目撃者 2

見た。

俺様は見てしまった。

鵜飼いの鵜の如く、ゾロに繋がれて引き戻されるサンジ。
繋がれて・・・
繋いでいるのは、手だ。
俺様は衝撃のあまり望遠鏡を取り落としそうになった。
手を・・・手を・・・
よりによって手を繋いでいる。
思考力の停止。
そしてパニック。






なんだっ!

なんだっっ!

あのゾロとサンジが仲良く手を繋いでる???

ナミの考えた新手の罰ゲームか?
不慮の事故で瞬間接着剤がくっついたのか?
通りすがりの魔女に魔法でも掛けられて、離れられなくなったのか!






あれこれ言い訳を考える俺様をあざ笑うかのように、手を繋いだゾロとサンジはゆっくりと

歩いている。



あのゾロがっ! 
海賊狩りのゾロが!
三刀流のゾロが!
魔獣ゾロがあああアアア!

あのサンジがっ!
女好きのサンジが!
暴力コックのサンジが!
Mrプリンスサンジがああああ・・・





なんか訳があるに違いない。
どう考えたって信じられない。
天地がひっくり返ったってあり得ない。
俺は幻覚きのこにでも当たったのか!
動転しまくる俺を尻目に街には次々と灯りがともり、二人の表情がはっきりと見えるように
なってしまった。
もうサンジはきょろきょろしなくなった。
真っ直ぐにゾロを見て、話し掛け、笑っている。
ゾロは時々サンジに振り向き、笑みを浮かべて、浮かべて・・・浮かべて・・・
なんて顔だゾロ!
なんでそんな顔して笑ってるんだ。
お前らそれじゃまるで・・・まるで仲良しラブラブカップルみたいじゃないか〜!
ばんばんと船縁を叩きながらも、俺は望遠鏡を手放せない。
つっこみを入れたいのに突っ込めないもどかしさ。


ゾロは宿屋の前に通りかかると、ぱっとサンジの手を放した。
畜生、そんな仕種すら既に恥ずかしいじゃねえか。
見てられねえほどこっ恥ずかしい。
っていうか・・・手、離れるんだな。
瞬間接着剤じゃなかったんだな。
無理矢理繋げる羽目になったわけじゃなかったんだな!
無意味に涙を流しながらあえぐ俺の視界から、二人は消えていった。
どゆこと?
どゆこと?
二人で仲良くご宿泊?
いや待てよ。
サンジはともかくゾロはナミに借金まみれの一文無しだから、宿賃もなくて転がり込んだのか。
サンジもああ見えて面倒見いいから、仕方なくって・・・って、それじゃさっきの手はなんなんだ。


自問自答を繰り返していると、宿の一番上の部屋の灯りがついた。
見なきゃいい、見なきゃいいのに・・・・
怖いもの見たさだ。
目が勝手にそっちへ行っちまう。
窓辺にサンジが立っている。
それに寄り添うように背後にゾロが・・・立つなよ。
なあに仲良く立ってんだよ。
しかも「あーこっからGM号がよく見える」とか言ってんじゃないだろうな。
GM号が見えるってことはこっちからもお前らの姿がよく見えるってことだ!
それぐらい気づけっっ
二人で並んで見るんならともかく、ゾロはサンジの後ろから腕をのばして窓の桟に手を
下ろしている。
そのままゾロの頭が少し下にずれた。
サンジの首筋に唇を落とし―――
落とすなっ!
・・・もういいもうしてもいいから、頼むからカーテンを閉めろ!
もうこうなったら何やったっていいからっ!
頼むから隠れてくれ。
こっちから丸見えってのはあ、俺だけじゃなく絶対誰かも見てる。
船着場から丸見えだって。
カーテンってもんがあるだろうが
気づけよおいっ!





俺は七転八倒して悶えた。
火薬玉は遠すぎて届かねえ。
いっそ大砲をあの部屋に向かって打ち込むか。
俺の腕ならあの部屋だけ狙って打ち込むのも不可能じゃない。
そこまでマジで考えた。
ふと部屋の灯りが揺れた。
サンジがカーテンの端を掴んでいる。
いいぞ、そのままひけ!
今ならまだ許してやる。
逢魔が時の見間違いだ。
魔物を見たのだ、俺は。
そう思い込もうとしていたのに・・・
サンジの手が止まった。
ゾロの右手はサンジの腰を抱えるように回され、もう片方の手がカーテンを閉めようとする
サンジの手を引き寄せる。
サンジの顔がゆっくりとゾロの方に向き。
ゾロが少し顔を傾けて近づいてくる。
俺は固まった。
もう瞬きすらできない。
石と化した俺の目の前で重なる二つの影。
ゾロの手が伸ばされて、シャっとカーテンが閉められた。




俺はただ、退屈だっただけなんだ。
退屈しのぎに町を見たら、楽しかったんだ。
ただそれだけだったのに。
今じゃ俺はただの覗き屋かよ。
ピーピングトムかよ。
情けない。
すっかり力の抜けた俺は甲板に膝をつき、呆然とへたり込んだ。




いつの間にか空には満天の星。
明るい島灯りを背にして、水平線に目をやると、はるか宇宙まで見渡せるほどの星々の
群れが続く。
俺は夕飯を食うのも忘れて、賦抜けたように空を眺めていた。

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