ハコイリムスコ 3



サンジは身を横たえたまま、荒い息をついて放心している。
萎えたモノから伝い落ちる白い液を、ゾロは掌に擦り付けた。
「―――あ・・・信じらんねえ・・・」
サンジは喘ぎながら、何度目かの台詞を呟く。
「きたねーことすんな・・・――アホ・・・」
「アホはてめえだ。汚いことあるか。」
いいながら、サンジの後孔に手を這わせる。
「だから!どこ触ってんだ!!」
「決まってんだろ。ケツだケツ。」
がばりと身体を起こしたサンジの腕を掴んで、自分の股間に導く。
「さっきの途中だ。続きやれ。」
もうギンギンに勃っているモノを再度握らせる。
「うあああ・・・信じらんねえ。」
手の中でどくどくと脈打つソレを凝視して、サンジは固まってしまった。
「―――で、俺に・・・どうしろと・・・」
泣きそうな顔になっている。
ここで要求するのは酷だろう。
「てめえでやる時みてえに、扱け。」
ゾロとてかなり限界に近い。
サンジの手が、おずおずとゾロの股間で上下する。
「・・・もっと力入れろ。」
「畜生――」
何が悔しいのかわからないが、半ばムキになって乱暴に扱く。
俯いたサンジの金髪に顔をうずめて、ゾロは両手を動かした。
臀部を掴んで擦り、先刻放ったサンジの精を秘部に塗りつける。
サンジは何か言いたそうに唇を噛んで、身体を震わせている。
「力、抜けよ。」
囁くゾロの声も掠れていて、背筋がぴりぴりと痺れる。
サンジの手を己から外して、もう一度床に横たえた。
足を抱え上げて腰を浮かせる。
「・・・ばっ!見るなクソ!」
「今更何言ってやがる。力抜けっての。」
指を埋め込ませたら小さく悲鳴をあげた。
「汚ねえって、アホ」
「こんなとこ、弄られるのも初めてか?」
言いながらぐいと飲み込ませると、サンジは口をパクパク開けて喘いだ。
「てめえコロス!ぜってーコロス」
「終わってからな。」
指を増やす。
「いて・・・苦しい―――気持ちわりー・・・」
じたばたともがき始めた。
「力入れるからだ。」
「仕方ねえだろ。気色悪ーんだ。」
それならばと萎えた前を再度握る。
「あちこち触んな!気が散る。」
「散らせてんだろーが。」
指を進めたらしがみ付いてきた。
「気色わりー・・・勘弁してくれ―――」
泣きが入ったか。
構わずほぐし続ける。
「―――なんで慣れてんだ、てめえ・・・」
「慣れてねえよ。男は初めてだ。」
サンジの反応を一々確かめながら、慎重にコトを進める。
本来なら非常に面倒臭いのだが、何故か楽しい。

「―――うは・・・」
明らかに反応の違う個所があった。
そこだけ集中して突いてやると、サンジの声が鼻から抜けていく。
「イイのか・・・?」
「――!イイわけ・・・あるか・・・」
痛いのか苦しいのか気持ち悪いのかわからない。
好き勝手するゾロにも、それに翻弄される自分にも腹が立って、サンジはしがみ付いたゾロの肩に歯を立てた。
「入れっぞ。」
掠れた声で、ゾロが体勢を変える。

強張ったまま自分にぶら下がるサンジの身体を、きつく抱きしめた。
ゾロの体臭が鼻を掠めて、少し安心する。
宥めるように背中を擦りながら、先走りの汁を塗りつける。
指とは違う面積の広さに、戦慄が走った。
「ぜってー無理だ・・・」
泣き言に耳を貸さず、身体を抑えて突き入れる。
「―――!!」
かみ締めた歯の間から、声にならない叫びが響いた。
みしみしと音が立つ気がする。
押し広げられる強烈な感覚に、全身から汗が噴き出した。
「力、抜け!」
「・・・死ぬ、ぜってー死ぬ・・・」
もう一度腰を進めようとしたゾロの耳に、遠くから声が届いた。


「ゾロ!サンジ!!敵襲だ―――!!」

ルフィの声だ。

反射的に、二人揃って身体を起こした。
荒く息をつくゾロは、舌打ちをして身を整える。
つられて身支度を始めたサンジの後頭部を引き寄せて、噛み付くように口付けた。
唇を離して、正面から睨みつける。
ゾロの顰められた瞳が、苦しげな光を放っている。
サンジもなんと言っていいかわからず、ただ見つめ返した。

「行くぞ。」

倉庫の扉を開け放し、飛び出したゾロに続く。



はるか前方に海軍の船影が見えた。
数が多い。
後方からも灯りが迫る。

「このままじゃ、囲まれるわね。」
起きてきたナミは、直ぐに状況を把握した。
まだ眠た目のウソップとチョッパーにてきぱきと指示する。
「撃って来たぞ!」
ルフィの声にゾロが舵を握る。
「この近くで嵐が発生してるわ!それに乗じて逃げるわよ!!」
ナミの声とともに戦いの火蓋が切って落とされた。





ゾロはバンダナを頭に巻いて、刀を咥えた。
GM号に乗り移られる前に先に、敵船に乗り込んで襲い来る適をなぎ倒す。
「なんか今日のゾロ、荒れてんなあ。」
どこか呑気なウソップの声を背に、サンジは肩をすくめてひらりと飛び移った。
わざと人の多いところに飛び込んで蹴り倒す。

――やる前でよかった。
あんなもん入った後だったら、絶対うまく動けねえ。
海軍が攻めて来てくれたことに、ほっとしたような残念なような、複雑な感情が交差した。
とりあえず集中だ、集中。



いつの間にか風が強くなってきた。
相変わらず、ナミの読みは外れない。
突然、風上から女の声が響いた。
振り返ると、暗闇にも見目麗しい長い髪の女性の立ち姿がある。
「ロロノア・ゾロ!覚悟なさい!」
澄んだ声が響いたと思ったら、女はゾロに向かって突進してきた。
「うおお、なんて美しいお姉さま!!」
条件反射でサンジがハート目になる。
ゾロから庇うように、そのしなやかな体躯に縋りつく・・・と思ったらすり抜けた。
がっちりとサンジの身体を鋼鉄の鎖が拘束している。

「あ?あ?あ?あれ――――???」
間抜けた声を上げて転倒するサンジを見下ろし、女は側にしゃがみこんだ。。
「この足が、おいたのようね。」
するりと撫でられて、足首にも枷がはめられる。
「―――お姉さま、何を?」
なんとか身体を起こしたサンジの目前を、GM号が全速力で横切った。
「撤収よ!ゾロ、サンジ君!!」
愛しいナミの声が、非情にも通り過ぎて行く。
撤収と言われましても―――
いつの間に飛び移ったのか、目を剥いたゾロがGM号の船縁から身を乗り出している。
何か大声で叫んでいるが、風に呑まれて聞こえない。
「心配すんなー!!」
届くかどうかわからないが、サンジは大声で叫んだ。














「ロロノア・ゾロの確保は失敗したわね。ヒナ残念。」
パールピンクの髪をかきあげて、煙草に火をつける。
ふわりといい香りが漂って、サンジはくらくらした。
「この坊やも賞金は付いてないけど厄介らしいし、悪の芽は早めに摘んでおいた方が賢明でしょう。」
細い指で顎を撫でられて、これ以上ないくらい鼻の下を伸ばす。

「麦藁の一味を捕らえたそうだな。」
突然、無骨な声が割り込んできた。
小山のような大柄な男が、ずかずかと近づく。
「お手柄ですな、ヒナ大佐。よかったら私の船でそいつを本部まで送りましょう。」
ヒナの秀麗な眉が潜められる。
「確か、そちらは海賊狩りの帰り・・・ですよね。」
「ええ、今回も大漁ですよ。奴らの重みで船が沈みそうなくらいね。」
「それでは―――」
「犯罪者に、待遇差別をしてはなりませんぞ。」
言葉は丁寧だが横柄な感じだ。
「私は真っ直ぐ本部に戻りますから、一番良い方法でしょう。」
有無を言わせぬ口調で、部下に合図する。
サンジは両脇から抱えられた。
「ちょ・・・ちょっと待て!お姉さま?」
ヒナの表情は氷のように冷たく固まっている。
「お姉さまーって、離せこらァ!」
サンジの声が隣の船に消えていった。


離れ去る船を見送りながら、ヒナは煙草を揉み消した。
「相変わらず陰湿な奴ね。ヒナ嫌い。」
夜明けが近いのに、空の色は暗く渦巻いている。




「出せおらぁ!!」
「いつまでこんなとこ閉じ込めとく気だ、畜生ー!!」
怒号と奇声が飛び交う、船底の簡易牢獄。
腐った空気とすえた匂いが鼻につく。
闇に慣れた目に、一筋の光が射し込んだ。



「新入りだぜ。」
「気の毒になあ。」
「黒猫か?白兎か?」
「バカ言ってろ。」

嘲笑と好奇と、期待が入り混じった視線が戸口に注がれる。
男達に担がれて、両手両足を拘束された細い身体が現れた。
「なんで俺だけ繋がれてんだよ。どうせぶち込むんなら、外せよおらぁ!」
若い男の声が叫ぶ!
「絶対外すなと命令だ。」
「特に足は用心と伝えられている。」
なんで正確に情報が伝えられてるんだろう。



「よし、こっち来い」
「こっち寄越せ!!」
檻の中のギャラリーが喧しい。
「なんだこいつら。」
担がれたままきょろきょろするサンジの金髪が揺れる度に、歓声が上がる。
歓迎されてんのか?俺。
繋がれてなければ、手を振ってしまうところだ。
一部屋の鍵が外され、乱暴に放り込まれた。

「いって・・・」
ひゅうと口笛が吹かれる。
身を起こして、周りを見渡した。
狭い檻の中に、10人ほどのむさくるしい男が閉じ込められている。
血走った目が一斉にサンジに注がれた。

「ラッキー。」
「上物だぜ、おい。」
「海軍も粋なことしやがる。」
下卑た笑いが、闇に響く。

「悪く思うなよ。」
海軍兵は逃げるように足早に立ち去った。



―――なんだ・・・この異様な雰囲気は。
さすがにサンジも、尋常でない事態を察した。
不自由な身体を動かして、後ずさりする。

「抑える必要はねえな。」
「その枷は邪魔じゃねえか。」
ギラついた男達の目の色に、剥き出しの欲望が見えた。
ゾロの目もかなり獣じみていたが、これほどの嫌悪は感じなかった。
見られるだけで厭わしい―――背筋に悪寒が走る。
サンジの顔に怯えの表情が浮かんだのを男達は見逃さなかった。
「乱暴はしねえよ。優しくしてやる。」
喉の奥で笑って、男はサンジの肩に手をかけた。










突然襲ってきた嵐に、乗組員は右往左往していた。
こんな時甲板に出るのは危険だが、ヒナは何か感じるものがあって外に出た。
暗い海の中に気配を感じて振り向こうとして、首筋に冷たい感触を覚える。
「こんな嵐の中でぴったり船を着けるなんて、すごいテクニックね。ヒナ吃驚。」
「エロコックはどこだ?」
男の声は怒気を孕んで、低い。
「金髪の坊やのこと?生憎この船には居ないわ。別の鑑で運ばれてるわ。」
言いながら、ヒナは黙って東南を指刺した。
ナミが不信気に眉を潜める。
「やけに素直に教えてくれるのね。」
「そうね、迂闊だったわ。ヒナ反省。」
ナミの疑惑にも肩をすくめて見せた。
 「一週間前から捕獲した海賊を収容した船なの。あの坊や、長い間閉じ込められて気が立った荒くれ男達の 中に一緒に収容されだでしょうから・・・」
ヒナの白い顔に陰が落ちる。
「飢えた狼の群れの中に、羊を放り込むよなモノね。」
ひええ・・・
顔を赤らめるナミの横で、ゾロが唸った。
ぶちぶちと音を立てそうなほど、額に青筋が走る。
「・・・んだとおらぁ!俺でさえ、まだ先っぽしか入れてねえんだぞ!!」
ゾロの雄叫びにその場にいた全員が凍りついた。
「あ、やっぱまだ先っぽだったか。わりいな。」
 「いや、てめえのせいじゃねえ。ルフィ。」
「――っていうか、何の話をしてるかあんたたちー!!!」
ヘリマタクトでぶん殴られて、船に蹴りこまれる。
「急ぐわよ!まだ間に合うかもしれないわ。」
こんなとき、女の方が決断が早い。
状況が飲み込めていないウソップとチョッパーを追い立てて、GM号は一路東南へと走り去った。

「健闘を祈るわ。ヒナ応援。」
軽いエールの言葉が、嵐の海に消えていく。


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