人魚の涙と呪われた怪物のおはなし 2



―――しまった!!
そう思った時は、すでに海の中だった。
眼前を白い泡が覆い、天地がひっくり返る。
押し寄せる波の動きに翻弄されながら、サンジは必死で手足をばたつかせた。
王宮の金魚鉢で泳ぐ訓練をしたことはあったが、こんなに大きく広い水の中では初めてだ。
しかもひっきりなしに波で揺られ、度々浜辺に触れるもすぐに海の中へと引き戻される。
そうしている内に、どんどん岸から離れて行った。
「ぷはっ!」
なんとか水面に顔を上げて、手足を動かしながら浮き続ける。
だがいかんせん、サンジの身体はあまりにも小さかった。
嵐の中の木の葉のように頼りなく揺られ、浮くことはできても自分で泳ぐのもままならない。

「ゾ――――」
結局は、いつもゾロに助けられる。
そんな思いが頭をよぎり、声に出すのに一瞬のためらいがあった。
その隙に、背後から急激な流れを感じて振り向く間もなく吸い込まれてしまった。

――――なんだ?!
いきなり視界が暗くなる。
圧迫される動きと、緩められる力。
柔らかな肉壁に締め付けられ、もしかして魚に食われたのかと戦慄が走った。
牙で噛み砕かれることはないが、このままでは腹の中で消化されてしまう。
魚を捌いて、胃の中で半溶けになっている小魚を思い浮かべ、サンジはぞっとした。
なんとか、なんとか魚の胃袋から脱出しなければ!

光を求めてとにかく“上”と感じる方向へもがくと、きらりと光るものを見つけた。
近付いて、手摺のようなそれに手を掛ける。
「…針?」
光っていたのは巨大な釣り針だった。
どうやらこの魚の喉に引っかかったままになっていたらしい。
サンジが釣り針に触れたものだから、魚が左右に激しく身をくねらせた。
慌てて釣り針にしがみつき、それからこれが痛いのかと見当を付ける。

「仕方ねえ、ちぃと我慢しろ!」
サンジはそう叫んで、返しの付いた部分とは逆の方を探った。
幸いなことに糸は切れていて、そちらはすんなりと端まで続いている。
「うし、堪えろよ」
魚に声が届くとは思わないが、サンジは渾身の力を込めて釣り針を抜いた。
最初は暴れていた魚も、すべて針を抜き取ってしまうと痛みが引いたのか、緩やかな動きになる。
少しの間があって、魚の口が開いた。
海の中に降り注ぐ眩しさに、思わず目を細める。

―――ごぶり。
呼吸が限界だった。
サンジは意識が朦朧としたまま、波に揺られて海面へと浮上していく。
魚が口から一際大きな泡を吐き、浮き上がるサンジの身体を捕えて中へと包み込む。
そうしてそのまま、魚はサンジを包んだ泡を口で押し、深い海の底へと潜って行った。





サンジが目を覚ますと、明るい空色の天井が目に飛び込んできた。
よく見れば空ではなく、たゆたう海の波紋が広がっている。
空を飛ぶ鳥のように大小様々な魚が泳ぎ、壁や窓は色とりどりの貝や珊瑚で飾られていた。
まるで、お伽噺で聞いた竜宮城のようだ。
「…綺麗だ」
「お気が付かれました?」
可愛らしい声に、はっとして飛び起きる。
柔らかいサテン地のハンカチの上に寝かされていたサンジは、正座してキョロキョロと周囲を見回した。
傍に誰も、いない気がする。
「大丈夫ですか?お小さい方」
声は、頭の上からした。
しかも若い女の子の声だ。
「はい、大丈夫ですレディ!」
サンジは元気に返事して、仰向く。
でもやはり、傍には滑らかな大理石の壁が聳え立つばかりで。
しかもその壁は艶めかしい曲線を辿り、煌めく鱗の飾りで覆われた双丘の上に、豪奢で巨大な首飾りのようなものがあった。
その両脇に、輝くピンク色の髪が軽やかなカールを描いて垂れ下がっている。
――――髪?
サンジの目が、ようやく全体像を捉えた。
滑らかな壁だと思っていたものは、すべすべとした肌だった。
鱗の飾りは衣装で、レースのカーテンと思われたものはショールだ。
サンジを心配して覗き込んでいるのは、あまりに大きく可憐な人魚。

「は、初めましてっ?」
仰向き過ぎて後ろに倒れそうになりながらも、サンジは何とか対面を取り持って礼儀正しく挨拶をする。
「初めましてお小さい方、私はしらほしと申します」
サンジの目から見れば粒子さえ粗く見えるほど巨大な、人魚姫がそこにいた。
「私の大切なお友達、メガロの針を抜いてくださってありがとう」
人魚姫は可憐な微笑みと共に、サンジにしおらしく頭を下げる。
だがその動きだけで海流が揺れ、あちこちにあった調度品が舞い上がり鯛や平目は翻弄された。
泡の中に包まれたサンジは無事だ。
「いいえこちらこそ、折角の餌だったろうに吐き出させちゃってごめんね」
そう言って、しらほしの肩の辺りで泳いでいる魚に声を掛ける。
普通サイズの人間から見ても大きなサメみたいなさかななのに、しらほしの隣にいるとまるで小魚だ。
「メガロは、喉の奥にささった針にずっと悩まされていたの。このままでは食事も喉を通らず、飢えて死んでしまうところでした。でももう、この通り―――」
メガロは機敏な動きでその場で宙返りし、口を大きく開いてプランクトンの群れを一吸いした。
まさに元気いっぱいだ。
「そうか、よかった。でもしらほしちゃん、よく俺のこと気付いてくれたね。こんなに小さいのに」
「私、目はいい方ですのよ。プランクトンのお友達もいますし」
そのお友達は、いま食べられちゃったりしてないよね?
サンジは余計な心配をしつつ、改めて居住まいを正した。

「俺はオールブルー国の第一王子、サンジと申します」
「まあ、王子様。オールブルー国と言うのはどんなところですの?」
「緑と湖に囲まれて、豊かな食に恵まれた美しい国ですよ」
サンジが胸を張って言うと、しらほしは瞳を輝かせて大きな胸に手を置いた。
「なんて素敵なんでしょう。私も行ってみたい」
「ぜひ!しらほしちゃんなら大歓迎だよ!!ああでも、海に繋がってないとダメなのかな。湖じゃ、ダメ?」
サンジの答えに笑顔で首を振り、それから切なげに愁眉を寄せる。
「広い世界にはもっともっと美しいものが溢れていて、素敵なことがいっぱいあるんでしょうね」
「そうだよ、俺も海の中がこんなに素敵な場所だなんて、知らなかったよ」
「でも、私にはもう新しい世界を知る時間は、残されていない」
しらほしの瞳が潤み、溢れ出た透明な滴が頬を伝って滴り落ちた。
サンジが座るすぐ横を直撃し、滴の飛沫と衝撃で横に吹き飛ばされる。
「ひゃあっ」
「ああっ、ごめんなさいお小さい方、ごめんなさい」
そこで、しらほし姫は堰を切ったように泣き出してしまった。


ほとんど水滴爆弾と化した涙の粒を機敏に避けながら、サンジはしらほしの身体を駈け上ってまろやかな肩にまでたどり着いた。
落ちないようしっかりと肩紐に掴まり、泣き続けるしらほしを慰める。
「しらほしちゃん、泣かないで。なにか哀しいことがあったの?」
「ごめんなさい、私ったら王子様の前でこんな無作法を…」
白い手の甲で拭うも次から次へと涙が溢れて来るようで、震える肩から何度も転げ落ちそうになった。
「そう言えば、入り江で他の人魚ちゃん達も泣いていたよ、もしかして同じことかな」
「入り江…人魚の入り江にいらしたのですか?」
しらほしが、ぐずっと鼻を鳴らしながら涙に濡れた瞳を寄越した。
「うん、とっても綺麗で可愛い人魚ちゃん達がいっぱいいた。大きくて色っぽい・・・マダム・シャーリーって人とか、ケイミーちゃんとか」
「ケイミーさん、そしてマダム・シャーリー…」
しらほしはぐっと喉が詰まったような音を立て、涙をのみ込んだ。
「泣いていて、くださったのですか。みんな…」
「ねえしらほしちゃん、俺みたいな小さい者に話したって無駄だと思うだろうけど、でも何が君達をそんなに悲しませているのか、教えてもらえないかな」
サンジの真剣な眼差しに答えるように、しらほしは瞳に涙を溜めたままこくんと頷いた。

「実は、ここより深い海の底…黄泉へと向かう洞窟の入り口に恐ろしい怪物が潜んでいるのです」
「恐ろしい怪物って?」
「ヒドラですわ」
しらほしは怯えたように、その身をぶるりと震わせた。
「以前は、そのような怪物はおりませんでした。いつの間にか光も射さぬ洞窟の中に棲み付き、通りがかる魚も鮫も鯨も、手当たり次第に捉えては食べるのです。ただ、海の水に触れると力を失うのか、洞窟の中から出てくることはありません。どこまでも長く伸びる触手を伸ばして、目に付いた獲物を捕らえる素早さは比べようもなく…」
しらほしは、片手で顔を覆って「ああ…」と嘆息した。
「その食欲も尋常ではないのです。このままでは、この海のすべての生き物が食べ尽くされてしまう」
「そんなにも…」
サンジは、俄かには想像できず困惑した。
やたらと伸びる化け物で、食欲旺盛。
怖いと言うより、はた迷惑そうだ。
「今では、その洞窟に近寄る者はいません。けれど死者を弔うためには、必ずその洞窟を通らねばならないのです。先日、魚人島最悪の犯罪者・ホーディが老衰でなくなりましたが、その身体を黄泉へと運ばねば悪鬼となって甦り、現世に害をなす存在となります」
「それは、大変だ」
「なのに、そのホーディの亡骸を黄泉へと送る通り道がその洞窟なのです」
サンジはしばらく考えてから、あれ?と首を傾けた。
「だったら、そのホーディの死体を怪物に食べさせたらいいんじゃないか?」
しらほしは、とんでもないと言った風に激しく首を振った。
「罪深い犯罪者ほど、手厚く葬らねば黄泉へと送れません。万が一にも怪物に遺骸を食べられでもしたら、魂だけが蘇って悪鬼となるでしょう。それだけは絶対に避けたいのです」
「そんなもんなんだ」
それでは、怪物を退治するしかないのだろうか。
「その、ヒドラってのは弱点とかあるのかな」
「それがまったくわからないのです。そもそも、その怪物がいつ洞窟に棲み付いたのかもわからず、何者なのかもわかりません。とにかく、ある日突然現れたのです。それで海王自ら討伐に出向いたのですが返り討ちに遭い、今は床に臥せっております」
「それは、心配だね。大丈夫なの?」
サンジの気遣いに、しらほしはほんの少し微笑んでみせた。
「幸い命にかかわる怪我ではないのですが、父もすっかり困ってしまいました。海王の力を持ってしても退治できないものは、私達には手の施しようがありません。唯一、万物の長たる聖獣王ならばなんとなかるかと思うのですが…」
「聖獣王…」
龍や麒麟・一角獣など、聖獣を統べる万物の王がいることは、サンジも知識として知っていた。
けれどそれは、どちらかと言うとお伽噺の類の話だ。
旅に出て初めて、本物の龍やケンタウロスを目にした。
榛の魔女・ポーラが連れていた蛇も、その類だろう。
「ヒドラも、聖獣なのかな」
「私達が知らないだけの、未知の聖獣なのかもしれません。万物を統べる聖獣王ならば、なにかご存知かと」
聖獣だからと言って、聖なる存在とは限らない。
魔女に白と黒の魔力が備わっているように、聖獣にも福をもたらす者と害成す者とが混在する。
その両方を統べる存在が、聖獣王だ。
「ヒドラには私達の言葉も通じません。けれど、すべての生き物を言葉で操れる聖獣王ならばと、一縷の望みを抱いて兄王子達はいま、聖獣王を探す旅に出ています」
けれどもう、時間がないのです…としらほしは目を伏せた。

「このままではホーディの遺骸が朽ちてしまいます。どうしたらよいのかと、橡の魔女マダム・シャーリーにお伺いしたところ、お告げを受けました」
「マダム・シャーリーは、魔女だったんだ」
なるほど似合うと思ってしまった。
「月が満ちる夜。黄金の冠に真珠の肌衣を纏い、サファイアとエメラルド、それにルビーをちりばめた飾りを身に付け、ダイヤのごとく固い意志を持ってその身を捧げる者をヒドラが食らい尽くせば、一晩だけ眠りに落ちると」
「…えらい具体的なお告げだね」
「マダム・シャーリーの心に、直接語りかけたんだそうです」
しらほしは生真面目な顔で、頷き返した。

「魚人の民は、皆等しく愛しい我らが同胞。誰一人として、犠牲になどしたくありません。ですから、私自らが生贄になろうと、申し出たのです」
「し、しらほしちゃんが!」
サンジはその場で飛び上がり、慌てて自分が乗っている肩を押さえ込んだ。
「ダメだよしらほしちゃん、早まっちゃダメだ」
慌てるサンジに、しらほしは微笑んで首を振った。
「心配してくださってありがとう。私ぐらいの大きさならば、ヒドラも食べ甲斐があると思うのです。少しはお腹いっぱいになって、一晩ぐらい眠ってもらえるかもしれない。そうしたらその隙に、ホーディを黄泉へと葬ることができます」
「そんな、しらほしちゃん…」
「でも…でも、それも難しいのです」
しらほしの瞳に、ぶわっと涙が浮かび上がった。
「私、私の身体を飾る宝石が、圧倒的に小さくて足らないのです!」
「…あ…、あ―――――」
サンジは納得して、不謹慎ながら半笑いになった。


残念だったね…と慰める訳にもいかず、サンジは再び泣き出したしらほしの肩で思案気に腕を組んだ。
さきほど、人魚達が嘆いていたのもこの事だろう。
こんなに可愛いしらほし姫だから、きっと人魚のみんなも姫様のことが大好きだ。
姫様が犠牲になるなんてとんでもないことだし、さりとて自分達の誰かが生贄になるのも辛い。
どうしようもなくて、ただ嘆くしかないのだ。

「うーん…わかったよ、しらほしちゃん」
「…はい」
涙に濡れた瞳が至近距離から見つめ返すのに、力強く頷いて見せる。
「生贄になるのは、誰とか指定はないんだろう?だったら、俺がなるよ」
「え?」
しらほしは驚いて目を見張った。
「サンジ様、なにを――」
「いくら美味しそうだからって、しらほしちゃんやケイミーちゃん達みたいな可愛い女の子が犠牲になることないんだよ。それに、俺なら宝石で身を飾るのも僅かな量で済む」
「でもっ…」
「それに、俺の大きさならメガロの時みたいに、一気に噛み砕かれたりしない」
しらほしははっとして息を飲んだ。

「誰かを生贄に、と言うなら俺ほど適任はいないと思うけど、どうだろうか」
「でも、でもヒドラは本当に恐ろしい怪物なのです。サンジ様を危険な目に遭わせることはできませんわ!」
必死で首を振るしらほしに、サンジはにっこりと微笑んで見せた。
「俺はオールブルー国の王子である前に、レディを守る騎士でありたいんだ。どうか、手伝わせて欲しい」
「サンジ様…」
しらほしは戸惑いながらも、こくりと頷いた。




「オールブルー国の話は聞き及んでおる。森と湖に囲まれた、実り豊かな美しい国と」
「恐れ入ります」
畏まるサンジの前には、しらほしさえ小柄に見える、巨大な海王が玉座に着いていた。
肩から背中にかけての治療の跡が痛々しい。

「かような気高き国の王子、しかも第一王子を危険な目になどとても遭わせられん。気持ちは嬉しいが、申し出は辞退いたそう」
「いいえ」
サンジは、キッと表情を厳しくして王を見上げた。
「私は第一王子と言えど、国を継ぐ名を授けられておりません。それも、生まれた時より小さかったこの身体の故です。オールブルー国へのお気遣いは無用です」
「しかし…」
「魚人の民とは違う種族だから、部外者は引っ込んでろって思うかもしれねえけど、でも、だからこそ手伝えることってあるだろ」
海王の、威厳を損なわぬまま誠実味に溢れた眼差しにつられ、ついもどかしくなってぞんざいな口調に戻ってしまった。
「誰かを犠牲にってことは、しらほしちゃんじゃなくてもやっぱりあんたの国の大切な民が、そしてその家族が辛い思いをするんじゃねえか。そんな悲しい、そして遺恨を残すような真似を王がしちゃいけねえよ」
「だからといって、人間であるそなたを犠牲にするなどとんでもないことじゃもん」
王も、前のめりになってサンジに訴えかけた。
「そもそも、人間と魚人族とでは根本的に違うものがある。それは共食いという行為じゃ。人間達は忌み嫌うであろうが、われわれにとっては至極当たり前のこと。プランクトンも魚もサメも、貝もクジラも人魚も魚人も、それぞれに時にお互いを食らう。じゃから、そなたが思うほど魚人同士に犠牲の遺恨は残らないんじゃもん」
「…そうなの?」
言われてみればそうかも?と一瞬ほだされかけたが、いやいやと首を振る。
「だからって、俺はしらほしちゃんやケイミーちゃん達を生贄にするのは絶対反対だね。それに、お告げが言うところの宝石類なんかも、ちゃんと用意できるのか?」
「…それが」
ここで初めて、王は戸惑いを見せた。
「真珠はいくらでもあるんじゃが、サファイヤやエメラルドといった宝石は海底では貴重なんじゃもん。珊瑚や黒真珠であればなんとかなるものを」
「お告げの内容がいやに具体的なのが気になるんだよなあ…」
サンジはそう思案して、とにかくと語気を強めた。
「ダメ元で俺を差し出してみたらどうだ。もしそれでヒドラが怒って俺を丸のみしたら、俺はヒドラの中から出来る限り攻撃してやる。まずは、ちゃんと“生贄”を用意したって事実が大事だろ。第一、時間がないんだ。急がなきゃホーディってやつの死体は腐るし、頼みの綱の聖獣王ってのが見つからなきゃどうしようもねえ」
「ううむ…」
海王は苦悶の表情を見せたが、最後にはサンジに説得される形でしぶしぶ了承した。


「サンジちん、本当に助けてくれるの?」
しらほしから連絡を受けたか、入り江で出会った人魚たちが控室に集まっていた。
みんな、期待半分悲壮感半分で、複雑な表情をしている。
「うん、俺にできることなんて知れてるけどね。なんとか打開できればいいけど」
「気持ちは嬉しいけど、やっぱり無茶だよサンちん。こんなに小さいのに」
ケイミーが、気遣わしげにサンジを掌に乗せる。
「小さいからだよ。俺はメガロに飲み込まれても死なずに、あいつの喉に刺さってた釣り針を取ってやれたんだぜ。ヒドラだってなんとかなるさ」
そこに、魔女のマダム・シャーリーが煙管を吹かしながら問いかけた。
「生半可な覚悟じゃないことはよくわかったよブロンド・ボーイ、さっきは悪かったね。ところで、貴方の腕の立つ従者とやらは一緒じゃないのかい?」
「あ」
そこで初めて、サンジはゾロのことを思い出した。
しまった、あれから随分と時間が経ってしまっている。

「やばい、俺あいつの朝食の準備をしてて波に浚われたんだった。今頃俺のこと探してるぞ」
「入り江の近くにいるのかしら。私達、呼んできましょうか?」
人魚の申し出に、サンジは頷いた。
「極度の方向音痴だから突拍子もないとこにいるかもしんないけど、探してもらえるかな。あいつの特徴は藻類みたいな緑色の髪で強面で、左耳に三連のピアスをしてる。あと、刀を三本提げてる」
「…なんですって?」
マダム・シャーリーの顔つきが変わった。



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