光 -1-


――――ちっ!ツイてねぇな!

むしゃくしゃする気持ちのまま本堂に通じる扉を乱暴に開けると、蝋燭の薄暗い灯りが目に染みる。
ざわつく堂内を足音を立てて歩いたが、それもいつもの事で誰も気に留める者など居ない。
昼間坊主の奏でる読経の響きと線香の匂いに包まれる本堂は、夜になるとその様相を一変させる。
今は博打に耽る無頼達の喧々轟々とした会話と煙管から発せられる煙が堂内に蔓延していた。
そんな中、ゾロはそのまま向かい側の扉まで辿り着くと思い切り扉を開け放った。
「お、ゾロ、もう帰んのかい?無宿人狩りに気ぃ付けろよ!」
戸口近くに座っていた仲間から掛かった声を完全無視し、障子をまたしても乱暴に閉めた。
本堂から障子越しに洩れる蝋燭の灯りで薄ぼんやりと照らし出された境内。
ゾロは、その光の端に見えた境内の桟に足を掛け、頭をバリバリと掻き毟る。
直後、わぁっと内部から聞こえた歓声と罵声で、一勝負付いたのだと分かった。
喧騒の中、その騒ぎの向こう、真っ暗闇で視界には移らない本堂裏を振り返り、睨み上げる。
漆黒の闇に覆われた本堂背後にある開山堂。
あのまま上手くいっていれば、あそこで女の上に乗っかっていたのは自分だったろうに。
そう思うと居ても立っても居られない。
用件は聞いていなかったが、確か今日は戻ってこないと言っていた筈だ。
だが、当てが外れたのだろうか、戻ってきた兄貴分は大層機嫌が悪かった。
その兄貴分が開山堂で2人きりだった自分たちを見て、更に目を剥いた。
そもそも自分から誘ったわけではないのだが。
向こうが目茶目茶乗り気で、『前から狙ってた』とか何とか言ってたような気がする。
兄貴分が目を入れていた女。
まぁそこらの遊女顔負けの好い女っぷりだったし、年はゾロの許容範囲ギリギリだったし。
何より、普段から威張り腐っている兄貴分の鼻を明かしてやれると思って気分がよかった。
2人、時間差で本堂を抜け出し、本堂奥に立つ開山堂で落ち合う。
そこは兄貴分がいつも女としけ込む場所だ。
先に行って板の間に座っていた自分の横に女が座り、しな垂れかかって来たその身体に手を伸ばした。
袷の間に手を忍び込ませ、寄せて来たプリッとした唇に己のそれを寄せた時だった。
絶妙なタイミングでバンと扉が開いた。
その場にいた3人が3人とも動きを止めて、互いの動きを見つめる。
暫しの沈黙の後、兄貴分がフンと鼻息を吐いて、ゾロに対して顎をしゃくる。
『出て行け』の合図だ。
ゾロは女の袷から手を引き抜くと無言で立ち上がり、俯く女の脇を通り抜け、扉の前で立っている
兄貴分の前を少し頭を下げて通り過ぎた。
そんなゾロの動きを待ってか、兄貴分がずかずかと足音を立てて部屋の内部へと足を運ぶ。
パンと頬を張る音が聞こえたが、それも日常茶飯事だ。
気にせず、開けられたままの扉から出て、バタンと閉めたのがつい先刻の事だった。

暦の上では晩秋の昨今。
日中はそうでもないけれど、やはり夜は肌寒い。
しかもその気になってたところで外へ出たから、正直寒過ぎる位だ。
火照った身体を慰めて貰おうにも、元手たる兄貴分からあの状況で小遣いを貰おう等出来る筈も無い。
気晴らしに飲む金など当然無く、ただでさえまともに食べてない現状、性欲だけでも満たしたい。
仕方が無いから、年甲斐も無く未だ夜鷹稼業をしている婆にでも相手してもらおうかと思案していたのだが。
――――へぇ、好い鴨見つけたかもしれねぇな。
ゾロが舌嘗めずりしたのも頷けるだろう。
というのも、その夜鷹婆の住居がある長屋の入口、木戸から直ぐの家の戸が少し開いていて、そこからくぐもった声が聞こえてきて。
何気に、本当に何気にちらっと覗いてみたら、月明かりに浮かぶ白いものが揺れているのが見えた。
何だろう?と不思議に思い、そっと戸に近付いてよくよく目を凝らしてみれば、それは乳白色の太股だった。
月明かりだけが頼りの室内、黒ずんだ着物の裾が捲り上がり、不規則に揺れる細い足が見て取れたのだ。

太股の間に伸ばされた手が上下に妖しく動く度に、腰が浮き、押し殺した声が上がる。
その手の中心でトロリと粘着質の液体がぷくりと浮かび上がり、今にも零れ落ちそうになっている。
もう一方の手はやはり股の間に伸ばされていたが、更に下の方に先があるところを見ると、どうやら袋を弄っているのだろう。
そう、目の前で自慰に耽っているのは男だ。
月明かりだけで判別するのは軽挙かもしれないが、恐らくゾロと年の変らない男なのだろう。
何があったか知らないが、ゾロが覗いている事にも気付かず、一心不乱に頂点を目指している。
何度か婆の元を訪れたゾロではあったが、大抵は夜も深まった頃合だ。
長屋の連中と顔を合わせる筈もないから、男の素性は全く知らない。
多分夜行性の自分と合わないのだから、真っ当な道を歩んでいるヤツなのだろう。
――――だから、いいんじゃねぇか!
ニヤリと口角を上げて、ゾロは慎重に室内へと足を運ぶ。
こちらの素性も知られていないだろう。
況してや自分は無宿人、ばれた所で痛くも痒くも無い。
捕縛され、石川島に送り込まれる前に男を手篭めにするのも面白いだろう。
――――こんなオレの前でやってるコイツが悪いのよ。
ゾロがタンと戸を閉めると、初めて寝ていた男が視線を土間へと向けた。
目を見開いてこちらを見る男の視線は、それも当然、不審と敵意を表していた。
だが、あられもない格好でいる為だろう、身動きをせずじっとこちらを見ているだけだ。
ゾロは、それに乗じた。
ゆっくりと上がり框へと近付くと、一気に畳の上へと上がった。
相手が声を上げる間も無く傍まで近付いたゾロは、今にも声を出そうと大きく開けられた口を左手で塞ぐ。
そして、暴れようとする男の右足を跨ぐと、両手で包まれていた相手の股間に膝を突き付けた。
膝先にペタリと付く液体をそのまま擦り付けるようにすると、左手の向こうで息を飲む気配がする。
「へぇ……いい感じに出来上がってんじゃねぇ?」
ゾロがそう言うや否や、男の左足がゾロの顔面目掛けて飛んできた。
が、それ程の勢いは無い。
喧嘩なぞ朝飯前のゾロにとって、その動きはひよこがヨチヨチ歩いているようなものだ。
その左足を軽く受け止めてから、ゾロは股間に突き付けていた膝を上下に動かしてやる。
「仕上げはオレがしてやるよ。」
「っ?!!!!!」
男は青褪めつつも、身体は欲望に正直なのか、ゾロの膝の動きに腰が揺れている。
月明かりでもはっきりと分かる、薄桃色に染まった肌。
指先に触れる頬は滑々で肌理が細かく、袷の合間から覗く乳首は刺激を求めるかのように屹立している。
どうにも気になって、袷を顔で押し広げて塊を舌で突くとビクッと全身を震わせる。
思った以上の好反応にゾロが身体を少し起こして男の顔を覗き込むと、信じられないような表情で首を横に振っていた。
「……………堪んねぇな、アンタ。男でもいけそうだ。」
「っ!!!!んんん〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
相手の手ごと右手で包み込んで、半ば性急に扱いてやると、余りの刺激に相手が悲鳴を上げる。
その声を必死で殺そうとしたものの叶わなかったのか、押さえるゾロの左手を歯を立てて噛み締める。
声を抑えている分余計に感覚が鋭敏になるのだろう、身体が如実に反応を示す。
腰が何度も浮いては沈み、堪らないのか首を烈しく左右に振る。
月明かりに反射して飛び散るのは、男の目から零れた涙だろう。
堪え切れない快感についていけず、目をギュッと瞑って身体を震わせる男。
普段なら男に等とんと興味も無いゾロだったが、余りにも扇情的な光景に先程の女など脳裏から消え去っていた。
あの時感じた熱など、今のゾロの熱さから考えれば微熱にも満たない。
下腹部の己に血流がとんでもない勢いで集中していくのが分かる。
眩暈すら起こしそうな色欲。
その欲の本能の赴くままに、相手の口から左手を無理矢理引き剥がした。
「……ぁ……にっ……んんっ!」
「信じられねぇ。結構痛くないもんだな。」
右手の動きを少し緩慢にしてから、ゾロは男の目の前に自身の左手を差し出した。
男の歯は相当奥にまで食い込んでいたようだ。
左手甲と掌双方に出来た噛み傷から赤い血がゆっくりと伝い落ち、1滴が男の頬へと零れ落ちた。
ゾロはそれを熱に浮かされたようにうっとりと見とめた後、未だ伝うその液体を自身の中指に馴染ませる。
呆然とする男の目の前で、念入りに、どこにも斑(むら)がないように。
そして、そのまま動けずに自分を見つめる男の目を見返しながら、左手中指を男の胸にペタリと乗せた。
指に付いた血で男の胸に線を描き、腹・下腹と辿り、屹立したままの男自身の脇を通り抜け、月明かりも届かない秘所へと辿り着く。
硬直したまま動かない男の窄まりを指先で軽く突いてから、ゾロは徐に中指を男の菊孔に潜り込ませた。
「っ!!!!」
「思った通り初めてみてぇだな。でも………意外と素質あんじゃねぇ?」
「んぁっ……な……に言っ…………あぅっ…」
「柔らかくなんの早ぇじゃねぇか。もう1本くらいいけそうだな。」
中指が奥まで入ったのを見計らって軽く抜き、隣に薬指を添えてズブリと減り込ませる。
背を仰け反らせて身悶える男に、ゾロはしてやったりと笑いながらもふと疑問に思う。
何故こんなに丁寧に解してやってるんだ?と。
孔が濡れない男とはいえ、通りすがりの相手だ、気など遣う必要も無いだろうに。
女相手でも、悲鳴を上げようが強引に突っ込んだ事もあるゾロだ。
相手の反応などお構い無しに、自分が済めば満足だった筈だ。
そんな自分が何故?と。
だが、とゾロは思った。
ゾロの目の前で、ゾロの行為に我を忘れて善がる男。
彼の乱れ狂う姿を見てみたいと思ったのだ。
晒される白い首筋、乱れた袷から覗く尖った乳首、自分の指を飲み込むいやらしい孔。
そして開放を願って涙を零す肉棒。
そのどれもがゾロの色欲を高める。
最高に高まった色欲をこの男の内部に埋めて放出すれば、どれ程の恍惚が得られるだろうか?
それを試してみたかった。
相手の男ももう我慢の限界なのだろう、ゾロの右手に自分の手を添えて、その動きを補助し始めた。
どうにもイきたくて堪らないのだろう。
奥まで挿し入れていた指を引き抜き、己のはち切れんばかりの肉塊を下帯から出す。
その先端をヒクヒクと震える男の菊孔に宛がうと、馴染ませるように弧を描きながら内部へと進ませる。
そして、一番太い箇所が入ったのを見計らって、思い切り奥まで一気に突き込んだ。
男の手が畳に爪を立て、腰が跳ね上がる。
その逃げようとする腰を力任せに掴んで、ゾロは腰を叩き付けるように振った。
パンパンと肉同士がぶつかり合い、グチュグチュと体液がかき混ぜられる音が響く。
男は強すぎる刺激に耐えられないのか、何度も腰を上下させ、必死に瞑目し声を殺していたのだが。
ゾロが内部のある一点に思い切り先端を擦り付けると、一瞬目をカッと見開いた。
かと思ったら、ギュッと目を閉じて口を開き、声無き叫び声を上げた。
その途端物凄い締め付けがゾロを襲い、頭が真っ白になるような開放感の中、ゾロは男の内部に欲を放つ。
最後の一滴まで搾り取られそうな締め付けに、今まで感じた事の無い満足感を覚えたゾロであったが。
頭を完全に閉めていた色欲が解放されると同時に思い出したのは、空腹極まりない事。
己自身を男の内部からずるりと引き抜き、1つ満たされたように息を大きく吐いて。
そして、こんな時は寝るに限ると、ゾロは自分の下で意識を失っている男の脇で身体を横たえ、深い眠りに落ちていった。

ふと気配を感じて眼前に腕を翳せば、物凄い衝撃がゾロを襲った。
あと少し勢いがあれば、己の拳で顔を強打していただろう。
一体誰が?と思い、ゾロは目を開く。
見慣れた夜鷹婆の部屋かと思えばそうでは無いらしい。
綺麗に掃除され、くもの巣1つ無い室内。
少し顔を巡らしても、土間も畳の上も塵や埃等見当たらない。
散らかり放題の彼女の部屋では到底有り得ない光景。
間取りや陽光の差し込む方向は同じだけれど、少し開いた戸から見える長屋の中央通りが少々ずれているように感じた。
そこで、もう一度視線を戻して真上を見れば、左足を自分の腕の上に乗せたまま睨み付けてる男と目が合った。
「おう、お早う。」
「お早う………っておかしいだろがっ!!!とっととその見苦しい身体仕舞って出ていきやがれっ!!」
「あ?…………っていいのか、んな事言って。散々善がって先を強請ったのはどこのどいつだ?」
「ぎゃあああああっ!余計な事思い出させんじゃねぇっ!!!薬のせいだろが!!!」
「薬……だ?!実はアンタもオレと同じ穴の狢か?」
「違ぇっ!!!少なくとも男に欲情するような気質は持ち合わせてねぇってのっ!いいからとっとと――――」
ぎゅうううっ!!!グルグルグルグルっ!!!
長屋中に響き渡るような言い争いに負けず劣らずの音がゾロの腹から出て、ゲッ!とゾロが腹を押さえる。
よくよく土間の方面を見れば、湯気と煙が上がっている。
味噌汁と焼き魚の美味そうな匂いが充満している、この部屋。
空腹などいつもの事なので感覚が殆ど麻痺していたのだろうが、こうして匂い等嗅いでしまうと空腹を更に実感するのは当然だろう。
居た堪れずに黙り込んだゾロではあったが。
何故か相手の男も黙り込んで、じっとゾロの腹を見つめた。
「腹減ってんのか、アンタ?」
そう聞いていた相手の顔は、さっきまでの般若の形相とは打って変わった心配そうなもので。
逆に恐縮してしまったゾロは、別にと気の無い返事をして、脇に畳んで置いてあった着物に袖を通す。
そして、帯を適当に巻いてから立ち上がり、土間にあった揃えられた自分の草履に足を伸ばす。
「邪魔したな。誘う気が無ぇなら戸ぉ開けて励んでんじゃねぇよ。」
悔し紛れにそう言って、その部屋を後にしようとしたのだが。
帯を背後からグイッと引っ張られ、出した足が宙に浮いた。
瞬間適当に巻いた帯が解けて、ゾロは前につんのめり木戸でしこたま頭を打った。
「てめっ!!!」
ジンジンと痛む額を押さえながらゾロがギリッと振り返ると、手にした帯を見て大笑いする男が居た。
「天罰だ。まぁそれでチャラにしてやるよ。この長屋に衆道が来るって聞いてなかったオレにも落ち度はあるしよ。」
「ああっ?!!」
「腹減ってんだろ?さっき隣のおサキさんからメザシ分けてもらったんだ。食ってけよ。」
「おサキさんって……夜鷹のサキ婆か?!!」
「夜鷹?何かよく分かんねぇけど、『若返ったから』とか何とか。とにかく早く痛んじまうからよ。食ってけ。」
再度そう言われて、ゾロの帯片手にひょいひょいと招く男。
正直余りの人の良さに呆れつつも、空腹には勝てずにゾロは踵を返して男から帯を受け取ったのだった。

飯の前に顔洗ってこいと手拭い片手に追い出され、「逃げんなよ!ちゃんと手拭い返しやがれ!」とからかわれつつ男の部屋から
でれば、井戸端でこちらを見るサキと目が合った。
サキ婆……そうゾロは呼んでいるけれど、サキはまだ32歳。
遊女・湯女・飯盛り女と転々とし、自分にはこの身体しかないからといい歳をして夜鷹稼業を生業としている年増女だ。
夜鷹の割には整った顔立ちと身体らしく、未だそこそこ客の取れる女だと自称している。
その彼女曰く、昨夜ゾロが思わず貪ってしまった男は、名をサンジ、表の小料理屋『風車』で雇われ料理人をしているのだとか。
つい3年程前に仕事ついでにとこの長屋に越してきたらしい。
サキはその情報と共に恨めしげな視線をゾロに寄越してきたから、気味が悪くて思わず睨み付けたら、
逆に睨み返されて言われたのだ。
「可愛いサンちゃんに要らぬ事言っておくれで無いよ!親切なおサキさんで通ってんだからね。」
「ああ?!」
「アンタやアタシと違って、あの子は綺麗に出来てんだ。見てくれも素性もね。妙な気起こして転がすんじゃないよ。」
「…………とか言って、昨日の声、てめぇ聞いてたんだろ?」
「おや、いけないかい?真っ当な道歩いてる子だってする事ぁするさ。それもあんな好い声、聞き逃すなんざ勿体無い。」
「言ってろ。」
「とにかく、サンちゃんは私のお天道さんなんだから、アンタの毒牙に掛けんじゃないよ!今回は見逃してあげるからさ。」
「何だ?この間の礼のつもりか?そんなに大事ならてめぇの毒牙も引っ込めとけよ。」
「当たり前さね。あの子は愛でてナンボだよ。」
カタカタと奇妙な笑い声を上げながら立ち去るサキを見送りサンジの部屋へ戻ると、既に食事の用意を整えたサンジがゾロを手招く。
美味い飯と沢庵に味噌汁、そしてメザシに里芋の煮っ転がしと朝からめちゃくちゃ豪勢な食事をがっつきつつ、ゾロは相手の話を聞いていた。
結局ご飯はどんぶり3杯もお替りして、殆どゾロ1人で食べ尽くした後、入れてくれた白湯を飲みつつ、ゾロは口を開いた。
「薬、つってたな?」
「あ?まぁ情けねぇから、その話はよ――――」
「蛇の道は蛇って言うだろが。オレもまぁ、堅気のアンタを掘っちまった負い目もある。オレに出来る事があればってよ。」
「掘ったって………身も蓋も無ぇ言い方すんなよ!!まぁお陰で早く薬も抜けたみてぇだし。」
「もしかして媚薬か?………意外と好き物なのか、アンタ?」
「好き物なワケ無ぇだろっ!!世の中の女性は見て愛でるもの、崇拝や敬愛の対象であって、弄ぶなんざ冒涜ものだ!!!」
「………それもどうかと思うけどよ。なら盛られたのか?」
「多分…………昨日の連中だ。」

サンジの話を掻い摘めば、昨日サンジの勤める小料理屋にヤクザもどきの男達が数人やってきたのだとか。
悪い奴等から守ってやる代わりに金を寄越せ、つまりしょば代寄越せと言ってきたのだ。
勿論表長屋で真っ当な商売を営んでいる『風車』、ちゃんと家賃は大家に払っているし、しょば代払う謂れも無いと女将は突っ撥ねた。
ヤクザ相手にそんな御託が通用するかと案じて、サンジは厨房から出る。
成り行き次第では女将を庇い、店内の破損覚悟で行動に出ようと思っていたのだが。
何を思ったか、ヤクザは大人しく身を引き、その場は幕を閉じた。
が、やはり世の中そんなに甘くは無い。
店を閉め、さぁ裏長屋へ帰ろうと木戸まで足を運んだサンジの前に昼間のヤクザ達と同じ顔ぶれが並んだ。
とっとと無視して風呂屋に行こうと彼らの脇を通り過ぎ、木戸を開けたのだが。
「アンタが来ねぇなら女将を掻っ攫ってもいいんだぜ?」
等と小声で囁かれたものだから、カッと頭に血が上った。
「女将さんに手ぇ出したらオレが承知しねぇっ!!」
「なら付いて来てもらおうか。なぁに飲み比べてアンタが勝ったら大人しく返してやるよ。」
「飲み比べ……男に二言は無ぇな?」
「当然!まぁオレに叶うヤツぁ居ないけどな。」
大笑するヤクザどもをギリッと睨み付け、サンジは大人しく付いて行ったのだそうだ。

「で?」
「勿論勝ったさ。あれ程度で笊気取るなんざ百年どころか千年早ぇっ!」
「だが、その中に媚薬……龍涎丹かな?」
ぼそりと呟いたゾロにサンジが目を剥く。
そして身を乗り出して、ゾロに詰め寄った。
「てめぇ………知ってんのか?まさかてめぇが黒幕かっ?!!!」
「アホか。知ってるだけだ。第一そうなら仲間引き連れてアンタ回してるさ。」
「回してってお前………何か居た堪れねぇ。」
「とにかくその相手の兄貴の名前とか聞いてねぇか?」
「ああ、しょば代寄越せっつった時に言ってたぜ。確か――――」
サンジが口にした名前は、ゾロにも覚えがあった。
覚えがあるどころか、有り捲くりだ。
サンジの口から出た男の名前は、ゾロの兄貴分だったからだ。




next