けだものだもの  -1-


 わんわん♪わんわわん♪
 のらく〜ろ〜ゴ、ゴ、ゴォ〜♪

 CMか何かで聞いた昭和アニメっぽい歌をそこだけリフレインして、サンジはリズミカルに犬を洗っていく。随分と大きな犬だ。シベリアンハスキーだろうか?河川敷で擦り寄ってきたときには大雨が降っていたから泥にまみれていたけれど、丁寧に流してやると随分立派な姿になった。伸びを打てば、尻尾を含めた全長でいうと高校一年生のサンジを越えるかも知れない。

「ふっふゥ〜ん。おお〜、てめェ風呂嫌がらないなァ。おかげで見違えたぜ?この調子でドライヤーも嫌がるなよ?」

 言い聞かせてやると、これまた熱風を当てても平気な顔をしているし毛並みも良い。首輪もしていないが、元はペットセンターで手入れして貰えるような身分だったのかも知れない。

「大型犬って憧れるけど、でかくなりすぎると捨てちまうヤツ多いって言うもんな。でも、俺は絶対見捨てねェぞ?ジジィにだってちゃんと世話できるから飼わせろって言うからな?大丈夫。今度こそ…」

 まだ咽奥に込みあげてくるものがあるけれど、涙を堪えてサンジは誓う。

「…大丈夫。ギンみたいに、死なせたりしねェ」

 小学一年生の時に河川敷で拾ったブチ犬のギンは、最初の内はサンジが撫でるとはしゃぎすぎて嬉ション(嬉しすぎて失禁)して閉口したが、一年が経つ頃には落ち着いて、見てくれは悪いが頭が良くて従順な犬になった。
 けれどギンは先週、事故で死んだ。
 散歩させているところに居眠り運転の車が突っ込んできたのだ。

「ギンは…俺を庇って死んだんだ」

 ポケットに入れていた携帯電話が鳴ったから、誰からだろうと画面を覗いたせいで車に気付くのが遅れた。あのままの位置だったらサンジが轢かれていたはずなのに、ギンは信じられないくらいの力でサンジに飛びかかって突き飛ばしたのだ。ギンはサンジの代わりに、車に潰されるようにして死んだ。《ドォン!》という腹に響く轟音と、破砕した壁と車の間から、真っ赤な血が流れ出しくる様子が今でもありありと脳裏に浮かぶ。

「お前は…そんな風に死なせたりしないぞ?もう俺、携帯持つの止めたんだ。散歩の時にも、ちゃんと車に注意するからな?」

 ふかふかになった毛皮を抱き寄せて、凛々しい目元や鼻面にキスをしてやる。老齢に差し掛かっていたギンとは違って、若々しい獣の匂いがした。乾いた毛は灰色のようだが、よく見ると緑掛かっているようにも見える。
 
「名前何にしようかな?元の名前もあんだろうけど、それは分からないしな。ギンの時は捨てられてた箱の中に名前が書いてあったんだけどなァ〜。てめェはそもそも、捨て犬かどうかも分かんないな?」

 じィっと琥珀色の鋭い瞳を見つめていると、どうも誰かを思い出す。毛の色といい、瞳の色といい、やっぱり《あいつ》に似ている。けれどそんな名前で呼ぶのは恥ずかしくて、サンジは犬の首筋に鼻先を埋めて呟いた。

「お前はロロだ」
「…ガゥ」
「何だよ、不満げだな。でもよ、てめェのホントの名前なんて分かんないだろ?」
 
 苦笑して頬肉の辺りをぐりぐりしてやると、ロロは溜息のような息を吐いてゴロンと横たわった。横柄な態度は、やっぱり幼馴染みのロロノア・ゾロによく似ていた。でも、今回は絶対そんな名前付けない。

 だって、好きな男の名前なんだから。
 毎日呼んでいたら変な気分になりそうだ。

 サンジがゾロに出会ったのは、初めて同じクラスになった小学4年生の時だった。ゾロは当時から無口でどっしりと構えていたから最初の内はあまり話す機会もなかったけど、グループ学習の時に口喧嘩をしてから気になる相手になった。その内、口は悪いけれど真っ直ぐな気質の男だと分かったし、時々ハッとするような着眼点を持っているのが分かってきて、一目置くようになった。

 決定的だったのは、ゾロが参加した剣道大会を見に行ったときだった。あの頃はまだ小柄だったゾロの姿が、剣道着を着て竹刀を構えると凄く大きく見えた。闘う姿は他の小学生達とは一線を画しており、彼だけが《剣士》と呼ぶに足る存在なのだと子供心にも感じていた。

 帰り道に《凄ェな》と褒めたら、ちょっとだけ頬を赤くして照れて、いつか《大剣豪》になるのが夢なのだと教えてくれた。彼の闘いぶりを知らなければ、きっと《この平和な現代に何を》と笑っていただろうけれど、その時は夕焼けに染まるゾロの横顔が真剣なのに気付いて、サンジも真顔で《なれるよ》と答えていた。いつも茶化すような口ぶりばかりするサンジなのに、柄にも無いことを言ったかなと恥ずかしかったけれど、ゾロが《おう》と言ったときの口元がちょっと嬉しそうだったから、照れ隠しをしたりはしなかった。

 同じ中学に進学したのは同じ学区だったのだから当たり前としても、ゾロが推薦で入った高校に、サンジも結構勉強してまで入ったのは偶然ではないと知っているだろうか?
 我関せずといった風情だし、クラスも違ってしまったから気付いていないだろう。それに通学できる範囲では唯一調理科がある学校だから、そのせいだと思っているかも知れない。

 餌付けには成功しているから、昼飯は必ずサンジが作った弁当を一緒に食べるのだけれど、他にも餌付けしてしまった複数の男子達と一緒だから、実はあまり会話は成立していない。ゾロは高校に入ってますます無口になった。サンジや高校で知り合った陽気なウソップ、匂いに惹かれて隣のアホ学校からやってくるルフィとその兄エースが喧しく喋るのを横で聞いていて、話しかけられると鷹揚に頷く程度だ。メシは気に入っていても、本当はガキ臭いサンジ達の喋りなど興味ないのかも知れない。

 ああ…でも、一週間ほど声も聞いていない思ったら、サンジの方はすっかり寂しくなってしまった。
 携帯に出たせいでギンを死なせてしまったと思ったから、その場で機体は真っ二つにしてしまった。友達のナンバーも全部携帯に入れていてメモなんか取っていなかったから、ゾロの番号も分からない。

『学校…明日から行かなくちゃな』

 サンジは一週間学校を休んでいる。
 居眠り運転をしていてギンを轢き殺した会社員は大怪我しているし、サンジには傷一つ無いから訴える気はないのだが、保険会社が間に入ったりして、幾らか詫び金が出ることになった。それで墓を作ることにして、取りあえずギンの火葬だけはしておいた。フランス人の祖父と二人暮らしの一戸建てには仏壇がないので、窓辺に華と一緒に錦模様の赤い骨箱を置いている。

『あいつら心配してっかな』

 友達には家の電話番号は教えていなかったから、担任から事務的な電話を貰っただけだ。事故のことについてはサンジやゼフは取材拒否をしたけれど、目撃者が《飼い犬が高校生を護った》という美談でインタビューに応じていたので、そちらで噂が広がっているかも知れない。

『あー…この一週間。ジジィとしか喋ってないや』

 祖父には最初から《一週間休む》と伝えて了解を取っていたし、自分でもそろそろ社会復帰しないと拙いと思っていたから、今日は初めて家の外に出てみた。何となく昔ギンを拾った河川敷に行ってみると、同じ場所にロロが佇んでいたから吃驚して駆け寄った。違う犬なのは一目見て分かったし、ギンが死んで一週間で他の犬を飼うなんてどうだろうとは思ったけれど、じっとサンジを見つめて擦り寄ってくる犬にどうしようもなく心惹かれて、連れて帰ってきた。不思議なことに、ロロもリードで牽いたわけでもないのに大人しくサンジについてきたから、お互い一目惚れなのかも知れない。

『全身ずぶぬれだったのに、眼だけは真っ直ぐ俺を見てたから…ゾロみたいだってあの時も思ったのかも』

 この犬は誰にでも懐くという雰囲気ではなく、マンションに向かうときにも他の連中には目もくれなかった。気のせいなのかどうなのか、道行く車に気を配って、車道側を歩くサンジのズボンを引っ張っては歩道の端を歩かせようとした。そうするとロロの方が車道側になるからすぐに立ち位置を入れ替えのだけど、執拗に修正してくるから最後にはサンジが折れた。

「まさかお前、補助犬とかなの?」

 肢体不自由の飼い主を補助していたのだとしたら、そういう介護が出来るのも分からないではない。けれどそんな賢い犬なら、どうして首輪もせずに彷徨っていたのだろう。異様に体格が大きいのも、主人と同じ空間で生活する補助犬としては異例か。

「ん〜…飼ってて本当の主人が現れたりすっと、辛いかも。なんかてめェのこと気に入っちゃったし」

 《ちゅっちゅっ》と音を立てて顔中にキスをしてやると、ロロもベロリと長い舌を伸ばしてサンジの頬を舐めあげた。《あははっ!》と歓声を上げると、調子に乗って襟ぐりの広いTシャツを引き下げんばかりにして首筋を舐めてきた。

「ロロ、バっカ…くすぐってェ」

 ラグの上にひっくり返って大笑いしていると、どっしりとのし掛かってきたロロはゴムウエストの短パンまでずらして下腹を舐める。くすぐったいやら、舌乳頭がザリザリして痛いやらで、サンジはヒィヒィ言わされて悶絶してしまった。
 しかもロロの様子を伺うと、股間に赤みを帯びた陰茎が勃起している。

「あ〜ロロ、男前な顔しててもやっぱ犬だなァ〜。チンコおっ勃ててんじゃねェよ。そういうトコはギンと一緒だな?あいつも気が乗ると散歩の途中でものし掛かってきて腰カクカク言わすから参ったぜェ〜。酷いときなんか俯せになってるトコにのし掛かってきて、ケツにコンコンぶつけてきたり、ズボンに射精しやがってよ。人間なら蹴り飛ばすけど、犬はそういうわけにいかないもんな」

 心なしかロロの眉間が寄った気がする。そうすると余計にゾロに似ていて、くすくす笑ってしまった。

「あっはは。てめェやっぱ、あいつにそっくりだなァ。眉間の皺、似すぎだぜ!チンコ擦ってやりたくなっから、止めろよそういう顔〜」

 ロロの顔がギョッとしたように見えた。サンジの心理が反映されているだけなのだろうが、頬肉を両手で包んで、チョンとゴムパッキンみたいな口にキスしてやる。

「あ〜…ダメだな、俺やっぱ終わってるわ。なんで可愛い女の子達が世の中にはいっぱいいるっていうのにさ、あいつが良いんだろ?なー、こんな素敵なコーコーセーが緑頭の野郎なんかに惚れてんのって問題だよなァ?このままいきゃ流石に進路は変わるから、そしたら俺も忘れられるかな?惨めったらしく同じ高校選んだりするから諦めきれなくなるんだよな〜」

 もたれ掛かるようにしてロロの首に抱きつくと、スンと鼻を鳴らしてみる。

「でも、寂しいなァ…最近じゃあメシ喰うときだって会話とか無かったのによ、それでも滅多に会えなくなるって思ったら…凄ェ寂しい。おまけにギンまで死んじまうしさァ…あーあ…どうしよう。寂しくて死んじゃいそう」
「グル…」

 やっぱり堪えきれなくなって涙を零し始めると、咽奥で唸るロロはまたベロベロと肌を舐め始めて、シャツの中に頭を突っ込むと乳首にまで舌を引っかけた。

「ゃ…っ!ちょっ!バカっ!!俺ァ…そこ、ダメぇ…っ!」

 ジタバタと暴れたせいで、ローテーブルの上に置いていた牛乳入りの瓶がバシャンとサンジのズボンに掛かってしまう。

「うへェ〜ぐしょ濡れじゃんか。しかも股間って…お漏らしみてェでみっともねェ…」

 びしょ濡れになったズボンを脱ぐと、牛乳を味わいたいのかロロは股間にまで舌を伸ばしてきた。

「ばかっ!や、な…なにして…っ!」

 真っ赤になってポカリとロロの頭を殴ろうとしたが、この体勢から怒らせると危なくないか?チンコを犬に噛み切られるなんて困る。

「ちょ…待て、マジで待てっ!将来性豊かなチンコを噛み切るのはよせっ!」

 噛む気など無いと知らせるように、やたらと丁寧にロロはチンコを舐めていく。両の前脚でサンジの内腿を押さえ込むようにして、べろべろと小袋まで鋭い牙に触れながら舐められると、フェラチオなど未体験の高校生としては恥ずかしいくらいに勃起してしまう。

「ヤベ…犬相手に、勃起とかヤベ…っ!」

 けれど流されやすいサンジは、あまりの心地よさに酩酊状態に陥ってしまって、自ら腰を揺らして信じ難い事態を受け入れてしまう。ずくずくするような未知の快感が股間に満ちて、今やチンコは腹を打たんばかりに勃起している。

 《ハァハァ》と獣らしい息づかいと長い舌が感じやすい股間に絡みつき、サンジの痴態がロロの眼前に晒されているのだと思うと酷く興奮してしまう。ちらりと視線を送れば、鋭い瞳はまるっきりゾロそのもので、まるで彼に荒々しい愛撫を受けているようだ。

「ロ…」

 呼んでしまう。
 このままでは、犬に見立ててあの男の名を呼んでしまう。
 《ベロ…》と、尖端の物凄く気持ちの良い場所を長い舌が掠めると、サンジは背筋を弓なりにして射精してしまった。

「ぞろォ…っ!」

 …と、叫んだその瞬間。
 《ぼぅんっ!》と間抜けな音と手品みたいな煙をあげて、ロロはゾロになってしまった。

「………へ?」
「あー…。真の名、呼ばれちまったか」

 ばつが悪そうに頭を掻く男は、全裸のロロノア・ゾロだった。
 中学の修学旅行の時に風呂場で見たときよりも逞しくなったゾロは、《まァ良いか》と迷惑なことを呟きながらサンジの放った精液をべろりと舐めあげてきた。犬の時よりも短くて肉厚な舌は、的確に乳首を捉えると《きゅっ》と吸い上げたり歯列で甘噛みしたりする。覗き見た股間では雄の逸物が怒張していて、亀頭が剥けきった赤黒い肉棒はサンジのつつましやかなソレとは一線を画していた。

「な…な……」
「犬になって、少してめェの様子を見るだけで良かったんだけどな。まさか家に上げられて、熱烈な告白を受けるたァ思ってなかったからよ。まァ、このまま取りあえず流されとけ。後で事情は説明し…」
「今しろやーっ!!」

 《ドコォンっ!》とゾロの腹筋に炸裂した蹴りは、想い人を壁にめり込ませるに十分な威力を持っていた。



*  *  * 



「悪かった」

 殊勝に謝るくせに、ソファに座ったゾロは堂々たる態度でサンジを抱っこして、剣士然とした真顔で頬やら鼻面やらにキスしてくる。眉間にもしっかり皺が寄っていて、行為と表情の差異に困惑してしまう。
 ちなみにサンジの服はどれもサイズ的に入らないから、ゼフのクローゼットから取りだしたTシャツとスラックスを着せている。

 ゾロは自分の意志で狼(犬ではなかったらしい)に変身できる特異体質らしい。これはロロノア家に生まれた緑髪の男児特有の性質なのだそうだ。ただ、スムーズに変化できるわけではないのでかなりの意識集中が必要だし、酷く興奮することで無意識に変身することもある。また、《真の名》で呼びかけられると強制的に人間の姿に戻る。都合良く服まで変化するわけではないから、とんでも無い場所で《真の名》を使われるととんだ露出狂状態になってしまう。
 超常的な事実に驚きはしたが、実はもっとサンジを驚かせたのは、交通事故の折に電話を掛けてきたのがゾロなのだということだった。

「てめェにどうしても伝えたいことがあって電話を掛けたら、凄ェ轟音と悲鳴が聞こえて、それがブツンと切られて…気が気じゃ無かったぜ。慌てて探しに行ったが、家にも戻ってねェしよ。その内ニュースで交通事故のことを知ったときには、頭が真っ白になりそうだった。てめェは無事だと分かって安心したが、もしかして俺が電話を掛けたタイミングが拙くてあんな事故になったんじゃねェかって、心配でしょうがなかった」

 こんなに長い文章をゾロが喋るのは久し振りか、ひょっとすると初めてかも知れない。淡々とした口調ではあったけれど、それが余計にゾロの葛藤を感じさせた。

「電話で、ナニ話す気だったんだ?」
「てめェを呼び出そうと思った」
「学校じゃ話せないことか?」
「おう。黙ってたこと全部、ぶちまける気だった」
「この体質のこととか?」
「それもある。だが、こいつは大したことじゃない。でけェ…のは……」

 珍しく言い淀み、口元を手で覆い隠しはしたものの、すぐ視線をサンジに戻すとゾロは真っ直ぐな目をしてきっぱりと告げた。

「てめェに惚れてるってことだ」
「……そっか」

 ゾロの態度からもしかしてそうなんじゃないかなと思ってはいたが、改めて言われると溢れるような喜びが指の先までじんじんと満たす。

 両思いか。
 そうか。
 だったら犬にフェラチオされてイったのも、ノーカウントとして良いだろうか?(←ユル過ぎる)

「てめェが言ってた《あいつ》ってのは、俺ってことで良いんだろ?」
「……そうだよ」

 改めて言われると、また頬が染まる。ゾロはその反応に気をよくして、ニカっと笑うと唇を押しつけてきた。女子にモテモテの羨ましい男なのだが、キスには馴れない様子で角度の合わせ方がぎこちない。ゾロを想って誰とも付き合ったことのないサンジも、人に言えた義理はないが。

 互いにぎこちないキスではあったけれど、それでも想いを伝えるには十分だった。唇を押しつけ合うだけなのに、薄目を開いて確認するゾロの顔立ちや表情が嬉しくて、胸にはふくふくとした喜びが込みあげてくる。

「なんで、急に言おうと思ったんだ?」
「ずっと考えちゃいたんだ。でも、言うタイミングが掴めなかった。放課後は部活ばっかりやってるし、てめェも週末はジィさんとこのレストラン手伝ってたろ?昔みてェにお互いの部屋でゴロゴロゲームしてるなんて時間は無くなったし、昼飯もいつの間にか大人数になっちまったしな。特に、エースの奴がやたらとてめェに馴れ馴れしくすんの見てたら、むかついてしょうがなくてよ。大概《そういうコトなんかな》って受け入れざるをえなかった」
「いつから…?なァ、そういう風に思ったのっていつからだよ?」

 甘えるよう抱きついて上目遣いに説明を求めると、ゾロは不満げに下唇を突き出して睨み付けてくる。こういう頑是無い子どものような顔を見るのは久し振りだ。

「…てめェ、自分ばっかり聞くなよ。つか、てめェの口からまだちゃんと聞いてねェぞ?俺のこと好きだって言えよ」
「犬の格好でチンコしゃぶる変態剣士には言いたくねェ」
「しょうがねェだろ。あのバカ犬にとんでもねェことされてたって言われりゃ、張り合いたくもなる」
「バカ犬って言うな」

 一瞬真顔になって目元を強張らせると、ゾロも罪悪感を滲ませて目礼する。

「…悪ィ。そうだな、てめェを救ってくれた犬だ。せめてエロ犬って言うべきだな」
「………それは、否定出来ねェ」

 サンジを好きで好きでしょうがなかったギン。
 あの犬が種族を越えたいくらいサンジを愛していたのは事実だろう。もしかすると本気でサンジに挿入したかったのかも知れない。それは認められないけれど、それでもサンジはギンが大好きだった。沢山の寂しさをそっと癒してくれた犬だ。
 
「これからどんな犬を飼っても、誰を愛しても…ギンを忘れたりは出来ねェよ」
「忘れる必要はねェだろ」
「だな」

 こくんと頷いて、サンジはもう一度ゾロにキスをした。



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