日々雑感
 nami


今日もさわやかな朝ねえ。
風良し、雲よし、空気も、よーし。
こんなのどかな日は、海図を書いて過ごすのが一番。
そうだ、新しい紙を持っていかなくちゃ・・・
確かこの間の島で買い足して、まだ倉庫に入れてあるはず。
地下への階段を下ると、武器庫の方から凄い音が響いた。




誰かが壁にぶち当たるような音。
はーん、ゾロね。
差し当たり、サンジ君に蹴り起こされたんでしょう。
それにしては、派手な音だけど。
目の前で急に武器庫の扉が開いた。
飛び出してくるサンジ君と鉢合わせする。
ぶつかりはしなかったけど、サンジ君はまるで鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。
目いっぱい見開かれた目と、半開きの口で、なにやらあうあう・・・言ってる。
そんなに私に驚いたの?
いつもの条件反射みたいなおべんちゃらすら、出てこないみたい。


どうしたの、サンジ君。
さっきまで綺麗に梳かしつけられていた髪が、乱れてるわ。
はっきり言って、くしゃくしゃよ。
ネクタイもゆがんでるし、
スーツにしわが入ってるし、
なにより、なんでシャツがベルトから引き出されてるの?
大体、そんな赤い顔をしてしどろもどろなんて・・・さっきまでイケナイことしてましたって風情がモロ分かりよ。
時間的には、未遂かしら。

サンジ君が固まっている間に、ほとんど推理できちゃったわ。
もう用はないし、と通り抜けようとした私に、ようやく声を掛けてくる。
「あああ、ナミさん、朝ご飯はお気に召していただけたでしょうか・・・」
動揺を隠そうとして、卑屈になってるわね。
「とっても美味しかったわ。いつもありがと。サンジ君。」
極上の笑みを返してあげると、サンジ君の顔はへにゃへにゃと崩れた。
「あああ・・・朝からナミさんの笑顔が眩しい―」
叫びながら階段を駆け上がっていく。
ほんとに可愛い人。

サンジ君の後姿を見送っていたら、後ろから殺気に似た気配が近寄ってきた。
「おはよう、ゾロ。いいお目覚めね。」
思いっきり不機嫌な顔が、暗くたたずんでいる。
ちょっと前屈み気味なのは、サンジ君の蹴りがモロに入ったから?
それとも―――
「ったく、もっと別の起こし方できねえか。」
横腹をさすりながら、私の隣を通り過ぎる。
―――ふうん、そういうこと。

いつの間に二人、こういうことになってたのかしら。
私が知らなかったんだから、最近でしょうけど。
意外と言えば意外だけど、組み合わせとしては丁度いいかも。
ゾロみたいな体力馬鹿には並みの人間は太刀打ちできないし、サンジ君はああ見えて隙だらけだから、案外ゾロがブレーキになってくれそう。







人に奉仕するのが何より好きなサンジ君。
求められると応えて、喜ばれると余計頑張っちゃう。
私にはとてつもなく都合がいいけれど、一歩間違えると道を踏み外しそうな危うさがある。
女を口説くことばかり気を使って、自分の魅力に気づいていない。
どうしてもと泣きつかれたら、きっと誰にでもついて行ってしまうわ。
博愛で、無償で、献身的で無節操なサンジ君。

ゾロも苦労しそうね。

人のことばかり心配してないで、早く紙を取って来て、部屋に戻ろう。
こんな天気の日は窓を開け放して、にぎやかな声でも聞きながら、海図を書き進めよう。
せいぜいじゃれあってるがいいわ。
船を揺らさない程度にね。



END

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