I shall please -1-


麦藁のルフィ率いる海賊団は、グランドラインでも屈指の「お行儀のいい海賊団」かもしれない。
なぜなら食事の時間には全員揃って食卓を囲み、いただきますとご馳走様を必ず唱え、食後は各自の皿をシンクまで運ぶのが決まりごとになっているからだ。
傍若無人なゴム人間だろうがイーストの魔獣だろうが、例外はない。
みな等しく、力を与えてくれた食材に感謝し料理人に敬意を込めて皿を運ぶのだ。

その日も、ゆっくりと食事を終えたゾロは最後の皿を運んだ。
ゾロだけは箸を愛用しており、それを自分のグラスに縦に入れてシンクに置いた。
すでに洗い物を始めていたサンジが、からりと軽やかな音を立てた箸を横目でちらりと見る。
誰にも気付かれない程度に溜め息をついて、すぐさまその箸だけを手に取った。
ゾロはその結果に満足して、そのまま何事もなかったようにラウンジへと戻っていく。

ゾロがグラスに箸を入れて返してきたなら、それは「今晩どうだ」の合図。
サンジがグラスに入れられた箸をすぐさま手に取ったら「しょうがねえな」の返答。
そのまま放置なら「やなこった」だ。
とは言え、そのまま放置を未だかつてしたことはない。
女じゃないからダメな日とかないし、体調はいつでも万全ですこぶる健康だから断る理由はない。
具合が悪かったり怪我をしている時はそもそもゾロが求めて来ないから、そんな合図も必要ないのかもしれないが。
一応断る権利は俺にもあるんだぞと主張したいのだろうが、それだったらたまには断って見せればいいのに、生真面目なサンジは理由を見つけられなくて毎回「OK」サインを出してしまう。





見張り台でウトウトとまどろみながら、ゾロは耳だけ欹てて外の気配を窺っていた。
宵っ張りなロビンもフランキーも休んだようだし、ブルックのバイオリンも止んだ。
そろそろやってくるだろう。
ゾロが本気で気配を探れば、キッチンの扉が開く音だって聞き取れる。
片手に酒とバスケット、頭にトレイを載せたコックは危なげない足取りでマストを登ってくる。
顔を覗かせるより先に腕を伸ばし、トレイを受け取った。
さらりと金色の髪が流れ、いつもはねめつけるように眇められている青い瞳がきょとりと丸くなる。
そうしているとやけに幼い表情になるから、ゾロは密かに気に入っていた。
「あんだよ」
「ご苦労さん」
何か文句を言いそうな口を先に制するように、ゾロは礼を言った。
ややへそ曲がりで天邪鬼なサンジは、先に誠意を示されると気圧されたように口数が少なくなる傾向にある。
コトの前には特に意味もなく悪口雑言が飛び出して来るのが常だから、ゾロも大概学習して先手を打って出るのだ。
「後でありがたくいただく」
そう言って恭しい手つきで、見張り部屋の隅に布を掛けたままのトレイ類を置いた。
サンジはふんと鼻を鳴らし、煙草を咥えたが火を点けようとはしなかった。
「別に、冷めてまずくなるよなもんねえしよ」
後でゆっくり食いやがれと呟いて、取り出したばかりの煙草をまた箱に戻した。

「んじゃすっか」
景気づけのようにそう言って、腰を浮かしシャツの下に手を入れる。
小さく金属音を立てながらベルトを緩めて、下着ごとずり下げた。
目の前につるんとした白い尻が現れる。
何度見ても見慣れない、つい目が奪われる瞬間だ。
女のそれとは違う、固そうで引き締まっていて、頬に窪みのある滑らかな尻だ。
戯れに手を伸ばして触れると、すぐさまお触り禁止!と鋭い声とともに後ろ足が飛んできた。
その体勢で片足を蹴り上げるのもどうかと思う。
「みだりに触るなと言っただろうが」
サンジは憤然と目を吊り上げ、足元に絡まったズボンと下着を申し訳程度に畳んで隅っこに置くと、ゾロの膝の上にちょこんと尻を乗せた。
身体と顔は、ほぼ90度の角度をつけて横を向いている。
ゾロは腹巻の中を探り、愛用している潤滑油を手に取って半座りになっているサンジの腰を引き寄せた。
触れられたことでまたしてもなにやら不満そうだったが、今度は文句を言わないでサンジは横を向いたままずりずりと尻をずらした。
髪が頬に触れて、ふわりとシャンプーだか石鹸だかの匂いがした。
サンジのことだから、隅々まで万全に洗い流してここに臨んだのだろう。
そんなに律儀に身奇麗にしなくてもと思うのだが、本来男同士のそれなんて不潔な行為なんだから最低限気を遣わないととかなんとか、口角泡飛ばして演説していたことがあるから、文句は言わないことにする。

そこだけはいっぱし柔らかい尻肉を持ち上げて、固く窄まった場所に潤滑油を塗りつける。
サンジは横を向いたまま奥歯を噛み締めているようで、空を見詰めた瞳は微妙に揺らいでいた。
何度しても慣れないのだろうが、それにしてもいつまでたっても頑な過ぎる。
「もうちょい、力抜け」
「抜けるか、ボケ」
吐く息に妙な声が混じらないように必死なのか、抗う言葉も短く早口だ。
だがこの潤滑油を塗りつけると効果は覿面で、サンジの意志とは関係なく解けるのが早くなる。
ほんの少しの麻酔と媚薬が入っているらしく、ゾロの指は徐々に動きやすくなっていった。
「これ、もうすぐ切れそうだぞ」
「そっか・・・弱ったな」
まるで重大なことを相談しているみたいに、サンジはそっぽを向いたまま眉間に皺を寄せて応えた。
こんな時くらいこっちを向いて話せばいいのに、とにかく行為の最中は目を合わせるのも嫌なんだそうだ。
「チョッパーに相談して、同じようなもの作ってもらったらどうだ」
「・・・本気で言ってんなら、今すぐオロす」
サンジの怒りに呼応するかのように、ゾロの指がきゅうっと締め付けられた。
冗談だ、と口と指との両方から宥める。
「次の島で、似たようなの探すか」
「てめえが探せよ」
「努力する」
言われ放題だが、ゾロはこんな時ばかりは無駄に反抗せず大人しくサンジの言うがままに従うのが常だ。
なぜならばサンジ曰く、「やらせてやってんだからそれぐら言うことを聞け」ということらしい。
確かに、「やらせて貰っている」立場であるから、ある程度のわがままも命令口調も許容せねばとゾロなりに折り合いを付けている。
そんな妙な主従関係など築くのは、ゾロもサンジもお互いにらしくないと思ってはいるのだが、いつの頃からかこんな関係ができてしまった。
したたかに酔っ払ったのがきっかけだったか、大きな戦いのあとの高揚感から来たものだったかは、お互いに覚えていないのだけれど。

「うし、ケツ上げろ」
「言うなボケ」
サンジは相変わらず横を向いたまま悪態を吐いて、ひょこりと白い尻を持ち上げるとそのまま90度角度を変えた。
腹巻の下を寛げ、胡坐を掻いたゾロの前に顔を俯ける。
「風呂、入ったな」
「おう」
一応確認する辺りが、嫌味なのか潔癖を装いたいだけなのか。
ともかく、すでに元気一杯でにょっきりと顔を覗かせているそれを目の前にして、サンジは嫌そうに眉を顰めた。
「お前、いつでも勃ってんじゃねえだろうな。さてはその腹巻は勃起隠しか?」
「さあな」
後ろ頭を撫でて促せば、サンジは何か文句を言いかけたがそのまま開いた口ではむっと咥える。
ゾロの前に跪いた格好で黙々と奉仕するサンジの尻を、ゾロは両手で撫でた。
むむうと口いっぱいに頬張りながら、抗議の唸りを上げる。
みだりに触るなと、言いたいらしい。
「うっせえな」
心持ち腰を押し付けて口の中を突いてやれば、けほっと小さく噎せた。
腹いせか歯が当たったが、これほど怒張していると多少の痛みも興奮に変わる。
丸いハートのような尻の窪みに指を入れ、何度も撫でて擦っての緩やかなマッサージを繰り返す。
時折角度を変えて奥深くで小刻みに揺らしてやれば、先ほどの抗議とはまた違った音色でサンジが唸った。
「も、い・・・」
ちゅぽんと口から外すと、またしても身体の向きを変えてゾロに尻を押し付けるように四つん這いになる。
「いいか、すぐイけよ」
「わかってる」
挿れて3分以内にイかないと、後で蹴られるのだ。
別に蹴られるのは慣れっこだから構わないのだが、あんまりしつこくするともうさせねえとか言い出すだろうからそっちの方が面倒だ。
だからゾロは、大人しく腰を振り己を高めることに集中する。

「―――・・・」
声も息も漏れるのを拒むかのように、サンジは肩を怒らせ床に突っ伏して息を殺している。
そんなに固く強張っていたらイくものもイけないだろうに。
どこまでも素直ではない、なのにイヤらしい身体を持つ天邪鬼をあやすのは得意だ。
ゾロは角度を変えて深みを探り、サンジのいい所を突いてやった。
声を上げる代わりに、白い背中が撓ってビクンビクンと下腹が凹んだ。
やや性急で乱暴すぎるが、こうでもしないとサンジの身体を高められない。
ダイレクトにそこばかりを刺激してやると、サンジの内部がきゅうと激しく収縮した。
「・・・く―――」
ぴしゃりと床に白濁の液を零し、サンジが大きく息をついた。
その狭さと熱さを充分に堪能してから、ゾロもゆっくりと引き抜く。
そのまま尻の窄みから背筋へとなぞるようにペニスを擦りつけ、手で扱きながら射精した。
生暖かい感触が伝わったのか、サンジは四つん這いのままぶるりと大きく身震いした。
萎えたペニスからまた少し、小さく滴が垂れる。
「てめ、人の背中に・・・」
「動くな、零れるぞ」
別に零れてもいいだろうに、ゾロの一言で動きを止める辺りがなんとも可愛らしい。
用意した濡れタオルで自分の性器を拭いてサンジの背中を拭い、最後に床に散ったサンジのモノを拭き取った。
開始してから約15分。
いつものペースだ。

「あーさっぱりした」
サンジは手早く下着とズボンを身に付けると、汚れたタオルだけ持って立ち上がった。
「じゃあな、見張りよろしく」
「おう、ご馳走さん」
夜食の礼を言うと、ご機嫌な様子で片手を挙げて見張り台から降りていった。



完璧にサンジの気配が消えてしまってから数分後、ゾロは寛げたままの前から再び怒張したモノを自分で扱く。
サンジはさっぱりしただろうが、ゾロはまったくさっぱりしていない。
むしろ、終わった後に2〜3発自分で抜かないとやっていけないほど熱が溜まってしまう。
―――ああ、触りてえ
本当は、もっとサンジに触れたいのだ。
尻だけでない、滑らかであろう肌とか背中とか腰とか乳首とか、色々触りたくて仕方がないのだ。
あの、妙に恥じらいを感じさせるピンクのペニスとか蒼白い内股とか金色の繁みとか、色んなものを弄くり倒したくて溜まらないのに、実際には目にすることすらできやしない。
サンジは入れたらOKとでも思っているのか、いつも下だけ脱いで最低限解して突っ込んで終わり。
正面から抱き合うことも、目を合わせることすらしようとはしない。
キスなんて、論外だ。
それでいて、ゾロに突っ込まれることに慣れたケツは今では少しの刺激だけでイけるほどに馴染んでしまっていて。
正直普通のセックスより気持ちいいぜと、けろりと言い放つほどにあっけらかんとしているのに。
なんでそれなら、普通のセックスに持ち込んじゃいけねんだ。
「だってよ、男同士でそんなん気色悪いだろ」
いつだったかきょとんとした顔で、そう応えられたことがあった。
することしといて、気色悪いもクソもあるかー!
そう言って暴れたいところだが、これがサンジの天然たる所以なのだろう。
ともかく「性行為=突っ込んで出す」ぐらいにしか思っていない辺り、ほんとのセックスを知っているのかどうかすら怪しいものだ。

―――ああ、触りてえ
全部見てえ
裸に剥きてえ
キスしてえ
舐めてえ
噛みてえ
啼かせてえ
乳首、弄りてえ・・・

お陰でゾロの煩悩は募る一方で、性衝動の凶暴さは日に日に増しているというのに。
当の本人はボランティア気分で、夜のお勤めさえ済ませればお互いにご機嫌だとでも思っているようだ。

ゾロは夜の海を眺めながら、長々と深い溜め息を吐いた。
そうして観念したかのように目を閉じる。
さきほどのサンジの尻とか中の柔らかさとか熱さとかを頭に思い描いて、ゾロはほとんど日課になりつつある自慰に取り掛かった。



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