君のいちばん 3


そして現在、二人はいわゆる連れ込み宿で、妙な緊張に包まれていた。
サンジはソファに深く腰掛けたままタバコばかり吸っている。
ぼんやり窓の外を眺めていると見せかけて、組んだ足の先はさっきから貧乏揺すりが止まらない。

さっとシャワーを浴び終えたゾロがサンジの横を通り過ぎて冷蔵庫の中から酒を取った。
「宿の酒は高えぞ、飲みすぎんな。」
窓に向いたまま声だけで咎めるサンジにゾロは苦笑を返した。
「そう緊張すんな。取って喰おうって訳じゃねえ。」
「喰われてたまるか!ってーか、誰が緊張してるってんだボケマリモ!!!」
足先の貧乏揺すりがさらに激しくなった。
ゾロは酒をぐいと呷ってからテーブルに置いた。

「ああすまねえ。待たせたな。」
背もたれに手をかけて覗き込むように顔を近づける。
「な、何の真似だ。キスはなしだぞ。」
「なんでだ。ルフィとはしなかったのか?」
サンジの青い瞳がくるりと上を向く。
本人はポーカーフェイスを気取っているらしいが、その反応はいちいち素直で実に分かりやすい。
「フェアにいかねえとな。」
指先でフィルターを焦がしそうになっていたタバコを取り上げて、灰皿でもみ消した。

何か言おうとする前に唇を浚う。
そのまま後頭部に手を添えて、ゾロは思いっきり貪った。
ふんぐっとサンジの息が止まる。
ゾロの唇ががばりと覆い被さったかと思うととんでもない勢いで吸引された。
下唇が甘噛みされて、閉じた歯を舌が撫でる。
―――い、息が・・・
鼻で息をすればいいのに、頭ごと押し付けられてもう余すところなく吸い尽くされそうだ。
なんとか逃れようとゾロの髪を力の限り引っ張ったのに、びくともしない。ゾロのでかい手がサンジの両頬を挟んで持ち上げるように密着させる。
あまりの苦しさに食いしばった歯を開いたらすかさず熱い舌が滑り込んできた。
えらく長いらしいそれはくるんとサンジの舌を絡め取ってもげそうな勢いで吸い付きはじめる。

なんじゃこりゃあ!!!

サンジは目を見開いたまま驚愕した。
こんなもん、キスじゃねえ!

無理やり開かされた唇にゾロの尖った犬歯が当たって身が竦む。
口から食われるんじゃねーのか?
がぶがぶべろんべろん口中を嘗め回されて、ようやく解放されたときにはサンジは身を起こす力もないほど
体力を消耗していた。

「どした?キスくれえでなにへたってやがる。」
濡れた唇をぺろりと舐めて、ゾロが涼しい声で言う。
何がキスだ。
あんなもんキスじゃねえと言い返したいところだが、舌が痺れてうまく言葉が出ない。
悔しそうに顔を歪めたサンジは、濡れた口元をそのままに半開きさせて、荒く息をついている。
上気した目元がなんともエロい。

「反則だぞてめえ。」
ゾロのちょっと掠れた声が届いた。
どっちがだと言う前に、また唇を塞がれる。


サンジは、この勝負をかなり甘く見ていた。
少なくともゾロにそっちのケはなさそうだし、せいぜいコキっこ程度で済むと思ってたんである。
健全な男なら、野郎相手に勃起するどころかキスするのさえ憚れるだろう。
ルフィはどこかすべてを超越したところがあるから、自分相手でもそこそこ反応したんだろうなと、サンジは勝手に解釈していた。
だがゾロに限って天地が引っくり返ろうとも男を、しかも自分をどうこうしようなんてする筈がないと頭から信じ込んでいた。
なぜだかは知らないけれど。
だから今、自分の置かれている状況を理解するのに時間がかかる。
売り言葉に買い言葉で連れ込みに入って、ゾロがちょっかいかけてきて、キスされて、と思ったら喰われかけて、押し倒されて、胸触られて…
え?
胸?
さああっとサンジの顔から血の気が引く。
いつの間にかベッドに押し倒された格好でシャツの胸元は肌蹴られていた。
ゾロの分厚い手があちこち弄って、事もあろうに小さな突起を指で挟んでいる。
ゾロが…
あのゾロが男の、俺の乳首を抓んでる????


「ば、なんてことしやがるっ…」
真っ赤になって膝を蹴り上げたのに、ゾロの硬い腹が衝撃を難なく受け止めた。
「ってえなあ。ルフィには弄らせなかったのかよ。」
「う…」
そういや、ルフィもちょっと触ってたな。
「ああ、ここんとこも吸われてるな。」
ぼそぼそ呟いて、顎の下の柔らかな皮膚をちゅうと吸い上げた。
「い、いて…てえっ」
「こっちもかよ。」
なんだかぶつくさ文句を言いながらゾロがあちこちに吸い付きまわる。
「と…まっ、てえマリモ!いてーだろが!」
吸い上げる力は半端じゃなく強い。
サンジの色素の薄い肌は見る見るうちに痣だらけになった。
「どれがルフィの跡か、わかんなくなったな。」
鎖骨をちろりと舐めながら笑うゾロの顔は、心なしか満足そうだ。

そんなことしている間にも右手は休みなく動き続け、くりくりとサンジの乳首を弄り倒す。
なんだかじんじん胸の奥まで何かが響いて、サンジは目を開けていられなくなった。
口を開けば声が漏れる。
鼻だけで大きく息を繰り返し、手繰り寄せた枕の端っこをぎりと噛んだ。
「おい、口塞ぐの反則だぞ。」
ゾロが伸び上がって、横を向いたサンジの耳たぶを軽く噛む。
うなじの毛がそそり立ってぶるりと身体が震えた。
「さみーのか感じてんのかどっちだよ。」
ゾロの声音には明らかに揶揄が含まれている。
悔しくて何か言い返したいが口を開けば声が漏れそうで動くこともできない。

散々弄んだ指が離れたかと思うと、ぬるりと熱いもので覆われた。
ゾロが…
俺の乳首を舐めやがった。
形容しがたいショックがサンジを襲う。
ゾロが、まさかゾロが…

いつもいつも飽くことなく喧嘩し続ける間柄ではあるが、サンジは結構ゾロに一目置いている。
多分最初に出会ったあの日から、自分の奥で眠っていた何かを根こそぎ引き抜かれてしまったに違いない。
男としても、仲間としても、戦士としてもすげー奴だと知っているから、喧嘩できる自分が嬉しかった。
ときには思う存分蹴り倒して青筋立てて怒るゾロ見るのが楽しかった。
なのに…
ゾロが音を立ててサンジの乳首を嘗め回す。
反対側も執拗なほど指で捏ね繰り回した。
俺の、男の乳首だろーが…
自分の平べったい胸に顔を埋める緑髪が異様で、サンジは泣きたくなってきた。

メンタルはひどいショックを受けているのに、身体の方は直接的な刺激でさっきから痛いほど反応している。
覆い被さったゾロが下腹部を擦り付けてきて、そのあまりに動物的な仕草にますますサンジは追い詰められた。
ルフィとは本当に悪ふざけの延長だった。
軽くキスして触りあって、年上ぶって受け入れてみただけだ。
こんな風に組み敷かれて奪われる恐怖なんてなかったのに…

いってえなんで、こんなことになったっけか?

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