恋の天使は調教中 -2-



 拘束具を外してみると、半透明なコンドームの液だまりは多少膨らんでいたが、放出したというほどの量ではなかった。

「なんとか粗相だけは免れたようね」
「はい。開発部でスイッチが入りましたので、少し身体のバランスを失いましたが、転倒は免れました。歩いている間は断続的に刺激を受けておりましたので、先走りは滲ませてしまいました。行き交う他課の男性からねっとりとした視線を受けましたが、蹴り飛ばさずにここまで帰って参りました」

 《ふむ》と、頷きながらも内心カリファは不満だったりする。《お仕置き》をする口実が減ってしまったからだ。

『最初はどうなる事かと思ったけれど、この子…なかなか飲み込みが良いのだもの』
 
 カリファは優秀な指導官としての側面からサンジを評価しつつも、それ以上に、今回の業務によって目覚めてしまった《ある気質》によって、サンジには時々失敗して欲しいとの期待感を持っていた。

 《ある気質》…それは言わずもがなであろうが、サディスティックな性嗜好だ。これまでの性交渉でも気の強いカリファはとにかく主導権を握らねば気が済まなかったのだが、サンジは更に絶対服従までしてくれるのだ。しかも男だというのに女装がことのほか似合っていて、恥ずかしそうに楚々としている様子が、年頃の自信に満ちた女性よりも魅力的に映る事さえある。女形の方が品が良く見えるのと同じだろうか。

 仕事上の許可を受けて、こんな可愛い女装男子を弄れる機会などまずないだろう。カリファはこの機会を存分に愉しむつもりでいた。

とはいえ、不条理な責めは気質に合わない。やはり失敗に見合った対価としてのお仕置きをすると決めてはいる。

「それでは、遅刻分だけのお仕置きとしましょう。サンジ、下着を脱いで私の前で自慰をなさい。今日はおちんちんだけで結構よ」
「は…はい……」

 徹底的な個人指導に1週間、社内に出てから更に1週間が経過したが、未だに指示を出すたびに涙目になって真っ赤になるのが可愛い。内心舌なめずりしたいような気持ちになりながら、カリファは敢えて氷のような眼差しを叩き込んでやる。仁王立ちになった女の目の前でつるりと下着を下ろし、これ以上ないと言うほど勃ち上がった花茎を晒すのはどんな気分だろうか?見ているだけでゾクゾクと興奮してきて、カリファの雌芯もとろりと濡れてくる。

 《とゅるん》とコンドームを外せば、綺麗なピンク色をした花茎が飛び出してきて、たらたらと零れる先走りを吸い取ってやりたくなる。しかしカリファは眼鏡を指先で押し上げると、妖艶に嗤うのだった。

「本当に、何時まで経っても赤ちゃんのような色だこと。こんなに可愛らしいおちんちんなんて、女の子に見せたら嗤われてよ?」
「すみません…」

 謝りながらも、花茎の先端にぷくりと蜜が涌いてくるから、カリファの言葉によってサンジが感じているのは丸分かりだ。今回の任務でカリファがドS気質に目覚めたのと同じように、サンジもまた苛められて興奮するM気質を開花させつつあるのだろうか?

「日本の男性はロリコン趣味が多いと言うから、そちらは喜んでしゃぶりたいと言うでしょうけどね。私の友人にもあなたのようなおちんちんが大好物の変態が居るわ。どう?今からでも呼びましょうか?あなたの恥ずかしい姿を見て、さぞかし喜ぶでしょうよ」
「そんな…っ!」
「まあ、また私の言葉で感じているの?なんてはしたない子なのっ!」
「す…すみません…」
「早くおちんちんを弄って、白い蜜を放出なさい。そうでないと、あなたのことだから恥ずかしげもなく社内で粗相をしてしまうでしょう?」

 サンジは過去に一度だけ、廊下の途上で射精してしまった事がある。
 壁沿いにへたり込んでいたサンジをスキモノの親父が見つけていたら、そのまま空いた部屋に連れ込まれていた事だろう。(スカートを捲ったらひっくり返っただろうが…)
 あの時には一番苛烈なお仕置きをしてやった。

「またやったら、今度はケツマンコへのローターでは済まなくてよ?」

 ジェラルミンケースの中に収められた猥褻感たっぷりのディルドやバイブレーターの数々を晒してやれば、サンジはますます泣きそうな顔になって必死に花茎を擦り上げ、感じやすい先端に派手なピンク色をしたローターを押し当てる。《ぷるるる…っ》という小刻みな振動を受けて先走りの蜜が跳ね飛び、堪えきれない甘い声が喉から漏れだしていく。

「ぁ…あ……ゃんっ…いやっ…」
「何が嫌ですか、このスキモノの変態。指導官の前でそんな甘い声を出しておいて、何が嫌だというの?」
「あ…ぁあ…ごめ……なさ……」

 とうとう泣きじゃくり始めたサンジにカリファの方も耐えられなくなってきて、にんまりとした微笑みを何とか隠しながらサンジの前に膝を突くと、優雅な所作で髪を掻き上げた。

「全く…いけない子ね。今回だけは特別よ?私の口の中でおイきなさい」
「カリファさんっ!い…良いんですか…っ!!」

 あからさまに喜色を浮かべたサンジを可愛く思いながらも、調子に乗った仔犬の鼻面は叩いてやりたいのがカリファという女だ。はしゃいだお仕置きとばかりに花茎の付け根をぎゅうっと締め上げてやる。

「何を喜んでいるのですか!」
「ひっ!!」

 良い事を思いついた。ぱくりと先端を咥内に含み込んでぬるぬると鈴口を弄ってやりながらも、花茎の根本に放出を止める為のコブ付きバンドをきつく締めると、泣きじゃくるサンジを四つん這いにしてコンドームを手に取る。やはり、尻を責めてイかせてやらないとこの子を征服した気分にならない。

「お仕置きです。放出なしで女の子のようにイきなさい?」
「やぁ…だぁあ…っ!それ、キツ…っ…!!」
「お仕置きなのですから嫌で結構。こうされなくなかったら、早く成長する事です。あなたが未熟だからこのようなことをされるのですよ?大体、こんな短期間にお尻だけでイける身体になってしまうなんて、とんだ変態だこと!もう女の子を普通に抱いたって、射精なんてできないのではなくて?」
「やらぁ…っ…やらぁぁああ〜…っ!」

 ひっくひっくと泣きじゃくりながらも、ぐちゅぐちゅと淫猥な水音を立てて後宮を弄ってやれば、サンジは明らかに感じて尻を振り始める。淫らな顔も鏡に映し出されているから、サンジ自身も今の自分がどんなにいやらしい顔をしているか自覚している事だろう。

 カリファの指が激しく感じやすい場所を抉り、突き上げていく。目にも止まらぬ程の指ピストンに高められたサンジは、舌を咥内から突き出すようにしてイったのが分かった。かくんと力の抜けた身体からやっと花茎の拘束を外してやれば、どろりとした白濁がゆっくりと溢れていく。男の射精は普通、打ち上げ花火のように一発で終わってしまうが、アナルで感じられるようになったサンジは女のように長く、焦れったいようなオーガニズムを感じている事だろう。

「ふふ…仕事はまだまだだけど、お尻でのセックスならあなた誰にも負けない感じ易さね?きっと今、怒張しきった大きな逸物を突き込まれたら、それだけでイってしまうわ。隠語ではそういうのを《トコロテン》というのだったかしら?いやらしい雌豚にぴったりな呼称ね」
「カリファさん…け、軽蔑……しないで、くださ……」

 ひっくひっくと泣きじゃくりながら哀願するサンジの、なんと愛らしいことだろう?思わずぞくぞくしてキスしたくなったが、これはあくまで仕事なのだ。

「それはあなたの仕事ぶりに掛かっていてよ。さあ、早く支度なさい。15分で現状復帰しなければ、今度こそ無骨なディルドに処女を奪わせるわよ?」
「はひぃっ!」

 サンジは感じきって力の入らない身体で懸命に立ち上がり、転びかけていた。
 そんな姿を内心によによしながら見つめるカリファであった。



*  *  * 



 浴室から出てきたサンジは化粧などで何とか顔を整えてはいたものの、目は兔のように真っ赤で、色香が芬々とかおりたつようだ。廊下を歩いていても、社員達の瞳はサンジに釘付けで、泣きはらしたような目も《きっとカリファの叱責が厳しくて泣いちゃったんだな、可ァ〜愛い〜》と思われている。
 まさかつい先程までアナルを指で責められて、ドライオーガニズムを感じていたなどと思う者はおるまい。

『き…気持ち良いのがまた拙いよな〜…癖になりそう』

 本当に女の子を抱けない身体にされているんじゃないかと思って、心配になってしまう。

「あ…内藤さん!」
「あら」

 廊下を歩いていたら先ほどぶつかった内藤に丁度会えた。彼女に詫びの品を持っていくつもりだったのだ。

「先ほどは支えて下さってありがとうございました。まだパンプスに馴れないものですから、つい大股になってよろけてしまいました」
「あら、あんなの気にしなくて良いのに。え?これ貰って良いの?何かしら?」

 今まで少し当たりのきつかった内藤も、根はいい人なのかも知れない。おやつに渡したプチフールとはまた別に、秘書課用に作っていた柚蜂蜜のちいさな瓶を可愛くラッピングして渡すと随分喜ばれた。
 早速瓶を開けた内藤は、ふわんと香る柚の匂いにうっとりと目を細めている。

「わあ…良い匂い!嗅いでいるだけで疲れが取れそう〜」
「よかった。それ、知り合いの農家で取れた無農薬柚を、うちで2週間漬け込んだんで、柚の皮もやわらかくなってます。お湯で溶いて飲んでも身体がポカポカしますし、プレーンヨーグルトに入れるのも美味しいですよ」
「やってみるわー!」

 きゃっきゃっと顔を綻ばしてくれるのが一番嬉しい。かなりの勢いで日常生活から逸脱した行為に耽っていたせいもあって、こんな風に料理に関する事で褒められると、やっと地に足が着くような感覚がある。

「ねえ、サンジちゃんってバラティエに勤めてたの?」
「は…い」

バラティエの名を出されると、やはり胸がきゅうんと締め付けられる。何時になったら十分な成長が遂げられたと認められて、あのレストランに帰れるのだろうか?
 そもそも、帰る事が出来るのだろうか?帰れなかった場合の自分の人生を、今はとても考える事が出来ない。

「じゃあ、お料理とかも得意なのかしら?」
「んん〜、作るのは好きです。食べて貰うのも」

 期待に満ちた内藤の眼差しが、気を落としかけていたサンジの心を少し浮上させる。きっと料理関連の話を振って貰えるのだろうと期待したらその通りだった。内藤も料理作りが趣味なのだが、忙しいせいで少しワンパターンに陥っているそうで、手作り弁当を見て助言が欲しいらしい。カリファに許可を取ったら喜んで伺うと約束すると、内藤は機嫌良く手を振ってくれた。

 秘書課に戻っておずおずとカリファに許可を願うと、意外にあっさりと認めてくれた。元々カリファは《プレートに載っていないと料理ではない》という主義なので、仕事上やむおえない時以外は必ず社食か外食をとる。他の秘書も重役付きで忙しいから、なかなか和気藹々と一緒に食事を採る機会がない。そのせいでサンジは、一人ぽつんと秘書課で弁当箱を広げていたのである。それは淋しかろうと気を使ってくれたらしい。やっぱり、何だかんだ言って優しい人だ。

「ありがとうございます!」
「その代わり、1秒でも遅刻したらお仕置きよ?」
「はいっ!」

 素の表情でニカッと笑ったら、カリファは仄かに頬を染めて笑いかけ、慌てて仏頂面に戻した。指導官としての品位を保とうとしたのだろうか?



*  *  * 



『えべェ…』

 入社1年目のロロノア・ゾロは、腹が《くきゅうぅ〜》と情けない音を立てるのに眉根を寄せた。同僚が発熱してしまったので急ぎの仕事を肩代わりしてやったは良いが、片づきそうで片づかない仕事を続けている内に他の同僚は次々に帰宅してしまい、備蓄食糧を分けてくれそうなお局様も姿を消した。
 コンビニに行けば良いのだが、そこまで本腰入れて残業をする気はない。

「珈琲でも飲むか…」

 課には備え付けのポットとインスタント珈琲があるから、それでいっとき凌ぐしかなかろう。スポンジでは落ちない汚れがこびりついたカップ(郵便局の粗品)を手にポットの前まで行くと、急に廊下の方からふわんと良い匂いが漂ってきた。鰹出汁とほうじ茶、そして米だろうか?痛いほど空きっ腹に沁みる香りに、どうっと咥内に唾液が噴き出してきた。基本的に肉食なゾロだが、あまりにも腹が減っている今は肉の匂いよりもこちらの方がダイレクトに効く。

 思わず廊下に出てみると、金髪のスレンダー美人がしずしずとお盆を運んでいくところだった。確か、育成秘書の…さて、名前はなんと言ったか。ゾロと目が合うと会釈をしたが、そのまま通り過ぎていく。どうやら社長室にでも夜食を運びに行くらしい。育成秘書は基本的に社長の個人的な見解で選ばれるから、時々こうして呼ばれるのだ。育成の状況などを報告するのだろう。

 だとすれば、この食事はゾロの口にはいる事はない。さり気なさを装いながらトイレに向かおうとすると、主の意向に反した臓器達が一斉に造反を起こした。《くきゅるうぅうう〜っ!!》静かな夜の会社内に、今までで最大規模のグル音が鳴り響く。金髪秘書も吃驚して振り返ったほどだ。

「あの…もしよろしければ、こちらを召し上がってください」
「いや、そいつァ社長にでも持ってくんだろ?やべェんじゃねーのか?」
「アポは取っていないんです。食堂で余ったご飯を頂いて、自分のを作ったら余ってしまったので、どうしようかと思ってお持ちしたんですよ。お腹が空いた方に食べて頂けるのが一番です」

 にっこりと微笑む清楚な笑顔はまさに大和撫子。
 金髪碧眼秘書で淑やかなんて、まさにオヤジの夢を詰め込んだ《おじ様ランチ》のような美女だ。
 
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰う。ああ…俺ァ、ロロノア・ゾロだ」
「育成秘書のサンジです。ロロノアさんのお名前は存じております。入社間もないのに、とても優秀な方だとか」
「へっ。世辞はいらねェよ」
「そういうところも、武骨で男らしいって評判ですよ?」

 どうも背中が痒い。よくみると、金髪秘書の方もどこか歯が浮くみたいにもぞもぞしている。こういった社交辞令に実は馴れていないと見た。

「冷める前にどうぞ。ご飯は食堂の余り物ですけど、出汁と付け合わせは我が家から持参しましたので、自信作なんです」
「おう」

 パソコンを置いていないデスクの上にお盆を置いて、おひつから小さな杓文字でご飯をよそう姿が何とも男心を擽る。その上に薄切りにした刺身や薬味などをたっぷりと乗せて、出汁を注げば漂う香りは最高潮に達する。涙が出そうなくらいに旨そうだ。脇に控えている浅漬けを囓るのも楽しみだ。
 
「旨ェ…っ!」

 一口含むと反射的に賞賛の声が出て、かっかっと勢い良く掻き込んでいく。鼻腔に抜ける馥郁たる香りと、舌に沁みる芳醇な味わいは、ゾロの心をいたく刺激した。

 しかし、その感動をもってしても誤魔化しきれない事を、次の瞬間サンジは口にしてしまう。

「おう、クソ旨ェだろ?」

 し……ん…………。

 突然、沈黙が降りた。
 清楚な金髪秘書の口からこれほどぞんざいな…というか、コンビニの前にたむろしている若者のような言語が飛び出してくるとはついぞ思わなかった。しかも、そんな言葉遣いをしているときに限って、サンジはこれまでのどこか薄皮を被ったような印象を払って、掛け値なしに可愛いと思える笑顔を浮かべていたのだ。
 カラリとして裏がなく、かぱりと口を開けて白い歯を丸見えにした笑顔。それは何にも勝る御馳走だった。
 
 思わず見惚れてしまうと、サンジも自分の物言いに気付いたのか急に青ざめて口元を覆ってしまう。

「い…今のは……無かった事に………」

 よく見れば、髪で隠していた眉の端がくるんと面白いくらいに巻いている事にも気付いてしまった。どこか頓狂な印象があるが、秘書然としてつんと取り澄ました態度よりもよほどゾロの好みに適っている。
 どこか嗜虐心を誘うような困り顔も可愛い。口元に指を立てて《しいっ》という顔をしているのがえらく似合う。薄いがふっくりとした唇が実に魅力的だ。
 困った顔がもっと見たくて、ついつい意地悪を言ってしまった。

「さァて…どうすっかなァ…」
「か…カリファさんにだけは報告しないで下さい!」
「そんなに怖ェか?鬼教官は」
「カリファさんはお優しい方です。でも…とても仕事熱心でらっしゃるので、私に粗相があるとお仕置きをなさるんです」

 何故か顔を真っ赤にして瞼を伏せる。途端に匂い立つような色香が漂って、ピンク色のオーラにごきゅりと喉が鳴ってしまう。いかん、このまま押し倒してしまいそうだ。

「別に言う気はねェよ。元々チクるような趣味はねェし、恩人を売るなんざもってのほかだ。あんたの反応が良いんで、ついからかっちまった。許せ」
「…なんも、取引とかしなくて良いのかよ?」
「おい、てめェ本性出てんぞ?」
「あっ!」

 また両手で口を覆って青ざめる。赤くなったり青くなったり忙しい奴だ。



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