End game  -1-



ナミは、賭け対象のゲームに滅法強い。
守銭奴ゆえに運までも強引に引き寄せるのか、はたまたいかさまの腕がいいのか。
その手腕は仲間内であろうとも容赦なく発揮された。
ナミほど勝ちはしなくともそこそこ負けないロビン以外、男共はほぼ全滅の様相を呈している。
中でも今回、特にゾロとサンジは惨憺たる有様だった。
常に最下位争いをしているようなもので、勝負は時の運とは言えここまでツキがないと一緒に勝負していても気の毒になる。

「そろそろお開きにしましょうか」
日付が変わる頃、もう充分稼いだとばかりに一人勝ちのナミが宣言した。
当然、負けている者から抗議の声が上がる。
「ナミすわんっ、今お茶煎れるからせめてあと一勝負」
「もうお腹いっぱい、ご馳走様」
「そんなこと言わずにさあ」
「てめえら勝ち逃げすんな」
大儲けと素寒貧の狭間にあるほかの仲間達は、じゃあそろそろ寝ようかと腰を浮かし始める。
「今回はナミにしかツキがなかったってことだ。諦めろ」
「これ以上続けると泥沼だぞ」
「今のところ、お二人の負けはいかほどなんでショホホ〜?」
ナミは涼しい顔をして帳面を広げた。
「えっとね、ゾロもサンジ君も丁度18万6千ベリーね。ぴったり」
「なんだと?」
「なにぃ?」
丁度ぴったり・・・が気に障ったのか、二人して形相を変え立ち上がる。
「俺がこんな藻屑野郎と同じだなんて、何かの間違いだよねナミさん!」
「なんでこんな脳足たりんコックと同じじゃなきゃならねえんだ」
「そうは言っても、そういう結果になってるんだもの」
合計37万2千ベリーを徴収するつもりのナミにとっては、どうだっていいことだ。

「いいや認ねえ、もう一勝負だ」
「望むところだ」
「もう寝るつってるでしょ!」
ガンゴンと二人の頭に拳骨を落とすナミの後ろで、ルフィがふわあと大欠伸をする。
「ひとまず勝負はお預けで、日を改めてしたらどうかしら」
ロビンの提案に、二人を除く仲間達が大きく頷いた。
「カードは飽きただろ、どうせなら他の勝負にしたらどうだ」
「他のって・・・」
ゾロと睨み合っていたサンジが、ふと視線を外してにやりと笑う。
「それならリンゴの皮剥き競争はどうだ」
「なにそれずるい!」
ゾロからではなく外野から不満の声が上がる。
「ゾロだって刃物使うのは得意だろうが」
「サンジが本気出したらミリ単位で細長く剥くからな、職業上優位だからダメ」
あえなく却下され、ちぇっと横を向く。
「なら重量挙げはどうだ」
ゾロの提案に、これまた外野から一斉にブーイングが起きた。
「フランキーならともかく、サンジ相手に力勝負はあり得ねえ」
「大事なコックの手を傷めたらどうすんだ」
「足で蹴り上げんだよ」
「船が壊れるから却下!」

うーんと考え出した二人に、ロビンが提案する。
「お料理や力仕事みたいに、二人が得意なものは対象から外したらどうかしら」
「じゃあ、頭脳労働?例えばパズルを解くとか」
「いや、それは・・・」
勝負が着かない可能性もあるからよした方がいいと、ウソップが遠慮がちに進言する。
「推理小説を読んで、先に犯人を当てた方が勝ち」
「うーん」
「地味だ」
「凪いだ日に遠泳したら」
「多分ゾロが帰って来ない」
「釣り勝負」
「サンジ、そこまで暇じゃないだろ」
「大食い大会」
「食料が勿体無い」
「じゃあ運勝負、ロシアンルーレットみたいに」
「それ多分、ゾロが勝つ」
「寝ないで耐久」
「間違いなく、サンジが勝つ」

うーんーと腕を組んで考え込む仲間達に、ロビンはまた提案した。
「あえて、二人が不得意なものを選択するとか」
「二人が不得意なもの・・・」
「裁縫とか編み物とか?」
ナミの呟きに、ぶっと噴き出した。
「洗濯と掃除とか」
「それサンジのが上手い」
「似顔絵描くとかさ」
「見たくない」
「工作だな、倉庫に開いた大穴直すとか」
「フランキーに直してもらいたい」
「図書室の書架整理してもらおうかしら」
「海図の整理とかも」
すっかり勝負ではなく、船内お手伝い項目に成り下がってしまった。

そこでポンとナミが手を打ち、瞳を輝かせた。
「次に着く島で、決着を着けましょう。もし食材が豊富な島だったら狩り勝負はどう?」
「いいな」
「望むところだ」
勝負と聞けば血が滾るのか、ゾロもサンジも不敵な笑みを浮かべて睨み合った。
「次はどんな島かわからねえぜ。もし狩りとかできねえ近代的な島だったらどうすんだよ」
「その時は・・・」
ナミはいっそあどけないと形容してもいいくらい、晴れやかに笑う。
「金儲けしてきてちょうだい。1ベリーでも多く稼いできた方の勝ち。どう、シンプルでしょ?」
「金儲け勝負か」
「確かに、これは二人ともあんまり得意じゃなさそうだ」
意外な展開に、ゾロもサンジも眉を顰めた。
「なんか、それはちょっと」
「金かよ」
「あら、基本は狩りと一緒でしょ。自分の知恵と能力を駆使してお金を狩って来るのよ。生きるためにはお金が必要。狩猟本能は金儲けに繋がる筈よ」
したり顔で説明され、それもそうかと二人して納得する。
「さて、それじゃ次の島に着くまで英気を養っておきましょ。じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
「すっかり夜更かししましたね。眠くて瞼が落ちてきます。・・・あ、ワタシ瞼ないんですけど」
「せいぜい頑張れよ」
「おう任せとけ」
「見張りのチョッパーに差し入れでも作るか」

ラウンジに最後まで残っていたウソップが、一人ぽつりと呟いた。


「誰得なんだ」








程なく、次の島に着いた。
そう大きくない島は小高い丘の上までびっしりと小さな家が立ち並び、全体的にくたびれた茶色い印象だ。
山や緑はあまり見えない。
「狩り勝負ってのはできそうにないな」
双眼鏡で島の様子を眺めたウソップが呟く。
上陸の準備をしながら、ナミはカモメ情報便を広げた。
「うーん、あんまり賑やかな街じゃなさそうね。これと言って目立った産業もないし、農業も盛んじゃなさそうだし」
「工場地帯、でもなさそうだな」
「ログが溜まるのが2日ですか。あまり稼げそうにありませんね」
「外れかしら・・・次の島にする?」
「だからなんの目的になってんだよ」
ゾロとサンジが決着を着けるための勝負なのだ、とにかくどんな貧乏な島であろうと1ベリーでも多く稼いだ方が勝ちに変わりはない。
「ナミすわん待ってて。キミのために俺は一生懸命働いてくるよ!」
「まあ、期待しないで待ってるわ」
「なんで守銭奴のために稼がなきゃならねえんだ。勝負を着けるためだろうが」
「馬鹿野郎、男ってのは帰りを待っててくれるレディのために金を持ち帰るのが仕事だろうが」
そうでなきゃ張り合いがないと、サンジはナミに目を向けて腰をクネクネさせている。
「サンジ君、頼もしいわ」
「俺がんばるよー!」

一応お尋ね者だから、身元が判明するような危険は冒さないこと。
それだけを条件にして、着岸早々ゾロとサンジは島に下ろされた。
「期限は明後日の夕方よ。それまでに必ず帰ってくるように。ゾロ、遅れたら罰金上乗せよ」
「なんで俺だ」
「「「「お前だからだよ」」」」

仲間達の突っ込みと声援を受け、二人は意気揚々と寂れた街に足を踏み入れた。



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