恋の天使は調教中 -4-



「デートしようぜ、アホアヒル。そんで、気持ちが盛り上がったところで、てめェの処女をくれ」
「し…処女って言っても…俺、いっとくけどそんなにお綺麗な身体じゃねんだぞ?カリファさんにお仕置きで、指で弄られたりしてんだからっ!」
「はあ!?」

 思わず挑むようにそう言うと、ゾロはやはりサンジに夢を見すぎていたのか、素っ頓狂な声を上げた。

「す…すげーんだから、カリファさん。俺、イくとかいう感覚、もう知ってんだぞ?言葉責めとかバンバンしてきて、《いけない子》とか言いながら、感じやすいトコ、きゅって意地悪に抓ったりすんだ」
「そりゃ凄ェな…おい、それ覗き見とか出来ねーのか!?」

 何故かゾロは引くどころか、変なスイッチを押されたように盛り上がっている。

「アホか!俺ァ、バイブレーターなんて色気も素っ気もないもんにバージン持って行かれるかどうかの瀬戸際なんだぞ!?指導内容バラしたなんて知られたら、どんな目に遭うか…!」
「自分で言ったんじゃねーか」
「ああ、そうですけれども…っ!!」

 聞かれてもいないのに、思いっ切り秘密をダダ漏らししているのは確かにサンジの方だ。

「俺…ヤダよ…。カリファさんをMAX怒らしたら、知り合いのスケベ親父にケツ掘らせるとか言われてんだ…!俺ァ初めては好きな人とって、決めてるのに…!」
「だったらとっとと俺とやりゃあ良いじゃねーか」
「てめェのことなんか…!」
「好きでもない奴にここまでのし掛かられといて、大人しくしてるタマじゃねーだろ?てめェのは経験不足で恥ずかしがってるだけだ」
「……」
「好きって言えよ。可愛がってやっから」
「……」

 断言するゾロは堂々としていて、どうも《好き》ということにかけては否定が出来ないだけに、ぷくんと唇を尖らせたまま黙り込んでしまう。

「言いたくなきゃ、今はおいといてやるが…それにしてもてめェのとこの指導設定は無茶過ぎんぞ。セクハラにも程があんだろが。社長にでも訴えりゃあ良いのに」
「だって、社長自ら指導計画を立てたって聞いたぜ?カリファさんは忠実に従ってるだけなんだ」
「社長自ら…?」

 ゾロは何かを思うように細い眉を顰めると、溜息をついた。

「確かに変わりモンだが、そこまで腐ってるとは思いたくねェ。そっちは俺が調べといてやるよ。だが…心配なのはてめェのその流されやすさだ。幾ら指導だっていっても、そりゃ常識の範疇からはみ出すぎだろうが。なんだって抵抗しなかった?」
「だって…ジジィがそのくらいしてでも、俺の性格を矯正したいんだって思ったから…」
「それが問題だってんだ!てめェはジジィがそうしろって言ったら、知らねェ親父の臭ェチンポでも処女マンコに挿れさせんのかよっ!」
「ジジィが言うならしょうがねェ…」
「なんだってそこまでする?」
「……」
 
 少し迷ったが、この男相手に誤魔化しは利きそうにない。覚悟を決めると。訥々と説明を始めた。

「あのよ…。前に、ジジィは俺とは血が繋がってねェって話はしたよな?」
「ああ、たまたま逃げ出した先でメシをくれて、気に入って養子にしてくれたとか言ってたな」
「その話、おまけあんだ。凄い…嫌なおまけ」

 自嘲するように乾いた嗤いを浮かべると、乱れた金髪を掻き上げる。

「俺…施設でずっと変態ロリコン野郎に、エロい悪戯をされそうになってた。そいつ、事あるごとに俺を暗がりに引きずりこんでよ、チンコ銜えさせようとしたり、突っ込もうとしやがった」
「…っ!」
「されてはいねーよ?ギリギリでな。施設長とかにも泣きついたけど、信じてくれなかった。もしかしたら知ってたのかも知れねェけど、人手不足だったし、ああいうところでは良くある事だから黙認されてたのかも知れねェ…。そいつ、俺がジジィの養子に収まって施設を出てくのが許せなくてさ、大して無い荷物を施設の部屋でまとめてたら、《最後にせめて一発やらせろ》《言う事聞かないとバラティエに火ィつける》って言ってよ…ジャックナイフとか持って脅してきたんだ。俺…どうして良いのか分かんなくて、でも、ジジィに迷惑掛けたくなくて泣きながら服脱いでたら、丁度ジジィが荷物取りに来てよ…鉢合わせしたんだ」

 思い出したら、それだけでまた涙が零れていく。
 遡って過去を変える事が出来るのなら、サンジはなんだってするだろう。

「鍵は掛かってたけど、ジジィは俺が狙われてんの分かってたみたいでさ、鍵を壊して突入してきて、そいつと揉み合いになった。その時にナイフがザックリ…ジジィの脚を抉った。そのナイフがまたクソ不潔だったらしくてよ、ヤバい菌が傷口から入り込んで、結局切断するしかなくなったんだ。血の繋がりもねェ、ただメシを喰わしてややっただけのガキを養子にするために、ジジィは脚を失ったんだ…っ!」

 啜り泣くサンジをゾロは抱き寄せて、セクシャルなことを感じさせない手つきで優しく背を撫でてくれた。

「そうするだけのもんが、てめェにあったからだ」
「俺は…なんにもジジィにしてやってねェ…。何度言われても客とトラブル起こしてばかりいた。特にやらしいオッサンを見るとどうしても施設にいたあいつを思い出して、怒りが込み上げてくんだ。頭に血がのぼって、気が付いたら血祭りに上げてた。ジジィが庇ってくんなかったら、とっくに前科持ちだよ。こんな自分を変えたいんだ。だから…どんな厳しい指導にも耐えようって思ったんだよ……」
「そりゃあ、分からんじゃねーが…方法が問題だろうよ」
「うっせ。俺はカリファさんについてくんだ」
「へいへい」

 頑是無い子どもを扱うみたいに、大きな掌が頬を包む。あやすようなキスが唇に重ねられても、サンジは抵抗する事が出来なかった。



*  *  * 



「ビビちゃん、ナミさん、お仕事頑張ってくださいね」

 階段の上から手を振っているサンジに、受付嬢のビビとナミが気付いて手を振り返す。最近《友達の友達》といった繋がりでお弁当を分けて貰ってから、サンジの料理の虜となったビビは、少しサンジと立場が似ている。秘書でこそないが、やはり《社会の風に当たってこい》と言われて、ミホークと友人関係にある父親が受付嬢として短期入社させたのだ。
 元々は押しも押されぬ大会社の令嬢であり、ここでの研修期間を終えれば幼馴染みで次期社長候補のコーザと結婚する事が決まっているのだが、今ではすっかりこの会社に馴染んでいるので、いっそのことずっと使っては貰えないかとお願いする気でいる。

 社長が変人なせいか、一般的な会社とは色々と常識が違うところがあるが、個性豊かな連中を自由に動かしているという点で、非常に居心地の良い会社なのである。

「サンジさーん、今日のおかずはなんですか〜?」
「今日はビビちゃんのリクエストで、秋刀魚の蒲焼きですよ。胡麻もたっぷりとまぶしましたからね」
「やった、嬉しい!」
「ナミさんも、リクエスト頂いた蜜柑のスフレケーキご用意しましたので、どうぞ召し上がってくださいね」

 美女同士の微笑ましい会話に、通路を行き交う人々も自然と笑顔になる。
 しかし、受付とは不穏な相手と最初に向き合う場でもある。この時、目つきのおかしい中年男性がふらりとゲートから入ってきた。薄汚れたジャンパーを羽織り、ベタベタした長髪が気色悪い。普段なら警備員に呼び止められそうな風体だが、どうしたものか彼らは姿を消している。他で呼ばれたか、トイレにでも行ってしまったのだろうか?

 自然と不安げな表情になってしまう美女二人だったが、穏健な要件である事が殆どだから、失礼がないように笑顔を作ると、《いらっしゃいませ、ご用件は?》と問いかける。

 しかし嫌な予感というのは当たるもので、この男…とんでもない《用件》を口にした。

「どっちでも良いから、俺とセックスしてよ」

 言うなり、ガチリと拳銃がビビの額に押し当てられる。モデルガンか何かだと信じたいが、この至近距離ではたとえBB弾でも皮膚に裂傷が入りそうだ。

「言っとくけど、本物だよ?」

 ガン…っ!
 寸前にビビの額から銃口をずらしたものの、明らかに実弾と思しき破壊音がビビとナミの間に炸裂する。

「きゃぁあああっーーー!!」
「嫌…っ!ちょ、なに…っ!?警備員っ!警備員っ!!」

 悲鳴を上げて二人が立ち上がろうとするが、男はまたビビの額に銃口を戻すと、ナミに向かってくぐもるようないやらしい声を出した。

「そっちのオレンジの子、こっちの水色の頭がザクロになるの見たくなきゃ、パンチラ脱いでスカートたくしあげてよ。そんで、俺のチンコ舐めながらオナニーして。勃起したら、自分でマンコ開いてお尻突きだしててよ。突っ込むから。ああ、勿論コンドームなんてしないよ?思いっ切り濃い精液ぶっ込んであげるから、妊娠してよ」
「な…っ!」
「嫌なら逆でも良いよ?ねー、どっちが良い?」
「待ってっ!あ、あたしがやるから…っ!」
「そんな…ナミさんっ!!」
「あんたは社長令嬢だもの。婚約者だっているんでしょ?あたしは…ルフィだもん。赦してくれるわ。ピルだって飲んでるもの」

 引きつりながらも懸命に微笑みを作ろうとするナミが健気で、ビビは涙が目元に噴き上げてくるのを感じる。

「ダメ…ダメよナミさんっ!私がやるから…っ!」
「別にどっちでも良いけど早くして。俺、脱童貞したら君ら殺して自分も死ぬから」

 慄然としたものが背筋を奔る。最悪の相手だ。無理心中に近い自暴自棄な気持ちで臨んでいるから、躊躇いというものがない。漸く警備員が駆けつけたものの、遮るものもない受付席の位置が災いして、男に気付かれないよう近寄る事が出来ずにいる。

「ほら、早くう…」
「く…っ!」

 ゴリゴリと音を立てて、ビビの額に硬い銃口が押しつけられる。先ほどの銃弾の名残か、硝煙の匂いが立ち込めて、どうしたってもう一発人体に向けて放たれた時の被害を想像してしまう。意を決したナミがスカートの中に手を突っ込むと、男も周囲も息を呑んだのが分かった。評判の美人受付嬢の生下着が抜かれていく様に、下卑た眼差しを送る社員まで居る。

『いや…っ!ルフィ……っ!助けてェ…っ!!』

 悔しさと羞恥と恐怖が綯い交ぜになって泣き出しそうなナミだったが、それでもビビの為に下着へと手を掛ける。それが引き下ろされようという、まさにその時、高い場所からドスの効いた声がフロア中に響き渡った。

「おい、そこの腐れチンポ野郎っ!こっちを向きやがれっ!!」

 それは、サンジだった。
 《恋の天使》と呼ばれ清楚なキャラクターで人気急上昇中の彼女は、驚くほど柄の悪い態度で凄むと、男に向かって大胆な挑発をしていく。

「どこでチャカなんか手に入れたか知らねェが、どうせてめェみてーなゴミ虫にゃあ、人なんか撃てねーよ」
「撃てる」
「あ?じゃあ俺に向けて撃ってみろよ、てめェ。出来ねェだろがオラ、チン滓野郎っ!!」

 《きひひ》と神経を逆撫でするような嗤いをわざと立てるサンジに向かって、ゆっくりと銃口が向けられていく。

「ダメ…サンジ君、こいつマジでヤバイから…っ!に、逃げて…っ!」
「ご心配なく、レディ」

 口の端を上げるサンジの表情は、もう《恋の天使》でも、《柄の悪いチンピラねーちゃん》でもなかった。独特の艶を持つ微笑みは余裕すら感じさせる。
 サンジは銃口の角度を測ると、階段の一番上から殆ど助走も取らずに飛び出したというのに、放物線を描いて大ジャンプを決めた。いつの間にか端が裂かれていたスカートからは色っぽいガーターベルトとストッキングに包まれた見事な美脚がお目見えして、頬を掠めた銃弾にも怯むことなく、見惚れるほど攻撃的な蒼瞳が男を射る。

「粗砕(コンカッセ)…っ!!」

 それは素晴らしい踵落としだった。
 胡椒の粒を打ち砕くかのような蹴りは一発で男を撃沈し、着地と同時にすぐさま回し蹴りに入った脚は、更に男が手にしていた銃を遠くに吹っ飛ばす。

 今更のように駆けつけた警備員が男を取り押さえて一件落着かと思われたが、我に返ったサンジは瞳を潤ませてぶるぶる震えだした。一体どうした事かと視線の先を伺えば、ツカツカとヒールの音を立ててカリファが近寄ってくる。その表情は渋く、こめかみには怒り筋が浮いていた。

「社内でなんという汚い言葉を使うのですか!今日という今日は赦しませんよ!」
「す…すみませ…カリファさん……」

 真っ青になってガタガタと震えるサンジは、とても大跳躍を見せて変態男を叩きのめしたのと同一人物とは思えない。よほどカリファの教育が徹底しているのだろう。

「来なさい、サンジ」
「はい…」
「あ…待って、カリファ!サンジ君はあたし達を護ってくれたのよ?あの口調だって、きっとあいつを煽ろうとしてわざと…」

 ナミが取りなそうとするが、カリファはとりつく島もない態度でサンジを連れて行ってしまう。その後ろ姿は完全にドナドナを口ずさみながら売られていく仔牛だ。

「どうしよう…サンジさん、お仕置きされちゃうのかしら?」
「ちょっとサンジ君の怯え方、尋常じゃないしね」

 今時体罰ということもなかろうが、セクシーなカリファが相手だと、暴力以上のお仕置きを受けるのではないかと心配になってしまう。

「…ゾロを、探しましょ。あいつなら何とかしてくれるかも。サンジ君に惚れてるんだし」
「そうなの!?」

 しかし、ビビとナミは駆けつけた警察から事情徴収に付き合わされてしまう。通りかかったゾロに声を掛けるまでの数分の間に、サンジのお仕置きは着々と進行していったのであった。



*  *  * 



『全く…この子は!』

 罵倒しながらも、カリファの心は明らかに弾んでいるのが分かる。
 このところ非の打ち所のない立ち居振る舞いをしていたから、お仕置きが出来なくて焦れていたのはカリファの方だった。
 今回の事は称賛に値すると分かっていても、半ば難癖をつけるようにして特別指導室の浴室に連れ込むと、いつものように腕を組んで冷然と言い放った。

「さあ、スカートをたくしあげて御覧なさい」
「はい…」

 暴漢に蹴りつけた折りに破れでもしたのか、ストッキングは破れて、同じく裂けているスカートと合わせて、まるで強姦でもされたかのように艶めいている。今まさに襲おうとしているカリファは、ごくりと生唾を呑み込んだ。

 貞操帯を外すと、萎縮しきっている花茎からコンドームとローターを外し、紅い紐でM字になるように身体を縛り上げていく。天性の勘で微妙な緊張度を保った縛り上げをしていくと、それだけでサンジの身体は火照り始めた。わざと破れた衣服は脱がせないまま、乱れた姿で縄を掛けると、はだけられたシャツと、引き上げられたブラジャーの下からピンク色の乳首が浮き上がって、硬く痼り始めた。

「いやらしい子ね、ナニを期待してこんなに硬くしているのかしら?」
「や…っ!」

 コリ…と長い爪の先できつめに引っ掻いてやれば、赤みを増した乳首がぷくんと硬さを増していく。少し唾液を絡めてやればてらてらと光った姿が一層艶を増していった。

「おちんちんも随分と大きくしていること。それに…ケツマンコは勝手に潤んでいるようね?ロロノア・ゾロの凶悪チンポをココに挿れたいのかしら?」
「な…なんで…っ!?」

 サンジにはとっくの昔に盗聴器を仕掛けている。行動や発言内容などはお見通しだ。サンジがゾロに指導内容を明かしたときにはどうしてくれようかと思ったが、《俺はカリファさんについていくんだ》という言葉を聞くと、ついにんまりと微笑んでしまった。だから、男である事を隠して淡い恋に身を焦がしているらしいサンジを、少しの間放ってやるつもりでいた。どうせ本当の事がばれたら傷ついて泣くのだろうから、そうなったら少しくらいサービスしてやろうかと思っていた。

 仕事の範疇は越えるが…それなりに成熟した花茎を、カリファの蜜壺に入れてやっても良いとさえ思った。それだけサンジの事は気に入っているのだ。

 紅い縄を花茎にも掛けて、絶妙な角度で鈴口も横断してやると、じゅわ…っとはしたない蜜が見る間に縄を濡らしていく。

「なんていじましいおちんちんかしら?お仕置きを受けているという自覚がないのね。こんな恥ずかしい姿なんて見たら、きっとロロノア・ゾロは口汚くあなたを罵る事でしょうね。《この売女》《淫売》《女装趣味の変態野郎》…そんなところかしら?」
「赦して下さい…カリファさん、どうかお赦しを…っ!」

 どうしてこの子は、こんなにも怯える表情が素敵なのかしら?
 潤んだ蒼い瞳に舌舐めづりをしながら、カリファはコブつき極太バイブレータのスイッチを押した。ぐいんぐいんと淫らがましく蠢く機械に、サンジの瞳からはぼろぼろと涙が溢れていく。

「ロロノア・ゾロを銜えこむ可能性など無いのだから、諦めなさい?あなたのことは私がずぅっと可愛がってあげる。もうバラティエに帰る許可なんて出さないわ。ず〜っと私の傍にいて、お尻の孔で女の子になっていくのよ。私だけの性奴隷に…ね」
「ゾロ……っ!!」

 サンジが悲鳴混じりに男の名を呼ぶのか許せなくて、まずはバイブで口を犯してやった。ごりごりと咥内で蠢く無骨な機械に、サンジは涙を流して嫌々をするが、そんな様が一層カリファを興奮させていく。

 《指導》ではなく、明らかな《陵辱》…。
 穢れなき《恋の天使》と謳われる青年を犯すという背徳的な悦びで、カリファは軽くイってしまった。
  



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