I shall please -4-



角部屋の“S室”は、普通の内装だった。
中央にどんとダブルベッドがあるだけでそれ以外家具らしいものはないが、天蓋つきベッドのフリルと花柄のシーツ、それに薄いピンクの壁紙が華やかだ。
「・・・・・・」
しばし、二人して突っ立ったまま絶句した。
と言うか、もうどうリアクションしていいかわからない。
このまま回れ右して出て行きたいが、一晩3000ベリーの安さがそれを踏み止まらせる。
先に観念したのはゾロの方で、やれやれと肩を竦めながら中に踏み込んだ。
サンジも嫌々ながらその後に続く。
仕方なくベッドの横に立ち振り返ると、なるほど入り口から右手片面だけ総鏡張りだ。
しかし薄いカーテンが横に束ねられているから、閉めて使用しても充分OKらしい。
「はあ、こりゃ参ったね」
ベッドサイドに灰皿が備え付けてあるのを確認して、サンジはベッドに腰を下ろすとポケットから煙草を取り出した。
スプリングの効いた、ふかふかのベッドだ。
これでラブホじゃなかったら、よく眠れるだろうに。

足を組んでスパーと煙を吹かすサンジの隣に仲良く腰掛けるわけにもいかないのか、ゾロは手持ち無沙汰に突っ立っている。
「仕方ねえ、寝るか」
そう呟くから、サンジの方がぎょっとして身を引いた。
「なんだよもう・・・いや、つうか寝ろ」
「腹減ってんだよ」
一人でなにやら恥らって取り繕うサンジを無視し、ゾロは不機嫌そうに眉を顰めた。
薬屋に辿り着くためだけに、1日を費やしたのだ。
サンジは少女と楽しくデートしたし、バカ高いランチも腹に収まっているから、そう腹は減っていない。
「馬鹿だなあ、また飲まず食わずで彷徨ってたんだろ」
咥え煙草で身体を傾け、長い足を振り下ろす反動で沈んだベッドから起き上がった。
「なんか、食うもんあればいいんだが・・・」
何か食うにも先立つものはないし、今日はこのまま寝て明日きちんと食べた方がいいだろう。
元来健康志向のサンジはそんなことを考え、備え付けの冷蔵庫の中を物色した。
カクテルやチューハイなんかが置いてあるが、ゾロが好みそうな強い酒はない。
クラッカーを見つけて、ゾロに放り投げた。
「値段はそんな高くねえや、これでも食ってろ」
もはや、ここの宿泊代も食費もすべてゾロに任せるつもりだ。

ベッドに腰掛けてもさもさクラッカーを食べるゾロに一抹の哀愁を感じながら、サンジはまたベッドに戻って靴を脱ぎ、中央近くまで這っていった。
シャワーは後で浴びようとか思っている。
「お前、気付いたか」
「なにをだ。この島は可愛い子ちゃんが多いってことか?」
「そうだ」
「・・・ええええっ」
思わぬ応えに、サンジのがビックリして顔を上げた。
ゾロは至極真面目な表情で取り澄ましている。
「女が多い、旅行者や海賊・海軍なんかを除けば、島民の殆どが女だ」
「ああ・・・」
なるほど、確かにそうかもしれない。
思い返してみると、入港管理局も道行く人々も、軒を連ねる市場もこんないかがわしい宿屋も、すべて女性ばかりが仕切っている。
元々男は眼中に入らない性質であるサンジの目で思い出しても、島民らしき男の姿は映らなかった。
「お前も、道を歩けばあちこちからレディのお声が掛かったのか」
「さあ、どうだったかな」
切羽詰った雰囲気がなければ、男だろうが女だろうが視界に入らないのがゾロだ。
さくさく無視して真っ直ぐ歩み、結果迷子になったとしても誰も責められまい。

「唯一、薬屋の店員が男だったが、あんまりオス臭い感じじゃなかった」
「オス臭いって・・・」
サンジは不愉快そうに鼻の頭に皺を寄せた。
「まあそんな恥ずかしい買い物するんなら、野郎でよかったじゃねえか」
「誰のための買いモンだ」
そう言われ、益々嫌そうに顔を顰める。
「うっせえな、使うのはてめえだろうが」
「ああそうだ、だから俺の金で買ったんだ」
ゾロは腹巻から5本の内の1本を取り出し、サンジに見せつけるように目の前に翳した。
ふいと顔を背け、両足を漕ぐように動かしてズリズリと後ずさりする。
「だからって、こんなお膳立てされたような部屋で試してみようってんじゃ、ねえだろ」
「今試さねえでどうすんだ」
ゾロは心外とばかりに目を見張り、呆れたような声を出した。
「今まで使ってたのと若干違うんだとよ、ここで試さねえで船でぶっつけ本番使うのか?どうなっても知らねえぞ」
「どうなってもって、どうなるんだ」
一体てめえ、何買ってきた?とサンジの声が裏返る。
「ちゃんと薬屋に相談したぜ、んで一番いいのを買ってきた」
「だから、どういう風にイイんだって」
「それを今から試すんじゃねえか」
ゾロはそう言って、口端だけ歪めて見せる悪人顔で笑った。





「なんだよこれ」
白いアーチをかたどった鉄製の柵には、上から降り注ぐフリルに紛れるようにして布製の枷があった。
それに気付かず、暢気に伸びをしたサンジの両手を絡め取り、ゾロは手早く拘束を済ませる。
「こういう部屋なんだろ」
「なんで?Sだから?にしてもなんでこんなピンクでフリフリなのに、設備だけ整ってんだよ!」
「文句は女将に言え」
腹減ってるからさっさと済ますぞーと呟きながらバックルを外してやると、サンジもそれには同意したのか自分から腰を上げて脱ぎやすいように協力した。
下着ごとずるんと引き摺り下ろして、横に放る。
「っと待て、待て待て貴様」
サンジの片足がひょいと上がって、ゾロの額を足蹴にした。
繁みの奥まで丸見えだが、色気の欠片もない。
「ちゃんとカーテンを閉めろ、なんで開いたままなんだ」
言いながらガシガシ蹴りつけてくる踵を持って、ひょいと頭上まで上げる。
残った片足に膝を乗せ、身体を割り込ませるようにして奥を探った。
「だ、から、待てってば!」
「お前が待て。これは塗ってから効果が出るまで時間がかかるそうだから、その間に閉めてやる」
そう言って手早くチューブを捻り出し、ジェルを塗りつけた。
「効果だあ?」
さらにサンジの声が裏返って、頭上に絡め取られた両手が忙しなく合わさった。
「おう、これ塗るとすげえらしいぞ」
「・・・な、なにが」
「そりゃあもう、欲しくて欲しくて堪らなくなるらしい」
「んだとお!?」
なんて薬買ってきやがったと息巻くサンジの足が暴れださないように、一まとめにして膝で折り曲げその上に改めて乗り固定した。
「だから、両手を縛っといて正解だろう。もしかすっと、自分でするかもしれねえからな」
「ん、な・・・」
「我慢できなくてよ、そりゃあヤバいだろ」
いっそ清々しいほど爽やかに言い放ち、至近距離でにかりと笑う。
サンジは拘束されたまま、怒りのためか首筋まで真っ赤に染めて鼻息を荒くした。
「このエロマリモ、なんてことしやがる卑怯者!」
「ここらでちょいと、鍛えとくのもいいんじゃねえか。てめえの忍耐力ってのを高めるチャンスだ」
「ふざけんなっ、この鍛錬マニア」
まだ後孔に残っていたゾロの指が、からかうようにクイっと内壁を押した。
異物感と共に妙な熱を感じて、怒鳴り続けようとした声をぐっと詰まらせる。
気のせいか身体が熱い。
ゾロが触れている肌もチリチリして、いつもより敏感になっている気がした。
「くそ・・・タチ悪い・・・」
「観念しろ」
ゾロはもう片方の手で顔を背けたサンジの顎を掴み、己の方へと引き寄せた。

「―――ん」
唇を合わせるのはこれが初めてだ。
元々擦り合いから始まった関係だし、挿れるようになってからは下半身のみに集中していて上半身に気がいかなかった。
なによりサンジが嫌がったのだ。
男同士でキスとか、気持ち悪いてめえホモかとか、罵倒されたこともある。
まったく、ヤルことヤっといてなにを言ってやがるのか。
「ふ・・・」
荒々しく唇を食んで舌を絡めると、サンジは喘ぐように仰け反った。
逃がすまいと顔全体を押し付け、舌先を尖らせて口内を蹂躙する。
逃げる舌を咥え込みきつく吸えば、サンジの肩がぶるりと震えた。
ちゅく、と濡れた音が立つ。
まだ内部に納めたままのゾロの指をきゅっと締め付ける動きを見せて、ゾロは舌を絡めたまま笑った。
「効くのが、早えんじゃねえか?」
キスだけでこんなかよと、頬を舐めながら意地悪く囁いた。
促されて視線を落としたサンジは、自分の中心が軽くそそり立っていることに気付いて愕然となる。
「ちが・・・これは、てめえの薬が・・・」
「ああ、そうだな」
すげえ効果だと、声を低めて吐息と共に耳に吹き込み耳朶を噛む。
またしてもサンジの身体がぶるぶる震え、喉仏が浮いた白い首が反り返った。

シャツのボタンを手早く外すと、肩を肌蹴るようにして開いてやる。
反らされた胸に、小さくついた尖りが色づいているのを見て、ゾロはごくりと唾を飲み込んだ。
なにやらとても、美味そうだ。
舌にじわりと唾液が湧いたから、そのまま湿り気を帯びた唇で片方の尖りを食む。
「ふわっ」
色気のない悲鳴を上げて、サンジは跳ねつくように身体を引いた。
けれど背後には柵があって、それ以上逃げられない。
「バカばかバカ、んなとこ触るなボケ!野郎のち、ちちちちち・・・を舐めて、どうすんだ変態!」
じゅっと唾液ごと強く吸われて、軽く歯を立てられた。
はわわ〜とまたしても情けない悲鳴が上がる。
「変だって馬鹿、止めろ止めろやめろってクソ野郎〜〜」
「黙って耐えてろ」
「咥えたまま喋んな!つか、なんでそんな正確な発音なん・・・ん、ん―――」
前歯で挟まれて、舌でツンツン突かれた。
それだけで先っぽがジンジン来て、じっとしていられない。
「く、くすぐってえっつってんだろ」
「そうか?その割りに、随分硬くなってやがるが」
放ったらかされたもう片方の乳首が、やんわりと勃っている。
それを指で挟んでふにふにと揉んでやると、サンジは左右に身体を揺らした。
「だからそれ止めろって、変だってヤバいって、お、男のち、ちちちち」
「乳首だろ」
ぎゅっと摘んで引っ張った。
サンジは声もなく顎を仰け反らせている。
「どうした、感じんのか」
「・・・は、誰が」
「ならじっとしてろよ」
じっとしてられないから暴れているのだ。
それがわかっているからこそ、ゾロの嗜虐心に火が点いた。
ずっとこうして、好き放題弄くり倒してみたかったのだ。
この白くて引き締まった、魚のような活きのいい身体を。

「硬くなってんぞ、弄りやすい」
「―――う」
何を言ってもゾロにからかわれると思い知ったか、サンジは今度はだんまりを決め込んだ。
目をぎゅっと瞑り歯を噛み締めて、知らぬ顔を装っている。
けれど眉間に刻まれた皺も泣き出しそうに歪んだ表情も、すべてが彼の動揺を鮮明に語っていてわかり安過ぎた。
「大丈夫だ、優しくしてやる」
「・・・てめえ、コロすっ」
これ見よがしに突き出された舌先で先端を転がされ、気を逸らすように首を振って顔の方向を変えた。
そのままぎょっとして目を見張る。
「ま――待て待て待て!」
「今度はなんだ」
「カーテン!鏡っ、さっき閉めるっつっただろうが!」
うっかり忘れていたらしい。
ゾロはああとわざとらしく身体を起し、サンジの視界から退いて背後に回った。
「てめえに見せなきゃ意味がねえよな」
「違うって、閉めろっつってんだろがカーテン!」
「馬鹿野郎、金払ってんだから元は取らねえと」
「なんの元だよ」
ふぐっと後ろから手で口元を塞がれた。
そのままもう片方の手で、先ほどきつく吸われて赤く染まった乳首をゆっくりと捏ねられる。
「・・・ふ、ふぅ・・・がっ」
目を閉じようとするのを、指で瞼の下を引っ張って阻む。
「ちゃんと見てろよ、これが耐えんねえと船ん中で静かにできねえぞ」
くにくにと指で扱きながら、もう片方に吸い付いて歯を立て甘噛みする。
「ずいぶん硬くしこってんな、気持ちいいんだろ」
「・・・ざけんなっ」
いくら言葉で否定しても、乳首は正直だ。
ゾロの指の間で押し潰される度に、ますます硬く張り詰めて丁度良い弾力になっている。
吸い付かれた方は無意識なのか、押し付けるように胸を反らせるから、まるで自分から吸ってくれとねだっているようなものだ。
「そんだけ乳首がいいか」
「―――・・・」
もはや何も応えられない。
悲壮な表情で目を閉じているのに、半開きの唇は濡れていて熱い息が時折悩ましい声を伴って漏れ出ている。
ぎゅっと摘んで強く引っ張り、つんつんと小刻みに揺らしてやった。
その屈辱的な動きにさえ、明らかな快感を表して乳首の硬さが増す。
「や・・・もう」
「ん?」
乳首遊びについ夢中になり過ぎて放ったらかしだった下半身に目をやって、ゾロはおっと声を上げた。
サンジのペニスは、触れてもいないのにガチガチ勃ち上がり先端に露を滲ませている。
想定以上の過敏な反応だ。
「なんだてめえ、乳首だけでイけんのか」
「・・・んな、訳っ」
サンジは歯を剥いて目を怒らせ、自分の身体を見て再び愕然となった。
なんかもう、すぐにもイきそうな雰囲気なんですけど。

「んな訳ねえ!薬だ、薬のせいだっ」
「そうだな、すげえ効き目だな」
ゾロは心の底からそう言うと、驚愕に見開かれた目元にちゅっと唇を押し付ける。
「薬のせいで過敏になってっだけだ。わかってっからイっちまえ」
見ろよ、と低めた声で意地悪く囁いた。
「てめえの身体、めちゃくちゃやらしいぜ」
サンジはちらりと鏡に視線を走らせ、すぐに唇を噛み締めて目を瞑った。
その瞼を開かせるように、ゾロの舌がそっと目元を這う。
「見てろって、薬のせいだろ。てめえがそうなんじゃねえから、見てみろ」
背後から腕を回してきゅっと乳首を摘み、円を描くように揺らしながらところどころ爪を立てる。
今のサンジには痛みさえ快楽に繋がるようで、立てられた膝がビクビクと震えその中心でペニスが揺れた。
「ふ、あ・・・」
「ほら見ろよ、イっちまえ」
目尻に涙を溜めて、サンジの瞳がゆっくりと開かれる。

ゾロの浅黒い手が白い肌の上に浮き出て、両の乳首は遠目に見てもわかるほどに赤く色付き熟れていた。
いつの間にか開かれた両足の間に、濃く色付きそそり立ったペニスがしととに濡れて、誰が見ても淫乱な身体だ。
「あ―――やだっ」
背後からゾロが覗き込むように顔をずらして、長く伸ばした舌で驚愕に開いたままのサンジの唇を舐める。
それに誘われて首を傾け自ら舌を差し出し絡めながら、サンジは乳首に間断なく加えられる小刻みな甘い痛みと刺激に身を委ね、ペニスに触れることなく射精した。




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