繭の檻 2


うっとりと見つめる俺に、サンジさんは何かを感じたようだった。

怯えたように首を竦め腕を下ろす。
「こんなことしなくても、俺あ逃げたりしねえっての。な、鎖外せよ。これじゃ飯が作れねえよ。」
「飯なんて、作らなくていいさ。」
俺は殊更優しく言った。
サンジさんが、ますます不審げに俺を見上げる。

「これからは、俺があんたに飯を食わせてやる。あんたはこの部屋で、俺だけを見て俺だけと話して俺だけと寝るんだ。なあ、サンジさん・・・」



俺は猛烈におかしくて笑い声を立てた。
笑いながらサンジさんに向かって手を伸ばす。
サンジさんは零れ落ちそうなほど大きく目を見開いて、唇を戦慄かせている。

ああ、頭が痛い。
割れるようだ。
こんなにも頭が痛いのに、俺はおかしくてたまらない。

「もう、サンジさんには服を着ることさえ、必要ねえよ。」









上等そうなスーツも、薄いシャツも音を立てて破いた。
千切って引き裂いて、ぼろ屑になったそれを見せ付けるように鼻先に翳して笑った。
笑いながらも、俺はサンジさんから目を逸らせなくなった。
自らを庇うように手足を縮込ませて身を捩ったサンジさんの裸体は、眩しいほどに白い。
細かくついた傷跡や引き攣れがきめ細かな肌をピンクに彩っていて、なんとも言えないいやらしさだ。
この人は本当に、どこまでも綺麗だ。
男なんて裸に剥いたらみっともなくて正視できないだろうなんて、高を括っていた俺はそのことにも衝撃を受けた。

「見てんじゃねえ、クソ野郎っ」
サンジさんが唾を吐いた。
いつもはタバコを咥える唇が、怒りに歪んでいる。
その赤さに目を奪われて、俺は手を伸ばして指で口端を摘まんだ。
柔らかくてぷにゅりとしている。
歯茎の色までピンクが映えて、無性にそれを舐めたくなった。



「やめっ・・・」
非難の声が、俺の唇に吸い取られていく。
少し舌先が痺れるのはタバコのせいか。
けれどそれ以上に、口内は暖かで甘い。

いつもはよく動く薄い舌が、猫のように暴れている。
仰け反った白い喉元に、青く血管が浮き上がった。
噛み締めるより一瞬早く、口の中に指を突っ込む。

「その手は食わねえよ、サンジさん。」
俺はサンジさんの舌に逆に噛み付きながら、指の腹で尖った歯を押し上げた。
「相変わらずのじゃじゃ馬だ。そんなとこも気に入ってんだかな。」
顎に手をかけて力任せに抉じ開ける。
サンジさんは苦しそうに仰け反って壁に凭れた。

圧し掛かり押さえつけて、口腔内を蹂躙した。
唾液を啜り粘膜を舐めて、舌を甘噛みする。
「う・・・ぐ・・・」
サンジさんは心底嫌そうに眉を顰めて首を捻じ曲げている。
目尻には涙さえ浮かべて苦しそうだ。
俺はますます調子に乗って、涎を滴らせながら赤く染まった頬を舐めて耳元に齧り付いた。
サンジさんはどこもかしこも甘い。
タバコの匂いと、染み付いた食い物の匂いが食欲をそそるように俺を昂ぶらせる。



「ああ、サンジさん、サンジさん。」
俺は熱に浮かされたように痩せた身体を貪った。
静脈の浮いた柔らかな肌に吸い付き、噛み締めて味わう。
白く平らな胸に仄かに色づいた赤い尖りを見つけて、酷く興奮した。
犬のように舌を突き出し、べろべろと舐める。
サンジさんの腕には細かな鳥肌がいくつも立っていて、それが余計俺を煽る。

「嫌かい、サンジさん。」
俺は見せ付けるように舌で乳首を転がして、血の気の引いた顔を覗き込んだ。
「こんな風に男に触れられるのは初めてかい。あんたは結構慣れてるかと思ったがな。」
サンジさんは屈辱に耐えながら、俺に怖い顔をして見せた。
憤りで声も出ない、そんな感じだ。

「例えば、あの時いた・・・ロロノアって奴か。あいつにさ。」
ぴくりと、サンジさんの眉が動く。
不自然なほど動揺を隠して、変わらぬ表情で目を逸らした。

「おやビンゴかい。それにしちゃ、慣れてねえじゃねか。」
「うっせ、んなことある訳ねーだろっ」
押し殺した声でサンジさんが叫ぶ。
迂闊に声を出すと息が漏れて、嫌なんだろう。
俺の手で与えられる刺激に反応を見せたくないのだ。
それがわかるから、俺はより残酷な気持ちになる。

「へえ、まだ触らせてねえのか、こんな風に。」
頼りない小さな乳首をきゅっと抓った。
弾かれたように身を仰け反らせて、サンジさんの身体が逃げる。
板張りの壁にぴたりと背中をくっ付けて、足を曲げて後退りしても無駄な足掻きだ。

「経験ねえのに、随分感じやすいんだな。素質あんじゃねえの。」
嘲りの言葉を浴びせながら、俺はサンジさんの身体を弄んだ。
薄い皮膚は思った以上に過敏で反応が顕著だ。
散々に肌を噛み締めて撫で擦り、折り曲げた足の間で縮こまった金の茂みに手を伸ばす。
揃えた足に反動をつけて、痩躯が跳ねた。

不自由な体勢ながらその蹴りは俺の鳩尾に軽く入り、膝を折ってその場に跪く。
ああ、こんなだから堪らないんだ。
どうしようもなく好きだよ、そんなあんたが。

俺は一瞬込み上げた胃液を飲み下し、薄ら笑いを浮かべてサンジさんの前髪を掴んだ。
顔を上げさせてその頬を軽く張る。
痛い目に遭わせたい訳じゃない。
ただ俺がこの身体を堪能して、サンジさんが本性を見せてくれればいいんだ。

追い詰められて貶められた慈悲深いあんたは、一体どんな変化を俺に見せてくれるんだろうか。








俺は用意していた香油の瓶を取り出して、長い脛に手をかけた。
両足を纏めて俺の肩にかけ、尻を持ち上げる。
曝された赤いすぼまりが息を呑むようにひくつくのが見えた。
恐れているのだ。

俺はまた笑い出しそうになった。
サンジさんが、俺を恐れてる。
誰にも見せたことのないような部分を眼前に曝して、ウサギのように震えている。
ああ、堪らない。


俺は掌にたっぷりと香油を取ると翳りの中に手を這わせた。
びくんびくんと白い太腿が震える。
それを宥めるように唇を落として、柔らかな腿肉を食む。
そうしながら狭い肉の間に分け入って、強引に指を差し込んだ。
息を呑む声がする。
きゅっと力の入ったそこに挟まれたような感じで、俺はわざとゆっくり指を巡らしながらその感触を楽しんだ。

俺の指を咥え込んでいる。
こんなところで。


頭に血が昇って、視界が赤く染まった気がした。
がんがんと、頭痛が酷くなっていく。
それなのに、それ以上に俺を満たすのは性的な興奮だ。
心臓は早鐘のように鳴り、どんどん息が荒くなる。
もっと、もっと奥まで、この身体を犯したい。
埋め込んだ指を動かし、強引に二本目も割り入れた。
苦しげに息を吐き、サンジさんが呻く。
油が功を奏したのかそれほどの抵抗はなく、あっさりと指は飲み込まれ内壁が収縮した。


「く・・・」
壁に頬をつけるようにして、サンジさんは顔を背けた。
その表情に見入りながらも、俺は指にも目があるように執拗に丁寧に頑ななそこを解きほぐす。
ぐちぐちと粘着質な音が立って、サンジさんの耳が羞恥でみるみる赤く染まった。


「すげえな、サンジさん。」
俺の声は上擦っていた。
「あんたのここ、なんて熱くて狭いんだ。ああ、こんなんじゃとてもじゃねえが無理だろう。もっと広げねえと・・・」
ぐち、とかぬぷ、とかいやらしい音を立てて指が減り込んでいく。
サンジさんの身体はますます硬くなり、顔からは血の気が引いて蒼褪めていた。

「だめだよ力を抜かなきゃあ、あんたが辛い。俺はあんたを痛い目にあわせたい訳じゃあ、ないんだ。」
努めて優しくそう囁いた。
その声が届いているかどうかも怪しいくらい、サンジさんの瞳は薄い幕が張ったように潤んで漂っている。

「力を抜いて・・・そうだよ、上手だ。」
抵抗を諦めたのか、サンジさんは息を吐いて目を閉じた。


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