Alone -4-


ゾロは眼鏡を外して机に置くと、ベルトを緩め前を寛げた。

「ほら、先生見ろよ。センセ見たらこんなんになったぜ」
怒張したそれを、サンジは呆然としたまま見つめた。
「センセってエロいんだもんな。俺でも勃っちまった」
「・・・よせ、よせ・・・」
サンジは魘されたように、ただ目を見開いて首を振った。
「責任取れよ。先生が誘惑したんだ」
「よせ、止めろっ、止めてくれっ・・・」
「先生がエロい姿見せたから、俺がその気になったんだぜ」

ゾロはサンジの目の前でコンドームをつけた。
「安心しな、俺もビョーキはヤダし」
「止めろっ」
ゾロは先端をサンジの後孔に押し付け、ぐりぐりと擦りつけた。
「ほら、こんなにヌルヌルして・・・誘ってんだ。入れて欲しい?」
「バカ野郎っ・・・」
サンジは目を閉じた。
ずん、と新たな衝撃が加わる。

「ふはっ・・・先生、まだ狭い・・・」
「うあ、や・・・やあっ・・・」
自分の足の間に、ゾロが身体を割り込ませるようにして覆い被さって来る。
男に犯されていると、改めて思い知らされてサンジは愕然とした。
「嫌だ嫌、止めろおおおっ・・・」
「暴れんなって」
ゾロは腰を進めながら、苦しげに息を吐いた。
チキチキと音がする。
反射的に身を強張らせ、ゾロを受け入れた部分が熱く疼いた。
「締めんなっつってんだろが、足を開け」
「嫌だ、や―――」
「いっぺん抜いて、カッターで切るぜ」
「いいい、嫌だっ・・・」
ガクガクと身体が震えた。
「なら、足を開け」
焦点の合わない目の前で、カッターの刃が光っている。
サンジは必死で足を開いた。
もう、どの足がどうなっているのか感覚すらわからない。
ただゾロを受け入れるために、ゾロが動きやすいように身体を開くことしかできない。

「そう、いい感じじゃん」
ズンズンと、リズミカルに下から突き上げられる。
「あー狭え・・・たまんねえな・・・」
ゾロは目を閉じて、恍惚の表情で腰を動かしている。
さっきからサンジの身体には触れていない。
ただ入れるためだけに、サンジの自由を奪い身体を開いたのだ。

「あ、イく、いい・・・」
「・・・くそっ」
「イくぜ、イく・・・く―――」
サンジの腰を掴んで激しく打ち付けた。
胴震いしながら最奥まで押し込んでくる。
サンジは自分を繋ぐ鎖を握り締めて、歯を食いしばった。

これで終わる。
やっと終わる―――






サンジの腹の上でゾロはぐったりと力を抜き、名残惜しそうに腰を振った。
「あーすげー・・・キモチよかった・・・」
はあと深いため息をついて、自身を引き抜いた。

てらてらと濡れそぼるそれは、達してもなお勢いを失わず起立している。
ゾロは無造作にティッシュで拭うと、最後にお絞りでひと拭きした。
あのお絞りはもう捨てないとな・・・と、場違いなことが頭に浮かぶ。

「さて、先生はどう?」
どう?と問われてなんと答えればいいのか。
答えなければまたキレるだろうが、サンジにはもう声を発する気力もない。
ゾロはサンジの股間をじっと見つめてから、ははっと笑った。
「すげー、俺の形にぽっかり穴が開いてら」

一人で身支度を整えて、開きっぱなしだった3段目の引き出しに手を突っ込む。
「イかしてやるよ。先生もそのままじゃ辛いだろ」
取り出された一回り大きなバイブに、サンジは機械的に目を向ける。
なにがなんだか、もうわからない。

「ほら、モノ欲しそうに口開けてないでさ」
ずぶりと、新たな感覚が施された。
だが反応が鈍っている。
抵抗も拒絶の言葉も発せないまま、それは傍若無人に押し行って来た。

「い、いやだああああ・・・」
ようやく悲鳴を発した時には、それは奥深くにまで埋め込まれていた。
スイッチが入れられ、先ほどのものとは比べ物にならないくらい激しい刺激が内側から襲ってくる。
「嫌だ嫌だ、嫌だあああ」
緩く屹立したサンジを、ゾロの手が包み込んできつく扱いた。
「ほら、イっちまえよ先生も。ケツでイくの覚えろよ」
いつの間にか溢れた涙で、天井がぼやける。
声の限りに叫んでも誰も助けに来ないし、助けに来られても困るのに、声を抑える事ができない。

「うあ、いや、あああ―――」
「すげーベトベトだぜ。次から次へ溢れて・・・」
ゾロの手が激しく上下して、それに合わせるようにサンジの腰も動いた。

とにかく早く終わって欲しい。
早く
早く
イきたい
イかせて―――




「ふはははははは!」
ゾロの甲高い笑い声が聞こえた。
「すげえ、ケツにバイブ咥えて腰振ってやがる。淫乱だ、エロ過ぎー」
嘲笑りの声を聞きながら、サンジの脳内は白くスパークした。

「あ、あああっ・・・」
ぶるぶると身体が震え、視界が霞んだ。
信じられないほどの圧倒的な射精感で、腰が蕩けるようだった。
痙攣でもしているかのように、何度も繰り返し射精した。
あまりの気持ちよさに眩暈がし、何を口走ったのかもわからない。
気がおかしくなりそうなほどの快楽の波が過ぎると、サンジは漸く思い出したかのように深く呼吸した。

ずるりと、黒光りするものが引き出される。
まるで引き止めるように後孔が収縮するのが自分でもわかって、急激に恥ずかしくなった。

「ヨかった?」
ゾロはにこにこしてサンジを見つめた。
やけに機嫌のいい、てらいのない笑顔。

「可哀想に、傷付いちまったな」
そう言いながら伸び上がって、手錠の鎖を釘から外した。
長時間引き上げられていた腕は、感覚がない。
これも玩具のような鍵で外されれば、手首はぐるりと皮膚が赤剥けて血が滲んでいた。
ゾロは俯いて足の手錠も外してくれている。
その無防備な後頭部を、思い切り殴りつけたいような衝動に駆られたが、実際には指一本動かせなかった。

「すげー顔」
手錠をすべて取り去ってしまうと、ゾロは呆れたような声を出して、お絞りでサンジの顔を拭いた。
だからそれを使うなっての。
「涙と鼻水と涎でべしょべしょだぜ。・・・なんか可愛いな」
鼻を摘ままれるようにして拭われて、サンジは顔を顰めた。
拍子に、また目尻から涙が零れ落ちる。
「泣いてんの、哀しい?」
ゾロはそっと覗きこむように顔を近づけた。
「ヴァージン失って、泣くんだよな。男でもそうなんだ」

違う、そうじゃない。
ゾロ、そうじゃないんだ。

言いたい事が、うまく説明できない。
さっきまで嵐のように荒れ狂っていた“怒り”の感情も、今は潮が引いたかのように失せている。
ただ、哀しい。
どうしようもないほどに、哀しく辛い。

ゾロはそっとサンジの頭を抱えるようにして腕を回した。
「先生の泣き顔、なんかぐっと来るんだよな。またやりたくなるから泣くなよ」
そんな慰めがあるか。
そもそも、こいつは慰めてるつもりなのか?

「・・・もう、これきりだ・・・」
「え?」
ゾロはサンジの肩を抱いて横顔を見せた。
「これきりだ。俺は、もう・・・」
「先生」
強く呼ばれて、サンジは視線を上げた。
ゾロと目が合う。
ゾロの顔は、例えるなら“きょとん”としていた。
何かがわかっていない、そんな感じだ。

「先生、俺に味噌汁食わしてくれるって約束しただろ」
「そんなこと、今更・・・」
「なんで、朝飯食わしてくれるために家に住んでくれることになったんじゃないか」
さも心外だとばかりに、ゾロは語気を強める。
「だからもうこれきりとか言うなよ。俺、先生の飯が一番好きだ。あんな美味いものこの世にあるなんて思わなかった。知らなかった。それを教えてくれたのは先生なんだから、責任取れよな」
ゾロは不貞腐れて口をへの字に曲げた。
―――怒っている?・・・なんでだ?
ここで怒るのは、自分の方じゃないのか?

「約束を、破るなよ」
ゾロは吐き捨てるようにそう言うと、お絞りをサンジに投げ捨てて椅子に座った。
神経質そうに髪を掻き毟り、置いてあった眼鏡をかける。
机に向かいシャーペンをノックすると、さっきと同じようにいきなり集中した。
もうサンジのことになど目もくれず、一心不乱に机に向かっている。

「ゾロ・・・」
サンジの存在自体を消し去ったかのような、真剣な横顔。
得体の知れない不気味さを覚えて、サンジは自分の肘を両手で抱いた。
腕の痺れが薄れてきている。

まだ震えの残る手でズボンを上げて、ベルトを締めた。
ベッドサイドに置かれた夜食のトレイにお絞りを載せて、素早く部屋のドアを開ける。
ゾロは振り返らない。
サンジに注意を払う気配もない。
ゾロの背中から視線を逸らして、サンジは静かに扉を閉めた。



しんと静まり返った廊下は煌々と明かりがついているのに、どこか寒々として暗い。
こんな家で。
こんな暮らしで。
ゾロをたった一人残して、逃げ出す事ができるだろうか。

サンジはトレイを掲げたまま、機械的に足を動かして階下へと降りた。
歩く度に軋むように響く鈍痛が、先ほどまでの悪夢のような出来事が現実だったと告げている。




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