日々雑感
 zoro


俺にしては珍しく、起こされる前に目が覚めた。
なんだあ。
地下の武器庫は薄暗く、朝日もささないのに目が覚めるたあ、珍しい。
起きるのが勿体無くてしばらく目を閉じていると、聞き覚えのある足音が近づいてくる。
俺は寝たふりを決め込んだ。



ちっ。

小さな舌打ちが聞こえる。
奴だ。
大股で近づいてくる。
多分、蹴りが入るだろう。
避けるか。
それとも。
気づかれないように腹筋に力を入れると、奴は何を思ったか振り上げた足を下ろして、俺の傍にしゃがみこんだ。
なにしてやがる。
俺が薄目を開けると、奴は俺の股間を覗き込んでいる。
思わず吹き出しそうになったが、懸命に堪えた。
何か一人でうんうんと頷き、体制を立て直してやがる。
今度は本気で振り上げられた脚を、俺は片手で掴み上げた。



一瞬、奴は阿呆みたいな顔をした。
もともとアホだが、輪を掛けてアホっぽい。
この面が可愛いと思っちまう俺も、相当きてるがな。
引き倒してがっちり抱えてやる。
奴は無駄にじたばたしていたが、動けないと知ると今度は口を動かし始めた。
いつものごとく、ぎゃあぎゃあ訳のわからないことを喚く。
ああ、朝っぱらからうるせえな。

首根っこを掴んで、よく動く口に噛み付いた。
途端に大人しくなる。
こいつを静かにさせるには、これに限る。
口中を味わうと、ミントだか薄荷だかの味がする。
あんだけタバコ吸ってるくせに、ヤニ臭くねえのな。
よほど気い使ってんのか。
歯も汚れてねえ。
こいつの口、うまいよなあ。
ああ、喰っちまいてえ。

夢中になって貪ってると、こいつの身体から力が抜けやがった。
目もとろんとしてる。
こいつ、本当に口噛まれるの、弱いな。
これがこいつの弱点なのか?
もしかして、誰にやられてもこうなるか、こいつ。
俺の頭の中を不安に似た感情がよぎる。





俺に抱かれたのだって、こいつにとっちゃ勢いみてえなもんだ。
典型的な、押しに弱いタイプだから、自分からどうこうしようって気概がまったくない。
誰にでも何かしてやるのが好きで、見返りなんぞ求めやしねえ。
人に求められれば、何でも与えてやる―――。
俺だけじゃなく?

奴の弛緩した身体を横たえて乗り上げる。
俺はなんとなく焦った。
こいつをすぐにでもどうこうしなきゃ、逃げられる気がした。
多分、そこに油断があったのだろう。

次の瞬間、目の前にちかちかと火花が散った。
衝撃は横腹を突き抜けたが、頭の芯まで弾けるような感覚。
ああ、入っちまった。
―――しかも、モロ・・・。
床に突っ伏して悶絶する俺を転がして、
「・・・んの、クソ野郎!」
捨て台詞を残し、奴は足早に武器庫を飛び出した。

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