人海をめちゃくちゃにしようと思った…」
「え?」
物騒な言葉に、サンジは驚いて少女の前に跪いた。
「一体、どういうことかな」
「ナミ、こいつらには関係のねえ話だぞ」
ルフィは凹んだ腹を擦りながら、宥めるように言う。
「それに、ワカメばっかだったけど、俺に飯食わせてくれたしな。いい奴らじゃねえか」
「そんなことない!魚人なんて、信じない!」
ナミと呼ばれた少女は、先ほどルフィに取り縋って涙に濡れた目をぐいっと乱暴に擦った。
「なにか、我らに恨みがあるのか」
マダム・シャーリーも落ち着いた声で優しげに問いかける。
大魔女を相手に食って掛かることもできないのか、ナミは勝気な瞳で見つめ返しながらも声を落とした。
「私の、私の村が魚人に支配されているの。毎月お金を納めないとみんなを皆殺しにするって…」
「なんじゃと?」
突然大声が響き、驚いて洞穴の入り口の方に目を向ければ巨大な顔が覗いていた。
海王だ。
どうやら心配で見に来たらしい。
「ホーディ以外にもまだ不逞な輩がおるのか。その魚人は、名をなんという」
「アーロンよ」
ナミの言葉に、マダム・シャーリーが驚きの声を上げた。
「なんと…魚人海を出て長らく消息が断たれておったが、まさかそのようなことになっていたとは」
「心当たりがあるの?」
ロビンの問いに、苦しげな表情で頷く。
「名前から察するに、恐らくは兄の子孫であろう。私がまだ人魚であった時、仲違いして海を出た無法者」
子孫?と思ってから、サンジははたと思い出した。
魔女はとても長命なのだ。
ここにいるロビンもマダム・シャーリーも、見かけ通りの年齢ではない。

「こうしてはおられぬ、私もそなたと共に行こう。兄の不始末は妹の私が付ける」
「え…本当に?」
戸惑うナミに、ロビンは優しげに微笑んだ。
「貴女、魚人海に復讐するためにヒドラになったルフィを使ったの?」
その問いには、即座に首を振って否定した。
「違うの、私はどうしてもお金が必要で、あちこちで泥棒の真似事をしてたんだけど、その時にルフィと出会って…そうしたら、ハンコックって魔女がルフィによくわからない言いがかりを付けて、魔法を掛けちゃったのよ。どうしたら元に戻るかわからないし、この洞窟から出られなくなっちゃったし。それで、どうせなら魚人に酷い目にあってもらって、それでちょっとぐらい金目の物を分けてもらおうかな〜って、生贄に宝飾品を身に付けるよう風を使って伝えてみたの」
なるほど、道理で生贄の装束が具体的だったわけだ。
「生贄だからってルフィが本気で食べたりは、しなかったのよ。ほんとよ」
とは言え、ヒドラになっている間言葉も通じず理性もなかったから、あのままではサンジも危うかっただろう
ルフィもその自覚があるのか、サンジを見てしししと笑った。
「いやーでも俺、もしかしたらお前丸齧りしちゃってたかもしんねえわ。止めてくれてよかったよ、ありがとな」
「あー…よかったな」
これは、笑えない。

半笑い状態の二人を置いて、ロビンはナミの手を取った。
「貴女、白い力が使えるのね」
「え?」
「この天候棒。これは本来ただの棒よ。それを貴女が、天候を操れるように魔法を掛けた」
ロビンの指摘に、ナミは戸惑ったように首を振る。
「魔法とか、よくわからないわ。でも、村をなんとかしたくて私一生懸命だったの。どうにかお金をたくさん集めて、時には泥棒もして。逃げるために風を起こして、雲を呼んで雨を降らせ、雷だって落とせるようになったわ」
震えながら天候棒を抱きしめるナミの手を、ロビンはそっと両手で包み込んだ。
「そう、貴女にはこれからもっとたくさんのことを教えてあげる。私達の仲間として」
「その前に、そなたの村を救おう」
マダム・シャーリーはそう言うと、海王に許可を求めた。
「私はこれから、この娘の村へと参ります」
「うむ、わしからもよろしく頼むんじゃもん」
「私も行くわ、フランキーお願い」
「あうっ任せとけ!お前ら、俺に乗っていいぜ」
「マジか?すっげえカッコイーっ!」
ルイが目を光らせながら、フランキーの背中に飛び乗った。
ヒドラになっていた後遺症か、腕をびにょんと伸ばしてナミに差し出す。
「行こうぜ、ナミ!」
ナミはルフィを見上げてから、笑顔になってその手を取った。
「ああけど腹減ったなあ、腹が減っちゃあ戦ができねえ」
一刻を争うというのに、フランキーの肩にでれんとだらしなく倒れ伏したルフィに、サンジは声を張り上げた。
「とっととナミさんの村を救って、魚人海に戻って来いよ。俺が腹いっぱい美味ぇもんを食わせてやる!」
「ほんとか?」
「ああ、俺はコックだ」
ルフィは途端に元気になり、それじゃ行くぞー!っと掛け声をかけた。
「ナミの村に、しゅっぱーつ!」
「現金なんだから」
ナミは目尻に浮かんだ涙を拭って、見送るサンジ達を振り返った。
「迷惑かけて、ごめんなさい」
「行ってらっしゃい、気を付けて」
身を翻して泳ぎ行くマダム・シャーリーを追い掛け、巨大な泡に包まれてフランキーが海中を飛び進んだ。
それを見送っていると、海王の背中からしらほしがそうっと顔を覗かせる。
「王子様、ご無事でよかった。それに聖獣王様も、お初にお目にかかります」
「しらほしちゃん!」
「ああ」
サンジが目をハートにしてくるくるっと回る横で、ゾロは腕を組んで頷いている。

「王子様、大きくなってらっしゃいますね。それが貴方の本当のお姿?」
しらほしに指摘され、サンジははっとして動きを止めた。
改めて自分の手を見、足元を見降ろしてから横を向く。
隣に立つゾロと目が合った。
目線が同じだ。

「…あ、あれ?」
「お前、コックじゃねえのか?」
ゾロが間抜けなことを聞いてくるから、思わず目を剥いて怒鳴り返す。
「馬鹿野郎、俺はコックだ」
「さっき名前が違うっつったじゃねえか」
「あ、あ、それは…」
「それに、王子ってなんだ?」
「いやそれは…ってえか、てめえこそ聖獣王ってなんだ?聞いてねえぞ」
「言ってねえ」
「ふざけんな!」
サンジが、ゾロの向う脛をガンと蹴った。
痛そうに顔を顰めながら受け止めて、ゾロも肘でサンジの額の辺りを小突く。
小競り合いの様子に、しらほしがオロオロしながら口を挟んだ。
「あの、喧嘩しないでくださいまし」
「いや、放っといていいんじゃもん」
海王がそう言い、よく見てごらんとしらほしを促す。
傍目には激しい乱闘のように見えて、二人は明らかに手加減しながらパンチや蹴りを繰り出している。
いかにも楽しそうな表情に、しらほしも安堵して見守った。


「サンちん!無事だったの」
ケイミーが飛びついて、サンジをぎゅっと抱きしめる。
柔らかな胸の感触にうっとりしている顔を覗き見てから、あれれ?と目を見開いた。
「サンちん、なんで大きくなってるの?これがほんとの大きさ?」
「ううん、違うんだよ。でも大きくなれたんだ」
サンジはケイミーを抱き返すこともできないで、棒立ちのままただ照れている。
この身体の大きさに、まだ慣れないのだ。

何で急に大きくなれたんだろうと、どう思い返してみてもいつもの呪文が効いたとしか思えない。
けれど、前に大きくなるつもりで唱えた時は効かなかった。
でもまあ、あれとは状況が違うことは否めない。
なにより、“食べて”の目的が全然違った。

サンジは思い出して、カーッと顔から火が出る思いだ。
冷静に考えるとなにもかもが恥ずかしい。
身体が小さかった頃は、ちょっと都合が悪くなるとすぐにゾロの腹巻の中に駆け込めばよかったのに、いまではそんなことも叶わない。

「とにかく座って休んでよ、お疲れ様」
「貴方が従者さんね、お疲れ様」
ゾロが聖獣王だと知らない人魚達が、気軽に話しかけて労ってくれる。
海王やしらほし達は、聖獣王を探しに旅に出た兄王子達への連絡に忙しい。
マダム・シャーリー達が戻ったら、国民への報告も兼ねて宴を開くのだそうだ。

ゾロと並んでふかふかのソファに腰掛けて、サンジはようやく一息吐いた。
それでも、まともにゾロの顔を見られないでモジモジしてしまう。
気が付けば生贄の時の衣装のままで、素肌まで透けて見えそうなフリフリレースの薄衣だ。
「参ったな、俺の服ねえよ」
「あるじゃねえか」
ゾロが腹巻に手を突っ込んで取り出したのは、小さなサイズのスーツだった。
「や、俺がこれ着れると思うか?」
「―――――・・・」
ゾロはサンジと、自分が手にした小さな衣服を交互に見てから、「だな」と笑った。
その笑顔に、サンジの中で高まっていた緊張感がほっと緩んだ。
「…ゾロ」
「ん?」
「ゾロ」
「おう」

話しかける、目線が同じだ。
立っていても座っていても、二人はほぼ同じ高さで会話できる。
ゾロの膝に乗せたサンジの手に、掌が重なった。
手の大きさだって、ほとんど同じだ。
ゾロは肉厚でゴツゴツしているけれど、サンジだって指の長さでは負けていない。
「手も、ほぼ同じだ」
指を広げて、掌を合わせてみた。
随分違うけど、やっぱり同じだ。
ゾロの人差し指を両手で掴んでいた時とは、全然違う。

「ゾロ」
「ん?」
「俺、これでいいのかな」
不安に揺れるサンジの声に、ゾロは勇気付けるようにその手を握った。
「ほんとに、この大きさでいいのかな。もしかしたら、すぐに元に戻るのかな。本当の俺ってなんだろ、俺は元々、小さいままじゃねえのかな」
砂の国で一日だけ叶った、魔法のように。
また、元の小さな王子に戻るのかもしれない。
こんな風に、ゾロと同じ大きさになっている今が異常で。
一夜の夢のように、儚く終わるかもしれない。
いつまで、この大きさでいられるかわからない。

「ゾロ…俺――――」
切羽詰まった表情で見つめたら、ゾロの方から顔を近付けてきた。
そっと目を閉じて息を止めると、バタンと扉が開く音がする。
「サンちーん!いまマダム・シャーリーから連絡来て、もうすぐこっち帰って来る…あれ?」
観音開きの扉を勢いよく開いたケイミーが、両腕を左右に伸ばしたまま首を傾げた。
「なにしてるの?」
「あ、あははははいやあちょっとふざけてて」
ふかふかベッドの両端に、足を上にして二人がそれぞれ転がっている。
サンジは咄嗟に飛び退ると同時に、思い切りゾロを蹴り飛ばしたのだ。
「てめえ…覚えてろよ」
ゾロの怨嗟の声も無視して、それじゃあ早いとこご馳走の用意しねえと!とサンジは部屋を飛び出して行った。


「腹減った―!飯―――――っ!!」
海の宮殿中に鳴り響くような大声で、ルフィが凱旋を告げた。
そのまま、匂いにつられたように大食堂へと飛び込んでくる。
サンジは反射的にその身体を軽く蹴り飛ばし、それから改めて腰に手を当てて仁王立ちになった。
「飯を食うならまず手を洗え!それと顔も洗え、てめえ埃だらけだ!」
「わかった!」
まるで厳しいお母さんの躾みたいなやり取りを、遅れて姿を現したナミ達が笑っている。
「おかえりナミさん、ロビンちゅわん、マダム〜!早かったね」
「もーう、ルフィがお腹すいたってうるさくって、あっという間に吹っ飛ばしちゃったの」
「アーロン一味は魚人兵に引き渡したわ。村への補償やアーロン達の更生には、私が責任を持って立ち会います」
「だからーもう俺腹減ってさあ」
「ああもうわかったわかった、とりあえずみんな席に着いて。兄王子達もお帰りだな」
大きさも種族も様々な人々が、広間へと集まってくる。
サンジに言われてきちんと手と顔を洗ったルフィは、ナミの隣に行儀よく腰かけた。
一番上座にゾロが当たり前みたいな顔をして座り、すでに酒を傾けている。
旅から舞い戻った兄王子二人が、ゾロの足元に進み出て跪いた。
恭しい挨拶を、いかにも不遜な態度で受けている。
それを横目で盗み見て、サンジは複雑な胸中になった。
本当にこいつが、聖獣王とやらなんだろうか。

聖獣の存在自体、サンジはお伽噺でしか知らなかった。
思い切って旅に出てすぐにゾロと巡り合い、一緒に旅を続けるうちにそれらしき生き物たちと行き会う機会は確かにあった。
だがいずれも、ゾロに言わせれば生粋の“聖獣”ではないらしい。
イメージとしていかにも幻獣らしく巨大な龍であったり雄々しい鳳凰であったり、そんなイメージが強いのに、同じ人間にしか見えないゾロが“聖獣王”とか言われても、ピンと来なかった。

あれだけ長く、一緒にいたのに。
ずっと旅を続けていたのに、俺はゾロのことを何一つ知らなかったんだ。


「まことにめでたいんじゃもん、魚人海は救われたんじゃもん」
海王の、どこか間の抜けた宣言と共に宴が催された。
シビアな食物連鎖にゆえに、卓上には海草や陸の山幸だけでなく海獣や巨大魚の料理も所狭しと並べられている。
貴賓席には、ゾロとサンジ、ルフィとナミの他に、ロビンとマダム・シャーリー、それに元凶となったハンコックの姿もあった。
悪びれもせずツンと澄ました顔で、それでいてチラチラとルフィの様子を盗み見ている。
肝心のルフィは文字通り縦横無尽に手を伸ばして、頬袋を尋常でない大きさにまで膨らませて食べ漁っていた。
「…ってか、あいつ元に戻ってなくね?」
人間離れした身体能力に、サンジは呆れてゾロに囁いた。
「ありゃあ、ヒドラに変化させられた影響が残ってんな。半人半妖だ」
「大丈夫かな」
「本人が気にしてねえようだから、問題ねえだろ」
あっさりそう言い切って、海獣の肉を豪快に噛みちぎり酒を呷る。
その隣で、ナミは傍若無人なルフィの振る舞いに眉を潜めた。
「もう、ルフィが片っ端から食べちゃうからみんなの分が無くなっちゃうじゃない」
不満そうに頬を含まらせる姿も、実に可愛らしい。
サンジは美々しく飾り付けられた料理を持って、ナミの前に進み出た。
「これはナミさんのために拵えた、美容と健康に抜群の効果を持つマリネだよ。召し上がれ」
「うほー美味そう!俺にもー!」
「うるせえ、お前はこれでも食ってろ。Bonappetit!」
サンジの呪文と共にボンと白い靄が立ち込め、ルフィの目の前に美々しい盛り付けのまま大きくなった料理が現れた。
「すげー美味そう!」
大喜びで食らいつき、美味い美味いと堪能する。
この量ならば、桁外れの食欲でも満足してもらえるだろう。
「すごいサンちん、魔法使いなのね」
「いやあ、食べ物を大きくするしかできないんだよ」
サンジは照れながら、女性用に飾り付けられたデザートを配った。
「しらほしちゃんには、こちらをどうぞ。Bonappetit!」
みんなと同じデザートを、しらほしのサイズに合わせて供せられたので感激に涙ぐんでいる。
「すごく嬉しいです、私はいつもみんなと違う盛り付けだったから、こんな風に一緒の物を食べられるなんて夢みたい」
「サンジさんは、食べ物以外は大きくできないの?」
イシリーが、身を乗り出して尋ねた。
「うん、そのはずなんだけど…」
「でも、サンちん大きくなれたのね。生贄になって、本気で食べられてもいいって思ったからかな」
ケイミーがそう言うと、人魚達は途端にしゅんと項垂れた。
「サンジさんが生贄になってくださらなかったら、私達今頃どうなっていたことか」
「本当に、本気で私達を救ってくださったんですね」
「魚人を代表して、わしから深くお礼申し上げるんじゃもん。オールブルー国の王子、サンジ殿。まことにありがとうございます」
海王が大きな身体を屈めて深々と頭を下げるのに、サンジは戸惑いつつも両手を振った。
「おっさんに礼を言われても嬉しくねえよ。それに俺ぁ、レディのためならいつでも命だって投げ出す覚悟があるさ」
サンジの言葉に、ゾロの眉間の皺が深くなった。
ロビンはその様子を面白そうに見つめてから、口を開いた。

「この場を借りて、我ら三人の魔女立会いの下、新しい仲間を迎え入れる儀式をしたいの」
ロビンの提案に、ナミははっとして顔を上げた。
「白い魔法を使役するものは、魔女として正しき力を身に付ける必要がある」
マダム・シャーリーが後を継ぎ、ハンコックは忌々しげに眉間に皺を寄せた。
「不本意ながら、妾も認めざるを得まい。にっくき恋敵なれど」
ナミは真っ赤になって首を竦め、ルフィがしししと笑った。
「おう!ありがとな、ハンコック」
「…ルフィの、そのようなところが愛しく憎らしいわ」
口では悪態を吐きつつも、ハンコックは乙女のように恥らいながら顔を覆った。
恐ろしい力を持った魔女とはいえ、仕草はどうにも可愛らしい。

いずれも劣らぬ美貌を持った三人の魔女が、広間の中央に並び立つ。
ナミがその前に進み出て、それからロビンはサンジを振り返った。
「サンジもいらっしゃい」
「え、俺?」
「何度も言わせるな。白き力を持つ者は、正しき道を歩まねばならぬ」
大きな胸を反らせて傲慢な態度で手招くハンコックに、ふらふらと吸い寄せられるようにしてサンジは席を立った。
確かに、料理を大きくする魔法は使えるが、これだってロビンに授けられただけの物なのに。
「貴方に魔法を授けたのは私だけれど、それを使いこなし、さらには白く清い力へと高めたのはサンジの力よ。貴方はもう立派な魔使いです」

傅いたナミの頭上に、マダム・シャーリーが手を翳し宣言した。
「燦たる髪を持ち、勇気と度胸に溢れ天候を操る賢き魔使いよ。そなたはこれより“橙の魔女”を名乗るべし」
ロビンも、サンジの頭上に同じように手を翳した。
「心優しく気高き魔使いよ。慈悲深く献身に溢れ、無償の愛を持つ愛しき名付け子。これより“縹の魔使い”と名乗るべし」

ハンコックが手を広げ祝福を唱えると、広間一面が鮮やかな紅の光に包まれた。
紅の魔女、榛の魔女からも歓迎の言葉が届く。
サンジは、思いもかけない展開ながら荘厳な雰囲気に圧倒され、感動で胸が震えた。
ゾロが聖獣王であった事実もまだ受け入れられないのに、まさか自分が魔使いになるとは思いもしなかった。
「魔使いになれば、この先人間よりずっとずっと長い年月を生きることになる」
ロビンの言葉に、ナミとサンジははっとして顔を上げる。
「ルフィは半妖。もはや人間には非ざる」
それは恐らく、寿命も人並みではないということだろう。
「ロロノア・ゾロは聖獣王。もともと人ではない」
サンジは、ゾロを振り返った。
ゾロは手酌で酒を呷っていたが、サンジと目が合って杯を止めた。
「これよりのち、永き命の営みを佳き伴侶と歩むべし」
「任せろ!」
ルフィが一声叫んで、笑った。
それに倣うように、ゾロも顔を綻ばせ声を上げる。
「任せろ」
「か、勝手なこと言ってんじゃねえよ、バカ毬藻―っ!」
真っ赤になって叫び返したサンジの後ろで、三人の魔女は華やかにさんざめいた。




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