君のいちばん 4


サンジは失念していたが、ゾロは元来目的のためには手段を選ばないタイプだ。
勝負に勝つためには自らの犠牲も厭わない。
よもや男の自分に具体的に何かしてくる度胸はないだろうと高を括っていたサンジは、思いもかけないゾロの積極性に付いていけなくなっている。
舐められて擦られて、なんだかよくわからなくなってきた。
一体何の勝負だったんだろう。

ゾロがバックルを外して手を滑り込ませる。
直接握られてサンジは枕に噛み付いた。
触った!
しかも握ってる…!

もはやパニックである。
「もう勃ってやがんのか。さすがだな。」
そのまま強い力で扱かれると痛いやら怖いやらで腰が引けた。
目をつぶったままぶんぶん頭を振る。
「なんだ、痛えのか?」
今度はうんうんと上下させるとゾロは少し手の力を緩めた。
「まったく軟弱野郎だぜ。優しくしてやりゃ、いいのか?」
今度はやわやわと手を動かす。
掌がでかいから全体が包まれるようで、なんとも心地いい。
心地いいって…
なんだ俺ぁ!!

サンジはすっかりやられっぱなしの状態に気が付いて、シーツを握り締めていた手をゾロの下半身に伸ばした。
腹の下が硬く膨らんでいる。
てめーだって勃ってっじゃねえかよとからかってやろうとして、その大きさにぎょっとした。
…反則なんじゃあ…
青褪めるサンジに見せ付けるようにゾロがズボンを脱ぐ。
目の前に突き出された一物に今度こそサンジは卒倒するかと思った。

ルフィは…ゴムなのだ。
いかようにも伸び縮みし、太くも細くもなれる。
なのにこれは…いかんだろう。
サンジは涎でべとべとになった枕を顔から外して身体を起こした。
圧し掛かろうとするゾロを手で制して大きく息を吸う。

「あのなマリモ、その頭でよく考えろ。俺もお前も男だよな。」
何をいまさらと言った顔で、ゾロは答えない。
「お前ホモか?違うよな。俺もホモじゃねえ。今のこの状況を冷静になってよく見てみろ。野郎同士で下半身晒して、突っ込み棒しかねえじゃねえか。やーらかくてあったけえレディの身体とは全然違う、硬くてごつい男の身体だろ。お前がソレをどうこうできるってえ…」
いきなり饒舌になったその口を手っ取り早く塞いだ。
下部を揉みしだきながらべろんべろん口中を嘗め回すとサンジはぐうとも言えなくなる。

また悔しそうに顔を歪めて横を向いた隙に、ベッドヘッドに置いてあったクリームに手を伸ばした。
突然塗りつけられたひやりとした感触に身体が跳ねる。
ゾロの指が塗り込めているのだと思うとかあっと全身が熱くなった。
不慣れな場所を攻める圧迫感に鳥肌が立つ。

ぎゅっと目を閉じて、口も閉じて肌を染めたサンジをまじまじと見ながら、ゾロはかなり困惑していた。
ルフィに指導するくらいだからさぞかし経験豊富かと思えば、とんでもなく恥ずかしがっている。
はっきり言ってまるで処女だ。
さっきから何度か指を差し込む箇所は固く閉じていて、本数を増やすこともままならない。
それでもゾロにしてはやけに丁寧に、刺激を繰り返した。
そこを弄るだけでサンジの前はたらたらと蜜を溢れさせて、小刻みに震えている。
気持ちはイイらしいが、認めたくないのか身を硬くしたまま声を殺して枕を抱いていた。

「イきてえか?」
枕をどけると、目尻に涙をためた瞳がそれでもきつく睨み付けていた。
「ルフィに挿れさせたんだろが。こんなんでよく入ったな。」
「ル、ルフィはゴムだろが…」
そういえばそんなことを言っていた。
「だから、細く…ちいとばかしっつった!」
なんだ。
「ケツを気持ちいい程度に弄られただけかよ。」
それであんなに甘い声で。
「じゃあてめえ、もしかしてまともに男とヤったことねえのか?」
「あ、当たり前だ!俺はレディ専門で、そこは出す専門だ!!!」

呆れてモノが言えない。
それこそじゃれ合いの延長みたいにコキっこして、あんな声出してりゃルフィじゃなくてもその気になるぜ。
ゾロは目の前の阿呆をきちんと躾なければと思ってしまった。
とりあえずイかせるのは後回しにして、突っ込むだけ突っ込んでそれから考えよう。

急に乱暴になった指の動きにサンジが声もなくうめき、見開いた瞳に涙が盛り上がる。
「…ルフィにも、そうやって泣いてみせたか?」
「な…俺が泣くわけないだろが!」
この期に及んでまだそんなことを言う。
ゾロが埋め込んだ指をぐるりと返すと、声に出さないまま口を大きく開けた。
ぎゅっと閉じた瞳から涙が零れ落ちる。
「そんなら、俺が泣かせてやる。」
太ももに手を食い込ませて大きく開かせ、ゾロは強引に腰を進めた。



出航の朝はよく晴れて風も穏やかだ。
早朝から買出しを済ませて集合場所に向かうと船長が早くもメリーの頭の上で手を振っている。
「サンジ、買出し済ませたのか。」
「ああ、クソ腹巻が手伝ってくれたしな。」
ゾロは力があるから買出しには結構便利だとわかった。
これからも利用しようと思う。
「そっか、これ返す。」
ルフィはポケットを掻きまわして何枚かの紙幣を取り出した。
「お前…使わなかったのか?」
上陸してすぐ、サンジが貸したお姉さま代。
「俺には代わりも試しもいらねえ。やっぱいちばん好きな奴がいい。」
ルフィはそう言って、にかっと笑った。
今日のお日様みたいに眩しくて爽快な笑顔。
「そっか…うん。やっぱいちばん好きな人が、いいよな。」
サンジはつられるように笑って、それから乾いた笑いへと変化した。
いちばん好きな人…ねえ。
倉庫に荷物を運び終えたゾロが錨を揚げようとしている。
ナミは見張り台の上から波止場に集まるクルーに手を振り、出航の合図をした。


ざばざば波を掻き分けて進むGM号の甲板で、ナミはデッキチェアに座り海図と睨めっこ。
ロビンは本を広げ、チョッパーはウソップと釣りをし、ルフィは船首の上で前を見ている。
キッチンでおやつを作るサンジの後ろには、それを手伝うゾロがいた。

結局ゾロは勝負に負けた。
サンジをあんあん言わせるはずが、ひいひい泣かせてしまった。
故にこうして扱き使われている。
翌日からはちゃんとあんあん啼かせたのだが、勝負の話は別らしい。
「今夜は格納庫行こうぜ、あそこなら響かねえだろ。」
明日のお天気みたいなノリでとんでもないことを言うから、サンジは泡だて器を取り落とした。
シンクに跳ねた勢いでクリームが飛び散る。
「だ…から、勝負は付いたろーが!それを毎晩毎晩仕切り直しやがって…大概しつけーぞ!!」
「ありゃあ勝負じゃねえぞ。」
隙を見せずに近づいて、サンジの頬に飛び散ったクリームをぺろりと舐める。
「今までのSEXんなかでてめえが一番よかったんだ。最初のは勝負だが後からは違う。」
じゃあ何だよとサンジが問う前に、真っ赤に染まった頬から唇へ移動させた。

さっきナミと目が合ったら、珍しく向こうから逸らされた。
勝手な策略に乗せられたのは癪だが、結果オーライだとゾロは思っている。
ゾロの長くて器用な舌が縦横無尽にサンジの口中を暴れまわるから、サンジは思い切り脛を蹴ったり髪の毛を引っ張ったり腕に爪を立てたりして抵抗していたが、徐々に動きが緩慢になっていった。
そしてとうとう諦めたのか、広い背中に腕を廻す。

どうやらサンジも、自分の一番を見つけたらしい。

END

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